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第三章 大陸冒険編
シュエンの記憶 3
しおりを挟む旅を続けてどれくらい経つか。
色々な町に行ったな。大陸の旅は本当に飽きない。
今やソフィアの戦闘はほぼ龍族のそれだ。春雪も自分のものにしているな。
ただ、自然エネルギーを組み込んでいる分、威力は更に高い。俺の術も全く別物になった。
あと、ソフィアの魔力量は異常だ。俺なんて比にならない。ただ、術の精度は俺が上だ。俺より強いなんてことは無いが。
色々な町を拠点にしながら転々としてきたが、あれからソフィアは魔神を上手く押さえ込んでいる。
あの日から、奴が出てきたのは一度だけだ。
「ソフィア、いくつになった?」
「35歳だよ」
「人族で言えばどう見ても20歳過ぎくらいだな。やっぱり長寿命族だったか」
「シュエンもそうだよね。いくつなの?」
「幾つだろう……150歳にはならないと思うが……」
「まぁ、知ってたけど、長いこと生きてるのね」
「ここ20年ほどが一番充実してるよ。ありがとう、ソフィア」
「こちらこそだよ。でも……」
でも?
「シュエン、あなたいい加減気付かないの……? もう23年も一緒にいるのよ?」
俺はソフィアを愛しているが……。
ソフィアもということか? 違う話なのか……?
「お前こそ気付いてないのか……?」
「え……?」
「間違ってたら凄く恥ずかしいが……」
ええぃ、言ってしまえ!
「俺はお前を愛している。もう20年近くずっとだ」
「え……?」
え!? 違ったか……?
「遅いよバカ。じゃあもっと早く言いなさいよ」
「ソフィア、俺と一緒になってくれ」
「はい、もちろん……お願いします」
ソフィアは目に涙を浮かべ、俺に抱きついた。
「今までと何も変わらないけどね」
「そうだな、もうすぐゴルドホークに着く。そこで式をあげようか」
「うん、ゴルドホークなら何人か知り合いがいるね」
「あぁ、皆の前で愛を誓うのもいいな。でも、俺達が変わって無さすぎて驚かないか……?」
「そうかもね……」
◆◆◆
二度目のゴルドホーク滞在だ。
昨日の結婚式は皆が祝福してくれたな。まさかパーティーまで開いてくれるとは。
「昨日は楽しかったね! みんな来てくれた」
「あぁ、前回滞在したのは何年前だ? ありがたかったな」
当分はここを拠点にしよう。
ソフィアの中の奴の事もある、町の外れの空き家を買い新居にした。
「綺麗に直してくれたね、新築みたいだ」
「あぁ、当分はここが拠点だ」
「私はこれからシュエンの姓を名乗るのよね? 聞いた事無かったけど」
「いや、俺の姓は故郷に置いてきた。俺がソフィアの姓を名乗るよ」
「20年以上言わずに過ごしてきたね。私の名前は『ソフィア・グランディール』よ。よろしくね」
「じゃあ、俺はシュエン・グランディールだな」
ソフィアだけには言っても良いだろう。
「あと、俺は人族じゃない」
「分かってるって……どこに150歳の人族がいるのよ……」
「あぁ、俺は龍族だ。始祖四王、龍王の末子だ」
「そうなの……? そこまで大物の血筋だとは思わなかったわ……」
「ソフィアの出生は、言えないのなら聞かない。人族じゃないのは分かっている。俺達に子は望めないな」
「どうかな、分からないわよ?」
「まぁ、例はあるからな。確かに分からない」
王都やレトルコメルスなど、都会でも生活してきたが、俺達にはこういう長閑な場所が合っている。
家の前はいくらでも畑が作れる。
「ソフィアは野菜栽培に夢中だな」
「うん、意外と奥が深いのよ。獣や鳥との戦いよ……正直、買った方が安いわね」
「まぁ、経験は金じゃ買えない」
俺達はSランク冒険者になっている。
それより上には興味が無かったが、ゴルドホークにSSランクの依頼があれば受けてみようかと思っていた。ここには無いようだな。
むしろ、Sランク冒険者がいない。
「シュエンも、ギルドの依頼に忙しそうね」
「あぁ、Sランク冒険者どころか、Aランク冒険者も数えるくらいしかいないんだ。高ランクの依頼を受ける者がいないからって、ギルドから家までわざわざ頼みに来るんだよ。他の町のギルドじゃ考えられない」
「でも、その分報酬はいいんでしょ?」
「そうだな。正直、金はもういらないが……」
◆◆◆
ここに住み始めて一年と少しか。
ソフィアの体調が優れないようだ。
「ソフィア、大丈夫か……?」
「なんだろうねこれ、なんの病気だろう」
「医者に行こうか、こういう時は大きな町がいいな……」
ソフィアを連れて医者に行った。
「おめでたですね」
「おめでた……? 何がだ?」
「何がって……妊娠してますねって事ですよ」
「え!? 妊娠!?」
「まさか……私に子供が……?」
まさかだな……。
鬼人の事もある、しかもソフィアは人族じゃない。
父にも釘を刺された、気にして見ておく必要があるな。しかし、俺に子が……不安が大きすぎるが、嬉しさも大きい。
◆◆◆
ゴルドホークに滞在して二年。
ソフィアは男の子を出産した。
「ソフィア! よく頑張った!」
「はぁ……こんな痛い事あるんだね……Sランクの魔物の攻撃の方がマシだよ。でも、可愛い。ほら、息子だよ」
「まさか本当に俺達に子供が出来るとはな。分かってたのか?」
「さぁね、何事も可能性がゼロなんて事は無いよ」
「まぁ、そうだ」
二人で数日考えて、ユーゴと名付けた。
◆◆◆
ユーゴはすくすく育っている。
もう五歳になる。
魔力量が多いのは母譲りだが、暴走する気配はない。
「父さん! 今日はお出かけできる?」
「あぁ、連れて行ってやりたいが……また依頼を頼まれてるんだ。帰ったら庭で遊ぼうな」
「そっか……父さん、えすらんくだもんね。仕方ないよ」
たまには遊びに連れて行ってやらないとな……。
「はぁ……俺は本当にお人好しだな……頼まれたら断れん……」
「そのお人好しのおかげで、私は今ここで幸せに暮らせてるんだけど?」
「そう言ってくれるとありがたいな……けど、普通は他人の頼みよりも、息子の頼みを優先するもんだよな……」
「今約束しといたら?」
「あぁ、そうするか。でないとまた依頼を受けてしまう」
ユーゴを手招きして抱き寄せた。
「ユーゴ、明後日遊びに行こう。どこに行きたい?」
「ホントに!? ハイキングに行きたい!」
「ハイキング? そんなので良いのか?」
「うん! 母さん、お弁当作ってくれる? みんなで食べたいな」
「分かったわ、任せて!」
「よし、約束だ。ちゃんと起きろよ?」
「やった! 約束だよ!」
これで約束を破ったら、父親失格だな。
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