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第二章 リーベン島編

弟子に託す 2

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 陽が遮られた灰色の冬空の下、木枯らしが三人の頬を撫で、通り過ぎる。
 露出した顔や手は冷たいがミオンの服は暖かく、シルクシャツの上はゴルドホークから持ってきたジャケット一枚でも十分暖かい。
 
 久々の休みで、二人の師匠の所へ遊びに行った。

「この際、里長の屋敷へ遊びに行くか?」
「始祖四王の家に遊びに行くって、普通に考えて凄いことだよね……」
「行ってみたいな!」
「普段里長は何してるんだろうな……そう言えば見たことないな」

 
 里の中心にある屋敷の門前。

「こんにちは。里長はおられますか?」
「あぁ、おかえりユーゴ。後ろの二人は話に聞く連れの冒険者だな? 里長は執務室におられるはずだが?」
「執務室ですか。ありがとうございます」

 トーマスとエミリーはもうこの里の一員として認識されている。門番が咎める事は無い。

 玄関で履物を脱ぎ、板敷の廊下進む。
 執務室に着き、豪華な装飾があしらわれた襖をノックした。

「入れ」
「失礼します」
「珍しいな、三人で何事だ?」
「いや、ヤンさんの所で防具を受け取って、メイファさんの診療所に行ったんです。この際三人の師匠の職場に行ってみようと……お邪魔でしたか?」
「いや、そうでもないが。儂の仕事などあの二人から見ればたかが知れておる」
「お邪魔では無ければ見学させてもらおうかなと……」
「左様か。おい! 茶を四つ淹れてくれ!」
「いやいや! オレが淹れてきますよ!」

 この半年でお茶を淹れるのも手慣れたものだ。ユーゴが淹れた茶を皆で啜る。
 里長は普段主に、里内の民の声を吸い上げて、施設や法の整備や計画をしているようだ。

「しかし、お主らがコカトリスとやらまで狩って来るとはの。今日受け取ったのはその革の防具なのであろう?」
「はい、ヤンさんもなかなか良い素材だと言ってました。魔晶石も篭手に装備して貰いました」
「お主らはそれに相応しい戦士になったからの。相応の装備が必要であろう」

 そう言って、里長は立ち上がった。

「ユーゴ、お主に渡そうと思うておったものがある」

 ――渡したいもの? 何だろうか。

「リンドウの件で、ヤンガスが言ったことを覚えておるか?」
「刀の件ですか?」
「左様。リンドウが生涯で打った特級品は七振だ。儂ら夫婦と四兄妹に一振づつ、後は誰にも渡っておらぬ刀が一振ある」

 そう言って、里長は奥から刀を持ち出し、戻ってきた。

「奴が最期に打った特級品がこれだ。ヤンガスと違い、リンドウはそれぞれの刀に自分で名を付けた。儂の刀は『倶利伽羅刀くりからとう』と言う。単純に儂の名を冠した刀だ」

 里親は持ち出した刀を鞘から抜き、部屋の照明の下に掲げた。反射した照明が目に刺さる。

「そしてこの打刀はリンドウから託された。名は『龍胆りんどう』だ。自分の名を冠した刀だが、そういう名の花がある。花言葉は『勝利』『正義感』らしい」

 この里は花に言葉を持たせるらしい。
 独特な文化を持つ国だ、まだユーゴ達の知らない風習などがあるのだろう。
 
「特に渡したい者がおらぬ故、儂が認めた者に渡せば良いと言われ預かった。先日、リンドウ達の話をしたときに思った。これはお主に渡すべき物だと」
「しかし、そんな国宝級の刀を……それに、オレには父さんからもらった春雪が」

「一つ思った事がある。トーマスもそうだが、お主は我が里の皆よりも一回り背が高い。ということは、刀も短く感じるであろう? それにに力もあり、この半年で更に鍛えられた。そして、春雪は短めでどちらかと言えば脇差しに近い刀だ。お主なら特にな。右手に龍胆、左手に春雪の二刀流も良いのではないか?」
「二刀流……?」
 
「勿論、状況による。一刀で戦うときは長めの龍胆、二刀の際に春雪を抜くのだ。二刀流は攻撃と同時に防御もできる、攻防一体の型だ」
「なるほど……しかしそんな大事な刀を本当に頂いても?」
「うむ、構わぬ。本人から託されたのだ、儂が勝手に決めたところで文句を言われる筋合いは無い。お主はもうこの里を代表する剣士だ」
「ありがとうございます。では、有り難く使わせて頂きます!」

 龍胆を受け取って抜いてみた。
 
 刃紋は「逆丁子さかちょうじ」と言うらしい。春雪より長い打刀だ。
 確かに、春雪は短めで軽い。龍胆をメインで使って春雪を左手で扱うのも問題ない。強化術で剛力をかければ全く問題なく振り回せる。

「先日、遁術や剣術の指南書を渡したな? あれに二刀流の心得も載っておる故、目を通しておけ。あと、ヤンガスに手入れをしてもらうがよい。儂はその点素人だ」
「分かりました、ありがとうございます!」

