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第三章 大陸冒険編
ジュリアの刀
しおりを挟む夕方になり、修練場に里の幹部が集まった。
「エミリー、ユーゴ、えらく早いお戻りだな」
早速メイファがチクリと嫌味を投げる。二人は苦笑いを浮かべる他なかった。
「トーマスはどうした?」
「トーマスは仙族の仲間と二手に別れて、仙神国に行きました」
続々と皆が集まった。
里長は辺りを一瞥すると、よく通る声で喋り始めた。
「皆に集まってもらったのは、ユーゴとエミリーが仙族と魔族の術を持ち帰り、練気術をさらに昇華させたからだ。今から披露する故、持ち帰って部下に展開させて欲しい」
ユーゴが説明を交えて実演すると、感嘆の声が上がった。
「これは凄いな」
「皆が空中戦に参加できる。空を駆ける龍族は急な方向転換もできるからな。相性がいい」
「遁術や剣技の威力が桁違いだな……」
「皆、ある程度は習得できたようだな。では持ち帰って指導を頼む」
流石は龍族の幹部たち。全てを理解し帰っていった。
これでユーゴ達の用事は終わった。
「奥様! さっきの仙族と魔族の戦闘法で、治療の新術ができたんです。SSクラスの魔物にかけたんだけど、魔力障害と意識障害が無くなって凶暴性が収まったんです」
「ほう、凄いなそれは。シュエンもあれは魔力障害ではないかと思っている。それを治せるかもしれんと言うわけか」
「はい、奥様と術の改良ができないかなと思って!」
確かに、メイファと共に開発すれば、更に精度が上がるだろう。
「二人共、泊まって帰るのであろう?」
「そうですね。少しゆっくりして帰ります」
「エミリー。家事仕事はいいからうちに泊まれ」
「はい、みんなと会いたいし!」
「ユーゴはうちに来い、大歓迎だ」
「はい、お願いします」
「トーマスにも、また帰って来いって伝えといてくれよな!」
そう言うヤンガスはどこか寂しそうだった。
里長の屋敷で食事をしている。
一月足らずしか離れてないが、すごく久しぶりに感じる。里長と二人で膳の刺身や煮物を楽しんだ。
里長に一献進める。
「里長、特異能力って何なんですかね」
「そうだな、皆が持っているものではない。生まれ持っている者や、突然習得する者もおる」
「里長は持ってるんですか?」
「うむ、一応はな。自ら喋る様なものではない故、普通は言わぬがな」
龍王の特異能力。
とんでもない物を持っていそうだ。
「この眼の色が変わったときに見た夢の中では、オレの龍眼は特異能力で、時を止められるようになるらしい神眼ってのは、眼の力だって言ってましたね」
「左様か。仙族の青い眼のような物かの。奴らは空間魔法以外にも能力を開眼する者がおる」
「あ、オレこの眼になって空間魔法使えるようになったんですよ。仙人も使えるらしいんですけどね」
「なんと? 仙族に関わる様な眼ということか。まぁ、人族はもともと仙族である。不思議ではないが……なぜ緑ではないのかが分からぬな」
里長と二人で酒を飲みながら話す事が出来た。
明日はレトルコメルスに帰る。早めに床についた。
◇◇◇
朝食はユーゴのリクエストで卵かけご飯を頂いた。卵料理の完成形ではないだろうか。里の米でないと、この味わいは再現できない。
「里長、皆さん、いきなり押しかけたのにありがとうございました」
「何を言う。お主の帰るところはここであろう。気を使うでない」
「ありがとうございます。じゃ、また帰ってきますね!」
屋敷の皆に見送られて門を出た。
エミリーとはこの門前で待ち合わせている。すでにエミリーは門番と喋っていた。
「おはよう、エミリー。待たせたか?」
「あぁ、おはよう! 今来たとこだよ!」
「そうか、じゃ行くか。買い物もあるしな」
門番に挨拶をして歩き始めたが、ユーゴがふと思った事を口にした。
「なぁ、ジュリアに刀をプレゼントしたらどうだろう?」
「あぁ、喜ぶだろうね! ヤンさんとこに行こっか」
決まりだ。
ヤンガスの屋敷に向かう。
鍛冶屋街の一際大きな建物。ヤンガスの屋敷の横にある鍛冶場に入った。
朝から金属を叩く鎚の音が響き渡っている。
「おはようございます。ヤンさんはお忙しいですか?」
「おぉ、ユーゴか! 親方ぁ! ユーゴとエミリーが来ましたよ!」
奥からヤンガスが汗を拭いながら出てきた。
「おぅ、おはよう二人共。何か用か?」
「はい、仙族の仲間に刀をプレゼントしたいなと思って」
「そうか。そいつぁ普段何を使ってんだ?」
「ツヴァイハンダーっていう、ヤンさんの背丈ほどある両手大剣です」
「ほぅ、そりゃ大層な大男だろうな」
「いや、少し背が高いけど女性だよ!」
「女がそんな両手大剣振り回してんのか!? すげぇな……分かった、ちょっと待ってろ」
そう言って、ヤンガスは奥から一振の刀を持ってきた。
「刃紋は互の目、俺が打った刀の中ではかなり長めの刀だ。いつも通り名前はねぇ。両手大剣を振り回せるなら問題ねぇだろ」
ヤンガスは刀を鞘から抜いて翳した。
今まで見た事が無いほどに長い刀だ。流石にツヴァイハンダー程長くはないが。
「ありがとうございます。これは支払いますよ! 流石に!」
「お前ぇらから金受け取んのは、忍びねぇんだよな……」
「いえ、オレ達だいぶ金持ってるんで!」
「んー、そうか……? 俺んとこは一級品の上位だと500万で出してる。こいつぁエミリーの青眼と同時期に打ったやつだな」
「私達の刀そんなに高いの!? 私のと同時期か。これプレゼントする人は私の恩人なんだよ!」
「あぁ、エミリーの話に出た仙族か! そりゃ金なんて取れねぇな!」
「いやいや、ヤンさん! それはダメです!」
「エミリーの恩人の刀だ! 金なんていらねぇよ!」
払う、いらねぇで、もう半ば喧嘩だ。
結局エミリーと折半で、100万ブールだけ支払った。またお世話になってしまった。
「あ、ヤンさん。お願いがあるんだけど」
「あぁ、何だ?」
「苦無って作れる? 細めの苦無が欲しいんだけど」
「俺の師匠が作ってたな。よっしゃ、作ってみるか」
「ホントに? じゃ、四本くらいお願いします!」
最近のエミリーは、苦無や遁術で中距離攻撃をするのが主だ。
予備だろうか。
「おぅ、お前ぇらの刀ぁ見せてみろ」
ヤンガスは二人の刀を鞘から抜き、舐め回すように観察した。
「よし、トーマスの奴ぁサボらずに手入れしてるみてぇだな! あいつを鍛えて良かった!」
抜打ちチェックだ。危うしトーマス。
「では、大陸に戻りますね! またトーマスと帰ってきます!」
「ヤンさん、またねー!」
「おう、いつでも帰ってこい!」
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