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第二章 リーベン島編
Sランク超えの魔物
しおりを挟む「これが、この世界と三人の英雄の話だ」
話が終わり、ユーゴは手を堅く握っていた事に気が付いた。開いた手の平には汗が滲んでいた。
「私の父は、クズ野郎の上に変な奴なんだね……」
「まぁ、そうだな……ただ、強かった。今はもっと強いんだろうな。私とほぼ年齢は変わらん」
「里長の奥様は?」
「リンファはここに移住して百年後くらいかの、病気で亡くなった。メイリンと同じ病気だった。妻も間違いなくこの里の功労者だ」
「そうでしたか……その病気は今は?」
「今はもう治療法を確立できた。姉さんの残した記録と母さんの協力でな。母さんを救えなかったのが唯一の心残りだ……私より下の子は母親が違うんだ」
「なるほど……」
多くの犠牲の上にこの里の平和がある。
それは医術も同じだ、多くの症例の上で治療法が確立される。救えなかった命の上で皆生きている。
「……で、何の話だったかの?」
「ミモロ山の魔物の話でしたね」
「あぁ、そうであった。北のミモロ山を越えるとミワ湖という湖がある。そこには鶏と龍を合わせたような魔物がおる。仙族は『コカトリス』だろうと言うておった」
「この島には色々な生き物を合わせたような魔物が多いですよね……」
「確かに、ヌエやギュウキもそうだの……ミワ湖の魔物は特に被害が無い故に放っておったが、行くなら止めはせぬ。が、強いぞあれは。毒を持つゆえ気をつけろ」
間違いなくSランクは超えてるだろう。
毒は厄介だが、エミリーは解毒の術も習得している。
「みんな、どうする?」
「行こうよ! 毒は私に任せてくれたらいいしさ!」
「うん、自分の力を試したい。行こうよ」
ユーゴも自分の力を試したい。
三人は目を合わせ頷いた。
「里長、行ってきます!」
「うむ、斬ってこい」
「体皮が使えるか分からねぇが、持って帰って来い。俺が見てやる」
「はい!」
◇◇◇
昼食を済ませて暫しの休憩の後、修練場から北へ移動した。
錬気の高速移動で直ぐに到着、冷えきった身体を温めるにはいい距離だった。木々を縫うように傾らかな山道を進む。道中はヘビやトカゲの魔物が多い。かなり大きい大蛇が三人の前に立ちはだかった。
「動きが結構速いな」
「ま、速くても燃やしてしまえば一緒だよ!」
『火遁 紅蓮!』
エミリーの両手から花の様に咲く無数の炎が大蛇に襲いかかる。逃げ道を失った大蛇に為す術なく、大きく燃え上がり消炭になった。
しかし……。
「お前には学習能力がねーのか!!」
山の木々に炎が燃え移った。
『水遁 大津波!』
二人が直ぐに消火活動。
「ごめんなさい……」
「風遁で刻もうね……」
大蛇や大蜥蜴を遁術や剣術で倒して進む。練気術が無ければ斬れなかっただろう。
しかし、やはりユーゴには斬るべき弱点が視える。これが能力だと言われなければ気付く事はなかった。
魔石や魔晶石を回収しながら進む。体皮も硬そうだ、全てをエミリーの空間魔法に収納した。
山を越えると湖が見えた。あれがミワ湖だろう。
「ニワトリさん、いないね」
「とりあえず湖を一周してみるか」
湖の外周をぐるりと周る。
――ん? なんかモヤが見える……? そういえば、変な匂いも……。
「おい! 息を止めろ!」
手先に少し痺れがある。これは神経毒だ。
その場から離れ息を整える。
『治療術 解毒!』
エミリーの治療術で痺れが緩和した。
「毒霧の類だね、気付かずに歩いてたらヤバかったかもね……」
「二人にはモヤのようなもの見えたか?」
