56 / 253
第三章 大陸冒険編
ジュリエット
しおりを挟む「ジュリエットよ、お前は口には出さんが、また世界を旅したいのだろう?」
「え……? そりゃ行きたいけど……」
「行ってくるか?」
「え!? いいのか!?」
「この者らさえ良ければ、連れて行ってもらえばよい」
「えー! お祖父ちゃん大好き!」
ジュリアは仙王に抱きついた。
仙王は目尻をだらしなく垂らしている。
――デレデレじゃねーか仙王……。
「でも、エミリーは良いだろうけど……ユーゴとトーマスは嫌だろう?」
「いや、オレは問題無いですよ? エミリーの恩人だし。話に聞いた通りのいい人だ」
「僕も文句はないです。ジュリアさんみたいな明るい人が一緒なら、よりパーティが明るくなる。旅は楽しい方がいい」
「私は言うまでもないよ! 行こうよジュリア!」
「本当に!? 本当について行っちゃうよ!?」
突然の提案で驚いたが、ジュリアがパーティーに加わる事になった。
「あぁ、行ってこい。もしアレクサンドが悪事を働くような事があれば、お前らの手で仕置してこい」
ジュリアは満面の笑みで首を縦に振っている。
「よし、他に聞きたい事はあるか?」
ユーゴが挙手し、発言を求めた。
「オレの父と魔人とアレクサンドが、宝玉というものを求めてリーベン島に来たんです。ここには来てませんか?」
「あぁ、手紙に書いてあったな。さすがに仙族と人族全てを敵に回してまで乗り込んで来んだろう。宝玉は我の空間魔法で管理している。そうだ、我の空間をジュリエットの空間と『契約』させておこう。我に万が一があれば、外界のジュリエットに宝玉が行く。万が一など無いがな」
「……契約?」
「あぁ、空間魔法は本人が死んだらそのまま消えてしまうんだよ。そうならないように、信頼する人の空間に移動するよう『契約』するんだ。アタシは、ママと相互契約を結んでいる」
「我は今、息子のライアンと相互契約している。良く考えれば同じ所にいるものに飛ばしても意味がない、飛ばすなら外界が良い。ジュリエットが帰ってきたらライアンと結び直そう」
そう言って、仙王とジュリアが契約とやらを結んだ。
「そうなんだ、こないだ私も疑問に思ったんだよ。じゃ、私はジュリアと契約しようかな!」
「おいおい、何言ってるんだよ。もうアタシと契約したじゃないか」
「え……? そうだっけ?」
「この話もしたぞ? 寝ぼけてたのか?」
「全然覚えてない……まだ小さかったからかな?」
「あぁ、そうかもな。会った時は七歳とかだったもんな」
とにかく、仲間が増えた。
楽しい旅になりそうだ。
「よし、いい時間だ。君たちに昼食を用意している、食べて帰ってくれ」
「え? 良いんですか?」
今座っている円卓に、ナイフとフォーク、ナプキンなどが並べられた。
――これはもしかして……。
例の難解な料理だ。
昨日の練習が役に立ちそうだ。
「前菜の、クルスティアン・デゥ・フロマージュでございます」
――昨日より何言ってるか分からないぞ……。
見ても何の料理か分からない。これが王の食事らしい。
次々と運ばれてくる難解な料理を、皆と笑いながら楽しんだ。ジュリアは明るい女性だ。旅が明るく楽しくなるのは間違いない。
食事を終え、紅茶を楽しんでいる。高級茶葉だろう、香りが素晴らしい。
「魔人達の目的は何なんですかね?」
「昔、アレクサンドに宝玉の話をしたことがある。我も集めると何が起こるかは知らんがな。それを思い出して世界を周っているんだろう。数人で国を攻めるのは無理だと、国の規模が小さい龍王の所に聞きに行ったんだろうな。今の所そこまで悪事を働いているわけでは無い。アレクサンドの事だ、何をし始めるか分からんがな」
――ほんと仙王は、見たように話するな……。
「これから旅をするなら、王都に行く事もあるのか?」
「そうですね。オレたちの目的は魔人達を探すことです。王都は魔人の噂が一番聞けそうですから」
「そうか……ならば……いや、まだか」
「えっと……何か?」
「あぁいや、なんでも無い。こっちの話だ」
仙王は何かを言いかけてやめた。気になるが問い詰める訳にもいかない。
「では、二人の王への手紙を書いておこうか。会いたければ会うがいい」
「本当ですか? ありがとうございます」
「あと、エミリー。君は青い眼を隠している様だが、我はその眼を人族に晒す事を禁止してはおらんぞ? ジュリアの十年は人族として生活させるために隠させたのだ」
「私が眼を隠してるのは、この眼を見られるとトラウマが蘇るからなんです。信頼するユーゴとトーマスに見られただけでも過呼吸で倒れたくらいだから……」
「なるほどな……我が定めた規律で苦しむ者が出ようとはな……悪い事をした」
「アタシもこれから隠して旅するよ! 前回の十年間もそうだったけど、その方が生活しやすいんだ。この青い眼は目立つからね」
紅茶もおかわりし、十分に楽しんだ。長時間居座るのも気が引ける。
いい話を聞けたし、仲間もできた。お暇しよう。
「仙王様、いきなり押しかけた上に食事まで頂き、ありがとうございました」
「いや、我も楽しめた、また来るがいい。ジュリエットを頼む。なかなか強いぞこいつは、仙族が誇る天才だ」
「はい、ジュリアさん、改めてお願いします」
「おいおい、仲間になるのにその堅苦しい話し方やめてくれよ! エミリーと話す様に喋ってくれ、ジュリアでいい」
「分かったよ。よろしくなジュリア! んじゃ、行くか!」
仙王に礼を言って城を後にした。
1
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる