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第三章 大陸冒険編
マイノリティ
しおりを挟むホテルの受付カウンターに行くと、手紙が届いていた。
「お、王からの手紙だ」
「なんて書いてある?」
「オーベルジュ王は明日の朝、ベルフォール王は三日後の午後だ。本当に会ってくれるんだな。ありがとうジュリア」
「お安い御用だよ」
「よし、じゃあ風呂に入ってロビーで待ち合わせよう!」
「また後でねー!」
今日はいい汗かいた。
汚れを落としてさらにサウナで汗をかこう、美味しいビールのために。今日は熱風エンターテイナーとは会いたくない。二番目に熱いサウナだ。
水風呂でシャキッとしてベンチで休憩。
隣のトーマスに声を掛けた。
「なぁ、トーマス。魔力障害に効く術ができたって事は、マモンも治せるかもってことだ」
「そうだね。元はいい奴なんだって言ってたね」
「トーマスはどう思ってる?」
「分かってるよ。マモンに復讐したところで、皆は生き返らない。家族との時間は戻らない。もし、あいつが正気に戻って謝ってもらったところで同じなんだ。本当は僕も分かってる。でも、心が追いつかない。元のマモンに戻ってからの話だろうね」
トーマスは葛藤している。
人は生き返らない。復讐するのは自分の心の為だ。ただ、復讐したところで何も変わらない……それは皆分かってる。
今日もしっかりととのって、ロビーに集合だ。ジュリアとエミリーはロビーのソファで寛いでいた。
「おまたせ。さて、向かうか」
「タダ飯ヤッホーイ!」
ショーパブ『リバティ』はマモンとモレクが始めた店だ。今日は貸し切りにしてくれるらしい。
「「「いらっしゃいませ~!」」」
濃い男達の声で出迎えられた。
「いらっしゃいみんな、色々用意したから楽しんで行ってね」
「ありがとうございます。楽しませてもらうよ、モレクさん」
「みんな! 今日はいつもの濃い接客はいらないわ。この子達とは、お友達だと思って皆で飲みましょう!」
「「はぁ~い!」」
「よろしくお願いします!」
「みんな、まずはビールでいい?」
「うん、みんな一杯目はいつもビールだよ!」
皆にグラスが行き渡った。
「じゃみんな、楽しんでちょうだい! 心配しないで、給料は出すから! カンパーイ!」
『カンパーイ!』
この間の様な濃い接客ではなく、皆ナチュラルだ。さすがは接客のプロ達、喋りやすい。
トーマスも楽しそうに喋っているのを見て安心した。
「モレクさん、術の指導してもらった上にこんな宴会まで催してもらって、ありがとう」
「何言ってんの。260万ブールも貰ったのよ? この店当分休んでも良いくらいだわ」
確かに今日は儲け過ぎた。
ワイバーンの乱獲で一生分の金を儲けられそうだ。
「ほら、見て。ここには色んな子がいるでしょ? 一人ひとり性自認や性的指向が違うのよ」
確かに、化粧してない人もいる。
見た目はまちまちだ。
「私はママと一緒で『トランスジェンダー』よ。男に生まれたけど、心は女なの。だから化粧もするし、お洋服も女物を着るの。普通の女と一緒で男が好きなの」
「ボクは『ゲイ』だよ。心も体も男だ。けど、恋愛対象は男なんだ。ここでポールダンサーをしているよ。ママはボクみたいなゲイも女装させることなく雇ってくれる。ホントにありがたいよ」
「俺は妻も子もいる。けど、女装して化粧することが楽しみなんだ。接客時は女言葉使うけどな。お嬢ちゃん二人、俺みたいなやつには気をつけたほうがいいわよ。ガハハ!」
「他にも色々な性の在り方があるの。男も女もどっちも好きな子や、ここにはいないけど、自分の性が分からないって子もいる」
少し偏見を持っていた。
ユーゴ達が多数派なだけで、なんらおかしな事はない。
「ここの系列店で、男装の女性が働く店を作ったの。そっちも割りと繁盛してるわよ」
トーマスが神妙な面持ちで立ち上がり、静かに口を開いた。
「……僕は皆さんに偏見を持っていました。話してみればこんなにいい人たちなのに、少し接しただけで苦手だなんて……皆さんに謝りたい。すみませんでした」
「待って待って、謝ることなんてないのよ。ワタシ達は普通に接してくれたらいいの。偏見を持って当たり前よ。少数派なんだから」
「そうね、トーマス君みたいに理解してくれる人が増えたらいいな、と思ってこんな店開いたの」
色々な性の在り方がある。
多数派も少数派も、偏見の無い世の中になればいい。それがモレクの願いだ。
その後はただただ皆で騒いだ。トーマスも楽しそうだ。思った通り、エミリーもジュリアも大盛り上がりで終わった。
ゴルドホークにこういう店はなかった。レトルコメルスにあったのだろうか。少なくとも王都では、セクシャリティに対する理解が根付いている。
仙族による人族差別もそうだ。
そういう差別が無くなる世の中になればいい。心からそう思った。
宴会は夜更けまで大盛り上がりで終わった。
「モレクさん、皆さん本当にありがとうございました」
「みんなー! また来るね!」
「いやぁ、アタシも楽しかった!」
「私達も楽しかったわ。この店の名前『リバティ』の意味がわかってもらえたと思うわ。こちらこそありがとう」
宴会の余韻を楽しみながら、ホテルまで歩いた。
「明日はオーベルジュ王との謁見だ。また明日、おやすみ」
「おやすみー!」
程よく疲れて程よく酔ってる。
よく眠れそうだ。
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