「いや、見えなかったけど?」
「じゃあ、龍眼は毒霧なんかも可視化されるみたいだ」
「ほほー! 良い能力だねぇ!」
「こういう事もあるんだな。常に観察しとかないと。とりあえず近くにはいるな」
辺りを観察する。
見えはしないが感じる。あそこだ。
「あの岩裏の茂みに居るな」
春雪を抜き、岩に向け剣風を放った。
「コォーッ!!」
鳴き声をあげ、何かが岩陰から飛び出してきた。ドラゴンの胴体と羽に、鶏の頭と脚が出ている。意外とかっこいいフォルムだ。
「毒が厄介だな。毒牙や毒爪とかだと思ったが、毒霧を吐くとはな……」
「遠距離攻撃で様子見よっか」
「じゃ、僕も攻撃に回るかな」
三人で斬撃を放って攻撃だ。
トーマスの斬撃を避けた所に、二人で斬撃を放った。
「速いな。空中で方向転換するぞ」
「よし、風遁の一斉射撃だ」
『風遁 多段鎌鼬!!!』
鎌鼬の一斉攻撃。
無数の風の刃が一頭の魔物に飛んでいく。が、素早い。
「おいおい、一個も当たらないとはな……」
「だね、素早さはニワトリさんだ」
「三方向から火遁で行こうか、上に逃げたら同時に風遁だ」
「そうしよう」
コカトリスを三方向から包囲する。
「行くぞー!」
『火遁 業火殺!』
炎が晴れると姿はない。
上を見ると、ドラゴンの羽で飛んでいた。
『風遁 嵐塵!!!』
やはり速い、全部避けられた。
「毒霧浴びる覚悟で、斬りに行くしかないかもね」
「だね、解毒はまかせてよ」
「よし、トーマスは盾を頼む! オレは観察してみる。なるべく息は止めよう」
「分かったよ」
「エミリーはヤツの横から、剣風や遁術仕掛けてくれ!」
「はいよっ!」
正面からは何も分からない。エミリーの風遁で横を向いた。
視るまでもなく、弱点はニワトリ部分だ。
ただ、速い。
「よし、一気に距離を詰めて斬る!」
……その時、悪寒が走った。
『トーマス!! 皆に守護術を!!』
「分かった!」
『守護術 堅牢・陣!』
『コケェーッッ!!』
コカトリスは羽を細かく振って、とんでもない威力の風魔法を放ってきた。
降り注ぐ無数の風刃を、トーマスの守護術が弾き返す。守り切れずに少し傷を負ったが、致命傷はない。
「皆、大丈夫か!?」
「何かが視えたね? 良かった、ユーゴのお陰で間に合ったよ」
「怪我は治せばいい!」
コカトリスは地上に降りてきた。
「よし、トーマス、オレに個別で守護術頼む」
「了解」
「コケェーッ!!」
トーマスの守護術が、コカトリスの風魔法を防いだ。
『土遁 影縛り!』
地面からの干渉で、エミリーがコカトリスの動きを封じた。
「エミリー! ナイス!」
『剣技 雷鳴斬り』
ユーゴは錬気の高速移動で一気に距離を詰め、コカトリスの首を刎ねた。
ニワトリの首が地に落ち、ドラゴンの胴体が音を立てて倒れ込む。
「ふぅ、何とか勝った……ちょっと龍眼が進化した感じがあるな。けど、こんなに傷だらけになってたら先が思いやられるな……」
「怪我したら治せばいいよ。腕が飛んでもくっつけられる様になるからさ!」
「腕が飛ぶとしたら僕だろうね。よろしく頼むよ」
エミリーに解毒と治療を頼み、コカトリスの胴体の体皮と、一応トサカやクチバシ、爪などを持ち帰る。
火遁で火葬すると、小さめの魔晶石が三つ転がった。今つけている魔晶石よりも見るからに上質だ。
「三つ出たー!」
「これは綺麗だ。ナグモ山の魔物とはランクが違う証拠だね」
「オレ等もう文句なしのSランクだな! よし、帰ろうか!」
三人は強くなってる。それは間違いない。
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