上 下
95 / 241
第三章 大陸冒険編

ロナルド少年

しおりを挟む

 食後のティータイムだ。
 ロンの紅茶には砂糖を入れている。 
 
「ロンは魔法使えるの?」
「うん、剣と魔法は教えてもらったんだ」
「師匠がいるのか?」
「うん、ユーゴさんみたいに黒髪の人だよ。ハオさんていうんだ」

 ――龍族の師匠? 誰だろ。

「どこで知り合った?」
「俺、小さい頃から船が好きで、いつも見に行ってたんだ。その船の船長がハオさんだよ」

 あの船長か。
 リーベン島行きの船で初めて遁術を見た時の衝撃を思い出す。

「俺いつも背中に剣を背負ってたから、ハオさんが空いた時間に剣技と遁術教えてくれたんだ」
「え……? ロン、遁術使えるのか? てことは、練気術が使えるってことだよな?」
「うん、剣にも纏えるよ」

 ロンは剣に練気を纏った。
 綺麗に纏っている。凄い子供なのかもしれない。

「この辺の街道沿いならCランクの魔物くらいしかいないだろ。何で餓死寸前なんだよ」
「料理の仕方なんて知らないよ……生でなんて食えないし……火遁使ったら燃えて無くなっちゃうし。山もどこにあるか分からないから木の実なんかも無いし」

 ――つくづく無謀で不器用な奴だな……。
 
 街道沿いで倒れてたら他の人に見つけてもらえただろうが。
 それでユーゴ達がこんな逸材見つけられた訳だが。

 ――あ、逸材か。
 
 エマの店の用心棒をロンに頼めないだろうか。騎士団に入団志望だ、とりあえずはオリバーの所に行こう。

「その刃こぼれした剣は良くないな。ロン、刀欲しくないか?」
「そりゃほしいけど、いくらすると思ってんのさ……」
「レトルコメルスに着いたら買ってやるよ。最初だ、二級品の下位くらいでいいだろ」
「そんな! 二級品なんて貰えないって!」
「いいって、これも縁だ。お前はいい騎士になるよ」
「ロン、買ってもらったらいいよ! ユーゴは一生遊んで暮らせるくらいお金持ってるから!」
「そうなんだ……」

 まだ寝るには早い。
 ロンなら自然エネルギーで飛べるだろう。

「ロンに浮遊術を教えようか」

 仙術の呼吸法を教えた。
 遁術を使えるだけあって、飲み込みは早い。

「おぉ! 浮いた!」
「え……? ロン、打ち上がらなかったね……」
「そうだな……飛んで行かなかったの里長くらいだったぞ……」

 少しの練習で自由自在に飛んでいる。
 物凄いセンスがあるのがもしれない。

「風エネルギーだけじゃない。火も水も、陽の光や音の速さ、色んな自然エネルギーがある。それを遁術に組み込んだら凄い威力になるぞ」
「そっか。明日やってみるよ!」

 弟子ができたようだ。
 能力が高い分、教え甲斐がある。

「エミリー、オレもう一つテント張ってロンと寝るから、そのテント使ってくれ」
「うん、分かったよ」

 ロンは寝るまで飛び回って遊んでいた。
 ユーゴが横にいれば、寝ていても大丈夫だろう。スレイプニルくらいなら。

 明日に備え早めに就寝した。


 ◇◇◇

 
 次の日の朝、昨日握ってもらったおにぎりを食べる。ロンにもユーゴの分を一つ食べさせた。

「さて、行くか。夕方前には着きたいな」
「俺も飛んでみるよ」

 皆で飛び立った。
 ロンは昨日の夜練習しただけだが、ある程度のスピードでついてきている。

「ロン、あんたすごいね……」
「あぁ、大したもんだよ」
「でも、スタミナが持つかな……」

 そう言いつつ、普通に喋りながらついてきてるからすごい。

「ロンは強化術も扱えるんだな」
「うん、基礎は教えてもらったよ。守護術と治療術も」
「ロンがすぐに覚えるから、ハオさん教えるの楽しかったんだろうな」
「うん、いっぱい褒めてくれるから嬉しかった。褒められたくて頑張ったのはあるね」
「そうか、強化術や守護術、治療術にも自然エネルギーを組み込んだら別物になるぞ。またやってみてくれ」
「うん、楽しいね!」
「後は錬気で空を駆ける練習だな、これが出来ると出来ないとでは精度が全く異なるからな」
「うん、ハオさんからは聞いてる。なかなか難しいよね……」
「あぁ、最難関だよ、がんばれ!」
「うん!」

 道中の魔物を、自然エネルギーの風遁で切り刻んだり、練気を纏った剣で斬ったり、ロンの強さには驚かされた。
 錬気で空を駆ける練習も指導した。中々難しいようだ、ユーゴ達も苦労した。

 しかし、ロンなら走ればかなりの速度で走れるだろう。

「ロンお前まさか、レトルコメルスまで歩いて行こうとしたのか……?」
「うん、どれくらいかかるのかも分からないし、他の人達みんな歩いてたし。そもそも方向も分からないし」

 ――街道に沿って走ればいいだろ……こいつは天才なのかバカなのか……。

 まぁ、無謀で無鉄砲な奴なのは間違いない。
 
 途中でロンをおんぶに切り替えて、夕方にはレトルコメルスに着いた。

「オレ達と一緒なら手形所持者用のゲート通れるかな?」
「どうだろねぇ……とりあえず行ってみようよ」

 ユーゴとエミリーは門衛に冒険者カードを提示した。
 ロンの説明をしようと思ったが、ロンも冒険者カードを出した。

「え!? お前Aランクなのか!?」
「うん、取っといたほうがいいかなと思って。当面の生活費も」
「12歳でAランクか……」
「いやいや、ユーゴさん達はSSじゃないか。憧れるよ」
「餓死しないように、野営の知識と技術を身につけないとな……」
「うん、大事だね……」
「私達、トーマスがいて良かったね……」

 大きな門扉を潜る。
 無事にレトルコメルスに到着した。

 
「トーマスとジュリアはまだ着いてないみたいだね」
「どうする? 二人待つのに二泊するか?」
「そうしよっか。多分明日には着くだろうね」

 とりあえず、ロンの服を見に行こう。
 洗いはしたものの、死にかけていただけあってかなり汚い。 

「エミリー、風呂入って冒険野郎に集合な。オレはロンと一緒に服見てくる」
「うん、分かったよ!」

 ロンに絹のシャツとズボンを二枚ずつ、下着を数着買って部屋に戻り、風呂に入った。

「ここのサウナもいいだろ?」
「うん、こんな良いものがあったんだね!」
「シャツと下着は毎日着替えろよ? 臭いと仕事が貰えないぞ」
「それは大変だ……毎日風呂に入って着替えるよ……」

 ロンは綺麗なシャツに袖を通した。
 髪の毛も整え、普通の子供に戻った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠
ファンタジー
大学受験に失敗し引きこもりになった男、石動健一は異世界に迷い込んでしまった。 特殊な力も無く、言葉も分からない彼は、怪物や未知の病に見舞われ何度も死にかけるが、そんな中吸血鬼の王を名乗る者と出会い、とある取引を持ちかけられる。 その内容は、安全と力を与えられる代わりに彼に絶対服従することだった! 吸血鬼の王、王の娘、宿敵、獣人のメイド、様々な者たちと関わる彼は、夢と希望に満ち溢れた異世界ライフを手にすることが出来るのだろうか? ※こちらの作品は他サイト様でも連載しております。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...