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第三章 大陸冒険編
仙術の基本
しおりを挟むさて、レトルコメルスに向けて移動だ。
二日はかからないだろう。
「オレらは高速移動で走るんだけど、仙族はどう移動するんだ?」
「アタシたちは基本的には浮遊術だね。走って移動もするよ」
魔人とシュエンも浮遊術を使っていた。仙族だけの力という事でも無さそうだ。
「僕らも出来るようになるのかな?」
「あぁ、別に仙族の特殊能力じゃないよ。訓練すれば出来るはずだ。お前らはどういう術で移動するんだ?」
「私達は練気術で高速移動するんだ! 空も駆けるよ」
「レンキジュツ?」
「そうだ、移動しながらお互いの術を教え合わないか? お互いの戦闘力が上がりそうだ。じゃ、まず今日の野営地を探してそこで話そう!」
四人で走って北へ向かう。
ペガサスやユニコーンの捕獲も忘れない。今日の食料と依頼品の採取だ。
ジュリアの戦闘はまだ見ていない。まずは三人の戦闘を見学したいらしい。
日が西に傾きかけている。
いい感じの湖がある。特に強い魔物の気配は感じない。ケルピーの例がある、邪魔はされたくない。
「ここにするか。まだ日没までには時間があるな。ジュリア、仙族の戦闘法を教えてくれるか?」
「分かったよ!」
ジュリアの講義が始まった。
「アタシたち仙族は『仙術』で戦う。その基本は『呼吸法』にある。仙術は自分の魔力や気力に自然のエネルギーを取り込んで発動させるんだ」
――自然のエネルギーか。壮大だな……。
「焚き火をしているときの火や、水浴びの水、吹き当たる風、陽の光や月の明かり、全ての自然エネルギーを呼吸で取込み、全身に蓄えておくんだ」
その呼吸法が出来るかどうかだ。教わってすぐにできる様な事ではなさそうに感じる、
「例えば、火魔法は魔力を火属性に変換させて放つだろ? 仙術は、火のエネルギーそのものを魔力と共に放つ。浮遊術は、風のエネルギーを浮力に使う。飛んで移動するから常に風を感じるだろ? それを普段の呼吸で取り込むから、風のエネルギーが切れることなく飛び続けられるんだ。すごく簡単に言えばそういう原理だ」
「その呼吸法、僕らもできる?」
「コツさえ掴めば大したことはないんだけどな。呼吸は誰でもするもんだから。知らずに使ってるかもしれないぞ?」
――へ? どういうことだ?
「お前ら、無意識に風属性の術を多く放ってないか? 火や水に比べて、風は一番身近なんだよ。常に感じられるからな」
「確かに、風属性が圧倒的に多いかもな……」
「この呼吸方は鼻から吸って自然エネルギーを取込み、口から吐くのが基本だ。まずは意識して風のエネルギーを感じてみてくれ、深呼吸すれば分かりやすい。魔法が使えるお前らなら無意識に自然エネルギーを感じているはずだ」
目を瞑り、身体全体に当たる風を感じる。耳で音も感じる。鼻で大きく息を吸ってみる。肺が大きく膨らむ。
――なるほど、これの事かな。
「肺の中に風属性の魔力に似たものを感じるな」
「うん、そうだね。分かるよ」
「あ、ホントだ。これの事か」
「そうだ。それを肺から体内に取り込むんだ。身体の中心に溜め込むイメージだ」
属性の魔力を思い浮かべると、とても分かりやすい。分かれば扱いは同じだ。
「うん、風のエネルギーが身体の中にあるのを感じる」
「それを気力と混ぜて浮力に変えるんだ。すると、体が浮く感じを得られるはずだよ」
風エネルギーを気力と混ぜる。
いつもの様に練り込む感じで良いだろう。
すると三人は、浮くというよりも身体が空に打ち上がった。
「は!? お前ら何した!?」
三人は高く打ち上げられてから駆けて降りてきた。
「あぁ、ビックリしたよ……」
「何が起きた……?」
「多分だけど、僕らは自然エネルギーを気力にじゃなくて『練気』に混ぜたんだよ。いつもの癖でね……」
「なるほど。混ぜる練気が多すぎたのか……じゃあ、これをいつもみたいに練気を小出しに使えばいい訳か」
集中だ。
練気を小出しにして、風エネルギーに混ぜ込む。
――おぉ、身体が浮いた!
「浮いたぞ!? なるほど、練気の量の調節で飛べるんだ」
「なるほど、体が軽いね。この状態で迅速かけたら相当早く動けるね」
「うん、練気術と仙術ってすっごく相性が良いのかも」
「おい! アタシにもその練気術っての教えてくれよ!」
ジュリアは飲み込みが早かった。練気術をすぐに体得した。
「おぉ、これはすごいな……体中にパワーが漲ってる……これを自然エネルギーに混ぜたら凄そうだ。とりあえず浮遊してみるよ」
と言って、ジュリアは空高く打ち上がった。
「ほら! そうなっちゃうよな!」
「あぁ、ビックリした……練気術凄いな……」
「お互い教え合ったら、私達もっと強くなるよ!」
錬気の基礎術も仙術も基本は似ている。ユーゴ達もジュリアも、そこまで苦労しなさそうだ。
明日以降、移動しながら各自練習することにした。
「よし、いい汗もかいたし、入りますか!」
「じゃあ、僕はご飯の用意するよ」
「私とジュリアは寝る用のテント張るね!」
「寝る用の……? 他に何があるんだよ」
各自作業に入る。
ストーブに火入れし、テント内は温度十分。エミリーがリクライニングチェアも設置した。ジュリア用にもう一脚買わないといけない。
皆が水着に着替えた。
「おいおい、何するんだよ。湖で水泳か?」
ジュリアの水着姿は眩しかった。
しなやかな筋肉で引き締まった体、腹筋は見事に割れている。着痩せするタイプらしく、胸がはち切れんばかりだ。
エミリーも新しい水着だ、可愛いらしい。
「こら、二人共。エロい目でジュリアを見ないでくれる……?」
「おいおい、水着姿を見たいがために着替えさせたのか?」
二人の冷たい目で我に返った。
「ささっ、どうぞどうぞ! 最高の状態でございますよ!」
四人でテントサウナに入る。四人でちょうどだ、五人はキツいだろう。
焼けた石に水を掛ける。
『ジョワァァァ……』
「うぉー! あっつ! 火傷しないかこれ!?」
「大丈夫。このあとご褒美が待ってるから!」
汗だくで外に出た。
そのまま湖にダイブ。
「ふぅ……冷たい……ん? 暖かくなってきたぞ?」
「そうなんだよ、不思議なんだこれ」
湖から上がり、リクライニングチェアに寝転ぶ。ユーゴは近くの岩に座った。
「これは……おいおい……確かにヤバいな……」
「はい、ジュリアもハマったね!」
数セット終え、シャツに袖を通す。
「いやぁ、考えを改めざるを得んな。サウナ後のシャツは別物だ。これからは毎日洗って着替えるよ」
「ついでだから僕が洗うよ。ジュリアはそもそも洗うという行為が苦手そうだ」
「トーマス、よく分かってるな。その通りだ、頼むよ!」
しっかりととのい、トーマスが下ごしらえしていた食材に火を入れる。アツアツのうちに頂こう。
「今日は馬肉の照り焼きと、馬刺し、生レバーだ。ワインも湖で冷やしてるよ」
「え……馬の魔物を生で食べるのか……?」
「美味しいんだよ! 塩でたべてみて!」
ジュリアは、恐る恐る馬刺しを口に入れた。
「うんまっ! なにこれ! 生レバーもうんまっ! てりやきも! うんまっ!」
目を輝かせて馬のフルコースをワインで流し込んでいる。
「こりゃ楽しい旅になりそうだ……」
「お口に合って良かったよ」
「トーマス、アタシの旦那にならないか!? あっ、だめだ、人族に手出したらお祖父ちゃんに怒られる……」
「トーマス、ジュリアの苦手なこと全部してくれそうだもんな……」
食事を終え、焚き火を囲みワインを飲んでいる。
「ジュリアは何歳なんだ?」
「44歳だよ」
見た目は人族で言うところの二十歳過ぎくらいか。ユーゴ達より少しお姉さんといった感じだ。
「アレクサンドとは異母兄妹なんだ。千歳くらい離れてるしね」
千歳差。感覚ではもう兄妹って感じでもなさそうだ。
「冒険者のランクは?」
「SSランクだ」
「オレたちも数日前SSになったんだ」
「SSの四人パーティって凄いよね、多分」
「うん、何でも倒せる気がする。あ、今晩見張りしながら、皆の武具の整備しとくよ」
トーマスはヤンガスの元で武具の整備を叩き込まれた。新しい体皮が手に入れば革のなめしもできるらしい。今の防具の革の交換もお手の物だ。
ユーゴはトーマスと交代で見張りだ。
ジュリアにも荷物持ちをしてもらってる。ゆっくり休んでもらおう。
トーマスに武具を渡し、先に休んだ。
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