上 下
129 / 241
第四章 新魔王誕生編

オルトロス

しおりを挟む
 
 三人の浮遊術ではそう遠くない。すぐにアズガルシス山に着いた。

「そこまで高い山じゃないのね」
「あぁ、ここにいても魔力を感じるな」
「ヘルハウンドを狩りながら登る? 飛んで現地まで行く?」
「一頭だけわたくしに狩らせてくださる? SSランクに挑戦できるかの確認ですわ」
「サランは回復役だぞ? まぁ、Sランクを一人で倒せれば文句なしのSSだろうな」

 前方にはヘルハウンドが一頭。どんな攻撃をしてくる魔物なのかも全く知らない。
 四足でもサランの背丈ほどある大型の犬だ。

「結構大きいのね」
「危なくなったら手伝うよ」
「えぇ、お願いしますわ」


 サランは双剣を構えた。
 ヘルハウンドがサランに飛びかかる。さすがはSランク、かなり速い。

 サランは守護術でヘルハウンドの爪攻撃を弾いた。良く見えているようだ。

「うん、自然エネルギーも上手く使えている。良い守護術だ」

 ヘルハウンドも速いが、サランは更に速い。さすがはスピードタイプの双剣使いだ。
 サランの補助術は身体の構造を熟知しているからか、かなり効果が高い。サランの記憶を貰ったマモン達も、及ばないまでもその恩恵を受けている。

『剣技 苦難の十字架クルスィフィクション

 ヘルハウンドの噛みつきを避けながら、二本の斬撃で十字に切りつけた。

「お見事。回復術だけじゃなくアタッカーとしてもかなり優秀だね」
「えぇ、ワタシも負けてはいられないわね」 

 サランは文句なしのSランク超えの冒険者だ。
 ヘルハウンドの爪や長い犬歯を採取し、火魔法で火葬する。魔晶石が二個だ、Sランクの魔物からはだいたい二、三個出てくる。

「自信がつきましたわ。わたくしは二人のお陰でかなり強くなってますわね」
「あぁ、サクッとオルトロスを討伐するか」

 ヘルハウンド達と律儀に戦ってやる必要は無い。浮遊術で直接オルトロスの住み着いている坑道へ飛ぶ。

「犬なら飛ばないね。途絶が使えそうだが、最終手段にするか」
「そうね、どうせなら剣で倒したいわ」
「よし、ボクが守るから安心して攻撃してくれ。サランは回復と補助だ、サブアタッカーとしても動いてくれ」
「分かりましたわ」

 坑道に着いた。
 中から魔力が漏れ出ている。

 ゆっくりと何かが出てきた。
 犬の頭が二つ、オルトロスだ。思ったよりかなり大きい。

「おいでなすったわ! 行くわよ!」

『守護術 堅固な城壁ロバスト ランパーツ

 オルトロスの敵意は、全て先頭のアレクサンドに向いた。金属盾を構えた姿を久しぶりに見る。

「まずは観察するわ」
「あぁ、ボクの後ろにいるといい」

 オルトロスの片方の頭から、強烈な火魔法が放たれた。

魔力吸収アブソーブ 解放リリース

 マモンは魔力吸収能力で魔法を吸収し、そのままオルトロスに向け解放した。

 巨体の割に速い、躱された。

「ここの犬は速いわね。まぁ、ワタシに魔法は効かないわ。さて、どうするワンちゃん?」
 
 オルトロスはもう一方の頭から風魔法を放った。それも吸収して解放する。
 今度は狙って解放した。しかし、かすっただけだ。

 その後はアレクサンドに向けて爪や牙の物理攻撃に切り替えた。学習能力はあるらしい。

「魔法は封じたわね。アレクサンド、守りは任せたわよ。サラン、両脇から一斉に剣突ね 」

 アレクサンドは正面から攻撃を捌いている。オルトロスはアレクサンドしか見えていない。
 マモンとサランは横から剣で攻撃だ。一斉に攻撃する。

『剣技 刺突剣ソードストライク

『グゥォォォ!』

 二人の剣が深く刺さった。
 が、致命傷にはならない。しかしオルトロスは怯んでいる。

「急所を外してしまったわね。アレクサンドとサランで気を引いてちょうだい。ワタシは意識の外から攻撃するわ」
「「了解」」

 オルトロスの敵意は常にアレクサンドに向いている、本当に優秀な盾役だ。
 サランがスピードを活かして少しづつダメージを与えている。

 急所に届かないなら首を刎ねるまでだ。

『剣技 斬首一閃ディキャピテーション

 斜め後ろからからオルトロスに斬りかかり、首を刎ねた。

『グゥォォ――!』
 
 片方の首を失い、パニック状態だ。

「終わりよ!」
 
 そのままの勢いで、もう片方の首も切り落とした。巨体が地を揺らして倒れ込む。

「見事。魔族が魔法を使わずにSSランクの魔物を斬り殺すとはね」
「えぇ、自信がついたわ。でも、サランのサポートありきね、いいパーティになったわ」
「そう言って貰えると嬉しいですわね」

 ヘルハウンドよりも長く立派な犬歯を採取し、毛皮も剥いでおく。
 火葬すると、魔晶石が五つ出た。

「さて、帰って領主の所に行くか」
「このままの勢いでヘルハウンドも減らしておかない?」
「そうですわね、どうせ討伐しなくてはならないですものね」

 帰りは歩いて山を降りた。
 ヘルハウンドは群れで襲ってくる事はなかった。一、二匹で飛びかかってくるのを斬り殺す作業。オルトロスの後ではただの大型犬だ。

 山を降り、領主の屋敷まで飛んで帰った。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...