 
 春雪と共に、国宝級の刀を腰に差す。突然訪問してとんでもない刀を受け取ってしまった。

「ヤンさんの所に預けに行こうかな」
「うん、ついていくよ」
「皆、師匠から大事なもの託されたね!」
「そうだな、素直に嬉しいな」

 

 ヤンガスの鍛冶場に着き、龍胆を手渡した。

「おいおい、お前ぇとんでもねぇもん貰ったな……持つのも緊張するぞ……」
「春雪を左手に、二刀流で戦ってはどうだとアドバイスを受けました」
「そうだな。確かに春雪は長さで言うと脇差に近けぇ。この刀があれば脇差として使うべきだ。シュエンも柳一文字と一緒に二本腰に差してたからな。よし、伝説の刀匠の刀だ。責任持って仕上げとく」
「よろしくお願いします!」
 

◇◇◇
 

 二日後、トーマスから二本の刀を受け取った。

「ありがとう、またお礼に行かないと」
 
 二本を腰に差す。
 龍胆を抜いて天気の良い空に向けて翳してみた。陽の光を反射して輝いている。まるで発光してるようだ。
 練気を纏い岩に置いて少し押してみる。龍胆がスーッと岩に吸い込まれた。

「うん、凄い斬れ味だ」
「それ、出来るようになったんだね」
「私、昨日と今日の午前で、苦無の扱い方教わったんだ! 刀の試し斬りがてらミモロ山に行かない?」
「僕もヤマタノオロチの盾を使ってみたいな」
「そうだな、オレも二刀流の指南を少し受けたんだ。行こうか! どうせなら、ミモロ山まで空を駆けて行こう」

 そう言って、ミモロ山まで空中走行した。ルナポートまで駆けて行くのも問題ないだろう。龍族移住の際は、船ができるまでは駆けて行った様だ

「空中散歩ももうお手の物だね」
「さて、ここの大蛇は割りと硬いからな。試し斬りには丁度いい」
「大蛇に苦無が刺されば、威力は申し分無いってことか!」

 早速、大蛇のお出ましだ。

「よし、攻撃を受けてみようかな」

 大蛇は風の刃を飛ばしてきた。

『守護術 堅牢・陣』

 三人に張られたバリアが、全ての風刃を弾いた。

「うん、堅牢の質が全く違うのが分かるな」

 大蛇がトーマスに飛びかかる。

『守護術 炎牢えんろう

「シャァァーッ!」

 炎の盾によるカウンターだ。
 なるほど、守護術に遁術を纏えるらしい。

「こういう使い方もいいもんだ」
「やっぱり、盾があると守護術が段違いなんだな」
「いや、親方は戦闘で盾を使わないでしょ? 幅広の刀を盾にして使うんだ。てことは、刀を媒介として盾を張ったら良いって事なんだよ。親方の刀の幅はほぼ盾だからね……同じとはいかないけど。後、僕達は防具にも練気を纏ってるよ。守護術貫通されたら困るからね。刀と防具を媒介に張る感じがいいかな」
「なるほど、盾を持ってないっていう先入観か。媒介物を気にしてなかったな。左手の春雪と防具でやってみよう。防具にも練気を纏うのは怠ってたなぁ……」

 
 エミリーが苦無を投げた。が、大きく外れ、大蛇の手前の地面に刺さっている。まだ慣れていないのか。

「なるほど、こういう事ね」

 ――ん? 大蛇が動かない。

「影縫いだよ。影縛りは地面に練気と魔力流して敵の動きを止めるんだけど、これは苦無にそれを纏わせて周辺に刺すんだ。効果は落ちるけど、中、長距離で扱えるんだ」

 その後、練気を纏わせた苦無を大蛇に向けて投げると苦無は貫通した。そして、二本の苦無はエミリーの手元に戻ってきた。

「おいおい、刺さるなんてレベルじゃないな。どうやって手元に戻すんだ?」
「練気を糸状にして繋げとくんだよ! これいいなぁ。両手で持って短刀みたく使えるし。練気の糸で繋いで振り回してもいい。幅が広がったね。中距離攻撃はこれだね!」
「なるほどなぁ」

 
 木々を縫うように、もう一匹大蛇が出てきた。

「じゃオレが貰うよ」

 左手の春雪を正眼に構え、右手の龍胆を右側上段に構える。
 基本の『上下太刀の構え』だ。
 剛力により、刀の重さは感じない。
 
 大蛇の風魔法が音を立ててユーゴを襲った。。

『守護術 堅牢』

 全てを跳ね飛ばした。
 トーマスの助言通り、刀と防具を媒介にしての守護術は別物だ。

 両手の刀を右上段に構え、振り下ろす。

『剣技 重ね剣風』

 二本の刀から鋭く放たれた斬撃は、目にも止まらぬ速さで大蛇の胴をすり抜けた。三つに別れた大蛇は、音を立てて地に沈んだ。

「なるほど、左の刀で防御、右の刀で攻撃か。オレには合ってるかもな」
「刀と防具を媒介にか。私の守護術も変わるね!」

 皆が色々、何かを掴んだ日だった。
 
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