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第三章 大陸冒険編
ジュリアとトーマス 2
しおりを挟むジュリアが試着室のカーテンを開くと、トーマスは目を見開き口を開け、驚きの表情を浮かべた。
――やっぱり……おかしいだろこの格好は……。
ジュリアの思いとは裏腹に、トーマスは興奮気味に喋り始めた。
「ジュリア……凄く似合ってる……想像以上だ……じゃ、靴も選ばないと! いきなりハイヒールはきついかな? こっちのかかとが少しあるサンダルにしようか」
サンダルに履き替え、店内をうろつく。
まぁ歩けなくはない。
「ジュリア。もの凄く似合ってる! ペンダントもつけてみよう! あと、もう三着くらい着てみようか!」
――なんかトーマスの変なスイッチが入った……。
「いやぁ、ジュリア。オシャレしないと勿体ない、この服は全部僕がプレゼントするよ。今からこれ着てランチに行こう」
「え!? こんなの着て外に出るのか!?」
「うん、ジュリアは背が高い上に、スタイルが抜群に良いんだ。そして美人だ、皆が振り向くよ」
――えぇ……水着で歩くほうがまだ良いぞ……。
トーマスには、ジュリアの言う変なスイッチが入っている。従う他ない様だ、と観念して外に出た。
「良さそうな店見つけたんだ。そこに行ってみよう!」
買ったワンピースをそのまま着て街を歩いている。
道行く人々にチラチラ見られてる。物凄く見つめられる時もある。
「ほら、皆がジュリアに見惚れてる」
「変なものを見る目じゃないのか……?」
身なりの良い太った中年男性が近付いて来た。
「すみません、お時間よろしいですか? 私、こういうものですが」
名刺には、モデル事務所と書いてある。
「もうどこかに所属してらっしゃるんですか?」
「いや……まぁ所属はしてる……かな……?」
「そうですか……そりゃそうですよね……もし、気が変わりましたら連絡してくださいね!」
その後、三人の中年男性に声をかけられた。
「何だこれは、凄く面倒くさいぞ」
「モデル事務所が声かけて来るくらい綺麗だって事だよ。次からは無視すればいい」
その後、数人の男達を無視し、ようやく店に着いた。
「ここだ。ジュリアは辛い食べ物いけたよね?」
「あぁ、辛いものは好きだ」
「なら良かった。ここのスパイス料理が美味しいんだ」
中に入ると、皆が手を止めてジュリアに注目した。
「何でこっち見るんだよ……変なもの見るみたいにさ……」
「僕も今のジュリアが入ってきたら見るかもね」
料理はスパイスが効いた肉やスープだ。
「これは美味いな。辛さがちょうどいい」
「でしょ? ここの料理好きなんだ。さっきスパイスも買ったよ」
「これを外で、しかも新鮮な肉で食える訳か。贅沢だな」
鼻に抜ける様な爽快感。ジュリアは初めてのスパイス料理を堪能した。
「僕、このあと何も考えて無いんだけど、ジュリアは予定立ててた?」
「いや、今日はカジノまで何しておこうかなと思ってたくらいだ。全く考えて無かったな。むしろ夜もカジノをやめて、バーってとこに連れて行って貰いたいくらいだ」
「本当に? じゃ夜はバーに行こうか。夕飯は冒険野郎かな? じゃ、この街フラフラしてみようよ」
店を出て少し歩いてみた。
男とデートなど、ジュリアには初めての経験だった。
「本当、ここは賑やかだよね。王都に行ったことないけど、王都も賑わってるの?」
「いや、王都はもう少し上品な気がするな。アタシはこっちの方が合ってるな、いい街だ」
レトルコメルスの中心。
石造りの立派な建物が見えた。
「あ、ここが領主の屋敷だね。大きいでしょ? あ、そうか。ジュリアはもっと大きな城に住んでるんだもんね……」
「あぁ、あのでっかい城に住んでるワケじゃないけどな。仙神国に来たらアタシにはあの国は合わないって分かるだろ?」
「うん、そうだね……でもジュリアには、自分の中にブレない芯があるよね。カッコいいと思うよ、尊敬する」
――ん……? なんか胸のあたりに違和感が……。
「痛っ……」
「どうしたの? あぁ、慣れない履物を履かせちゃったから靴擦れしてるね。ちょっと待ってね」
『治療術 再生』
綺麗に治った。
龍族の回復術は、仙族のそれとは効果が違った。教えてもらわないといけない。
「もう大丈夫だ。慣れるまでは靴擦れしちゃうかもね……どうする? 着替えるかい?」
「いや、せっかくトーマスが選んでくれたんだ。このまま歩くよ」
「そう? 無理しないでね?」
まただ。
胸のあたりがグッと締められる様な感じがある。
――何だこれは……すぐに治まる。
このサンダルにも慣れてきたか。違和感もなくってきた様な気がする。
その後も色々な話をしながら歩いた。
「あ、ここの紅茶は美味しいよ。靴擦れの事もある、少し休憩しようか」
「アタシは紅茶にはうるさいぞ?」
テラス席に座り、紅茶をオーダーした。
すぐに運ばれてきた紅茶は凄く香りがいい。
「あ、これは美味いな」
「でしょ? もちろんここの茶葉も買ってるよ。飲みたいときは言ってね」
「抜かりないなトーマスは……」
気配りから何から、本当に何でもできるトーマスに関心すると共に、自分のだらしなさが少し恥ずかしくなってきた。
「トーマスは本当に何でもできる奴だな。アタシみたいな奴がパーティに入ってきてイライラしないのか?」
「イライラ? 何で?」
「いや、アタシは何も出来ないだろ? 何で俺がしなくちゃならんのだ! とか思わないのか?」
「ジュリアが何もできない? 何の冗談だい? 戦闘能力はうちのパーティーでトップじゃないか」
トーマスは真っ直ぐにジュリアを見つめてそう言った。
「……いや、そういう事じゃ無くてな……料理は任せっぱなしだし、シャツもスボンも洗ってもらってるし。流石に下着は自分で洗うが……」
「食材を狩ったり、テント張ったりしてくれてるじゃないか。気にしなくていいよそんな事。できる者が出来る事をすれば良いんだよ」
「……お前は聖人だよ、ホント。アタシもシャツ洗ったりしてみようかな。ママにもアタシのだらしなさ、ずっと注意されてたからさ。この旅で直すのも良いかもな、いい手本がいるからさ」
「んーまぁ、新しいことにチャレンジするのは良いことだと思うけど、人には向き不向きがあるからね。僕は小さい頃から家の事してたから当たり前ってのもあるけど、基本的に好きなんだろうね。アドバイスはするよ、とりあえず頑張ってみようか」
「あぁ、よろしく頼むよ」
何故だろう。母親に言われ続けて直らなかった事を、自分からやってみようなどと言ってしまった。まぁ、何事もチャレンジだ。
トーマスと喋るのは楽しい。
ジュリアの興味を引く話を探り出して楽しませてくれる。博識なトーマスに尊敬の念が芽生えた。
「あ、色々ショッピングしてたらもうこんな時間だよ。あっという間だったね」
「え? あぁ、ホントだな。日が沈みかけてるな」
「歩いて帰ってちょうどいい時間だね。帰ろうか」
「あぁ、二人も多分、冒険野郎にいるだろ」
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