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第四章 新魔王誕生編
ジョカルド
しおりを挟むジョカルドの町に着いた。
王都に近いだけあってなかなか大きな町だ。
町に入ってすぐに何かの匂いが鼻をついた。
――この匂いは何……?
路地に入るとハッキリ匂う。
「ねぇ、アレクサンド。この匂いは何……? 食べ物の匂いよね?」
「あぁ、そうだな、ガーリックという野菜の匂いだ。獣の肉を焼いてガーリックを使ったソースで食べる料理が美味だな。あとは香辛料に野菜を漬けて発酵させた物もある。独特な食文化があるよ、ボクは結構好きな町だ。ほら見てみろ、レディ達もなかなかいい」
「へぇ、初めてだわ、楽しみね。とりあえずいいホテルを探しましょ」
誰にでも聞けば、この町一番のホテルを教えてくれる。ベッドは良くないといけない、それはマモンにとって最低限の条件だ。
「おまたせ、ご飯を食べに行こうかしら?」
「遅いよマモン……部屋に物を置くだけで何をする事があるんだ」
「なによ、お化粧直したり着替えたり色々あるのよ。男には分からないわ」
「あぁ、そうかい……その大量の着替えを持ってやってるのはボクだぞ……」
「それは感謝するわ、ありがとね」
本当に独特な匂いがする。ただ、嫌な匂いではない。
アレクサンドおすすめの店に入る。
「ここの焼肉が美味しいんだ」
「くっさいわね! 洋服に匂いが着きそうだわ」
「みんなそうだから気にしなくていい」
ここでは、豚や牛の飼育が盛んに行われているらしい。
「このサムギョプサルが絶品だ。牛も美味いぞ」
焼いた獣の肉を葉野菜にくるみ、赤みがかったタレを付けて口に入れる。脂っこい肉を葉野菜が中和し、ピリッと辛いタレが絡む。
「あらホント、聞いたことない食べ物だけど美味しいわね。豚の肉かしら? この肉、魔力感じない?」
「そうだろう? 内臓も美味いんだ、ビールが進むよ。多分これは豚の魔物だろうね」
これはハマりそうだ。
このキムチという野菜も美味しい。
「ねぇ、ご主人。この豚は魔物よね? 捕まえてくるの?」
「いや、『パク』っていう一族が豚の獣と魔物のフレイムピッグを交配して、人を襲わない大人しい魔物を造る事に成功したんだよ。魔力があるから美味いだろ? 庶民が魔物を食べるなんて事は普通は出来ないからね」
「なるほどね、そりゃ儲けたでしょうね。この美味しさだもの」
確かに牛も美味しいが、この豚は本当に絶品だ。肉質が素晴らしい。
「お客さん達、この辺の人じゃないね? 金髪や赤髪なんて滅多に見るもんじゃないからね。冒険者かい?」
「えぇ、冒険者よ。この街には初めて来たわ」
「なら、ラオン一派には逆らっちゃダメだよ」
「ふぅん、こっちから手を出すことは無いわ。で、何者なの?」
「さっき言った豚の畜産で財を築いたパク一族の子だよ。領主が手を出せないくらいに大きくなってしまった悪党なんだ」
たかが人族の悪党だ、マモンの興味は向かない。
「向こうからケンカふっかけてくるなら、全滅させてやろうかしらね」
「おい、さっきも言ったけど、ボクはこの町を気に入ってるんだ。住みにくくするのはやめてくれよ?」
「こっちからは手出ししないわよ」
「あんたら、大丈夫かい……?」
美味しい肉を腹一杯楽しんだ。ここは行きつけにしよう。
「ご主人、ホント美味しかったわ。また来るわね」
「あぁ、ありがとね! 待ってるよ」
店を出ると、アレクサンドは身嗜みを整え始めた。ただ、服には焼肉の匂いが染み付いているだろう。同じものを食べていたマモンには分からないが。
「……さてと、ボクはレディをナンパしてくるかな」
「アナタ顔だけはいいものね、ついてくる女が可哀想だわ。行ってらっしゃい」
賑やかな方に消えていくアレクサンドを見送り、マモンは当てもなく歩き始めた。
少し飲み足りない。男前のいるバーがあればいいが。適当に入ってみよう。
カランコロン……
「いらっしゃいませ。こちらのカウンターにどうぞ」
ビンゴだ。
明るいブラウンの髪に整った顔立ち。マモン好みの男前が出迎えた。
「あら、いい男。甘いカクテルちょうだい」
「ありがとうございます。少々お待ちください」
男前のバーテンダーがシェイカーを振る。
「おまたせ致しました。チョコ・コラーダでございます」
チョコレートのカクテルだ。
「うん、これは美味しいわ。さっき油っこい肉を食べたところなの。これくらい甘いものが欲しかったわ」
「お口に合って良かったです。ここは畜産が盛んですから、牛の乳が豊富なんです。お客様のように甘い物がお好きなら、この街は気に入って頂けるかと思いますよ」
「そうね、気に入ったわ。あなたもいい男だし、この店に通おうかしら?」
「ありがとうございます、是非。私はスヒョンと申します」
「ワタシはマモン、よろしくねスヒョンちゃん」
いい男と飲むお酒は格別だ。
甘いお酒が更に甘く感じる。
ほろ酔いだ。
今日はゆっくり休もう。
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