上 下
106 / 241
第三章 大陸冒険編

エミリーの恋 3

しおりを挟む

 箱の中は狭い。
 ゆっくりと動く箱は徐々に高度を上げていく。

「これは高い所を楽しむの?」
「それもあるけど、普通の男女はこういう二人だけの空間を楽しむみたいだよ」

 ――そっか、マシューは恋愛とかが解んないって言ってた。私も今まで分からなかったけど……。

「マシューは誰かを好きになったことは無いの?」
「ん? それは誰かを愛した事があるかってこと?」
「うん、それもあるけど、もっと単純な話。一緒にいて楽しいなとか、また一緒に過ごしたいなとか」
「それはもちろんあるよ」
「私はマシューと一日いて、すっごく楽しかったよ? そういう意味で言えば、私は……マシューの事好きだな……」

 ――言っちゃった……。

「そっか、僕も今日一日楽しかったよ。そんなに深く考える事じゃないのかもね……でも、今まで生きてきて、性が男に寄ったり女に寄ったりする時期があるんだ。そういう時は凄く悩むんだ……」
「そっか……それは悩むよね」
「自分の性も分からない、愛するべき相手の性も分からないんだ。人を愛するっていうのは、僕には分からない感情だね……でも、エミリーとはまた遊びたいな。これが好きって事なのかな? 分からないや」

 ――やった!

「じゃあ、また遊んでよ! 術の経過報告以外にもさ!」
「うん、もちろんだよ! また誘って欲しい。僕も誘うよ。そうだ」

 マシューは紙に何かを書いて渡してくれた。

「これ、僕の家だ、いつでも遊びに来てよ。また教えてほしいこともあるしさ」

 ――これは師弟関係のってことかな……? それでもいい、また会えるんだ。

「うん、また遊びに行くね!」


 パークを出て南エリアに帰った。

「エミリー、今日は一日ありがとう! 凄く楽しかったよ。術も毎日修練するよ!」
「うん! また遊ぼうね! 分からないことあったらいつでも聞いてね!」

 手を降って別れた。
 
 ――あぁ、楽しかった……また会えるんだ、やった!

 エミリーのお腹が大きな音を立てた。
 冒険野郎に行こう。
 
 
 三人の魔力を感じる。
 ドアを押し開けると、手前の席でビアジョッキを持つ三人が見えた。

「おぉ、エミリー! アタシ達は今日も大儲けだよ! もうギャンブルで使い切れないかもな……」
「あぁ、今日も乱獲したな。ワイバーン絶滅するんじゃないか?」

 ビールを頼んで、食事を食べる。

「トーマスはどうだった?」
「あぁ、なかなか腕のいい職人だったよ。いまは革をなめしてる途中だ。あの革はすごいよ! 確実に特級品の防具が出来上がる」
「へぇ凄い……それは楽しみだね」

 やはりこの三人と一緒は落ち着く。
 いつものエミリーに戻った。
 
「トーマス! バーに連れて行ってもらう約束だったな!」
「あぁ、行こうかジュリア」
「オレが払っとくからいいよ。今日は儲けすぎた」
「そうか? じゃ、頼むよ!」

 ジュリアとトーマスは出ていった。
 

「エミリー、今日は楽しかったか?」
「うん、すっごく楽しかった」
「マシューが好きなんだろ?」
「うん……今日一日を一緒に過ごして分かった。私はマシューが好きだよ」
「マシューは自分の性が分からないって言ってたな……でも、エミリーにはそんな事は関係ないんだろ?」
「うん、男とか女とか関係ない。私はマシューが好き」
「いつか伝わるよ。エミリーの想いは純粋だ」
「うん……ありがとう」

 ユーゴは分かってくれている。
 そう言えば一昨日も頑張れと言ってくれた。

「トーマスも気付いてるぞ?」
「え……何で……?」
「エミリー、お前は分かり易すぎる。それがお前の良いところなんだけどな。気付いてないのはジュリアだけだ、モレクさんも多分わかってる。マシューに言うとこはないから安心しろ」

 ――あぁ、それで今日はジュリアを依頼に誘ってくれたんだ……。

「ユーゴ、気を使わせたね……」
「いいって! オレは嬉しいんだ。エミリーを応援したい」
「今日一日、マシューの笑顔を見る度に胸がキュッてなるんだ……」
「それが恋だな、正常な反応だ」
「やっぱりそうなんだ……ジュリアもレトルコメルスでそんなこと言ってたな」
「え……? 誰に?」

 ――言っていいのかなこれ……? まぁいっか、ユーゴなら言わないだろうし。

「トーマスと二人で一日遊んでた日あったでしょ? ジュリアがオシャレしてた日」
「あぁ、あったな」
「その日の夜、トーマスと一緒にいて胸が締め付けられるような瞬間が何回もあったって言ってた」
「てことは……ジュリアはトーマスに恋をしてるってことか……?」
「私の事を重ね合わせたら、そうかもしれないね」
「ジュリアは恐らく恋に気づいてないな……だとしたら、今のシチュエーションは最高だな。いや、その前にあの二人は仙神国まで二人きりだった。しかもサウナで裸の付き合いもしてる。もしかするともう既に……」

