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第三章 大陸冒険編

大富豪エマ

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 娼館の入口には、見慣れたスキンヘッドのオッサンが立っている。

「よぉ、オッサン。クビになってなかったんだな」 
「あぁ? えっ! 今日は何の御用で……?」
「元締めさんいる? ちょっと話を聞きたいんだけど、取り次げるかな?」
「へぇ、おられますが……暴力は振らねぇでくださいよ……?」
「今日はそんなんじゃないって」

 ――オレを何だと思ってるんだろう……。
 
 大男の後を進み、娼館の中に案内された。

「元締め、お客さんです」
「あぁ、入れ」
「こんにちは。お久しぶりです、元締めさん」

 最初は誰か分からない様子だったが、元締めは顔を強ばらせた。

「……おめぇは!? 何しに来やがった!」
「いや、ちょっと話を聞きたいだけだよ」

 ソファに座ると、元締めも恐る恐るユーゴの正面に座った。

「あれからエマの店にはちょっかい出してない?」
「あぁ、アンタに殺されるからな。おい、コーヒー入れてこい」
「あ、オレはブラックで!」

 スキンヘッドの大男は一礼して下がって行った。
 
「そうかそうか。そのエマの事について聞きたいんだけど、エマの母親はどうなったか知ってる?」

 元締めは意外そうな顔をして話し始めた。

「そんな事を聞きにわざわざ来たのか? エマの母親の名前はローズだ、ここで働いていた娼婦だ」
「王族の男に見初められて、ここを出たんだろ?」
「あぁ、よく知ってるな。王都で何があったかは知らねぇが、数年後に小せぇエマを連れて戻ってきた。当時二歳か三歳くらいだったかな」
「で、ローズはその後どうなった?」
「帰ってきてすぐくらいだ、殺されたよ」
「誰に?」
「それは知らねぇ。死体は路地裏で見つかった、撲殺だったらしい。何度もしつこく殴られたみてぇだ」

 王都で雇われた冒険者に殺されたのだろうか。ただ、撲殺? 冒険者が? こればかりは考えて分かるものではない。
 大男が運んできたコーヒーを啜りながら、話を進めた。

「二つのペンダントはエマに渡してたのか?」
「ペンダント? ローズの遺品をそのままエマに渡しただけだ。中身は知らねぇ」
「元締めさんからしたら、エマは小さい頃から育てた娘みたいなもんだろ?」
「俺が子育てなんてするかよ。ローズとあの貴族の娘だ、ベッピンに育つのは分かってたからな。儲けさせてもらおうと屋敷に置いといただけだよ」
 
「そうか。よく分かったよ、ありがとう。オッサンもコーヒーありがとな」
「用事はそれだけか?」
「あぁ、お邪魔しました」

 コーヒーカップを飲み干し、立ち上がった。

 エマの家に行こう。
 店に出るにはまだ早い時間だ。


 エマの魔力を感じる。留守ではなくて良かった。
 呼鈴を押すと、少しして返事が聞こえた。

「はーい」
「ユーゴだけど」
「ユーゴ君! 帰ってたんだ!」
「仕事はまだ行かない?」
「いや、今日はお店休みなんだ。ユーゴ君ご飯は済ませた?」
「あぁ、休みなのか。ご飯はまだだ、考えてなかったな」
「今から食べに行かない?」
「せっかくの休みにオレの相手なんて、いいのか?」
「嫌……?」
「嫌なわけないだろ! 喜んで!」
「じゃ、上がってよ! 準備するね」

 ソファに座って、エマの着替えを眺める。

 ――美しい……。

 着替えを終えたエマは、ユーゴの顔を覗き込んだ。

「ねぇ、右眼どうしたの?」
「あぁ、やっぱり違和感あるよなぁ。朝起きたらこうなってたんだよ。オレにも分からん」
「そっか。お待たせ! 行こっか!」
「あぁ、ちょっと大事な話があるんだよ。個室の店がいいな」
「個室か。じゃあ、近くにいいとこあるよ」
 

 エマと腕を組み店まで歩く。
 高級店ではないが、小綺麗な店構えだ。この匂いはパスタやピッツァの店だろう。
 こじんまりとした個室に案内された。

「お酒飲むよな?」
「うん、まずはじめはビールにしようかな!」

 適当に料理を頼み、冷たいビールで乾杯する。ジョッキ半分程を一気に飲み干すと、乾いた喉が一気に潤った。

 料理が運ばれて来た。
 エマは相当にパスタが好きらしい。ユーゴも好きなのだが。
 スパイス料理もある。これはビールが進む。
 
「で、話があるって?」
「あぁ、オレは今日の朝まで王都にいたんだ」
「へ……? 朝に王都にいてなんで今ここにいるの……?」

 ――あ……普通はそういう反応になるのか。
 
「あぁ……まぁ、それはいい。ウェザブール王国って二王制なの知ってた?」
「そうなの? 王家の姓も知らなかったくらいだからね……」
「発明女王シャルロットは知ってるよな?」
「それなら、知らない人族はいないよね」
「その人が王の一人、シャルロット・ベルフォール女王だ」
「そうなんだ! 私の姓と一緒だね」
「あぁ、エマは女王の玄孫やしゃごだよ。女王もエマのこと覚えてた」
「え……? 私、本当に王家の血筋だったの?」

 エマの両親、マクシムとローズの話をかいつまんで話した。

「そうなんだ。このペンダントにはそんな意味があったんだね。私自分の出生なんて知ろうともしなかった、ありがとうユーゴ君」
「あぁ、ご両親の事は残念だった。けど、今エマが夢を持って立派に生きてるって知ったら喜んてくれると思うな」
「うん、そうだね。またお墓参りに行かないとね」
 
「……そこでだ、ここからが本題なんだけど」
「え、とんでもない話しないよね……?」
「どうかな……」

 額がとんでもない話ではある。
 エマはどんな話をされるのかハラハラした様子だ。

「マクシムさんとその両親はもう亡くなってるって話はしたな。その遺産が浮いたままだったんだ。その相続人がエマになってる」
「え? いきなり言われてもな……」
「女王の中ではもう決定事項だ。あの人は遺産相続はキッチリする主義だそうだ。もうエマの銀行口座に振り込まれてるはずだけど」
「え、もう振り込まれたの? どれくらい?」
「3000万ブールは超えてるって言ってたな」

 エマが固まった。
 頭の中で理解しようと必死なのだろう。
 そして目を見開いて叫んだ。
 
「はぁ!? 3000万!?」
「これはもう返すことはできないぞ? エマが有意義に使えばいい」
「でも……」
「エマの夢の資金に使えばいい」
「そっか、すぐにでもお店大きく出来るね。でも……そうだね。両親が残してくれた遺産だ。大事に使わないとね」

「後は、王都の貴族街の土地なんだけど、どうする?」
「私はここを出る気がないから、他の所の土地はどうしようもないなぁ……」
「あぁ、そう言うと思って、女王にはそう言ってある。土地が売却できたらまたエマに振り込まれるようにしとこう」
「私一気に大金持ちだね……どうしよ」
「オレも冒険者になって大金持ちになったけど、案外変わらないもんだぞ?」
「そうなのかな。お金に狂わないようにしないとね」
「今のエマなら大丈夫だろ。あと、ベルフォールの姓を名乗るのも気にしなくていい。オレが要らないこと言ったからな……」
「そっか。わかったよ!」

 腹も一杯になったところで次は領主の屋敷だ。エマも連れて行く事にしよう。

「これから領主のところに行くんだ。エマも一緒に行こう」
「え、私みたいなのが行っていい所なの?」
「いやいや、エマは王家の血筋だぞ?」
「いや、実感が無いんだって……」

 レトルコメルスの中心にある、オリバーの屋敷へ向かった。
 
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