107 / 241
第三章 大陸冒険編
マシューの成長
しおりを挟む二週間後。
ユーゴ達はトーマスの部屋に呼ばれている。
「みんな、見てよ。凄いのが出来たよ」
テーブルに革鎧、篭手、脛当てが並んでいる。ニーズヘッグの革の防具だ。
ダークグレーの龍鱗が美しい。
「カッコいいなこれ!」
「わぁ! すっごくいいよ!」
「おぉ、仙神国の金属を使ってるんだな。やっとアタシも皆とお揃いか!」
「なかなかいいでしょ? 職人さんが凄くセンスのいい人で、デザインにまでこだわってくれたんだ。柔らかく鞣したから動きやすいけど、驚くほど丈夫なんだ。文句なしの特級品だよ!」
持ってみると驚く程に軽い。伸縮性もあり、窮屈さがないのもいい。胸辺りは革が重なる様に造形され、動きにくさがない。肩まで守られた素晴らしい革鎧だ。
篭手で肘から手の甲まで覆い、脛当ては膝まで守られているが全く関節の動きを邪魔しない。
「篭手には魔晶石だ。このサイズでこれ以上の魔晶石は無いだろうね」
「いやぁ、気に入った。凄いぞこれは」
「トーマスの盾はそのまま?」
トーマスは、ヤンガスからヤマタノオロチの革盾を貰っている。
「あぁ、ヤマタノオロチもニーズヘッグも一長一短あるんだよね。だから作った。その時に合わせて使い分けるよ」
装備はこれで固まった。これ以上は無いだろう。
「トーマス、ありがとな! コカトリスの防具も一応持っとくかな」
「いやいや、防具作成凄く楽しかったよ。いずれ親方に弟子入りしたいな」
「無性に動きたくなってきたな!」
「そうだね、依頼こなしに行こうよ!」
四人はSSランクの依頼を受け、魔物の討伐に向かった。
守護術が変わった。
強化術はもちろん、防具にも練気を纏い防御力を強化しているが練気の乗りが違う。
使っていくうちに、更に馴染んでくるだろう。
◇◇◇
更に四ヶ月が経った。
すっかり冬だ。
ユーゴはエミリーの頼みで、マシューの修行に付き合うことになった。
二人は更に仲良くなり、たまに遊びに行っているようだ。
「うぅ……寒い……ジャケットが無いときついな。エミリーの脚見てるだけで寒い」
「ミオンさんのストッキング、すっごく温かいんだよ! すごく丈夫だからホントに助かるんだ」
シルクシャツの上に厚手の防寒着を羽織っている。防具は付けていないが、完全防備でここまで寒いという事は、今年の冬はかなり厳しいらしい。王都の冬が特別厳しいという話も聞かない。
エミリーは年中ショートパンツだ。冬はギュウキの糸で作られたストッキングで防寒している。
マシューとは南のギルドで待ち合わせしているらしい。入口扉を押し開けて、エミリーが中を見渡す。
「あ、いた。マシュー!」
「あ! エミリーとユーゴ君! わざわざ来てもらってありがとう」
「いいよいいよ、オレに出来ることなら何なりと」
ギルドに入る。
冷えた体が徐々に温められていくのが分かる。
「で? 今日は何するんだ?」
「剣に練気を纏える様になったんだ!」
「ほー! 四ヶ月ちょいだっけ? 大したもんだな」
「それで、Aランクの試験がてらユーゴにアドバイスを貰おうと思ってね!」
「そうか、練気を纏えたらAランクは問題ないだろうな。仙術も修得できるだろうし」
Aランクだとユニコーンあたりが良いだろう。討伐依頼書を持ってカウンターへ。いつもの初老の男に声を掛ける。
「またあんたらか。ワイバーン絶滅させる気か? まぁそうしてくれれば有難いが」
「いや、今日はオレ達は付き添いだよ。こっちのマシューのランクアップ試験だ」
「そうそう、私達は手を出さないよ!」
「あぁ、そうか、あんたらが教えるなら強くなるわな。頑張ってくれ」
南門から出て、森に向かう。
「少し遠いな、とりあえずオレにつかまってくれ」
マシューを背中に乗せ飛び立った。
「速ーっ! すごいな二人共!」
「帰りは飛べるようになるかもね!」
森にはすぐについた。
「さすが……二人はレベルが違うね……」
「いや、練気を剣に纏えるようになったら後は早い。早速見せてくれるか?」
「うん!」
マシューは両手剣を正面に構え、練気を剣にゆっくりと注いだ。
「いいね。流石に斬撃を飛ばすのは無理か?」
「うん、剣風はまだ教えてないね」
「魔法剣は放てるんだろ? 同じ要領でやってみようか」
「魔法剣と同じ要領か……」
『剣技 剣風』
剣風が前方の木を斬った。
「飛んだ!」
