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第二章 リーベン島編
宝玉
しおりを挟むエミリーは悔しさでメイファの胸の中で泣いている。トーマスは怒りが顔に滲み出ている。
「まさかシュエンの奴があの様な者らとつるんでおるとはの。エミリー、トーマス、すまなんだ。儂等から攻撃を仕掛ける訳にはいかんかった。あやつら三人に暴れられると、この里は壊滅的な被害を受けただろう。奴らから殺気を感じんかったゆえ手を出さんかった。分かってくれ」
「はい、僕らの力不足です……僕は強くなった気でいた……」
「うん、ここまでの力の差があるなんて……正直、ショックだよ……」
「しかし、シュエンの野郎……どうしちまったんだ……」
家を出ていく前のシュエンとは全くの別人だった。ただ、顔色も良く元気そうなのが唯一の救いだ。
「トーマスお主、仙人に『昇化』したな。その緑色の眼がその証だ」
「え? 僕、眼の色が変わってるんですか?」
「あぁ、あの魔人に斬りかかる前にな。あの時あいつに何をされたんだ?」
トーマスは右手で頭を押さえ俯いた。
「……分からない。いきなり頭の中に、僕の村の人たちが溶岩から逃げ惑っている様子が流れてきたんだ。あの魔人の高笑いと共にね……僕はあの魔人を許さない……まさか怒りで昇化するとはね……」
「あの魔人の記憶をトーマスに映したってことか? そうえば、記憶がどうこう言ってたな……」
「儂から何かを抜くのは難しいと言うておったの。まさかとは思うが、記憶を抜き取ったり、人に見せたりできるのかもしれぬな……少なくとも、抜き取るには接触が必要という事か」
「もし、記憶の操作も出来るとしたら、父さんの豹変ぶりも頷けますね……」
「なるほどな。そうでも無けりゃあいつの変わり様にゃ納得出来ねぇ」
「それをしっかり確かめなければですね……」
「……私はアレクサンドには全く敵わない……でも、諦めない」
ユーゴ達の目的はあの三人になった。
「なぁ、トーマス、エミリー。オレ達三人はゴルドホークを出る前から仲間だ。これからもそうだ、今まで通り三人で敵を倒そう。さっきみたいに一人で飛び込むなんて事はもうやめような」
「そうだね……冷静さを失うと仲間に迷惑をかける……約束するよ」
「うん、ごめんよ。頭に血が上っちゃった……」
ユーゴに言われて、トーマスとエミリーは落ち着きを取り戻した様に見える。
「で、里長。宝玉ってのは何なんですか?」
ユーゴに促され、里長は宝玉の話を始めた。
鬼族の『黄の宝玉』
仙族の『蒼の宝玉』
魔族の『紅の宝玉』
龍族の『翠の宝玉』
各国がそれぞれを所持し、これを求めて争ったらしい。
「四つ集めると何が起こるかは分からぬ。誰も集めた者がおらぬからな。それゆえ様々な憶測がある。何でも願いが叶う、不老不死の力が手に入る、兵器の類が手に入る、等が言われておるな。何も起こらぬ可能性もあるが。しかし、最後は宝玉など関係なく争っておった。何故争いが始まったのか、誰も思い出せぬ程にな……さて、修行中にとんだ邪魔者が入った。精神的な疲れは身体の疲れより重い。今日はゆっくり休むが良い。明日の朝またここにな」
確かに、三人の顔には疲労の色が見える。
皆がそれぞれの屋敷に戻った。
◇◇◇
里長と夕飯を食べている。
「ユーゴよ。飯のあと執務室に来るように」
「執務室に? 分かりました」
ゆっくりと食事を楽しみ、執務室について行った。執務室に着くなり、里長はユーゴに語りかけた。
「さて、先程魔人が聞いてきた話だが」
「翠の宝玉と言ってましたね。ここには無いと」
「うむ、そう言って帰した」
里長は部屋の奥に下がり、丈夫そうな革袋を手に持ちユーゴに差し出した。
「それがこれだ」
「え!?」
「あのような奴らに渡す訳が無かろう」
――凄いな里長……嘘が上手すぎるぞ……。
「これが宝玉……」
「見ぬがよいぞ。あの魔人は人の記憶を読むことが出来ると思って良い。ゆえに皆には話さなんだ」
「それがいいですね」
「これをお主に託す。エミリーにそれとなく渡して、空間魔法に保管しておいてもらうのが良かろう。お主ならその『龍眼』がある。記憶を抜かれるなどという事はなかろう」
「分かりました」
「この宝玉は後回しにすると言うておった。我ながら上手く騙せたものよな」
「里長の嘘が上手すぎるんですよ……全く表情も変えずに嘘つくって、すごい芸当ですよ」
「内心ビクビクだったがの」
宝玉を託されたユーゴはシュエンの屋敷に戻った。
始祖四種族が奪い合った品を持っている事実が実感として押し寄せ、なかなか寝付くことが出来なかった。
◇◇◇
次の日の朝、いつものように準備を終えて修練場に向かった。一番乗りだ。
少しすると、トーマスとエミリーが来た。
「おはよう。二人共ゆっくり休めたか?」
「いや、色んな事が頭をグルグル回って、あまり眠れなかったかな……」
「うん、私も」
「実は……オレもだ」
エミリーとトーマスの仇二人が、シュエンとつるんで目の前に現れた。何も思わずに生活するのは不可能だ。
「エミリー、昨日里長から貰ったものがあるんだ。頻繁に触るもんじゃないから、空間の奥深くにでもしまっといてくれるか?」
「うん、わかったよ。二人の空間は分けてあるんだ、ユーゴの空間に置いとくね」
そう言って、エミリーに革袋を渡した。
「いつもありがとな」
「いいよいいよ」
エミリーは手に持った皮袋をジッと見つめた。エミリーは何かに気付いたのか、ユーゴが焦りを抑えて問いかけた。
「どうした……?」
「……今ふと思ったんだけどさ、私が死んじゃったら、空間の荷物どうなるのかな?」
「おいおい、縁起でもない事言うなよ……」
「仙族の人に会ったら聞いてみよ! あっ、ちょっと思ってた事があるんだけど、次は仙神国に行ってみない? 行って良いものなのか分からないけど……ジュリアに会いたいなぁ」
「オレは勿論かまわない。この島についてきてもらってる。むしろ行ってみたいな」
「僕も賛成、里長に聞いてみようよ」
三人は修練の前の時間を、他愛もない雑談で過ごした。少しだけ笑顔が戻った。
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