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第三章 大陸冒険編
SSランクの昇級祝い
しおりを挟むこの町の中心に位置する一際目を引く石造りの建物。
領主の屋敷の門番に毛皮を見せるとすぐに中に案内され、執務室へと通された。
「ほぉ、これはずいぶん若い冒険者が討伐してくれたものだな。屈強な戦士を思い浮かべたが……しかも三人で行ったのか?」
30代半ばくらいだろうか。グレーヘアーを自然に分けた、柔和な表情の男が出迎えた。
緑色の眼、仙人だ。
「私はレトルコメルス領主『オリバー・リオン』だ。まさか、龍族に仙族と仙人のパーティとはな。強いはずだ」
「オリバーさんも仙人なんですね」
「あぁ、この国は実力主義だ。王都の上層はほぼ仙人に昇化している。各町の領主も仙人に昇化したものが配属される。でなければ、いざこざを解決出来ない事もあるからね。数人の仙人がいる」
「なるほど、これだけでかい町だ。色んな事があるでしょうね……」
「では、報酬を概算しよう。おい! 頼む!」
頭の良さそうな老人が計算している。
「はい、端数を切り上げましょうか。540万ブールですね」
「えー!! そんなにもらえるんですか!?」
「やったー!!」
「当たり前だ、あのレベルの魔物だぞ。魔晶石も質がいい。が、これはフェンリルの物では無いだろう?」
「そうですね、フェンリルの魔晶石の方が上質なので交換しました。それはコカトリスの物です」
「そうか、それで少し値は落ちるな。普通は600万くらいだ」
――凄いなSS……。
一人180万ブール。
無一文のエミリーは、十分過ぎる程のカジノ資金が手に入ると目を輝かせている。
「では、SSランクに書換えを致しますので、カードをお預かりします」
冒険者カードを提出すると、直ぐに手続きを始めた。老人は「おや?」と言うと手を止めて、三人の方に振り向いた。
「銀行との連携が済んでいないようですが、如何致しましょう?」
「連携?」
「冒険者カードを銀行と連携して頂きますと、報酬をそのまま振込することができます。あとはお店でお金を持たずとも、冒険者カードで支払いができます」
「そんな便利な機能が! ゴルドホークではなかったですね」
「あぁ、ゴルドホークは近日導入予定ですね」
「勿論お願いします!」
エミリーは露骨に嫌な顔を老人に向けた。
「……私は嫌だね。現金払いじゃないと気持ち悪いし」
「そうですか……SSランクのカードですと、無利息で融資することができますが?」
――なんだと!?
エミリーの顔がパーッと一気に晴れた。
「連携してください!」
「いや、この子は大丈夫です!」
「何でよ! 最高のカードじゃない!」
「いや、この子は返せなくなるまでギャンブルで使ってしまうので、なにとぞ連携は無しでお願いします……」
「かしこまりました……」
「何でよ! 連携してよ!」
説得の上、連携は無しにした。
当然だ、ユーゴ達に被害が出る。
とにかく、これでお金を持ち歩くことが無くなった。カードを紛失したとしても魔力認証がないと使えないし引き出せない。安心だ。
貯金が一気に増えた。
去年泊まったセキュリティ万全なホテルにチェックインして、去年より高級なお店でディナーだ。
「Sランクの依頼でも報酬いいんだろうなぁ。ロックリザード三体なんて、一人でも行けるもんな」
「ほんと、無一文が怖くなくなるね。張り合いが無くなるのが怖いよ……」
「エミリーはどういう心境でギャンブルしてるの……?」
珍しい料理がテーブルに並んだ。
「ここの料理、何かわからないけど美味いな! 香辛料が抜群に美味い。酒が進む」
「エスニック料理って書いてあるね。辛味が強い料理だ、確かに里で辛味は無かったね。ワサビくらいだ」
SSランク昇級もあり、最高のディナーだった。
ちなみに、去年の苦い思い出から武具はエミリーに預かって貰っている。
