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第三章 大陸冒険編

マシューの成長

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 二週間後。
 ユーゴ達はトーマスの部屋に呼ばれている。

「みんな、見てよ。凄いのが出来たよ」

 テーブルに革鎧、篭手、脛当てが並んでいる。ニーズヘッグの革の防具だ。
 ダークグレーの龍鱗が美しい。

「カッコいいなこれ!」
「わぁ! すっごくいいよ!」
「おぉ、仙神国の金属を使ってるんだな。やっとアタシも皆とお揃いか!」

「なかなかいいでしょ? 職人さんが凄くセンスのいい人で、デザインにまでこだわってくれたんだ。柔らかくなめしたから動きやすいけど、驚くほど丈夫なんだ。文句なしの特級品だよ!」

 持ってみると驚く程に軽い。伸縮性もあり、窮屈さがないのもいい。胸辺りは革が重なる様に造形され、動きにくさがない。肩まで守られた素晴らしい革鎧だ。
 篭手で肘から手の甲まで覆い、脛当ては膝まで守られているが全く関節の動きを邪魔しない。 

「篭手には魔晶石だ。このサイズでこれ以上の魔晶石は無いだろうね」
「いやぁ、気に入った。凄いぞこれは」
「トーマスの盾はそのまま?」

 トーマスは、ヤンガスからヤマタノオロチの革盾を貰っている。

「あぁ、ヤマタノオロチもニーズヘッグも一長一短あるんだよね。だから作った。その時に合わせて使い分けるよ」

 装備はこれで固まった。これ以上は無いだろう。
 
「トーマス、ありがとな! コカトリスの防具も一応持っとくかな」
「いやいや、防具作成凄く楽しかったよ。いずれ親方に弟子入りしたいな」

「無性に動きたくなってきたな!」
「そうだね、依頼こなしに行こうよ!」

 四人はSSランクの依頼を受け、魔物の討伐に向かった。

 守護術が変わった。
 強化術はもちろん、防具にも練気を纏い防御力を強化しているが練気の乗りが違う。
 使っていくうちに、更に馴染んでくるだろう。


 ◇◇◇


 更に四ヶ月が経った。
 すっかり冬だ。

 ユーゴはエミリーの頼みで、マシューの修行に付き合うことになった。
 二人は更に仲良くなり、たまに遊びに行っているようだ。

「うぅ……寒い……ジャケットが無いときついな。エミリーの脚見てるだけで寒い」
「ミオンさんのストッキング、すっごく温かいんだよ! すごく丈夫だからホントに助かるんだ」

 シルクシャツの上に厚手の防寒着を羽織っている。防具は付けていないが、完全防備でここまで寒いという事は、今年の冬はかなり厳しいらしい。王都の冬が特別厳しいという話も聞かない。
 エミリーは年中ショートパンツだ。冬はギュウキの糸で作られたストッキングで防寒している。
 
 マシューとは南のギルドで待ち合わせしているらしい。入口扉を押し開けて、エミリーが中を見渡す。

「あ、いた。マシュー!」
「あ! エミリーとユーゴ君! わざわざ来てもらってありがとう」
「いいよいいよ、オレに出来ることなら何なりと」

 ギルドに入る。
 冷えた体が徐々に温められていくのが分かる。
 
「で? 今日は何するんだ?」
「剣に練気を纏える様になったんだ!」
「ほー! 四ヶ月ちょいだっけ? 大したもんだな」
「それで、Aランクの試験がてらユーゴにアドバイスを貰おうと思ってね!」
「そうか、練気を纏えたらAランクは問題ないだろうな。仙術も修得できるだろうし」

 Aランクだとユニコーンあたりが良いだろう。討伐依頼書を持ってカウンターへ。いつもの初老の男に声を掛ける。

「またあんたらか。ワイバーン絶滅させる気か? まぁそうしてくれれば有難いが」
「いや、今日はオレ達は付き添いだよ。こっちのマシューのランクアップ試験だ」
「そうそう、私達は手を出さないよ!」
「あぁ、そうか、あんたらが教えるなら強くなるわな。頑張ってくれ」
 

