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第三章 大陸冒険編
ロナルド少年 新生活
しおりを挟むレトルコメルスのギルドに帰り、依頼の達成報告だ。
「へぇ、本当に倒したんだな」
「オレは体皮の処理も手を貸してないですよ」
「そうだろうな。あまりいい仕事じゃねぇ」
「そうだ、おすすめの防具職人教えてくれませんか? この体皮で防具を作りたい」
「そうだな、ここの冒険者がよく行く所を教えよう」
住所を言われてもよく分からない。受付の男は簡単な地図を描いてくれた。
「ありがとう。残りは売却で」
「まいど。減額は無いよ、90万だな。振込でいいか?」
「うん、振込でお願いします」
ロンはSに変わったカードを見てニコニコだ。そのままの足で教えてもらった防具職人のところに向かった。
「いらっしゃい」
「これでこの子の防具を作りたいんです。籠手と脛当てと革鎧をお願いします」
ロックリザードの体皮を渡すと、主人は顔を顰めた。
「おいおい、ロックリザードの皮とは子供に随分過保護なんだな」
「いや、勘違いしないでくださいよ? これを仕留めたのはこいつだ。この子はSランクの冒険者ですよ」
「ホントかよ……分かった、採寸させてくれ」
採寸を終えて見積もりを提示した。
「3万で作ろう」
「あぁ、それでお願いします。この子は成長過程にある、小さくなったら直しも頼めますか?」
「あぁ、それがワシの仕事だよ。金は取るがね」
「ならこの皮は全部置いて行きますね。あと、籠手にはこの魔晶石を埋め込んで欲しい」
「これを埋め込むのか? あぁ、分かった。一週間で仕上げるから取りに来い」
「ロン、忘れずに取りに来いよ?」
「分かったよ!」
次はオリバーの所に行こう。
領主の屋敷の門番に取次をお願いする。
もう顔見知りだ、すぐに案内してくれた。
いつも通り執務室の机に向かうオリバーに声を掛ける。
「オリバーさん、お忙しいところいつも突然すみません」
「いや、構わないよ。今日は珍しい連れが一緒だね」
「初めまして! ロナルド・ポートマンです! 12歳です!」
「ポートマンか、ルナポートの出身かな? 漁師に多いファミリーネームだ」
「はい、代々漁師だったと聞いてます。でも俺の夢は、王国の騎士になる事です!」
「オリバーさん、ロンは逸材ですよ。一人でロックリザード三体を瞬殺する」
「ほう、それは大したもんだな……すまないが、騎士の登用試験は15歳からだ」
ロンは肩を落とし、露骨に落ち込んでいる。
その為に来たんだ、当然だろう。
「おい、ロナルド君、そんなに落ち込むな。君はまだ12歳だ。ユーゴ君が薦めるような逸材だ、時期が来ればすぐに登用することを約束する。試験は受けてもらうがね」
「ホントですか!?」
ロンは顔を上げ、オリバーに笑顔を向けた。
「オリバーさん、ロンにエマの店の黒服として働いて貰うことにしました。昨日も一人追い返しました」
「それは適任だ。ロナルド君、15歳になったらすぐに来なさい。これは王国の決まりだ、勝手に変えることはできない。それまで冒険者として力をつけてくれ。そして、エマを補佐してくれ」
「分かりました! 更に強くなることを約束します」
「朝にも強くなっとけよ」
「うん、頑張るよ……」
やはり年齢制限はあるようだ。
あと三年、ロンならかなり成長するだろう。
「オリバーさん、面会ありがとうございました。エマとロンをよろしくお願いします」
「あぁ、ロナルド君がいれば、私達の出番は無いかもな。また会おう」
領主オリバーの屋敷を後にした。
「よし、目覚まし買うか。朝起きれない奴は、冒険者にも騎士にもなれないからな。肝に銘じておけよ」
「はい……」
目覚まし時計を買い、ロンの家を探しに不動産屋に行く。
「この子の家を探してるんですけど」
「あぁ、子供なら保証人がいるね」
「この子はSランクの冒険者ですよ」
ロンが冒険者カードを見せると、店主は目を見開いた。
「本当だな……こんな子供が……なら問題ないよ。好きな部屋を選べばいい」
偽造が出来ない冒険者カードは、身分証明の最上級だ。高ランクカードは年齢に関わらず、持っているだけで身分が保証される。
職場から近いほうが良いだろう。
エマの家から近ければなお良い。
「俺、そこまで広くない部屋が良いな、掃除めんどくさいし。あとは、風呂トイレは別がいい」
一応しっかりとしたこだわりがあるらしい。
「じゃあ、これがいいな。見に行くかい?」
エマの家も店も近いいい物件だ。
三人で歩いて、そう遠くない部屋を見に行く。
一人暮らしには丁度いい広さだ。
風呂とトイレも別でロンの希望に沿っている。築年数よりも綺麗に感じる。前の住人が綺麗に使っていたのだろう。
「うん、ここがいい!」
「キレイに使えよ? これからの三年が全て騎士への道だ。早起き、掃除、身の回りの全ての事が出来ないと、騎士の皆との共同生活は出来ないぞ」
「うん、がんばる!」
「ここはいつから入れますか?」
「家賃は銀行からの引き落としでいいだろ? ここは一昨日掃除したとこだ、今日からでもいいよ。水道の手続きはしとくから。ほらよっ、鍵だ」
いきなり押しかけて良い物件に出会えた。
次はエマの家に行こう。
呼鈴を鳴らす。
「エマ、ユーゴだけど」
「あぁ、ロン君も一緒か。上がって」
ロンは女性の部屋に上がるのにキョロキョロしている。
「ロンの騎士デビューはお預けだ。あと三年はフリーだ」
「そうなんだ。残念だったねロン君……」
「ロンの家も決めてきた。もう今日から店にも出れるよな? こいつをよろしく頼むよ」
「本当にいいのね? 私は大歓迎だよ!」
「エマさん、お願いします! 仕事教えてください!」
「まだ部屋に寝具も家具も何も無いんだよ。慣れるまでコイツの生活を見てやってくれないか? 金は結構持ってるから」
「もちろん、ロン君がこれからの店の頼みだよ。任せて!」
「そうか、ありがとう。これ、ロンの住所ね」
「とりあえず布団と日用品はいるよね。あとは、黒服か。作りに行かないと」
三人で買い物に出掛けた。
エマとロンは姉弟の様だ。
すでに仲良く喋っている。
ユーゴの空間魔法で家具の運搬も問題ない。剛力を掛れば、どれだけ重たい物も設置可能だ。
ロンの部屋に運び込み、エマとロンが仕事に向かうのを見送った。店の黒服ができるまでは、シャツとデニムパンツで勤務するしかない。
家具の設置を終え、部屋を後にする。
魔力認証キーにはロンの魔力を登録済みだ、ドアを閉めれば勝手にロックされる。
とにかく腹が減った、冒険野郎に行こう。
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