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第四章 新魔王誕生編

サランの双剣

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 採掘の護衛は何の問題もなく進んだ。
 
 マモン達の成長に危機感を覚えたのか、アレクサンドも頻繁に剣を振るうようになった。
 アレクサンドは千年以上生きている仙族だ。剣術の精度はマモン達とは比べ物にならない。しかし千年の平和のうちに、女にうつつを抜かして修練を怠っていた事は本人も認めている事実だ。

「単純に剣を振るのもいいね。忘れていた感覚だ」
「えぇ、魔法を教わる時も楽しくて夢中になったけど、剣はそれ以上に奥が深いわ」


 ◆◆◆
 
 
 一ヶ月の護衛が終わり、更に七ヶ月がたった。冬を越して春が来た。
 マモン達はクラウスの鍛冶場に呼ばれている。

「防具が出来たぞ、会心の出来だ。やはりアズガルシス鋼は素晴らしい」

 出来上がった防具は、肩までガード出来るようデザインされたブレストプレート、肘あたりから腕を守るガントレット、膝からすねを守るグリーヴだ。

 早速装着してみる。
 軽い、そして動きやすい。
 関節の動きを邪魔しないように、金属を重ねて伸縮するよう設計されている。随所に職人の技が光っている。
 装飾や形など、アレクサンドのこだわりが詰まったデザインが素晴らしい。

「これは素晴らしいわね……レザーアーマー並とまではいかないけど、相当軽いわ」
「デザインも良いだろう? かなりこだわったからね」
「えぇ、素晴らしいですわ。剣を振っても窮屈な感じがしませんわ」

 そうだ、サランの剣も頼んでいた。

「双剣も出来てるぞ、かなり良いのが出来た。胡蝶剣のサイズに合わせたから、使用感はそう違わないはずだ」

 装飾も胡蝶剣に似ている。
 サランが双剣を手に持ち軽く振っている。

「これは素晴らしいですわ……輝きが違いますわね」
「そうだろう? 両方特級品とはいかなかったが、俺にとっちゃ生涯二本目の特級品だ」

 対の二本の剣は、特級品と一級品の上位らしい。胡蝶剣よりも上位の双剣だ。

「わたくしも特級品の所持者になりましたわね、更に精進しないと。剣の名前はありますの?」
「いや、考えてねぇな。自分で付けな」

 サランは二本の剣を見つめて考える。

「双頭の犬が守っていた鋼ですものね。双頭剣……?」
「双頭犬とかけたダジャレじゃない……」
「ハハハッ! いいんじゃないか?」

 サランは言ってから顔を赤らめた。

「言わなければダジャレかどうかなんて分からないですわ。『双頭剣そうとうけん』に決めましたわ!」
「ウハハ! 響きは良いな。俺の渾身の一振だ、大事に使ってくれ」

 三人は、武器も防具も特級品の所持者となった。


 ◆◆◆


 マモン達がオルトロスを討伐しアズガルシス鋼が出回った事で、ベールブルグにも活気が出てきた。
 噂を聞き、アズガルシス山の採掘を依頼する冒険者を見かける様になった。まずは鉱夫達の信用を得る為、Sランクのヘルハウンドを倒せなければ始まらない。

 アズガルシス山には大小三つの坑道がある。マモン達は一番大きい坑道で採掘を頼んでいた。その両隣にある二つの坑道は、未だ二十年以上手付かずだ。
 
 ベアナードの所にも頻繁に依頼が来るようだ。

「うちはSランク冒険者が来ても受けないな。お前たちのお陰で、坑道付近にはヘルハウンドがあまり近寄らなくなったが、いない訳じゃない」
「まぁね、命を預ける訳だものね」

 マモン達はもう少しこの町に滞在するつもりでいる。
 他の坑道もすぐに採掘出来るようにしておきたいらしく、その護衛を頼まれてベアナードの所に話を聞きに来ている。

「別に他の業者が採掘する時にさせとけば良いんじゃないの? なんでアナタがしてやる必要があるの?」
「もちろん自分たちの為だ。お前らほど信頼出来る護衛はなかなか居ない、出来るだけ早く採掘を初めて短期間で終わらせるようにしておきたい。同業者とのルールとして、依頼を受けたら空いている坑道を好きに選べるからな。選べる坑道は多いに越したことはない」
「そういうものなのね。ワタシ達は構わないわよ」

 そんな話をしていると、ベアナードの部下が男女四人の冒険者を連れて来た。

「カシラ、お客さんです」

 ガッチリとした盾役風の男が部屋に入るなりベアナードに声をかけた。

「おう、あんたがここのボスか?」
「あぁそうだが、採掘の依頼か?」
「アズガルシス鋼というのが採れるらしいな。防具にしたい、採掘を頼む」
「お前らのランクは?」
「Sランクだ」
「無理だな、お引取り願う」

 盾役風の男は舌打ちをして突っかかってきた。

「おいおい、ここで三件目だぞ。お前らの仕事は採掘だろうがよ。大人しく引き受けたらどうなんだ」
「ヘルハウンドが二体で襲ってくる事もあるんだぞ? Sランクのお前らが対処できるのか?」
「舐めるなよ。問題ねーよ」
「そうか。じゃあ、ギルドで依頼を受けてヘルハウンドを五体倒してきな。話はそれからだ」
「ふん、分かったよ。準備しときな」
 

 その後、その四人が訪ねて来ることは無かったらしい。入口で断念して帰ったか、ヘルハウンドの餌になったか。どちらにせよマモンには関係のない話だ。
 
 
 ベアナード達の護衛で、残り二つの坑道の採掘に付き合った。
 サランは新しい双剣『双頭剣』でヘルハウンドを斬り刻んでいる。素晴らしい斬れ味でかなりお気に入りの様子だ。
 
 
 ◆◆◆

 
 ベールブルグに来て一年。
 そろそろアレクサンドの機嫌が悪くなってきた。よくここまで持ったものだ、移動の時期が来たようだ。
 アレクサンドは鉱夫達とよく飲みに行っていた。相当馬が合ったのだろう。

「ここに来て良かったわね。防具のグレードアップは大きいわ」
「あぁ、思いつきで来たが本当に良かった。レディも積極的な子が多くて楽しめたよ。かなり楽しい町だった」

 そろそろ移動する事を告げると、ベアナードとクラウス達が宴会を用意してくれた。

「お前らは本当に恩人だ、感謝してもしきれねぇ」
「本当は出て行って欲しくは無いが。冒険者だもんな、仕方ない。また寄った時は声を掛けてくれよな!」
 
 宴会は夜遅くまで続いた。



 宴会から一週間、朝食後のティータイム。

「さて、次はどこに行く?」
「東の方に行けばレトルトコメルスだね。王都に並ぶ都市だよ」
「じゃあ、そこに行きましょうか」

 最後の夜は本場のビールとソーセージを楽しみ、次の日の朝ベールブルグを後にした。

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