 ――ユーゴの妄想が先に進んでるけど……そっか、トーマスとジュリアは二人でバーに行ったんだもんね。

「ジュリアに言ってみようかな? トーマスの事が好きなのかもよって」
「あいつは……ギクシャクしないか……?」
「あぁ、そうかもね……」
「うん、やめとこう……」

 ――そっか、私には分かってくれる仲間がいるんだ。一人で悩まなくても相談できるんだ。

「ユーゴは、エマが好きなんでしょ?」
「え……? あぁ、うん、まぁそうだな……」
「おっぱいおっきかったもんね」
「おい! それだけで好きにならねーよ!」
「分かってるよ。何ムキになってんのさ」
「あ、いや……すまん……」

「エマが言ってたよ。すごい美人とすごい可愛い子が一緒だから心配だって」
「ジュリアと私の事?」
「あぁ、オレ達から見てもエミリーは可愛いと思う。心配はするわな」
「ユーゴは……無いわ……」
「おい、ハッキリ言うな。ヘコむから」


 ユーゴの奢りで店を出た。
 ユーゴは今日は500万ブールくらい儲けたらしい。エミリーが一人で行ってもそれくらい儲ける事は出来る。

 ――マシューに武具を買ってあげても良いのかな。プライドってのがあるのかな……難しいな。

「ユーゴ、ごちそうさま」
「いや、いいよ。頑張れよエミリー」
「うん、今のところマシューは私の弟子でしか無いからね。マシューはアタッカーなんだ、またユーゴに相談してもいいかな?」
「あぁ、もちろん」
「ありがとう! おやすみ!」
「あぁ、おやすみ!」

 ――やっぱりユーゴはいい奴だ。出会った頃からそうだった、お人好しなんだよね。

 エミリーの恋は始まったばかりだ。
 どうなるか分からないが、なるようにしかな、ない。

 遅くなった。
 風呂に入ってゆっくり休もう。


 ◇◇◇


 ――あれ、誰か入ってるのか……男の人だったら嫌だな……。

 シャワーを浴びて汗を流す。

 ――露天風呂に行きたいけど……男の人がいたらやめよう。
 

「あれ、リナさんか!」
「あぁ、エミリー様!」
「良かった、男の人だったら上がろうと思ってたんだ」
「私も、またどなたか入って来られたかなって……」
「えっ、前もあったの?」
「先日ユーゴ様と一緒になってしまって……」
「え!? あのスケベ野郎……」
「いや! 違うんです! やめてくださいそんな言い方!」
「えらくユーゴを庇うね……」
「ユーゴ様からしたら、まさか私が入っているなんて思いもしませんよ……一汗かいて二度目のお風呂だった様です。寝る前にお体を動かすほど熱心な方じゃないと、あそこまでの冒険者にはなれないのだと感心致しました」

 ――ユーゴ、いつもそんな事してるんだ……。

「ユーゴ様はすごくお優しくて、いつも私が良くしてくれるからって……いつも労いの言葉を掛けてくださって……外出の際にはお土産まで買って来て下さって……」

 リナの頬はどんどん赤く染まっていく。

 ――ん? これは……?

「リナさん、ユーゴの事好きなの?」
「え!? いっ……いやっ……まさか……そんな事はっ……」
「いや、いいよ隠さなくて」
「いや……お優しい方だとは思います……すごくカッコいいし、私の仕事を認めて下さるし、すごく笑顔が素敵だし……それに……」

 ――ユーゴ愛が止まらないじゃないか。罪な奴だよ。

「はい……正直、ユーゴ様が頭から離れません……どうすれば良いでしょうか……初めて人に打ち明けました……」
「実は私も恋してるんだ……分かるよその気持ち」
「エミリー様もですか! でも私、今すごく楽しいんです。この恋は片想いで終わるのは分かってます。でも……今はユーゴ様に尽くしたい。あ! もちろん皆様のお世話を疎かにする訳ではございませんよ!」
「お互い頑張ろうね! もちろんユーゴには言わないよ。またご飯でも行こうよ」
「本当ですか……? 私、この想いを外に出さないと、どうにかなってしまいそうで……ありがとうございます……」

 ――ん? 誰か入ってきた?

 ドアが空いた。

「ユーゴ!」
「え!? エミリーとリナさん!?」

 リナがあたふたしている。
 
「出ていきなさいユーゴ!」
「あっ……あぁ、失礼しました!」
「いっ……いや、ユーゴ様! お気遣いなく!」

 ユーゴは逃げるように出ていった。

 ――何てタイミングの悪い……。

「あの……聞かれてませんよね……?」
「うん……あの反応だと大丈夫だと思うよ……?」

 リナとエミリーは仲良くなった。
 近々一緒にご飯食べに行こう。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

無双将軍の参謀をやりながら異世界ローマも作ってます

うみ
ファンタジー
異世界に転移したただのサラリーマンだった俺を、参謀の親友と勘違したローマ帝国最強の英雄――ベリサリウスに仕事を無茶振りされるが、生き残るために親友のフリを続けていきさえすればいいと思っていた…… ところが英雄の怪物退治に付き合ってると、俺まで村民から尊敬の眼差しで見られることに! そんなわけで今更後には引けなくなってしまう俺。 その後人間によって村が燃やされ、ベリサリウスは異世界にローマを作ることを提案する。 それはいいんだが、俺はいつの間にか新しい街ローマの建築責任者にまでなっていた。 ローマの街を完成させるため、アスファルトやセメントの研究をしてもらったり、農作物の育成をしたりと大忙しの日々だったが、人間達や怪物との戦いにベリサリウスが俺を連れ出すのだ。 頼むからほっておいてくれ! 俺を街つくりに専念させてくれ!

処理中です...