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第四章 新魔王誕生編
サラン
しおりを挟む「さて、ボスの剣はワタシが頂こうかしらね」
「あぁ、勝者の特権だ。なかなか良い剣だ、一級品だね」
「へぇ、ランクが上がったわね。一級品に見合うように強くならないとね。で、アナタは逃げないの?」
マモンが目を向けた先のサランは、逃げもせずに腕を組んでそこに立っている。表情も変わらない。
「あら、逃がしてくださるの?」
「好きにすればいいわ、アナタはワタシ達の楽しみを奪う事はしなかったものね」
「……ホント、いい方達なのか悪党なのか……全く分かりませんわ……」
「悪党には変わりないわね」
サランは組んだ腕を解き、二人に近づいた。
「……わたくし、あなた達に興味が湧きましたわ。仲間に入れてくださらない?」
「ワタシはアナタの父親の仇よ?」
「お父様には、お母様の願いを聞いて従っていただけですわ。お母様はもう亡くなったし、死人に従う訳にはいきませんもの」
「そういえば、さっき突き放してたわね……」
アレクサンドの方を見る。
「ボクは構わないよ。美しいレディなら尚更だ」
「あらそう、ワタシもアナタは嫌いじゃないわ、ワタシも構わないわよ。回復術師なんでしょ?」
「えぇ、回復術師よ。よろしくお願いしますわ。ではお詫びに、父の屋敷の物を差し上げましょう」
「気に入る物があれば良いけどね。じゃあ、案内してくれるかい?」
サランの案内でラオンの屋敷に着いた。
石造りの四階建て、流石に大きな屋敷だ。
「誰も居ませんわ、ご心配なく」
四階のラオンの居室に着いた。
「ほぅ、武具のコレクターだったんだな」
「そうですわね、使いもしない武器や防具を溜め込んでますわ。わたくしの目的はこれ」
サランは二本の短い剣を手に取った。
「この双剣がずっと欲しかった。使わないなら下さいとお願いしていましたのに、結局くださらなかった。一級品の上位『胡蝶剣』ですわ」
サランは腰に左右一本づつ剣を差している。
手に取った胡蝶剣を腰に携えた。
更に奥には、大事に飾ってある剣が光り輝いている。
「これは素晴らしい剣ね、素人目で見ても全然違うわ」
「おいおい、これは……」
「えぇ、聖剣として名高い『デュランダル』ですわ」
「こんな素晴らしい剣を……使わずに飾るとはね……」
確実に特級品だ。
見るからに質が違う。
「アレクサンドが使う?」
「いや、ボクにはアスカロンがあるからね。キミが使うといい」
「サランはいいの?」
「わたくしは双剣使いですもの。あなたがお使いになって」
デュランダルを持ってみる。
長さは今まで振っていた剣と変わらない。少し長いくらいだ。グリップは両手持ちが出来るよう長めに作ってある。
「これは素晴らしいわね、これ以上は無さそうだわ。ありがたく使わせてもらうわね」
防具はあるが、重い全身鎧が飾ってあるだけで、冒険者には実用的ではない。
「これはいい収穫だったな。サランも半分持ってくれよ」
「あなた……さっきからどこにしまってらっしゃるの……?」
「え? 空間魔法を扱わないのか?」
アレクサンドは首を傾げているサランに、空間を開く方法を教えた。
「わたくしにこんな能力があったなんて……」
「これはその眼の能力の一つだ。他にも能力を開眼する者もいる」
昇化した人族にも眼の力が宿るらしい。空間魔法の能力者が増えた。
マモンは洋服も増やせると頬を緩ませた。
「お二人、わたくしの屋敷を拠点にしませんこと? ホテル住まいと仰ったわよね?」
「子供それぞれに、あの規模の屋敷を与えてるのか……相当儲けてたんだろうね」
「まぁ、祖父が大富豪なのもありますわね。悪党の息子にも甘かったのでしょう」
そうなれば、ホテルをチェックアウトしなければならない。
「じゃ、街に出るなら食事をしましょうか」
「そうだね、サランとの出会いに乾杯しよう。ボク達お気に入りのお店に招待するよ」
「ありがたいですわ、そういえばお腹がすきましたわね」
ラオンの屋敷を後にして、お気に入りの焼肉屋に向かった。
「ご主人、また来たわよ」
「あら、いらっしゃい! え、ラオン一派の娘さんじゃないか……?」
「えぇ、お邪魔しますわね」
「有名人なんだな、サラン」
ビールを三人分オーダーする。
「では、サラン、これからよろしくね。乾杯」
サムギョプサルを焼きながら、ビールで乾杯した。
「改めてよろしくお願いしますわ。わたくしはパク・サラン。ここを出るなら『サラン・パーク』と名乗りますわね」
「ワタシはマモン・シルヴァニア。よろしくね」
「ボクはアレクサンド・ノルマンディだ。アレクと呼んでくれ」
やはりここの肉は美味しい。
進む食の手を止める事なく話を進める。
「でも、ラオンも領主が手を出せないほど強いって事は無かったわね。ワタシが強くなったの?」
「領主が手を出せなかったのは、ラオンがパク一族だからですわよ。領主達が本気で動いたらら、ラオン一派なんてすぐに壊滅ですわ」
「ラオンもそうだが、キミもキミの兄も相当早く昇化したようだね。20歳過ぎで昇化したのか?」
「いいえ、パク一族は特殊ですのよ」
「……特殊?」
「えぇ、わたくし達は生まれながらにして昇化している。理由は分かりませんが、突然変異の類ではないかと結論づけられましたわ」
生まれながらに眼の力を宿す一族。
パク一族本家は相当な武闘派なのかもしれない。
「何故ラオンは本家を出たの?」
「パク一族は皆温厚な人達ですの。領主との関係も良好で、町の人達からも尊敬されている。お父様はあの通り粗暴な人、だから家を出たんでしょうね。町の厄介者でしたわ」
どこの家にもはみだし者はいるものだ。あの男は頭が足りなかった。
サランも焼肉はよく食べるらしく、この店の味は相当気に入った様子だ。
「ほんと、この店は美味しいですわ。もっと人気が出ても良さそうですのに」
「いやいや、人気が出すぎたらボク達が食べられなくなる」
サランは空気感がマモン達と似ている、一緒にいて苦にならない。
美味しいサムギョプサルで乾杯し、新しい仲間との親睦を深めた。
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