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第三章 大陸冒険編
仙神国オーベルフォール
しおりを挟む次の日、夕方前には目的地に着いた。
仙王が治める国『仙神国オーベルフォール』だ。
自然に溶け込むように、石造りの建物が綺麗に並んでいる。遥か先に見える大きな山々、その麓に広がる広大な湖に浮かぶ、あの城が仙王の居城だろう。
「これは綺麗な国だなぁ……あの聳え立った城、異世界に来たみたいだ……」
「ここがジュリアの国かぁ。会えるかな」
「じゃ、まずはホテルにチェックインしようか。その後、城の門番に里長の手紙と僕らのホテルの部屋番号を渡そう。返事がホテルに届くはずだよ」
さすがトーマスだ。
段取りをすぐに提案してくれる。
適当なホテルにチェックインし、仙王の城に向かう。
かなり大きな町だ。城まで一直線に伸びる美しく舗装された大通りには、夕刻にもかかわらず多くの人々が行き交っている。
皆、眼が青い。髪色はまちまちだ。
大通りの幅そのままに、湖に浮かぶ城までを繋ぐ橋を渡ると、立派過ぎる石造りの門が出迎えた。二人の門番に声を掛ける。
「こんにちは、龍王様の手紙を届けに参りました。仙王様への取次をお願いします。私共の宿泊先の部屋番号もお渡ししておきますので、お返事はこちらにお願いします」
「龍王殿からの……。こちらでお預かり致します」
手紙には里長の魔力が込められている。
必ず仙王の元に届けられるだろう。
街を散策しよう。
日が沈み始め、街灯が灯り始めた。大通り沿いの店の灯りが、賑やかに歩く人々を照らす。
「一通り歩いたな。ホントに綺麗な街だなぁ。でも、そろそろ腹減ったな……」
「門番さんにおすすめ聞けば良かったね」
ホテルへの帰り道、三人でキョロキョロと店を探すが、選びきれない。
「店選びは、エミリーに任せる! 何せあなたは大富豪だから!」
「んー! 責任重大だね……。ココだー!」
エミリーが適当に選んだ、門構えから高そうなお店に入る。冒険者丸出しな格好の場違いな三人に、華美な服装の人々の視線が刺さる。
ユーゴとトーマスは怯んだが、エミリーは案内に付いていく。ペコペコと頭を下げながら円卓に案内され、席に着いた。
「いらっしゃいませ。当店はおまかせのディナーコースのみとなりますが、宜しいでしょうか?」
「えぇ、大丈夫よ」
エミリーがすまし顔で答えた。
一品づつ運ばれて来るシステムのようだ。
「こちらは前菜の、パテ・ド・カンパーニュでございます」
――は? 何だって……?
両側に並んだ食器の数々、何故こんなに並んでいるのか、使い方も分からない。
「皆、食器は外側から使うのよ」
さすが王都の貴族出身。ナイフとフォークは外側から……なるほど。
――うん、何か分からないけど美味いな。
「お次は、エビのビスクでございます」
――ビスク……? 何だ? あぁ、スープか。ならそう言えよ!
「本日の魚料理は、マグロのポワレ・ミィキュイでございます。こちらの白ワインと共にお召し上がりください」
――もう、分からん。何だ? マグロの炙りか?
旨い。ワインとの相性も抜群だ。
エビにマグロ、この国は海にも面しているらしい。
「ソルベでございます」
――そるべ……?
シャーベットが出てきた。
――うん、なんでこのタイミング? まだ、あるよな?
「お口直しよ」
なるほど、エミリーが珍しく上品だ。
「続いて、肉料理でございます。仔ペガサスのロティ・ソース・マデラでございます。お次はこちらの赤ワインで」
もう、ペガサスの肉である事しか分からない。焼き加減といい味付けといい、絶品だ。
メインを飾るに相応しい。
「デザートです。フォンダン・オ・ショコラでございます」
名前は難解だが、これも美味い。
全てを食べ終わると、シェフが出てきて深々と礼をして語りかけてきた。
「お口に合いましたでしょうか?」
「えぇ、とても美味しかったわ。ごちそうさま」
エミリーの振る舞いが貴婦人のようだ。
「ではお会計をこちらでお願いします」
「私が支払うわ。あなた達は外に出てなさい」
「いいのか? ごちそうさま!」
支払いを終えたエミリーが出てきた。
「あぁー! 緊張した!」
「緊張してたのかよ。堂々としてたけど」
「半分以上何言ってるか分からなかった……」
「オレらには大衆酒場が合ってるんだな……」
美味かった。けど、食べた気がしない。
ユーゴとトーマスには上品過ぎた。
ホテルに戻ると、フロントから手紙を渡された。
「何て書いてある?」
「明日の朝に使いをよこすから、一緒に城に来いってさ」
「対応が早いなぁ。さすが里長の手紙」
「んじゃ、ゆっくり休むか。また明日な!」
「おやすみー!」
明日は仙王に会う。
度の疲れはさほど無いが、身体を包み込むフカフカのベッドで深い眠りに落ちた。
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