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第二章 リーベン島編
三人の英雄 8
しおりを挟むメイファは後方支援という役割に守られていた。結局、兄達はメイファを極力戦闘に参加させたくなかったのだろう。
――私はまだまだ弱い。
砦に戻り、布が掛けられた三人の遺体の前で呆然と立ち竦むメイファに、仙王とアレクサンドが話しかける。
「龍族の戦ぶりは見事だった。三人は……残念だった。まさか魔王があのような禁呪を持っているとは知らなんだ」
「あの禁呪はまずかった。三人が命を張ってくれなかったら全滅だっただろうね。ボク達が守られるとはね……感謝する他ないようだ」
「あの場の魔族はほぼ仕留めた。奴らの再起は数百年無いだろう。龍族の願い、我が責任を持って叶えよう」
「ありがとうございます。では、父に報告に戻ります」
三人は仙族にとっても英雄だ。
メイファは三人の意志を継ぎ、絶対に強くなると心に誓った。
アレクサンドがメイファの肩に手を載せる。
「メイファ、三人は残念だった。メイリンを守るなど、とんだ戯言だったな。ボクはまだまだキミの兄達に比べれば弱い。強くなるよ。キミ達の移住はボク達が責任を持って手伝う」
「ありがとう。その時は頼むよ、アレク」
「あぁ、任せてくれ」
龍国の皆に報告しなければならない。
休む間もなく仙神国まで南下し、西の我が国への帰路に着いた。
◆◆◆
龍王以下、幹部たちが集まる中、皆に報告しなければならない。
メイファは立ち上がり、事実を淡々と報告した。
「フドウ兄さん、リンドウ兄さん、メイリン姉さんの三人が魔王アスタロスを討ったその後、奴は禁呪により自爆しました。その術は凄まじく、その場の全員を三人が命懸けで守りました。私達の移住の件、仙王が責任を持って叶えると約束して帰ってきま……した……」
言いながら、流れる涙を抑える事が出来なかった。
三人がいない現実が、国に帰って来てやっと実感として押し寄せてきた。
「左様か……お主らも良くやった。良く戻った」
そこに居る皆が押し黙った。
口を開いたのはリンファだった。
「あんた達、あの子らは覚悟して出ていったんだ。メイファあんたもだ。そして、私らも覚悟して送り出した。無事帰ってきて欲しかったけどね。戦争に死はつきものだ、あの子らと今まで死して国を守ったみんなは、我が国の英雄だよ」
「……左様。我々はこれから多くの犠牲の上に生きていかねばならぬ。家族や友の死を乗り越え生きて行かなければならぬ。新たな地で平和に幸せに暮らして行くことが、奴らに対する供養となろう」
いつまでも悄気げている訳にはいかない。皆が命をかけて勝ち取った平和だ。
「はい、亡くなった皆の分まで私達が幸せに暮らしましょう。姉さんの医術と意思は私が受け継ぐ。新しい国に診療所を建てる」
「鍛冶場はリンドウの子や弟子たちがしっかり受け継ぐであろう」
「フドウの技は、里の皆が受け継いでるよ。皆で研鑽を積まないとね」
メイファは腕で涙を拭い、しっかりとクリカラの目を見て口を開いた。
「後日、仙族が島への移住を手伝いに訪れるとの事です」
「左様か。では、各自が準備を整えるように。解散!」
悲しい思いをするのは最後だ。龍族は戦から降りた。
◇◇◇
後日、アレクサンドが一軍を率いて移住の手伝いに龍国を訪れた。
「やぁ、メイファ。約束通り手伝いに来たよ」
「本当にお前が来たんだな……しかもこんな人数を引き連れて」
「ボクはレディとの約束は絶対に守るからね。お礼はキミとのディナーでいいよ。ゆっくりボクの魅力を再確認するといい」
「お前個人に礼などせん。仙族は龍族にでかい借りがあるだろう」
「それを言われると弱いな」
「でも、ありがとうな。礼は言うよ」
仙族の空間魔法は、龍族の引越しに大きく貢献した。流石に建物ごととは行かなかったが、龍族特有の瓦や襖、家具などを諦めずに運べた。木材は島の開墾で手に入るだろう。木々が茂る山もある。
鍛冶場や医学所、その他龍国の産業全てが空間魔法に収納された。
その島は『リーベン島』と呼ばれていた。
仙神国の東の海にある。
龍族はその島で新しい国を作った。
魔王を斬った長兄の名前をそのままに『フドウの里』と名付けられた。里を分ける二つの区には『リンドウ』『メイリン』の名を。
島の資源は龍族にとって適したものだった。武器に使う鉱物や砥石、木材も家屋に適していた。
しかし、南東の山には化物がいた。
八つの首に八つの尾。後に『ヤマタノオロチ』と呼ばれた魔物の討伐は壮絶だった。
龍王クリカラの力で祠に封印することに成功する。多くの怪我人を出したが死者は無かった。
こうして、龍族は島への移住を終えた。
クリカラは里に仙族の上層を招き、食事会を開いた。
「仙王よ、お陰で龍族の悲願が叶った。礼を言う、我が里の料理と酒だ。楽しんでくれ」
皆で乾杯し歓談が始まった。
「メイファ、二人きりのディナーは叶わなかったが今日は楽しもう」
「何故当たり前の様に隣に居るんだ……まぁ、勝手に楽しんでくれ」
龍族と仙族は今後について語り合った。
「龍王、お前の子らは強かった。あの魔王を討ち取るとはな。龍族が下がったとしても三種族の均衡は取れるだろう」
「うむ、儂が行ったところで何とも出来んかったであろうな……」
「これからは我は、他国の抑えとして別の種族を創る。その種族の王族が多くの民を治める。やがてこの世界はその新しい種族が一番多くなるだろう。他の二種族もおいそれと手を出せなくなる数にまで増えるはずだ。鍛錬次第では我々仙族に近いレベルにまで昇化できる様にするからな。仙族との間には子は作らぬよう規律を定めようとは思っておるが」
「そうか、儂らも友好関係にあらねばな。いや寧ろ儂らもその種族の一部として生きるのが良いかもな。その時は頼む」
「あぁ、分かった」
宴は遅くまで続いた。
次の日、仙王達は帰っていった。
「世話になった。料理も我々とは全く違う物で美味だった、ありがとう」
「なら良かった。お主らに何かあったときは協力させてもらう」
「あぁ、その時は頼む」
こうして、龍族は争いから降りてこの島で暮らす事となった。
この平和の為に散っていった者達と、三人の英雄のお陰で。
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