【完結】ミックス・ブラッド ~とある混血児の英雄譚~

久悟

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第三章 大陸冒険編

ロナルド少年 初仕事

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 冒険野郎の入口を押し開けると、入口付近でトーマスとジュリアがエミリーと飲んでいた。

「着いてたのか」
「あぁ、お帰りユーゴ。いい里帰りが出来たよ」
「ユーゴ、ロンはどうだった?」
「あぁ、いい逸材拾ったんだって?」
「騎士の登用試験は15歳からだってさ。三年間は違う仕事を斡旋してきたよ」

 ユーゴもビールを注文し、テーブルに並ぶ料理に手を付けた。

「オーベルフォールはどうだった?」
「みんな練気術に感動してたよ。魔族の戦闘法も伝授してきた。戦力が跳ね上がるね」
「里も同じだ。里長はやっぱりとんでもない人だった……」

「ユーゴ、例のもの!」
 
 そうだった。ロンの事で忘れていた。

「ジュリアにプレゼントがある!」
「なんだなんだ?」

 異空間から刀を鞘ごと取り出し、ジュリアに渡した。

「里の名工が打った刀だ、オレ達の刀と同じ一級品の上位だよ」
「おぉ……欲しかったんだよ刀!」
「だいぶ長めの刀だね」

 ジュリアは刀を抜いて、ライトの下にかざした。時折反射する光が目に眩しい。

「芸術品だよこれは……ありがとう。大事にするよ!」
「メンテナンスは僕に任せて!」
「あ、ヤンさんが刀の抜き打ちチェックして、しっかり手入れしてるなって褒めてたよ!」
「怖っ……真面目にしててよかった……」

 四人は旅の話を肴に酒を流し込んだ。

「さて、アタシたちはカジノに行くよ! 今日はアタシがここの支払いをするよ!」

 一応気にはしていたらしい。

「ありがとう。ごちそうになるよ」

 彼女達は現金払い主義だ。
 無造作にテーブルに札を置くと、二人は店を出ていった。

「トーマス、ロンを紹介しとくよ。エマの店に行こう」
「あぁ、分かったよ」
 

 エマの店まで歩く。冒険野郎からの移動はいつもの事だ。
 今日も大盛況だが、一応席は空いている。

「いらっしゃい! あ、トーマス君だ!」
「やぁ、ジェニーちゃん。遊びに来たよ」
「ここに座ってよ!」

 カウンターに座り、水割りを頼む。

 両手に持った水割りをこぼしそうな程ガチガチに緊張したロンが、カウンター越しで頭を下げた。
 
「いらっしゃいませ……みっ……みずわりおまたせしました……」

 ――緊張してるな……そりゃそうか。
 
「ロン、紹介するよ。オレの仲間のトーマスだ」
「よろしくな。ロン君」
「ロナルド・ポートマンです! よろしくお願いします!」
「お前、自己紹介だけは元気だな……」

「いらっしゃい二人共、ロン君大人気よ。昨日の話が結構広まってるんだ」
「あぁ、噂がまわるのは早いもんなぁ」
「ゆっくりしてってね!」

 エマが他の接客に戻ると、交代でニナが二人の前に来た。

「ユーゴさん。昨日はありがとう」
「いや、オレじゃなくてロンだよ?」
「ロン君を鍛えたのはユーゴさんでしょ?」
「いや……途中からだけどね……ニナちゃんも飲もうよ!」
「ホントに? いただきまーす!」

 ニナと水割りで乾杯した。
 雇われた男が取り戻しに来るほど、元の娼館では人気だったようだ。小柄だが綺麗な顔立ちで、笑顔が可愛らしい。

「お二人はここの常連なんでしょ? 何度もこの店を救ってくれた二人だって、話を聞いてずーっと会いたかったんだ」
「いや、それはユーゴだよ。僕は横で見てただけだ」
「いやいや、謙遜は良くないなトーマス。オレを攻撃から守ってくれたのはトーマスだ」
 
