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第三章 大陸冒険編

マモンとモレク

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 およそ千年前。
 
 ここは魔都シルヴァニア。
 魔王の居城、シルヴァニア城。

 国にも城にも自身の姓を冠する所に、魔王の高すぎる自己顕示欲が見て取れる。

 モレクは魔王の孫として、王妃リリス・シルヴァニアの周りの世話をしていた。

 魔族は、魔王アスタロスの強さとそのカリスマ性で纏まった国だ。皆が常に最前線で指揮を採るアスタロスを尊敬し、それに従った。

「龍族が鬼族に壊滅的な打撃を与えた。攻めるなら今だ」
「いや、仙族との決戦を優先すべきだ」

 国の意見は二分した。

「ならば両方攻めれば良い」

 魔王アスタロスの一言で、魔族の士気は自ずと上がる。
 

 しかし、結果は散々だった。

「アスタロス様、参戦した龍族により討死なさいました!」

 魔王の訃報が王妃リリスのもとに届いた。
 禁呪で龍族三人を道連れに亡くなったと。

 魔王アスタロス討死の報を受け、鬼族攻めも散々な結果に終わった。魔族は数百年は再起できない程に打ちのめされた。

 魔王失った魔族は失意の底に沈んだ。
  
 そして、王妃リリスは魔王を名乗った。

わらわがこれより魔王となろう。皆、妾を補佐するように」

 魔王アスタロスの妻だ。そしてリリスは強い。誰も文句など言えるはずもない。
 

 それからの魔都シルヴァニアは散々だった。
 新魔王リリスはとんでもない暗君だった。

 魔王自らが散財し国を傾け、モレクの父を含む三人の息子が国を立て直す。
 
 リリスは淫婦だった。しかし、美しかった。
 夜な夜な若い男を部屋に招き、度々子を産んだ。
 

 五百年ほど前。
 鬼族と人族の間に産まれた子が、鬼族に壊滅的な被害を与えたという報が魔都に届いた。
 後に鬼人と呼ばれるその子は、高すぎる魔力により自我が制御できず、その破壊衝動から暴れ回った。

「聞いたかぇ皆。鬼族を討ち滅ぼす好機ぞ」

 すぐにリリスの命により、鬼族討伐隊が編成された。
 
 結果は、暗君リリスの名を更に落とす。
 鬼人一人により討伐隊は壊滅的な被害を被った。
 事態を重く見た三人の息子は、鬼族の精鋭と共に鬼人を封印した。
 

 鬼族と魔族は疲弊していた。
 これからは国を復興させなければならない。

 しかし、暗君リリスは違った。

「異なる種族の子は兵器になるぞぇ。妾も人族との子を作る。若い人族を妾の前に連れて来るがよいぞ」

 そして、三十年ほど前。
 魔人『マモン・シルヴァニア』が産まれた。

 モレクはマモンのお付きとなった。
 魔王リリスは子育てなどしない。マモンをモレクと乳母に押し付け、また人族の男との快楽に溺れる毎日を過ごし始めた。
 

 モレクは男に生まれながらも、心は女だった。しかし、誰にも言えない。そんな生活をもう千年以上もしている。
 しかも、暗君リリスのお付きでモレクの心は限界を超えていた。

 そこに来てのマモンの世話だった。
 リリスからの開放の喜びと供に、この産まれたての赤ん坊がモレクに母性を芽生えさせた。
 乳母と共にマモンを可愛がった。
 

 ◆◆◆
 

 マモンは、その異常なまでの魔力の高さとセンスで、十歳なる頃には誰も敵わないほどに魔法を使いこなしていた。
 しかし、闘争心が無かった。マモンは優しすぎた。人を傷つけられない者は、戦場では役に立たない。

「お前は欠陥品ぞ。今後、妾の前に姿を見せるな」

 十歳の子供がそんな事を母親に言われる。
 誰でもマモンが心に負った傷の大きさが分かるだろう。

 おとなしいマモンは更に塞ぎ込んだ。
 

 ある日の事。

「マモン様を見なかったか?」
「いえ、今日は見てないですね」
 
 モレクは、乳母からそのままマモンの使用人になったエナリアの部屋に行った。

 すると、エナリアの服を着たマモンがそこに居た。マモンはそれを見られたショックで言葉が出ないようだった。

 モレクは部屋の鍵を締め、シーッと人差指を口の前に、マモンにジェスチャーした。

「マモン様、女の子の服を着たいという気持ちは、悪いことじゃありませんよ」
「ホントに……? ワタシ、男なのに悪いことしてない?」
「マモン様にだけ言うわね、私もなの。私も男に生まれたのに、心は女なの……」

 モレクの中で何かが弾けた。
 全てが開放された気がした。
 二人は抱き合って泣き続けた。

 それから、マモンとモレクは二人でいる事が多くなった。マモンはモレクの前だけでは明るくなった。

 エナリアに二人で打ち明けた。
 エナリアは受け入れてくれた。辛かったですねと共に泣いてくれた。
 二人でエナリアの服を着せてもらって、三人で紅茶を楽しんだりもした。
 

 マモンが15歳になった頃、魔都を出たいと言うようになった。母親への愛は、リリスの一言で憎悪に変わっていった。
 暗君リリスの体制になった後に生まれた子供達には愛国心が無い。人族の国に流れる魔族は珍しくなかった。

「分かりました。一緒に人族の国に行きましょう」

 二人の唯一の理解者である、エナリアには言わなければいけない。

「エナリア、私達二人で人族の国に行くことにしたの。エナリアはどうする?」
「私は、マモン様の使用人です。マモン様のいないこの城には留まる理由がありませんよ。国に帰ります」
「エナリア、本当にありがとう。ワタシが心を壊さずに生きてこれたのは、モレクとエナリアのお陰……元気でね」

 こうして二人は、魔都シルヴァニアを出てウェザブール王国に向かった。
 

「マモン様、これからのことですが……」
「ねぇ、モレク。マモン様なんてやめて。これからはワタシたち二人で生きていくんだから」
「そうですか……えぇ、分かったわ。よろしくねマモン」
「ええ、それでいいわ」
「じゃ、色々調べた事を言うわね。人族の町で一番大きいのは王都なの。でも、検問を受けなくちゃいけない。ここから一番近い『ノースライン』で冒険者のランクを上げてから、王都に行くのが一番スムーズかもね」
「えぇ、ワタシは分からないから、モレクに任せるわ」

 まずは王国の最北端、ノースラインに向かった。そこでAランクの冒険者のカードを作り、ウェザブール王都に向かった。


 魔都とは全く違う、賑やかで華やかな街。ここには沢山の人がいる。
 ここでは、多様なセクシャリティが認められている。二人はここで生まれ変われる、二人はもう自由だ。
 
 ある日二人は、ショーパブと呼ばれる場所に行った。女装して華やかな化粧をして踊る男性。皆、堂々としてる。

「モレク……ワタシ達の居場所はここじゃない?」
「うん、そうね、ここなら自分を開放できるかもしれないわ」

 二人はショーパブで働き始めた。
 派手な赤い髪で、一年で売れっ子になった。

「ねぇ、ワタシ達二人でショーパブを作らない? 昼は冒険者で、夜はショーパブでショーをするの」
「いいわね。先ずは資金を集めましょ」
 
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