32 / 241
第二章 リーベン島編
特異能力
しおりを挟む「この三月、各自が師匠から様々な技や術を学んだ。それを各自昇華させることで、儂等を超えることが出来る。また三人でより強力な魔物を退治してくるか?」
「はい、この力を試したい気持ちが強いです」
「北のミモロ山にゃ蛇の魔物が多い。山を越えた先に結構な魔物がいましたよね、里長」
「そうだな、害がない故に放っておったが、退治に行くなら止めはせん」
間違いなくSランク超えの魔物だろう。ユーゴの拳に力が入る。
「強えぇ魔物は良い皮が取れる。それを防具にして装備すりゃいい。お前ぇらの今の防具もそうだろ? 岩蜥蜴だろうありゃ」
「はい、オレが初めてこの刀で斬った魔物です。その後、Aランクでも最上位の魔物だと知ってびっくりしましたけど……」
それを聞いて里長が怪訝な表情を見せた。
「……待て、岩蜥蜴を斬っただと? 練気術を習得する前にか?」
「はい、今思えば不細工な気力ですが……」
「今なら難無く斬れるであろうが、あれは容易く斬れる様な魔物では無いはずだ。どう斬った?」
確かに硬かった。だが、ユーゴが斬り伏せた事は間違いない事実だ。
「はい、ロックリザードの首の下に、服を着ている様な隙間が見えたんです。そこに飛び込んで斬ったんです」
「いや、ちょっと待って。首の下に隙間だって? 僕は最前線で見てたんだ。そんな物は無かった。もし僕に見えていたとしたら、真っ先にユーゴに知らせる」
すぐにトーマスが話を遮った。至近距離で対峙していた彼には、そのような隙間は無かったという。
「何だと? 弱点が視えた、という事か?」
里長の言葉に、トーマスが思い出したように言葉を続けた。
「視えたといえば……ユーゴ、レトルコメルスに向かう街道沿いで、盗賊に襲われた時の事を覚えてる?」
「え? なにそれ!」
エミリーが寝ていた時の話だ、知るはずもない。
「うん、覚えてる。エミリーはぐっすり寝てたから起こさなかった」
「その時、何で『盗賊』だと分かったの? 僕も起きた後に気配は感じた。魔物か何かだと思ったんだ。でもユーゴはハッキリと弓兵が伏せているって言ったんだ」
「覚えてないけど言ったかな……見えたんじゃないか?」
「いや、相手は焚火で僕達の場所は分かるだろうけど、あの日は曇ってたから分厚い雲で月も星も見えなかったんだ。弓兵なんて見えるわけ無いんだよ。だから、良く倒せたなと思ってたんだ」
――え、どういう事……?
ユーゴにその自覚は無かった。目に見える物を説明するのは簡単だ。何故見えたと言われれば、そう答える他ない。
「でも、オレ達がロックリザードの坑道に入るとき、マジックトーチを着けるまであれの存在に気づけなかったんだぞ?」
「その時と、弱点が見えたり弓兵が見えたりした時と、何か違うことは無かった?」
――違うこと……なんかあったか。
思い当たる節は無い。
言えるとすれば……。
「観察……かな? 坑道に入るときは、なんとなくトーマスに付いて行った。トーマスの後ろから、ロックリザードを観察したときに隙間が見えて、それから斬りかかった。盗賊の時も、気配を感じたから集中して状況を見ようとした。それくらいだと思うけど……」
それを聞いて、里長とメイファが目を見合わせた。
「里長……それってまさか」
「うむ、まさかとは思うが……『龍眼』の可能性があるの」
「……龍眼?」
「お主の様に敵の弱点が見えたり、闇ではっきりと周りが見えたり。後ろを見ずとも様子が見えたり、更に鍛えれば、相手の行動の一歩先が見える様になる」
「オレにそんな能力があるかも……ってことですか?」
里長は静かに頷き、提案する。
「試してみるか? では、そうだな……今からお主の後ろで刀を構える。どのような構えか当ててみよ」
「分かりました、やってみます」
ユーゴが目を閉じて少し俯く。その後ろで里長が刀を構えた。
集中すると、ユーゴの脳裏に薄っすらと背後の様子が浮かび上がった。
「下段の構えですね」
「正解だ。では次」
「八相の構え」
「そうだ、次」
「また下段ですね」
皆が、静まり返っている。
「信じられん……見えておるのか?」
「はい、集中すれば薄っすらとですが、視えます……」
「そうか……剣術には先の先、後の先という言葉があるように、相手の動きを見ることは最も大切な事だ。もし、相手の動きが先に見えるとなれば、剣士としてはこの上なく相性の良い能力だ」
ユーゴはこの能力に全く気が付いていなかった。普通に見えているものと思っていたらしい。
「そしてその龍眼は、儂の長男『フドウ・フェイロック』の能力だ」
「……この里の名前ですね」
「左様、この里の二つの区、リンドウとメイリンもまた儂の子だ。この三人を筆頭に、命をかけて戦った全ての龍族のお陰で儂等はこの島で平和に暮らすことが出来ておる。故に三人の英雄の名をこの里に付けたのだ。他の戦死者も儂の屋敷の慰霊碑に眠っておる」
「治療術師として私が目指すのはメイリン姉さん。凄い術師だった。リンドウ兄さんは里長の刀をはじめ、皆の刀を打った天才鍛冶師だった。私の刀もリンドウ兄さんが打った刀だ」
「リンドウさんの技術は伝説だ。生涯で打った刀の中で特級品は七振、あとは殆ど一級品だ。とんでもねぇ刀鍛冶だよ。その時、俺ぁまだ生まれてねぇ。でも俺の目標だ」
この二人が目標にする程の人物。話を聞くだけで、相当な戦士であった事が容易に想像出来る。
「そして、長兄フドウ。あやつは儂など及ばぬ程の天才剣士だった。剣術だけではない、練気術を生み出し更に昇華させて今に伝えたのもフドウだ。この三人の物語を聞くか?」
「はい。オレが持っているかもしれない龍眼の持ち主ですよね。聞きたい」
「奥様が尊敬する人の話、凄く興味がある」
「リンドウさんは盾士ですよね。是非聞きたい」
里長は後ろを振り返り、メイファに目配せした。
「良し、メイファが三人の近くにいつもおったの。話してやるが良い」
「分かりました。人族が生み出される前のこの世界の状況、龍族がどんな状況に置かれていたのか。里の英雄がどんな人物だったか。全て話してやろう」
皆それぞれ腰を下ろし、メイファの話に耳を傾けた。
7
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
異世界に降り立った刀匠の孫─真打─
リゥル
ファンタジー
異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!
主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。
亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。
召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。
そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。
それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。
過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。
――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。
カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界に来たからといってヒロインとは限らない
あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理!
ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※
ファンタジー小説大賞結果発表!!!
\9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/
(嬉しかったので自慢します)
書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン)
変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします!
(誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願
※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。
* * *
やってきました、異世界。
学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。
いえ、今でも懐かしく読んでます。
好きですよ?異世界転移&転生モノ。
だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね?
『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。
実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。
でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。
モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ?
帰る方法を探して四苦八苦?
はてさて帰る事ができるかな…
アラフォー女のドタバタ劇…?かな…?
***********************
基本、ノリと勢いで書いてます。
どこかで見たような展開かも知れません。
暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる