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第三章 大陸冒険編
醤油の虜
しおりを挟むレトルコメルス最後の朝。
ホテルの朝食を楽しむ為に、少し早く起床してレストランに向かった。
皆考える事は一緒らしい。
「ユーゴ、おはよう!」
「やっぱり、ここの朝食は皆楽しみたいよな」
「うん、当分食べられないと思うとね」
「野営の料理も美味いんだけど、やっぱり最後はな」
これから王都に向かう。
四人の浮遊術なら二日ほどの道のりだろう。
「さぁ、向かおうか。ここじゃ結局あいつらは居なかったな。数年間は滞在してたって情報を得ただけでも良しとするか」
「王都は魔都に近い。魔人達の拠点が魔都なら、情報がある可能性は高いね」
ホテルをチェックアウトし外に出た。
浮遊術に練気を混ぜて、超高速で移動する。陸の敵の相手をする必要はないが、晩飯の調達は必要だ。
「あー! でっかい牛がいるよ!」
「お、ホーンオックスだな」
ジュリアは大きな牛の魔物の名前を知っていた。
「すき焼きだー!」
久々に龍胆を持っている。
浮遊術で体が軽い。
その上自然エネルギーで更にパワーアップした強化術を施している。体が綿のように軽い。
このスピードで繰り出す斬撃は、自分でも恐ろしい。
『剣技 斬罪』
強く地を蹴り、一瞬で間を詰める。牛の魔物、ホーンオックスを横から袈裟斬りに首を刎ねた。
「処理しとくよ。周りの魔物狩っておいてよ」
いてもBランク程度の魔物だ、彼等の相手にはならない。
一日の移動距離が今までの比ではない。たまに見かける冒険者や商人に二度見される。四人の移動速度は異常だ。
いつも通り日が暮れる前には野営地を見つけなければならない。気にしながら移動していると、緩やかに流れる河原を見つけた。
彼等の野営地は水風呂があるかどうかで決まる。いい川や湖があれば早く切り上げる。
「今日は僕がご飯を担当するよ。昨日ジュリアに、龍族のご飯を作るって約束したんだよ」
「じゃ、オレはサウナの準備するかな」
「私達はテントの設営だね!」
「了解だ! アタシは今日から洗濯を担当するよ! 皆、早く水着に着替えな!」
――なんだと……?
「ジュリアがしてくれるのか……?」
「あぁ、エミリー教えてくれよ」
「どうしたの……ジュリア」
「アタシはこの旅で変わるよ!」
何があったのか、ジュリアが張り切っている。
皆の仕事が終わった頃には、サウナの温度は適温。ユーゴはもう既に汗だくだ。
一足先に川に飛び込んだ。
「ユーゴ! フライングはダメだよ!」
「やってみろよ! 火入れは熱いんだよ! 今は夏だぞ!」
「そうなのか……今度教えてよ!」
皆でサウナに入り、川に飛び込む。
リクライニングチェアも一脚追加している。皆で並んで休憩した。
気持ち良すぎて皆は一言も発さない。もう、サウナに言葉は要らない。
「さて、飯にするか」
「そうだね、火を入れよう」
「ジュリア! ごはんだよ!」
「ん……あぁ、寝てたよ……」
具材の準備は済んでいる。
鍋に火をつけた。
「ジュリア、これがすき焼きだよ。生卵につけて食べてみてよ」
「え……? 生の卵に……? こんなにいい匂いなのに、台無しにしないか?」
「いや、生卵ありきなんだよ、すき焼きは」
「これがホーンオックスの肉か。随分薄く切るんだな」
ジュリアが肉を口に入れた。
「うんまぁぁ――! なんだよこれ!」
すぐに目を見開き、歓喜の叫びを上げた。
「な? オレ達の大好物だ。ちなみに、龍王の大好物でもある」
川でお酒を冷やしている。
トーマスが水から上げ、ジュリアに振舞った。
「これが龍族のお酒だよ。大吟醸を振る舞おう」
「うまぁー! すき焼きに合うなこれは。香りがいい」
ジュリアも醤油の虜だ。
いつか里に招待したい。
「ジュリア、昨日買った麺出してくれる?」
「あぁ、これのことか?」
「見てくれよ二人共」
「これは……うどんか!」
「あぁ、フェンリル戦で小麦粉使っちゃったからね。里の小麦粉じゃないとイマイチなんだよね」
「ジュリア、まずは食べてくれ」
「パスタにしては太いな」
ジュリアは上品な国の出身だ。麺をすするのに音はたてない。
「うんまぁァァ――! すき焼きの旨さを全てこの麺が吸っているな!」
「いやぁ、最高だなすき焼き……ジュリアも気に入ってくれて良かった」
大満足の食卓に、ジュリアは恍惚の表情を浮かべ吟醸酒を口に運んでいる。
ここまで喜んでくれると作り手冥利に尽きるというものだ。
サウナ後にそのまま置いていたリクライニングチェアで、食後の微睡みを楽しんだ。
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