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第三章 大陸冒険編
軍事演習
しおりを挟む風呂から上がり部屋でゆっくりしていると、ドアをノックされた。
コンコン
「ユーゴ様、お食事のお時間です」
「あぁ、リナさんありがとう。そうだ。これ、いつもお世話になってるから」
レトルコメルスで綺麗な宝石のペンダントを買ってきた。無難に一番人気の宝石を選んだ。
「え!? こんな高価なもの頂けません!」
「いいよいいよ、いつも良くしてくれてるから。お休みの日にでも付けてみてください」
「本当ですか……お返ししたらユーゴ様に恥をかかせてしまいますね……ありがとうございます! 大切にしますね!」
リナはペンダントを受け取り、深々と礼をして下がっていった。
ペンダントと言えば、エマのベルフォールのペンダントの片割れはユーゴがまだ付けている。割と気に入っている。エマとお揃いというのも良い。
夕飯を頂きに行こう。
皆は既に円卓を囲んでいた。
「では、いただきます!」
次々とコース料理が運ばれてくる。
今日もリナは笑顔を忘れず、テキパキと仕事をこなしている。
難解な料理にも慣れてきた。騒いで酒を飲むだけが食事ではない。
とは言うものの、少し物足りない。
部屋でゆっくりしよう。
明日から軍事演習まで、あまり体を動かさないな。今日も移動しただけだ。
寝るには早すぎる。城の外に出て、魔法でも放って魔力を消費しようと思い立った。
門を通るまでもない。部屋の窓からそのまま飛び出て西門を抜け、山脈に連なる山の麓まで全力で飛んだ。
山肌に向け純粋な魔力で魔法を放ち続けた。
――ふぅ……だいぶ魔力を消費したな。
ユーゴは魔力が多すぎる。昔からのシュエンの教えもあるが、消費しないと落ち着かない。
いい汗もかいた、風呂入ったのは昼だった。二回目の風呂に入ろう。
脱衣所に着いた。
――あら、一人入ってるな。お客さんがいるのか。
シャワーで汗を流し、露天風呂に向かう。湯けむりの上の星空が美しい。この時間に入る風呂も良い。
一人脚を浸けて縁に座っている。
ユーゴが露天風呂に浸かると、先客と目が合った。
「え、リナさん……?」
「あ、ユーゴ様……」
思いきりリナの裸を見てしまった。急いで目を逸らす。リナも急いでタオルで胸を隠した。
――なんと美しい……これ以上の直視はマズい……。
「すみません、もう皆様お風呂を済まされたと思い……」
「いや、ごめんなさい。少し外で汗を流してきたので……」
――気まずい……。
「いつもこの風呂に入ってるんですか?」
「はい、皆様のお世話をさせていただくのに、近い部屋に居たほうがいいので。本来の部屋は別の塔です」
「なんかすみません……オレ達のせいで……」
「とんでもないです! 皆様良くしてくださるので、本当に有り難いんです。ユーゴ様に至っては……プレゼントまで……」
リナも湯に浸かり、会話を続けた。
「リナさんはここに住み込みで働いてるんですね」
「はい、ここのメイドのほとんどは住み込みです。私はゴルドホークの出身なので、住み込みは有り難いです」
「え、そうなんですか! オレもゴルドホーク出身です。ジュリア以外の三人は、ゴルドホークで出会って旅に出たんですよ」
「そうなんですね! 懐かしいなぁ。すぐに帰れる距離じゃないですからね……」
「だったら混浴の文化は無いですよね……」
「そうですね、裸を見られてドキドキしてます……恥ずかしくて逃げるのも失礼ですし……」
まさかの同郷だった。
街道が整備されているとはいえ、町を移動するのは大変だ。普通は集団で護衛にお金を払って移動するようだ。
「では、私はお先に上がりますね。おやすみなさい、ユーゴ様。ペンダント本当にありがとうございました、凄く嬉しいです」
「あぁ、おやすみなさい。また明日ね、リナさん」
綺麗なお尻を眺めて見送る。
今更ユーゴの股間がムクムクと元気になっている。
――少し浸かっておかないと……。
部屋に戻るといい時間になっていた。
軍事演習までゆっくりしよう。
◇◇◇
数日後の午後。
軍事演習の為、北門から少し離れた演習場にいる。
広い演習場に途轍もない数の兵士が整列している。最前列はロンが憧れる騎士団だ。
「みんな! 今日もキレイに整列できてるね! 今日は新しい戦闘法を修練してもらうょ!」
「これを覚えたら、昇化してない者も仙術が使えるようになっちゃうかもよ!」
予め、午前中にそれぞれの部隊長クラスを招集し、練気術と魔族の戦闘法を習得してもらっている。ただ、龍族の名前は出さないようにお願いしている。
部隊長ともなると、昇化した者ばかりだ。
王都は実力主義だ。
文武に秀でていれば誰にでも出世の機会がある。
その後、部隊長達は隊員に指導を始めた。
高いところから見ていると一兵卒でも浮いてる者がいる。
「ちょっと別れて見に行ってこようか」
「そうだね。そうしよう」
「ちゃんボク達も行ってこようかな」
見回ってみると、皆魔法を使える為、練気術の習得は早いようだ。
問題はその先。
練気術を体内から出すのが難しい。ユーゴ達もだいぶ手こずったからな。
やはり人族でも仙術に精通している者は習得が早かった。普通は数ヶ月から年単位で習得するものだ。
これを皆が習得すれば、王都の軍事力は倍増する。
「そうだ、レオナード王。西の山脈に『ニーズヘッグ』ってのがいると思うんですけど、あれはヤバそうですか?」
「ヤバいなんてもんじゃないよユーゴちゃん。あんなもん軍で対処するような奴だよ」
「討伐しても大丈夫ですか?」
「え……あんなのと戦おうとしてるの!? 構わないけど、SSSの魔物だょ? 死んじゃうょ……?」
「SSSなんてあるんだ……」
今回の軍事演習は、主に練気術の習得で終わった。
「よし、練気術の習得はできたね! それを応用するのが難しいょね! 基礎は今日学んだとおりだょ、各自持ち帰って修練を積むように!」
一日で修得して使いこなすジュリアの様な者が異常なだけだ。皆焦らず持ち帰って修練すればいい。
ユーゴ達はその後、ギルドの依頼などをこなしながら術の精度を上げる為に修練した。
四人でアドバイスをし合いながら、自分の得意は更に伸ばしつつ皆の得意分野を自分に吸収した。
「ツヴァイハンダーはもちろんお気に入りの武器だけど、一対一では『風切』を使った方が良さそうだな」
ジュリアは刀に『風切』と名を付けた。
由来は、振った時の風切り音が心地良かったから。実に単純でジュリアらしい。
「そうだな、多人数戦はツヴァイハンダーがいいと思う。破壊力が違う」
四人の連携も良くなった。
トーマスの盾は鉄壁だ。
ユーゴは二刀流で攻防一体。
ジュリアは超攻撃型。
エミリーは皆に継続再生をかけつつ、苦無と遁術を駆使して中距離で戦う。
四人は相当強いパーティーなのは間違いない。
◇◇◇
二ヶ月が経ち、冬はすぐそこだ。
マモン達の噂は、昔の事しか聞く事は出来なかった。王都には帰って来ていないと見る他ない。
王都は商人や冒険者が多い、他の町から流れてくる者たちに聞いても古い情報だった。王国を出て魔都に滞在していると見ていいだろう。だとすれば、まず情報が入るのはここだ。未だ王都に滞在しているのはそういう理由からだ。
ジュリアはもう錬気術で空を駆け回っている。流石は仙族が誇る天才、習得が早い。
「オレ達もう、ニーズヘッグ倒せるんじゃないか?」
「どんなやつかも分からないけど、どうなんだろうね……」
「行ってみるか?」
「ヤバかったら逃げればいいしね!」
皆の武具の整備をトーマスに任せて、二日後にドラゴン討伐に行くことにした。
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