【完結】ミックス・ブラッド ~とある混血児の英雄譚~

久悟

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第二章 リーベン島編

三人の決意

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 遠くに里長が後ろ手で歩いて来るのが見える。三人は雑談を止め、正対し一礼した。

「おはよう。その顔、眠れてはおらぬ様だが。あまり気を落とすな」
「おはようございます。僕達はもう少し修行させてもらった方が良いんでしょうか? 全く歯が立ちませんでした」
「いや、お主らが冷静に本気で連携して掛かったなら、あのような結果にはならんかったと思うがの。冷静になれという方が難しい状況ではあったが」

 少し遅れて、メイファとヤンガスが来た。
 
「おうおう、朝からしけた面してんじゃねーか」
「お主らはまだこやつらに教え足りぬ事はあるか?」
「戦闘に関してはもう言うこたぁねぇ。あとは術の精度でしょう。俺ぁトーマスに刀鍛冶の技術を叩き込みてぇがな。武具の整備師としちゃ言うこたぁねぇ」
 
「本人にも言いましたが、エミリーを診療所の跡継ぎに欲しい。戦闘に関してはありません。全てを叩き込んだ」

 里長は二度頷いて言葉を続けた。
 
「儂もない、ヤンガスの言う通り後は精度だ。お主らはここ半年だけ見ても急成長した。先程も言うたが、お主らが冷静に連携が取れれば昨日の三人に負けることは無かろう」
「私も同じ見解だ。あれだけ冷静さを欠けば誰でもあぁなる」
「信じられねぇ事に、お前ぇらまだ二十歳にもなってねぇときた。凄ぇことだぞこりゃ」

 確かに、ここに来て一年で戦闘能力が何十倍にもなったように感じる。この三人がこう言うのなら、それは勘違いではないのだろう。
 
「その通りだ。他種族間の子というのはここまで能力が高いのかと感心する。魔人も30代くらいであろう……エミリーは仙族譲りの高い能力があり、トーマスにおいては、出生が特殊で基礎能力が高い上に昇化までしおった。末恐ろしい」

 あの魔人は30代らしい。そう言えば、ここに来たときに里長とそんな話をした気がする。
 あの三人の会話を聞く限り、対等な関係だと感じた。三人だけで動いているのかは分からないが。

「昨日の三人だが、今すぐ世界をどうこうしようという感じでは無さそうだの。宝玉の話をどこぞで耳に入れて、興味本位で探しておる様に感じた。本物の馬鹿ならこの島についた時点で暴れ回っておったろう。里の民も、殺気も何も感じんかったゆえ素通りさせたはずだ。シュエンがおったのもあろうがの。我が里は観光に来るものを咎めはせん」
 
「僕達も世界を回りながら力をつけて、奴らを探すのもいいのかもしれませんね。元々僕が旅に出た理由は世界を見て回る事でしたから」
「私、仙神国に行ってみたい! アレクサンドが出ていった理由も聞けないかな?」
「確かにな。クズでおかしなやつだ、追放でもされたんじゃないか?」

 確かあの時エミリーに向け「お祖父様にバレようがどうでもいいから見逃してやる」と言っていた。メイファの言葉はそう遠くないのかもしれない。

「仙神国に行くのなら、儂が仙王に手紙を書いてやろう。魔力を込めておくゆえ伝わるはずだ」
「里長さん、ホントに? ありがとうございます!」
「では、そろそろここを出るのか?」
「そうですね。あと一週間ほどお邪魔してもいいですか? 二人共、それでいいか?」
「うん、寂しくなるけどね……」
「最後一週間、しっかり家事仕事させてもらいます、親方」
「こっちとしちゃ、いつまででもいいがな!」
「分かった。では、各々準備をしておくがよい」

 一週間後、ユーゴ達三人はこの島を出る決意をした。
 師匠から指導をして貰えるのもあと少し。一日みっちりしごかれて家路に着いた。


 ◇◇◇


 三人は残りの一週間をそれぞれの屋敷で過ごした。
 お世話になった皆に挨拶をしたり、必要な物を買い揃えたり、それぞれが旅の準備を整えた。

 そして最後の夜、里長の屋敷に皆が集まり、宴会が開かれた。

「今宵はユーゴ、トーマス、エミリーの三人と、彼らに縁のある者に集まってもらった。一年という短い間ではあったが、三人はこの里の一員として過ごした。皆の家族として過ごした。この家族を、皆で盛大に送り出したいと思う。では、各々楽しんでくれ」

『乾杯!』

 皆が盃を掲げ大宴会が始まった。
 この里の全ての料理があるんじゃないかというほど、豪勢な料理がいっぱいに並んでいる。
 トーマスとエミリーは、それぞれの屋敷の家事仕事を共にし、一年間一緒に汗を流した。皆が別れを惜しんでいる。

 ユーゴも世話になった人々に酌をして回る。あまり交流は無かったが、剣術や遁術のアドバイスをしてくれた、里長の息子のカイエンとコウエン。里長の屋敷を仕切っている第二夫人のジンリー、三女のリーファには屋敷の仕事を教わった。

 里一番の美人、ミオンが酌をして回っている。例のごとく、着物を着崩して谷間が露わだ。男たちの鼻の下が伸びきっている。

「里長、本当にお世話になりました。いきなり押しかけた孫と、龍族でもない二人に修行をつけてもらって……」
「混血の孫が仙族と、人族かどうかも怪しい者を連れてきたのだ。会わざるを得ぬであろう」

 ――そりゃそうだ……。

「会うた時にも言うたが、お主の潜在能力は凄まじい。エミリーも今のトーマスもそうだ。これから更に強くなるであろうな。儂はそれが楽しみでならん」
「オレはもっと強くなりたいです。父さんを正気に戻して連れて帰ってきますよ」
「うむ、その時は儂も一言いうてやらねばの」

 それぞれの師匠と一時の別れ。
 夜遅くまで皆と酒を飲みながら話した。宴会は夜遅くまで続いた。
 
 
【第二章 リーベン島編 完】
 
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