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第三章 大陸冒険編
魔人襲来
しおりを挟む数日後、魔都シルヴァニアが落ちたとの連絡が入った。
オーベルジュの城に幹部が集められた。ユーゴ達四人も招集されている。
「さて、魔都シルヴァニアが落ちた。魔王リリスは死んだ、魔都は歓喜しているな」
「やはり、魔都はリリスの押さえ付けで統制されてたのね。そりゃそうよ、普通ならあんなのに従いはしない。よく今まで暴動が起こらなかったわ。それほどまでにリリスが強かったのね」
魔王が死んで魔族の士気が上がっているらしい。暗君のせいで国として機能してなかったのだろう。
「そしてだ、何故か魔人とアレクサンドが二人でこちらに向かっている」
「何だと? お供も無しにか?」
「あぁ、二人だ。恐らく攻撃などはしてこんだろう。何らかの交渉か」
「かと言って、警備を怠ることは出来んの」
「ラファさん、北門付近に騎士の精鋭を配置するよ」
「あぁ、そうしよう」
――何しに来るんだろう……攻撃してくる気がないのなら。
ユーゴは挙手し、発言を求めた。
「仙王様、オレ達四人は奴らとの因縁があります。精鋭を後ろに対峙するなら、万が一攻撃してくる事があっても負けることはありません。オレ達四人で二人に当たらせてもらえませんか?」
場が静まり返った。
少し考えた後、仙王が口を開いた。
「分かった、あちらが手を出さぬならこちらから手を出すようなことはないように。無駄な被害は出したくない」
「分かっています、ありがとうございます」
◇◇◇
魔王リリスが斃れたという報が入ってから一週間足らず。
王都の北門。
精鋭の騎士たちを背に、ユーゴ達四人はマモンとアレクサンドに対峙している。
「あら、わざわざお出迎えとはね。久しぶりに王都を観光しようと思ったのに」
マモンはこの人数を前に、飄々とそう言ってのけた。
「鬼国や魔都を落とすような危ないヤツらを入れるわけないだろ」
「情報は持ってるのね、なら話が早いわ。そういう能力者がいると思って良いわね」
「さぁ、どうかな」
「ユーゴちゃん、アナタも右目が青紫に変わったのね」
「あなたも? 何か知ってるのか?」
「いいえ、詳しくは知らないわ」
何をしに来たのかが読めない。
アレクサンドが口を開いた。
「おいおい、ジュリエット。キミがなんでコイツらといる?」
「アタシは今こいつらの仲間だよ。お祖父ちゃんからアンタがオイタしたらお仕置きしてやるように言われてる」
「キミごときがボクを? 冗談はよしてくれよ」
「相変わらず人を舐めてかかるヤツだ。いつか痛い目を見ればいい」
アレクサンドはフゥと息を吐きながら呆れ顔を浮かべた。
「アレクサンド、話は終わった?」
「あぁ、娘のエミリーも気になる所だが、まぁいい」
「そう、話を進めるわね」
そう言うとマモンは、改めてユーゴ達に目を向け話し始めた。
「ここの王二人は仙王の部下なんでしょ?」
「あぁ、元々はな」
「じゃあ、伝言を頼まれてちょうだい」
「内容による」
ユーゴがマモンを睨みつける。
マモンは顔色を変えずに淡々と喋り続けた。
「ワタシ達は鬼人を復活させたの、そして共に鬼王を討った」
「知っている」
「ワタシは魔人、魔王を討った。今までこの世界にはずっと王が四人居たものね。これを崩す訳にはいかないと思ったの」
――何が言いたい……?
「鬼人が鬼王に、ワタシが魔王になったからよろしく伝えといてちょうだい」
――なんだと? 混血児が四王に……?
「鬼人の名前は……?」
「鬼王だって言ったじゃない。そうね、伝えとかないとね。『鬼王シュテン』よ」
鬼人は一人で鬼族と魔族に壊滅的な被害を出した。とんでもない奴の封印を解いたものだ。
「鬼族と魔族は共に動くのか?」
「そうね、今は鬼族も魔都にいるわ。魔都が拠点になるでしょうね……あとアナタ達、すごく警戒してるみたいだけど、ワタシ達にここを攻めようなんて気は無いわよ? 勝てる気がしないもの。今のところはね」
「勝てる見込みがあれば攻めるような口振りだな……けど、なんのために二国を落とした?」
「難しい質問だわ。そうね……暇つぶしかしら」
――は……?
「暇つぶしで国を落としたのか……?」
「もちろんそれだけじゃないわよ。シュテンは鬼王に、ワタシは魔王にそれぞれ恨みがあったからね。それを討ったらこうなったのよ」
「恨みと言えば、トーマスとエミリーのお前達への恨みは消えてないからな」
「あら怖いわね。じゃ、また来ようかしらね、ワタシ達は暇だから」
トーマスとエミリーは今すぐにでも飛びかかりたいはずだ。我慢しているのが見て取れる。
「父さんは何をしている?」
「シュエンちゃんはシュテンと……ややこしいわね二人の名前……魔都で鬼族と魔族をまとめているわ。シュエンちゃんは頭が良いからね、色々任せちゃってる。あとは、戦闘技術の指南をしといてって伝えといたけど」
「わざわざそれだけを伝えに来たのか?」
「ええ、必要でしょ? 勝手に四王を名乗ってるんだから。リリスもそうだったみたいだけどね」
確かに四王の名は自称レベルだと里長は言っていた。
「こっちから聞いてもいいか?」
「さっきから色々聞いてるじゃない。いいわよ、なんでも聞いて」
「マモン、お前は魔力障害の自覚はあるのか?」
「は? ワタシが魔力障害? そんなわけないじゃない」
「モレクさんが、お前の魔力の変質を感じていたらしい。混血児は魔力が異常に多い。鬼人も魔力障害と自我崩壊で暴れ回ってたんじゃないのか?」
マモンは呆れた様な顔をユーゴに向けると、質問に対する答えを話し始めた。
「シュエンちゃんはそうでしょうね。シュテンは魔力過多で自我崩壊してたのは事実。ただ、ワタシは根っからの悪党よ。もちろんアレクサンドもね」
「モレクさんは、マモンは相手を傷つけられない優しい子だったと言ってたぞ」
「見当違いも甚だしいわね。何を見てたのよモレクは。私が闘争心を表に出さなかったのは、リリスにこき使われるのを避ける為よ。欠陥品を演じたのよ」
――本心なのかこれは……。
「ショーパブ・リバティは、お前が作ったんだろ?」
「そうね、あれは楽しそうだと思ったの。ただ、あの仕事はバカにされる事も多いわ。最初は楽しさが勝ってたけど、飽きてくると客を殺したくなったわ。だから殺してしまう前に辞めたのよ。店の子達の為にもあの店は潰したくなかったしね」
「……モレクさんはお前を止めたがっている」
「無駄な努力ね。でも、モレクと魔都時代のメイドには感謝してるの。自分をさらけ出せるようになったのは二人のお陰。ただ、自分を出すと同時にワタシの凶暴性が表に出てきたのは確かね。魔力の変質っていうのはその事じゃない?」
――マモンは魔力障害じゃない……? 鵜呑みにしていいのか……?
「父さんは魔力障害かもしれないって言ったな?」
「そうね、シュエンちゃんはそうでしょうね。なんであぁなったのか知りたい? アナタのお母さんの事も、ワタシは全部知ってるわよ。アナタに見せようと思ってたの。その後に話したいことがあるから。なかなか興味深い話よ」
――知りたい……けど……受け入れられるか……?
「ユーゴ、そんなの見せられて大丈夫なのかい?」
「知りたい……けど、オレのせいである可能性が高い……けど、大丈夫だ。父さんは治せる」
「うん、私が治すよ。だから何を見せられてもユーゴは気にしちゃダメ」
「あぁ、ありがとう」
――よし、オレは大丈夫だ。全てを受け入れる覚悟はある。
「マモン、お前は敵だ。でも、父さんの過去を見せてくれるという好意は受け入れたい。頼めるか?」
「あら、ワタシの好意だと思ってるの? 見たくもない過去を無理矢理見せて、相手が悶えるのを見るのが好きなだけなんだけどね。性格の悪いワタシにはピッタリの能力よ。何の役にも立たないけどね。記憶を抜き取るのは至難の業だし」
「構わない、見せてくれ」
「そう言われて見せるのは癪だわ……まぁ、いいわ、そのつもりだったし見せてあげる。アナタには長く感じるでしょうけど、周りは一瞬よ」
そう言ってマモンは、ユーゴに向けて手を翳した。
頭の中に、シュエンが島を出てからの記憶が流れてきた。
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