【完結】ミックス・ブラッド ~とある混血児の英雄譚~

久悟

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第二章 リーベン島編

弟子に託す

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 一週間後、今日は一日休みを貰っている。
 先ずは呉服屋のミオンの店に行く。

「あら、いらっしゃい。いいの出来てるよ」

 今日は着物から巨乳がはみ出てない。ユーゴとトーマスはあからさまに残念な表情を浮かべた。
 
「こんにちは、これギュウキの糸です。修練のついでに取ってきました。使ってください」
「あら、ありがとう。服のお代から引いとくわね」
「いえいえ、それとは別です。使ってください」
「いいの? ありがとね」

 笑顔も超美人だ。また糸を持ってこよう、修行も楽しくしなければならない。
 早速、出来上がった服に袖を通す。

「これ、すっごいね! 全然違うよ! 首元の形カワイイ! ストッキングも温かいね!」
「うん、全く締め付けがない。それに肌触りが全然違う」
「ボタン付きのヘンリーネックがカッコいいね。デニムもいいなぁ、ホントにデニムですかこれ?」
「気に入ってくれて良かった」

 お代を支払い、美しい笑顔に見送られ店を後にした。
 
 次は鍛冶場だ。
 美人の後の厳つい顔は、更なる威圧感を醸し出しているように感じた。
 
「親方! 失礼します!」
「おぅ、お前ぇらか! 良いの出来てるぞ! ミオンの服はどうだ?」
「最高ですねこれは。これ以外は考えられない」
「エミリー、こいつらの鼻の下、伸びっぱなしだったんじゃねぇか?」
「そうだよ。二人共ずーっと変な顔でミオンさんのおっぱい見てるんだよ」

 ――変な顔……どんな顔してたんだ……。

「まぁ、ミオン程の美人の前じゃ仕方ねぇだろ」
「ヤンさんもミオンさん好きだったの?」
「いや、俺ぁどっちかってぇとエミリーみてぇな女が好みだ」
「おぉ! ヤンさん分かってるね!」

 ユーゴとトーマスは、衝撃で目を見開いた。

 ――ヤンさん……ロリコンだったんだ……。

 この里に来て一番の衝撃に、二人は口を閉じる事が出来ずにいる。

 雑談しながら、ヤンガスは防具を並べた。

「革鎧と篭手に脛当てだ。一級品でも上位だな、なかなか良いぞこりゃ。篭手にゃコカトリスの魔晶石も埋め込んである」

 綺麗に鞣された深緑色の革は鈍い光沢を放ち、どちらかと言えば黒色に近い。規則的に並んだ龍鱗が美しく、一目で丈夫なのが見て分かる。

「あと、トーマスにゃこれもやるよ」

 ヤンガスが縦長の革盾をカウンターに置いた。コカトリスの革に似た色だが、明らかに質が違う。

「ヤマタノオロチの革盾だ」
「え!? そんなの貰えませんよ!」
「おいおい、前にも言ったろ。お前ぇは俺の弟子だ、半端なもんは使わせられねぇって。それに、お前ぇは俺の弟子の中で一番強えぇ。守護術は良い盾や防具であればある程効果が高けぇからな。コイツぁ俺用に作ったんだが、俺ぁ元々戦闘で盾を使わねぇ。しっくり来なかったからお前ぇに託すだけだ。言わば押し付けだよ」

 ヤンガスはヤマタノオロチの革盾を手に持ち、トーマスの胸に押し当てた。
 
「本当に良いんですか……? 伝説の魔物の革ですよ?」
「あぁ、これ以上の盾を俺ぁ知らねぇ。文句なしの特級品だ。だからお前ぇに託すんだよ。それにヤマタノオロチの革はまだまだあるんだ、お前ぇらの鎧も作ってやってもいいが、流石に気ぃ使うだろ?」
「はい、さすがにそれは……それに、自分で採ってきた素材だからこそってのはありますね」
「だろ? だからこの盾は俺がお前ぇに持たせてぇだけだ、気にすんな」

 トーマスはもう一度胸に押し当てられた革盾に視線を落とし、両手でそれを受け取った。
 
「分かりました。この最高の盾で二人を守ります。ありがとうございます、親方」
「おう、短期間で武具の整備も極めたお前ぇだ。安心して預けられる」

 パーティー初の特級品の所持者が生まれた。
 トーマスは武具の整備まで極めたらしい。ヤンガスのお墨付きだ、安心して武具を任せられる

 早速コカトリス防具を身に付けてみた。
 ロックリザードの物より圧倒的に軽くて動きやすく、しかも丈夫だ。下のシルクシャツとの相性もいい。
 
「ヤンさん、ありがとうございます!」
「おぅ、俺も知らねぇ素材を扱うのは楽しいんだ。気にすんな!」
 

 ◇◇◇

 
 昼食を済ませ、近くの茶屋でお茶をしている。このお茶も大陸のとは違う、落ち着く香りがする飲み物だ。甘い菓子とこの渋みが絶妙に口の中で混ざり合う。

「そう言えばエミリー、休みにはギャンブル行ってるのか?」
「ん、行ってたよ? お金半分くらいになったけどね」

 両手で上品に茶を啜りながら、エミリーは平然とそう言った。
 
「凄い普通に言ってるけど、エミリー相当お金持ってたよね……?」
「うん、奥様に怒られたんだよ。賭場は『イカサマ』ってのが当たり前だから、ここでは賭博はするな! ってね。だからここを出るまでは我慢することにしたよ。でも、こうして経験を積むことは、私のギャンブル人生にはプラスになる事なんだよ。今はジッと我慢だよ」
「なんか……いい話風に言ってるけど、格好良くはないぞ……」
「私は日々成長してるよ。ルナポートではボートレースで大勝ちだね」
「おぅ……まぁ程々にな……」

 今日は一日休みだ、三人で里を散策している。

「そう言えば、メイファさんの診療所に行ったことないな。エミリーは行ったことあるのか?」
「いや、無いね。私は屋敷で働いてるだけ。ランさんはそこでも働いてるらしいけど」
「あぁ、巨乳で有名なランさんか」
「え、有名なの……?」
「あ……いや、エミリーに聞いただけだけど……行ったら邪魔になるかな?」
「いいんじゃないかな?」

 診療所は所長のメイファの他、旦那と子供二人が医師として常勤しているようだ。
 邪魔になったら帰ろう、という事で診療所に行ってみる事にした。

「おじゃましまーす!」
「あれ、エミちゃん! どうしたの? どこか悪いのかい?」

 彼女が噂のランだ。
 着物ではなく、脇にボタンのある白衣を着ている。なるほど、ミオンとは別系統のかわいい系の巨乳だ。

「いや、今日は一日休みだから奥様の職場に行ってみようって思ったんだけど、忙しいかな?」
「いや、一段落したよ。奥様は診察室にいらっしゃるよ」
「ちょっと、入ってもいいかな?」
「所長! エミちゃん達が来ましたよー!」

 すんなりと奥に通してくれた。
 白衣をはだけて羽織り、脚を組んで椅子に座るメイファが出迎えた。

「何だ? 珍しいなエミリー、賭場に行くなって言ったのが堪えたか?」
「いや、休みで服や防具作ってもらって取りに行ったんですけど、奥様の職場を見たことなかったなーって。邪魔じゃなければ見学したいなって思ったんです」
「そうか、診療所は暇であればそれに越したことは無いからな。今は患者が居ないから丁度いい。それに、また渡そうと思ってた物があるんだ」

 そう言って奥の部屋に下がったメイファは、一冊の分厚い本を手に戻り、エミリーに手渡した。

「メイリン姉さんの研究を引き継いで、私が纏めたこの世界の病気の特徴や症状の全記録だ。治療術の全ても記してある。お前は私の弟子の中でも特に医術の才能がある。頭が悪そうに見えて実は凄く頭が良く、尚且つ理解力もある」

 二人の間に暫しの沈黙が流れる。
 
「……えぇっと……褒められてるのこれ?」
「あぁ、勿論褒め言葉だ。本当はここの後継者にお前が欲しい。でも、出ていくんだろ?」
「はい、私の冒険はまだ始まったばっかり。やりたいことがいっぱいあります。でも、ここまで強くなれたのは奥様のお陰。いずれは奥様に恩返ししなくちゃいけない。いつか私はここに帰ってくる、約束します。でも、里長さんは他国の者の移住を許してくれるんですか?」
「心配するな、私が認めさせるよ。必ず帰ってこい」
「はい! 分かりました!」
「あと、これもやるよ」

 メイファは、手のひらよりも少し長い刃物をエミリーに渡した。

「この武具は『苦無くない』と言う。お前は基本的には補助役だ。この苦無に練気を纏い投げたりと、遠、中距離攻撃にいい。二本もあればいいか。リンドウ兄さんの息子が作った物だ。ヤンガスの師匠で名工だ」
「いいんですか? ありがとうございます!」

 エミリーは二本の苦無を手にするが、まず持ち方が分からない様子だ。
 
「また扱い方は指南しよう。よし、患者が来たな。ここまでだ」
「お邪魔しました!」

「ランさん! また夜ね!」
「うん、お休み楽しんでねエミちゃん。お友達もね」
「ありがとうございます。ランさん」

 一礼して診療所を後にした。

「あんた達、やっぱりおっぱいに目が行くんだね……」
「エミリーそれはね、仕方のない事なんだ……」
「あぁ、そうなんだ。あまり責めないでくれ……」
 
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