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第三章 大陸冒険編
シュエンの記憶 5
しおりを挟む飯を作るくらいは出来る、野営での経験が役に立つな。ただ、ソフィアの料理と比べると、雲泥の差だ……。
まず、何が何処にあるのか分からない、慣れるまでは大変だ。ソフィアに頼りきってたって事だな……。
依頼も当分は受けられない。
ユーゴを一人にする事は出来ない。
ギルド側もソフィアが居ないのは知っている。頼みにくいんだろうな、来なくなった。
まだ小さいが、ユーゴを鍛えるか。俺もこれくらいの時にはしごかれたもんだ。
「ユーゴ、お前は冒険者になりたいと言っていたな?」
「うん、オレは強くなりたい」
「分かった、父さんがお前を鍛えてやる」
「ホントに!? お願いします!」
ユーゴの魔力はまだ安定していない。
ソフィアが抑えているとはいえ、中にはあの魔神がいる。魔力障害になる可能性もある。魔力過多で暴走する事も有り得る。
魔力障害だけは絶対に避けないといけない。メイファ姉さんにその危険性は嫌という程聞かされている。
練気術や遁術は魔力をあまり使わないから駄目だ。ユーゴには魔法と魔法剣で多量の魔力を使わせる。
「よし、ユーゴ。まずは魔法の習得だ」
「はい!」
◆◆◆
ユーゴは順調に魔法を習得しているな。
しかし、まだ小さい。多くの魔力を放出できない。
「なかなかいいぞユーゴ。もっと魔力を込めることが出来れば、更に威力が増すぞ」
「うん! 頑張るよ!」
「お、トレントだ、あれはいい薪になる。風魔法がいいな。ユーゴ、いけるか?」
「うん、頑張る」
『風魔ほ……』
「ん……? ユーゴ、どうした?」
この魔力は……クソッ……まだ早かったか。
なんて魔力だ……。
動かない今のうちに魔力吸収だ。
「……あれ……父さん? オレ、ダメだった……?」
「いや、大丈夫だ。問題ない」
◆◆◆
ユーゴももう八歳だ。
魔法の精度もまぁまぁだ。魔力の消費もあってか、安定している。
そろそろ魔法剣を習得させよう。
鍛冶師のダンの店で剣を買ってきた。ダンは鍛治の腕も見る目も無いが人が良い。こいつに武具の整備を任せるなんてことは出来ないが、扱う武具に罪は無い。まぁ、本職が革職人だからな、仕方ないか。
「ユーゴ、魔法はいい感じに打てるようになった。今日は剣に纏って魔法剣だ」
「やっと剣を使えるんだね!」
基礎を教えると、半日程で上手く纏えるようになった。我が息子ながらセンスがいい。
「よし、Cランクの魔物くらいなら大丈夫だろう。倒せはしない、俺がとどめを刺す」
「うん、分かった……」
スレイプニルがいるな。
「よし、敵はあの馬だ」
「おい、ユーゴ?」
『グゥォォ――ッ!!』
クソッ、またか!
前回とは比べ物にならない。
反撃が出来ない戦闘がこんなにも辛いとはな……。
『風魔術 風魔召喚』
クソッ……速い。防げん……。
致命傷は……避けたな。
よし、隙が出来た。
捕まえた……魔力吸収だ……。
「……また気絶してたんだな……父さん、そんなに傷だらけで……足手まといだなオレ」
「そんなことは無い。心配するな、大丈夫だ」
俺も魔力を消費しないとな。
でないと、俺が先に魔力障害だ。
「スレイプニルは俺が仕留める」
『風魔法 殺戮の斬風』
ふぅ……強い魔物相手に暴れ回って来ないとな……。
「やっぱり父さんはすごいな……」
◆◆◆
ユーゴの気が昂ると奴の魔力が漏れ出てくる事が多かった。
かと言って、魔法の指南を中断する訳にはいかない。魔力を外に出せなければ魔力障害の可能性が高まる。
その後も何度かユーゴの魔力を吸収した。
ユーゴは15歳になった。
ソフィア……ユーゴは守ったぞ……代わりに俺はボロボロだ。
北の山に行けば強い魔物がいる。
俺は毎日のように、魔法で魔物を狩り続けた。
意味もなく、岩山に向けて魔法を放ち続ける事もあった。俺が暴走してしまったら終わりだ、誰も止められない。
本当はユーゴに練気術や剣技を教えるべきだ。それは分かっている。
だが、俺と一緒にいるとユーゴが危険だ……。
◆◆◆
ユーゴはもう18か……魔力は完全に安定したな。
もう俺は、正気を保つのが限界かもしれん……このままではユーゴを殺してしまう。
会えば憎くて仕方がない。
ソフィアとの別れはこいつのせいだ……。
いや、違う……ユーゴのせいじゃない……。
駄目だ……俺は正常ではない……。
もう家を出よう。
久しぶりに家に帰るとユーゴはダイニングテーブルで紅茶を飲んでいた。
「あれ、父さん!? 久しぶりだな!」
「あぁ……お前に渡したい物がある」
春雪を渡せば里との繋がりができるだろう。
俺の思い出が詰まっている。ソフィアも使っていた刀だ、ユーゴの最初の刀に相応しい。
「名は『春雪』だ」
「いいか、何度も言うが『魔力は放つ力』『気力は纏う力』だ。お前は魔法が得意だから、魔法剣が合っていると思うのは分かる。しかし、この刀の本質は斬る事だ。気力を纏う事でその切れ味は何倍も増す。気力の扱い方によってはさらにだ」
「あぁ、わかったよ。ありがとう、大切にする。随分具合悪そうだけど、大丈夫か?」
「あぁ、問題ない。早めに休む」
もう眠れもしない……俺はもう正気を保てなくなるだろう。
置き手紙をしていこう。
これが息子に対する最後の言葉だ……真実を書き記しておく必要がある。
『俺はもうこの家には戻らない。今まで伏せていた事を伝えよう。お前は、ミックス・ブラッドだ。リーベン島へ行け、その春雪がお前と島を繋いでくれるはずだ』
意識が遠のく。
急いで北の山に行かないと……この町を潰すことになる……。
着いた……。
ソフィア、約束は守ったぞ。
後は……頼んだ……。
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