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第四章 新魔王誕生編

激昂

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 その後もマモン達三人はレパーデスで各自仕事をこなし、レトルコメルスに来て一年が経った。

 アレクサンドは今までの経験からバーやパブの経営に携わり、その才能を遺憾無く発揮して売上を大幅に伸ばした。

 サランは優秀すぎる秘書として、ヴァロンティーヌの信頼を一身に受けている。

 マモンは借金取立てのスペシャリストとして負債者を痛めつける毎日を送った。回収率が大幅に上がったらしい。マモンには天職なのかもしれない。

 そこら中でトリプレットの構成員がちょっかいを出してくる。それを痛めつけるのも日課だ。

 その功績が認められてか、三人も幹部会議に出席するようになった。


 ある日、ヴァロンティーヌを激昂させる事件が起きる。
 
 ヴァロンティーヌのブティックの一つにトリプレットの構成員が強盗に入り、警護に入っていたレパーデスの構成員に瀕死の重症を負わせた。サランの回復術で幸い命に別状は無かったが、とうとう奴らは直接レパーデスに実害を与えた。
 店員と構成員の話によると、眼が緑色の男を先頭に店を襲撃してきたという。幹部が直接手を出して来たという事だ。

 
「これより緊急幹部会議を始めます」

 アンダーボスの『フェリックス・シモン』の挨拶で会議が始まった。フェリックスはヴァロンティーヌの実弟だ。

 他にはエヴァンを含む五人のカポと、その直属の部下が一人づつ。マックスもエヴァンの後ろに立っている。

 ヴァロンティーヌは勿論、フェリックスもカポの五人も昇化した人族だ。実力も高い。

 長机の奥正面に腕と脚を組んだヴァロンティーヌが座っている。
 フェリックスが会議を進行する。

「さて、今日の議題ですが、皆もご存知の通り『三連符トリプレット』の構成員が我々の縄張りで悪さをし続けています。数がさらに膨れ上がり、ソレムニー・アベニューから客足が遠のく一因ともなっています。彼等は一般人にも平気で手を出す。領主も動き始めていますね。そしてとうとう、我々の管理する店を襲撃しました。これは奴らからの宣戦布告と受け取る事に致しましょう」

 フェリックスが喋り終えると、ヴァロンティーヌが口を開いた。

「トリプレットが私たちに害をなす前に対処してきたが、とうとう幹部が直接手を出してきた、もう我慢の限界だ。下っ端ばかり相手をしてもキリがない、あいつらの巣を直接叩く。その前に、私は領主に会ってこようと思っている。少し暴れても目を瞑れとな」

 ヴァロンティーヌは静かに喋ってはいるが、怒りを抑えているのがよく分かる。
 皆が無言で頷いている。

「領主達は私達とは対極の組織だ、うちの幹部をあまり会わせたくない。マモン、アレク、サラン、ついて来てくれ。明日の午後にしよう」
「了解よ、ボス」

 緊急幹部会議を終え、各自仕事に戻った。
 

 ◆◆◆
 
 
 次の日の午後。
 領主との面会予約は秘書のサランが済ませている。

「さて、行くよ」

 領主の屋敷に四人で歩いていく。
 門衛に応接室まで案内され中に入った。中には昇化した人族が座っている。その後ろには四人の部下が立っている。

「いらっしゃい。久しぶりだね、ヴァロンティーヌさん」
「あぁ、領主になんてあまり会いたくはないけどな」
「まぁ、そう言わないでくれ。君達は蛇神の王ナーガラージャよりは話が通じる。いい関係を築きたいと思っているんだがね」

 彼がレトルコメルス領主『オリバー・リオン』だ。物腰が柔らかく頭が良くて強い。領民からの人気は歴代でもトップだと聞く。

 挨拶もそこそこに、ヴァロンティーヌがオリバーに対面して席に着く。マモン達三人はその後ろに立つ。

「早速本題に入るが、お前達も頭を悩ませているだろうトリプレットの事だ」
「あぁ、数が多い上にいざこざが多すぎて手が回らない。敵対組織の君達なら尚更だろう」
「私はあいつらのアジトを直接攻めようと思う。お前らもトリプレットが潰れた方がいいだろう?」
「間違いないね。で、私に会いに来たのは何か要件でも?」

 ヴァロンティーヌは少し間を置いて、組んだ腕を解いて話し始めた。

「一週間目を瞑ってくれ、久しぶりに私たちは暴れる。領民に被害は出さないよ」
 
「……それは、殺しを認めろということかな?」
「死者は出るだろうな、組織同士の抗争だ」
「認めるなどと言うと思ったかい? まぁ、領民からの通報が無ければ、私達が動くことはないがね」
「奴らのアジトは元々は牧場の跡地だ。街の外れでやたらと庭が広い。何をしても領民に被害が出ることはないよ」

 オリバーは僅かに口元を緩ませた。
 
「……ならば私達の耳に入ることは無いだろうね」
「お前は話が分かる奴で助かるよ、オリバー」
「よしてくれ、私達はあくまでも領民の味方だよ」
 
 話はついた様だ。
 トリプレットとの本格的な抗争が始まる。
 

 アジトに戻ると幹部が招集され、既に席に着いている。皆そのつもりでいたようだ。
 ヴァロンティーヌは席に着き脚を組むと、静かに口を開いた。

「久しぶりに暴れるよ」

 皆静かに闘志を燃やしている。マモン達もそうだが、皆鬱憤を溜めている。
 皆のストレスをトリプレットのアジトにぶつけよう。

 フェリックスが作戦を告げる。

「奴らの数は準構成員を含め、どれだけ居るのか見当もつきません。しかし、どれだけ広くともアジトに全員は入れません。三兄妹の他幹部を除いても後は雑魚ばかりでしょう。奴ら幹部達は滅多に街に姿を現しません。先ずは雑魚どもが応戦するはずです、待ち構えていると見て良いでしょう。蹴散らしてやりましょう」

 マモンは手を挙げて発言の許可を求めた。

「どうぞマモンさん」
「皆は魔法は使わないの?」
「いえ、使いますよ。でも街中では使いません。建物が燃えたり崩れたりした時の損害が大き過ぎますからね」
「じゃあ、ヤツらのアジトに向けて魔法を放っても良いわね?」
「えぇ、構いません」

 一年溜めたこの鬱憤を全放出する時が来た。

「三兄妹は勿論、幹部も強いよ。油断しないようにな」
「ボスは後ろで腕を組んで見ておくがいいよ。ボク達が蹴散らしてやるからね」
「そうですわね、今日はわたくしもボスの横を離れますわよ」
「お前らの本気を見られるかもな。楽しみにしとくよ」
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