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第四章 新魔王誕生編
ヴァロンティーヌ・シモン
しおりを挟むバー二階の応接室。
さすがは人気デザイナー、部屋のセンスが素晴らしい。
「アナタの着てる服も良いわね、ラインが凄くキレイだわ」
「すごく褒めてくれるんだな。お前達も背が高めだもんな、私が作る服のコンセプトは特にないよ。自分が着たいものを作ったら売れただけだ」
この素晴らしい洋服の話をたくさんしたいが、興味のないアレクサンドが割り込んできた。
「お近づきのしるしにワインでも飲もう、赤ワインがいいな。美しいキミを見つめながら芳醇な香りを楽しみたい」
「わかったよ、用意させよう。銘柄は何でもいいね?」
「あぁ、いちばん高いヤツをくれ。キミの様な美しいレディに安いワインは似合わない」
相当彼女が気に入ったらしい。アレクサンドは世辞を並べるが全く伝わらない。
ヴァロンティーヌは呼鈴を鳴らし、店員にワインを持ってこさせた。
「遠慮なく頂くよ、会計は下でしてくれ」
「あぁ、構わない。ボク達の出会いに、乾杯」
グラスを軽く上げて口をつける。
美味しいワインだ、芳醇な香りが口いっぱいに広がる。
「で、仙人のお前は分かる、そっちの男は仙族だね? 赤髪のお前の魔力は何だ……? 魔族はそんなに魔力が多いのか?」
「あぁ、自己紹介をしてなかったね。ボクはアレクサンドだ、アレクと呼んでくれ」
「わたくしはサラン、あなたの洋服のファンの一人ですわ」
「ワタシはマモン、魔族と人族のミックス・ブラッドよ。それが魔力の多さの理由ね」
「……なるほどね。魔族に会った事が無いから気になったんだ」
「アナタは昇化してるのね。 あいつら三人を一瞬で倒すとなると強いのね」
「普通に客として来るには構わないんだけどな。バックにあいつらが居るからって調子に乗る奴は多い」
「まぁ、ワタシも絡まれたしね、わざと一人逃がして待ってるのに全然来ないのよ。トリプレットって何なの?」
ヴァロンティーヌは何かの組織のボスだと言っていた。敵対組織なのは間違いない。
「『三連符』はマルフザン三兄妹がトップの組織だ。長兄ガスパール・マルフザンを筆頭に三つ子が支配している」
「三つ子か、それでトリプレットね。ワタシに絡んできたヤツや今日のヤツらを見ても、纏まってる組織じゃなさそうね」
「あぁ……そこら中で下っ端がトラブルを起こす。本当に迷惑してるんだよ」
ヴァロンティーヌの話によると、レトルコメルスには二大マフィアが長く君臨しているようだ。
彼女の『女豹』と『蛇神の王』だ。
「私達とナーガラージャはナワバリが違うんだ。レトルコメルスには主に二つの繁華街がある、だから奴らとの抗争は今まで無かった。上手く住み分けが出来ているんだよ」
「そこに出てきたのが、トリプレットって事ですわね?」
「あぁ、二つのマフィアのナワバリに被るように組織してる。いきなりこの街に現れて、どんどん力をつけてきた。まぁ、私達も抗争によってこの街のマフィアを壊滅させた身だからね。奴らの事をとやかく言うことは無いが、奴らのやり方が気に食わん」
「やり方?」
ヴァロンティーヌはワイングラスを回しながら言葉を続けた。
「あぁ、私達の組織に入るには信頼が必要だ。誰でも入れる訳じゃないから自然に結束が生まれるし、裏切りもそこまで心配していない。だが奴らは違う、来る者拒まずだ。数が膨れ上がって統制が効かなくなっている。下っ端が訳も分からず暴れ回ってるのが現状だよ」
普通は敵対組織のボスが経営している店に出入りなどしない。そもそも知らないのだろう。
「ワタシはさっきも言ったけど、トリプレットとか言う組織が仕返ししてくるのを待ってた。構成員に暴言を吐かれたからね。アイツらを殺したくらいじゃ腹の虫がおさまらないわ」
「まぁ、下っ端がやられたくらいじゃ動かないだろうな……把握はしていないはずだ。私もどうにかしたいと思っている。ナーガラージャもそう思っているだろうけどね」
マモンとサランはヴァロンティーヌのデザインする服に心酔している。アレクサンドは彼女の美しさに心を奪われている様だ。アレクサンドの今の表情はなかなか見ない。
「ねぇ、ヴァロンティーヌ。ワタシ達を組織に入れる気は無い? トリプレットを壊滅させたいなら手伝うわよ? 手伝うというか、ワタシは腹の虫をおさめたいだけなんだけどね。この町に何年いるかは分からないけど」
「……なんだと? 何のメリットがあってそんな事を」
「ワタシ達は基本的にヒマなの、刺激を求めてるだけよ。メリットがあるとしたら、好きなデザイナーの近くにいられる事かしらね」
ヴァロンティーヌは交互に三人の顔を睨むように覗き込んでいる。それはそうだろう、突然押しかけて仲間に入れて欲しいと言っているのだ。
「まぁ、嘘を言って無いのは分かるよ。でも、私達の組織は一枚岩だ。互いの信頼を一番に考えている。一番下っ端からになるぞ? 無理に敬語を使えとは言わないけどね」
「えぇ、勿論よ。アナタの部下なら邪険に扱うことは無さそうだしね」
マモン達三人は『女豹』の構成員になった。
「この店のオーナーは私だ。店の名前は入口に掲げてる通り『レオパルド』だ。私は基本的には三階の自室かアトリエに居る。この店の二階から上がレパーデスのアジトだ」
「ボク達はこの近くのホテルに長期滞在するつもりで宿泊している。構成員はどこに住んでるんだ?」
「ここに住み込みで世話してる奴もいるし、外に居を構えてる奴もいる。好きにすればいい」
「分かったわボス、何でも命令してね。人の下に付くなんて初めてだわ。ワクワクするわね」
「ボクは国にいた頃以来だな。こんなに美しいボスならいくらでも言うことを聞くよ」
「わたくしもボスのセンスを吸収したいですわ。身の回りのお世話をさせて頂きたいですわね」
ヴァロンティーヌの部屋は、二階から専用階段を登った三階にある。デザインした服を縫製する部屋もあるようだ。
この建物は五階建てだ、普通組織のボスともなると一番上の階に部屋を作りそうな物だが、下の店の様子をよく見に行くのと、服の材料の搬入が面倒臭い事から中間の階に部屋を作ったらしい。
「じゃあ、ワタシ達は帰るわね。楽しかったわボス」
「随分と横柄な部下だな……まぁ、頼りにしてるよ。戦わなくても強いのは分かるからね」
マモン達はホテルに帰って休んだ。
明日からは下っ端生活が始まる。
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