 南門から出て、森に向かう。

「少し遠いな、とりあえずオレにつかまってくれ」

 マシューを背中に乗せ飛び立った。

「速ーっ! すごいな二人共!」
「帰りは飛べるようになるかもね!」

 森にはすぐについた。

「さすが……二人はレベルが違うね……」
「いや、練気を剣に纏えるようになったら後は早い。早速見せてくれるか?」
「うん!」

 マシューは両手剣を正面に構え、練気を剣にゆっくりと注いだ。

「いいね。流石に斬撃を飛ばすのは無理か?」
「うん、剣風はまだ教えてないね」
「魔法剣は放てるんだろ? 同じ要領でやってみようか」
「魔法剣と同じ要領か……」

『剣技 剣風』

 剣風が前方の木を斬った。

「飛んだ!」
「うん、センスがいいな。マシューは回復術や守護術は使えるのか?」
「うん、基礎はエミリーに教わったんだ」
「そうか、基礎でも十分だろ」
「じゃ、次は仙術だね!」

 仙術の呼吸法を教えた。
 マシューは魔法が得意だ、問題なく自然エネルギーを体内に取り込んだ。

「よし、練気を練る要領で自然エネルギーを練気に練り込むんだ。それを魔力と共に放つ」

 マシューは風属性の仙術を放った。

「おぉ、魔法とは威力が全然違うね……」
「それを浮力に使えば浮遊術だ」
「なるほど」

 マシューはエミリーから回復術と補助術、守護術の基礎を叩き込まれている。錬気術を剣に纏えるようになった事で、その基礎は人族のレベルではなくなっているだろう。

「よし、サクッとユニコーンを倒して帰るか!」

 マシューは自身に剛、堅、速の補助術をかけた。

「マシューはもう錬気の扱いは問題ないな。それはもう補助術じゃない、強化術だ。更に修練が必要なレベルではあるけどな」
「うん、頑張るよ!」

 前方にはユニコーンだ。
 風魔法が来る、どうする。

 自分の守護術を過信したマシューは守護術を突破され傷を負った。ただ、寸前で上手く致命傷は避けている。

 その後はユニコーンの風魔法を傷つきながらも巧みに避け、剣風も交えながら近づいている。

『剣技 撫斬なでぎり!』

 間合いに入ると、強く地を蹴りユニコーンを袈裟斬りにした。

「お見事!」
「やった!」
「いい判断だったよ!」
 
「こいつを楽に倒せればSランク相当だな」
「僕もSランクを目指せるんだ……でも、こんなにボロボロになってちゃダメだね……頑張るよ!」

 角と体皮をマシューが採取する。
 倒した当日のみにはなるが、肉も食用としていい値で売れる。ユーゴは口を出すだけだ、エミリーにその知識は無い。マシューもある程度はギルドから手解きを受けており、手つきはなかなかだ。

「マシューの剣は思い入れのある品なのか?」
「いや、Cランク試験の報酬で買った四級品だよ」
「そうか、両手剣にこだわりがあるのか? 練気術を修得したなら刀をおすすめするけど」
「ユーゴ君もエミリーも刀だよね、いいなぁとは思ってるけど、流石に買えないよ……」
 
「あとユニコーンを二体も狩れば二級品の下位くらいなら買えるぞ?」
「あ、そっか!」
「オレの刀を使ってみるといい」
「ホントに!? ありがとう!」 

 春雪を渡した。武器を貸すのはランクアップ試験の規定違反にはならない。
 強化術をかけ直して、マシューは苦戦しつつも二体目、三体目のユニコーンを斬った。休憩を入れつつとはいえ、三体も相手にすればボロボロだ。
 
 ユーゴ達があまりにも軽々と倒しているが、ユニコーンはAランクの魔物だ、本来弱い魔物ではない。それを一人で倒すマシューは相当強くなっている。やはり練気術は人族との相性がいい戦闘法だ。

 マシューは自分で治療術を施した。

「ハァ……ハァ……凄く斬れるね……ますます刀が欲しくなった」
「相当強くなったねマシュー!」
「あぁ、アタッカーにしては守護術も治療術も良いレベルだ。もっと修練したら確実にSランクだな」

 これはお世辞ではない。
 魔法と魔法剣の知識と技術があったとはいえ、よく四ヶ月程でここまで成長出来たものだ。毎日真面目に修練したに違いない。
 龍族がまず習得する基礎の基礎ではあるが、仙術の呼吸まで取り入れたマシューはもう人族のレベルじゃない。

「よし、マシューも浮遊術で帰るか!」
「うん!」

 ある程度のスピードでついて来ている。
 あとはエミリーの指導でいい剣士になれるはずだ。
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