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第三章 大陸冒険編

フェンリル

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 初手、エミリーが苦無を超高速で投げつけ牽制する。練気の糸で戻し二つ一気に投げる。が、フェンリルは全てを見てギリギリで避けている。相手はかなり速い。
 ユーゴは観察しながら、体中の練気を練って龍胆りんどうに流し続けている。

「コカトリスより速いね。けど飛ばないかな」

『土遁 影縫い』

 苦無で近くの地面に干渉する。
 だめだ、中距離では高ランクの魔物は縛れない。

 フェンリルは様子見だ、素早く動きこちらを警戒しているが、攻撃をしてくる気配はない。
 龍眼でフェンリルが何をするか、どう動くかは視えるが、ユーゴ自身が未熟なのか、動きが速すぎて攻撃が出来ない。無闇に斬りかかるのは愚策だ。

「おそらく炎系の攻撃をしてくるな。トーマスは守護術を全員に。エミリー、オレが合図したら二人で水遁だ」
「「了解」」

 ユーゴはフェンリルを龍眼で観察する。
 向こうもまだ様子見だ、相当用心深い。

 ユーゴの脳裏にヤバい絵が浮かんだ。

「守護術でも水遁でもない! 避けろ!」

 三人が散ったあと、途轍もない炎の柱が横をかすめた。

「やっば……何今の……」
「出来れば一撃で仕留めたい。弱点を観察しながら龍胆を練気でパンパンにする。エミリーはトーマスの補助を頼む」
「了解!」

 春雪も抜いて二刀流だ。
 エミリーがトーマスの後ろで、補助術を掛け直し、継続再生でサポートしている。

 トーマスにはフェンリルのスピードは問題ない。鋭い爪の攻撃を全て捌いている。
 
「エミリー! 上から攻撃してみてくれ!」

 エミリーは空に駆け上がった。

『風遁 嵐塵!』

 上からフェンリルに風の刃が降り注ぐ。
 フェンリルの敵意がエミリーに逸れた。

「ヤバい! エミリー! 逃げろ!」

 炎の柱が風遁を飲み込み、更に威力を増してエミリーを襲う。ユーゴの龍眼のお陰で、エミリーは無事にトーマスの後ろに生還した。
 ユーゴはエミリーが作ってくれたチャンスを逃さない。

『剣技 横薙一閃!』

 多量の練気を纏った特級品と一級品の斬撃を、フェンリルの腹に向けて飛ばした。シュエンがヤマタノオロチに放った技だ。

 放たれた斬撃は、フェンリルの意識の外から目にも止まらぬ速さで飛んでいく。そのまま両断するかと思われたその時。

 フェンリルは斬撃を確認する様に見た後、後ろ脚で地を蹴って飛び跳ね、斬撃を避けた。

 ――何っ!?

 フェンリルは着地すると後ろに飛び退き、距離を取った。ユーゴとエミリーはトーマスの後ろに入り、守りを固める。

「二人ともごめん……なかなか奴の敵意を固定出来ない……」
「いや、SSランクの魔物なんだ。一筋縄にはいかないって」

 ユーゴは春雪を鞘に納めた後エミリーに耳打ちし、紙製の袋を受け取った。

 フェンリルは警戒を強め、体勢を低くして唸り声を上げている。

「トーマス! 守護術掛け直しだ!」

 そう叫んだユーゴはフェンリルに向けて、受け取った紙袋を投げつけた。
 フェンリルがそれを鋭い爪で切り裂くと、白い粉が一面に飛び散った。

『火遁 豪炎!』

 すぐさまエミリーが火遁を放つと、フェンリルの目の前で大爆発を起こした。
 
 勿論こんなものでフェンリルを仕留めたとは思わない。ユーゴには龍眼で目を瞑っていてもフェンリルの場所が分かる。

 目の前は一面の炎。
 右脇に龍胆を構えると、力強く地を蹴って炎に飛び込んだ。

『剣技 おぼろ

 地を這う程の低姿勢から逆袈裟斬りを繰り出すと、確かな手応えの後に巨体が地に沈む音がした。

 ゆっくりと炎が晴れる。
 倒れ込んだフェンリルの巨体に頭はない。

「ふぅ……流石に強かったな」
「いきなり小麦粉と火遁って言うからさ、何作るのかと思ったよ。けど、なんで爆発したの?」
 
 エミリーの疑問にトーマスが答える。

「粉塵爆発だね。舞った小麦粉と空気中の酸素が、エミリーの火遁で大爆発したんだよ」
「あぁ、全ての攻撃を目で見て避けてたからな。目眩しには丁度良かっただろ?」
「へぇ、ユーゴ意外と頭良いんだね」
「意外にってのが余計だよ。でも、うどん打とうと思ってたのに……残念だ」

 とは言ったが、うどんの代わりにSSランクが手に入ったと思えば安すぎる。
 
 牙、爪、毛皮を処理する。ここはトーマスとユーゴの仕事だ。
 魔物の処理用にヤンガスから小刀を貰った。切れ味が素晴らしい、処理が捗る。

「私……全然活躍出来なかったなぁ……」

 近くの岩に座り、二人の作業を眺めているエミリーがうつむき加減にそう言った。

「いや、エミリーに強化術を掛けてもらったら明らかに守護術の質が変わったんだ。自分で掛けるより、エミリーに掛けてもらった方が効果が高そうだ」
「へぇ、じゃあ強敵と戦う時はエミリーに頼むのが良いな」
「そうなんだ。帰りの迅速は私が皆に掛けてみるね!」
 
 処理を終え、エミリーが火葬すると、小さい魔晶石が5個出てきた。

「フェンリルの魔晶石の方が上質だ、今付け替えるよ。残りの二つは予備で持っておきたいな」
「ほほー! コカトリスの三つ売ろっか!」
「だな、これ相当報酬いいぞ」
「じゃあ、帰って乾杯しよう」

 全てをエミリーに預け、レトルコメルスへ向けて駆ける。
 エミリーに迅速を掛けて貰うと、明らかに速度が上がった。治療術もエミリーが断トツで効果が高い。強化術も精度が高いのだろう。

 
 
 ユーゴ達がフェンリル討伐に向かったのはギルド内に知れ渡っている。
 袋に一杯の毛皮と爪、牙。レトルコメルスについてから、わざと袋に入れ替えての凱旋だ。

「おい……マジかよ……本当に倒して来やがった……」
「にしても、早すぎねーか……?」

 広いギルド内の喧騒が止み、冒険者達の視線が三人に集まる。最初は馬鹿にされたが、面目は保った。
 受付カウンターの男は、目を丸くして三人とはみ出た毛皮を交互に見ている。

「おいおい……本当に倒して来やがった……どうせ無理だと思って言わなかったが、コイツの報酬はここじゃねぇ。領主様んとこに行ってくれ」
「え? そうなのか。行ったら対応してくれるんですか?」
「あぁ、その毛皮見たらすぐに通してくれるよ」

 さすがはSSランク、大事になってきた。
 
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