「で、ユーゴさんはエマさんの彼氏なんでしょ?」
「え……? そうなの?」
「え? 違うの?」
「正式に言ったことは無いな……オレ冒険者だから、ずーっとここに帰ってこないこともあるしな。ロンを見つけて正直ちょっとホッとしてるんだ。あいつならこの店を守れる」
「んー、愛だねぇユーゴさん」
「あまりからかうなよニナちゃん!」


『バァァァン!』
 
 楽しく飲んでいると、おなじみのパターンでドアが開いた。
 
「おい、中のガキ! 表出ろ!」

 もう、客も店員も慣れたものだ。
 冷やかな目で来客を見ている。

「エマさん、行ってきますね」
「うん。ロン君、気をつけてね」

「じゃ、オレも見てくるかな」

 トーマスと外に出た。
 ロンが五人の屈強な男達に囲まれている。

 ――子供相手に……どんな大人だこいつら……。

「おいガキ、昨日は世話になったな」
「世話になった? あの平手打ちがそんなに気持ちよかったですか?」
「もうそんな減らず口叩けなくなるぞ。やっちまえ!」

 五人はそれぞれ武器を構えた。

 丸腰の子供を囲んで武器を抜いている。この場合は大人の方が可愛そうだ。殺されても文句は言えない。

「おじさん達、僕素手なんだけど?」
「うるせぇ! ぶっ殺す!」

 一斉に各々の武器でロンに襲いかかった。

 ロンは全ての攻撃を守護術で防ぎ、その隙に包囲の外に出た。

「へぇ、いい守護術だね。確かに逸材だ」

 後ろから練気銃で一人の両脚を撃ち抜いた。
 もちろんユーゴが教えたのだが、このレベルの相手にはちょうどいい。

「こいつ……」
「怯むな!」

 ロンは浮遊術で浮いた。

「このガキ……飛べるのか……」
「おじさん達、俺に勝てそう? 無理な事くらい分かるよね?」

 そう言われて五人はは怯んでいる。

「子供の俺を囲んで、武器まで抜いたんだ。当然、死の覚悟はあるんだよね?」
「クッ……」
「よし、希望通り殺してあげるよ」

 ロンは空から、練気銃で一人づつ両足を撃ち抜いた。

「うがぁ!」
「フグッ……」

 もう全員動けない。

「最期に何か言いたいことある?」
「もうここには来ねぇ……」
「は? 許してもらえる気でいるの?」
「いや……頼む……殺さないでくれ」
「俺を殺す気で来たくせに? 分かった、おじさん達を雇った人の居場所を教えてよ」
「あぁ、分かった……」

 男はポケットから出した紙に、雇い主の居場所を書いてロンに手渡した。

「雇い主まですぐに売るんだね、このクズ野郎。這って失せろ」

 そう吐き捨てて、ロンは店に戻っていった。

「な? あいつ凄いだろ?」
「うん……どんなやつが来ても大丈夫そうだ……」

 ユーゴとトーマスは五人の男達に近づき声を掛けた。

「なぁ、多分次はあんたらの雇い主と来るんだろうけど、今度はマジで殺されるぞ?」
「あぁ、そうだな……何なんだあのガキは……オレはもう降りる」
「一応雇い主に報告しとけよ」

 五人の脚を治療してやった。

「すまねぇ……もう二度と来ねぇとあの子に伝えてくれ。雇い主にも来ないように伝える」
「あぁ、分かったよ。それと、お前らドア壊してるけど?」
「あぁ、修理代を払おう……」

 ユーゴ達も店に戻った。
 皆、何事も無かったかのようにグラスを傾けている。

「エマ、さっきの人達がドアの修理代って置いていったぞ」
「あぁ、ありがとう。もうドアの修理何回したか……」

 鋼鉄のドアにするのは違うだろう。難しい問題だ。
 
「オレらは帰るか。ロン、頑張れよ!」
「うん、ユーゴさんは明日の朝出るんだよね?」
「あぁ。みんな、また来るよ!」
「ユーゴ君、トーマス君、またね!」

 ロンが居ればもうこの店は大丈夫だ。
 ホテルに帰ってゆっくり休んだ。
 
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