「よし、私はカジノに行くよ!」
「まぁ、無一文になっても依頼は付き合ってやるよ……」
「僕達はバーにでもいくかい? 呼び込みはもう勘弁でしょ?」
「そうだな……ここの店員におすすめのバーでも聞くか」
そういえば、冒険者カードで支払いが出来ると言っていた。
「冒険者カードで支払いたいのですが」
「はい、かしこまりました。こちらにカードをかざしてください」
機械にカードをかざすと、支払いが完了した様だ。なるほど、これは便利だ。
店員に評判のバーを紹介してもらった。この高級レストランの紹介なら間違いは無いだろう。
エミリーを見送って歩き出した。
「そこまで遠くないみたいだけど……あぁ、ここだ。新しい店舗だね」
「今回は迷惑かけないようにする……」
「ははっ、大丈夫でしょ」
カランコロン……
軽快な音と共にドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
薄暗い店内にはカウンター席が十席ほど並んでいる。先客は五人だ。
二人は入口側のカウンター席に案内された。
「今日は暑いですね。お飲み物は何にしますか?」
「んー、確かに暑いし、まずはビールにしようかな」
「僕もビールで」
「あれ……ユーゴ君?」
――ん? この街に知り合い?
顔を上げると、たわわに実った胸。
この美人は……。
「エマ……?」
「ジェニーちゃんもいるね」
ユーゴの苦い思い出が蘇る。
睡眠薬を盛られた挙句、武器を盗られた、あのエマだ。
「ユーゴ君、一年ぶりくらい?」
「そうだな、紹介してもらったお店がまさかエマの店とは……」
「また会えるなんて……私、ユーゴ君にお礼を言わないといけない。あの時キツく叱って貰って、私は立ち直ったの」
「叱ったというか……ねぇ、オレも悪かったからね……」
怒りに任せて殴り込みをかけた手前、お礼を言われる事に抵抗を感じた。
「私、育ちが良くなかったから、身体を売ることに何の疑いも無かったの。それしか生きる術がなかった。冒険者を食い物にしてたのは事実。それをユーゴ君みたいな優しい人に、こっぴどく叱って貰って目が覚めたの。普通なら殺されてるよ」
「まぁ……そうだろうな」
「あの次の日に娼館を出ていったの。でも、私みたいな女に昼間の仕事は出来ない。あんな仕事してたから貯えはあったの。だから小さくてもバーを経営した。ジェニーは小さい頃からの親友だから、誘ったら一緒に働いてくれた。それがちょっと人気出て今に至るの」
エマとジェニーほどの美貌だ、流行るだろう。事実、高級なレストランが紹介するほど評判の店だ。
「私みたいな汚い女が、人生やり直そうなんて虫が良すぎるのは分かってるの……」
「いや、エマ。あの時は本当に殺してやろうかと思ったよ。でも、人生に綺麗、汚いなんてない。本心からやり直そうと決意した時点で、人は真っ白に戻るんだ。今が綺麗な白ならそれでいいと思うぞ? とりあえず、今日は美味しい酒を飲ませてよ。いい事があったんでね」
「うん……ありがとう。今日はサービスするね。私の恩人だから……」
人は変わるものだ。
絶対に同じ事を繰り返してると思ったが。
「トーマス君が裏で動いてたんでしょ? 分かってるんだから。トーマス君も私の恩人なの」
「いや、僕は何もしてない。ただ、ジェニーちゃんと楽しんでただけだからね。ねぇ、ジェニーちゃん」
「うん、カジノまで送ってあげたんだよね? 覚えてるよ!」
「オレもトーマスには頭があがらない……」
「はい! もうこの話は無し! 今が良ければ良いんだよ。楽しく飲もうね!」
改めて四人で乾杯した。
エマも改心している、水に流そう。
楽しく飲んでいると、ドアが蹴り破られた。
「おい! 今日は終いだ! 帰れ帰れ!」
――何だ?
ぞろぞろと厳つい男達が店になだれ込んで来た。
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