「うん、センスがいいな。マシューは回復術や守護術は使えるのか?」
「うん、基礎はエミリーに教わったんだ」
「そうか、基礎でも十分だろ」
「じゃ、次は仙術だね!」
仙術の呼吸法を教えた。
マシューは魔法が得意だ、問題なく自然エネルギーを体内に取り込んだ。
「よし、練気を練る要領で自然エネルギーを練気に練り込むんだ。それを魔力と共に放つ」
マシューは風属性の仙術を放った。
「おぉ、魔法とは威力が全然違うね……」
「それを浮力に使えば浮遊術だ」
「なるほど」
マシューはエミリーから回復術と補助術、守護術の基礎を叩き込まれている。錬気術を剣に纏えるようになった事で、その基礎は人族のレベルではなくなっているだろう。
「よし、サクッとユニコーンを倒して帰るか!」
マシューは自身に剛、堅、速の補助術をかけた。
「マシューはもう錬気の扱いは問題ないな。それはもう補助術じゃない、強化術だ。更に修練が必要なレベルではあるけどな」
「うん、頑張るよ!」
前方にはユニコーンだ。
風魔法が来る、どうする。
自分の守護術を過信したマシューは守護術を突破され傷を負った。ただ、寸前で上手く致命傷は避けている。
その後はユニコーンの風魔法を傷つきながらも巧みに避け、剣風も交えながら近づいている。
『剣技 撫斬り!』
間合いに入ると、強く地を蹴りユニコーンを袈裟斬りにした。
「お見事!」
「やった!」
「いい判断だったよ!」
「こいつを楽に倒せればSランク相当だな」
「僕もSランクを目指せるんだ……でも、こんなにボロボロになってちゃダメだね……頑張るよ!」
角と体皮をマシューが採取する。
倒した当日のみにはなるが、肉も食用としていい値で売れる。ユーゴは口を出すだけだ、エミリーにその知識は無い。マシューもある程度はギルドから手解きを受けており、手つきはなかなかだ。
「マシューの剣は思い入れのある品なのか?」
「いや、Cランク試験の報酬で買った四級品だよ」
「そうか、両手剣にこだわりがあるのか? 練気術を修得したなら刀をおすすめするけど」
「ユーゴ君もエミリーも刀だよね、いいなぁとは思ってるけど、流石に買えないよ……」
「あとユニコーンを二体も狩れば二級品の下位くらいなら買えるぞ?」
「あ、そっか!」
「オレの刀を使ってみるといい」
「ホントに!? ありがとう!」
春雪を渡した。武器を貸すのはランクアップ試験の規定違反にはならない。
強化術をかけ直して、マシューは苦戦しつつも二体目、三体目のユニコーンを斬った。休憩を入れつつとはいえ、三体も相手にすればボロボロだ。
ユーゴ達があまりにも軽々と倒しているが、ユニコーンはAランクの魔物だ、本来弱い魔物ではない。それを一人で倒すマシューは相当強くなっている。やはり練気術は人族との相性がいい戦闘法だ。
マシューは自分で治療術を施した。
「ハァ……ハァ……凄く斬れるね……ますます刀が欲しくなった」
「相当強くなったねマシュー!」
「あぁ、アタッカーにしては守護術も治療術も良いレベルだ。もっと修練したら確実にSランクだな」
これはお世辞ではない。
魔法と魔法剣の知識と技術があったとはいえ、よく四ヶ月程でここまで成長出来たものだ。毎日真面目に修練したに違いない。
龍族がまず習得する基礎の基礎ではあるが、仙術の呼吸まで取り入れたマシューはもう人族のレベルじゃない。
「よし、マシューも浮遊術で帰るか!」
「うん!」
ある程度のスピードでついて来ている。
あとはエミリーの指導でいい剣士になれるはずだ。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?
雪詠
ファンタジー
大学受験に失敗し引きこもりになった男、石動健一は異世界に迷い込んでしまった。
特殊な力も無く、言葉も分からない彼は、怪物や未知の病に見舞われ何度も死にかけるが、そんな中吸血鬼の王を名乗る者と出会い、とある取引を持ちかけられる。
その内容は、安全と力を与えられる代わりに彼に絶対服従することだった!
吸血鬼の王、王の娘、宿敵、獣人のメイド、様々な者たちと関わる彼は、夢と希望に満ち溢れた異世界ライフを手にすることが出来るのだろうか?
※こちらの作品は他サイト様でも連載しております。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる