85 / 243
第三章 大陸冒険編
ベルフォール女王
しおりを挟むジュリアを先頭に、女王の前に歩を進める。
「ジュリジュリ~! 久々じゃーん!」
「あぁ、久しぶりだな」
――この国の王は基本的に軽いんだな……。
女王は玉座に座って足をプランプランさせてる。
「紹介する。ユーゴ、トーマス、エミリーだ」
「お忙しいところ、謁見に応じて頂きありがとうございます」
「いいょいいょ! そんなに堅苦しく挨拶しなくても! そっちの部屋で喋ろうか」
隣の部屋に案内された。
運ばれてきた紅茶の香りを楽しむ。
「ウチは『シャルロット・ベルフォール』だょ。ジュリジュリ! やっとオシャレに目覚めたのかょ! カワイーじゃん!」
「いや、目覚めたってほどじゃないが、少し化粧も勉強してみようかとは思ってる。って、アタシの話は良いんだよ!」
「ん? 何か話があるの?」
――あ、オレの話していいのかな……。
一呼吸置いて、ユーゴは首からペンダントを取り外した。
「シャルロット女王、初めまして。早速ですがこのペンダントに見覚えはありませんか?」
エマのペンダントを差し出した。
女王は手に取って見るなり答えた。
「あぁ、ベルフォールの紋章のペンダントだょ。ウチに生まれた男児には、これを二つ渡すんだ。伴侶を得た時に一つを相手に渡す、そういうしきたりだょ。ウチの旦那が勝手にした事が慣習になっちゃったんだょね」
「どなたのものかは分かりませんか?」
「この残存魔力は……マクシムだね。ウチの曾孫だょ」
そのマクシムという男がエマの父親らしい。エマは女王の玄孫という事だ。
「マクシムさんは今どちらに?」
「死んだょ。少し長くなるけど、聞く?」
「はい。お願いします」
女王は、エマの父親の話をしてくれた。
話し方がチャラすぎて入ってこなかったので要約する。
◆◆◆
マクシム・ベルフォールには、親が決めた許嫁がいた。オーベルジュ分家の娘、サーシャ・オーベルジュだ。
マクシムは勉学に優れていた。容姿も端麗で、武術にも長けていた。サーシャは、マクシムが自分の許嫁であることを周りに自慢していた。
しかし、マクシムは親が決めた結婚などしたくはなかった。
自然と恋に落ち、その相手にこのペンダントを渡し結婚する。そう親に反発しては衝突した。
マクシムは、長期の公務で訪れたレトルコメルスで、客引きの娘に一目惚れした。
それが、ローズだった。
マクシムはローズに声をかけた。自分の身分を明かさずに毎日のように通った。ローズもマクシムに惹かれていった。
王都に帰る日が決まると、マクシムはローズに自分が王族であることを打ち明け、ペンダントを渡しプロポーズした。
しかし、ローズは娼婦だ。マクシムには惹かれているが、王族の方とは釣り合わないと断る。
マクシムは、身分や職業など関係ない。自分は愛した人と結ばれたいと懇願する。
ローズは熱意に負け、ペンダントを受け取った。そのまま王都に帰り式を挙げ、二人は夫婦となり、子を授かった。
それに嫉妬したのはサーシャだ。
自分の許嫁が、外から女を連れ帰ってきてそのまま結ばれた挙句、子まで作った。
二人と子供を殺してやる。
嫉妬に狂ったサーシャは、腕利きの冒険者を複数人雇い、三人を襲撃した。
その後、マクシムの亡骸だけが見つかった。
妻子はその後どうなったかは分からない。
◆◆◆
「これがマクシム本人と、拘束したサーシャから聞いた話の全てだょ。マクシムの両親、つまりウチの孫夫婦は、冒険者を雇ってまで殺人を企てるような者と息子を一緒にさせようとしていたのかと心を病んで、二人で自害したの」
「そうだったんですね……そのマクシムさんの娘がレトルコメルスにいます。オレの友人です。両親の事は覚えてないみたいですが」
「エマでしょ? 覚えてる。生きていたのね」
女王は思い出したように言った。
「ウチの孫息子たちとマクシムの遺産が浮いたままなんだょね。ベルフォール家は争いのもとになる財産の分与や、土地の相続はしっかりするの。だから今はウチが預かってる」
「へぇ、いくら位あるんですか?」
「3000万ブール以上あったんじゃないかな。エマがお金と土地を相続するのが正当だね」
3000万以上。とんでもない金額の相続権がエマにあるらしい。
「このペンダントに残ってるのがエマの魔力だょね。エマの銀行口座に振り込もうか。伝言つけとけばいいでしょ」
「そんなことできるんですか?」
「簡単だょ。誰が魔力認証システム作ったと思ってるのょ」
――え、女王が作ったの……?
三人の驚いた顔を見てジュリアが口を開いた。
「あぁ、魔力認証システムどころか、家庭内の灯具や冷暖房器具から、生活を快適便利にしているもののほとんどはシャルロットの発明だ」
「うん。『発明女王シャルロット』とはウチのことだょ!」
発明女王。
もちろん知っている、超が付く有名人だ。本当の女王とは思わなかった。
という事は、とユーゴの頭にもう一人の名が浮かぶ。
「もしかして『流通王レオナード』って……」
「あぁ、銀行を立ち上げ街道を整備し、王国内の銀行システムや流通システムを一から作り上げたのがレオナードだ」
――え……ただのチャラい王様だと思ったら大間違いだったな。
トーマスとエミリーも知らなかった話だろう。口を開けて放心している。
「王家という名の大財閥だよ。だからこの国では税金を取ってないだろ? 必要ないんだよ、儲けすぎて」
「でも、各地で儲けた企業から寄付金って名目でお金が集まるんだょ。だからそれを、軍事費と各町の治安維持費や町の整備に当ててる。足りない分は二王家で出すけどね」
始祖四王並の伝説の人物の話を聞いた。
天才二人を人族のトップに据えた仙王も、先見の明があったという事だろう。
シャルロット女王は得意気な表情でティーカップを持ち上げて口を付けている。
0
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チート魔法の魔導書
フルーツパフェ
ファンタジー
魔導士が魔法の研究成果を書き残した書物、魔導書――そこに書かれる専属魔法は驚異的な能力を発揮し、《所有者(ホルダー)》に莫大な地位と財産を保証した。
ダクライア公国のグラーデン騎士学校に通うラスタ=オキシマは騎士科の中で最高の魔力を持ちながら、《所有者》でないために卒業後の進路も定まらない日々を送る。
そんなラスタはある日、三年前に他界した祖父の家で『チート魔法の魔導書』と題された書物を発見する。自らを異世界の出身と語っていた風変わりな祖父が書き残した魔法とは何なのか? 半信半疑で書物を持ち帰るラスタだが、彼を待ち受けていたのは・・・・・・
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる