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第二章 リーベン島編

特異能力

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「この三月、各自が師匠から様々な技や術を学んだ。それを各自昇華させることで、儂等を超えることが出来る。また三人でより強力な魔物を退治してくるか?」
「はい、この力を試したい気持ちが強いです」
「北のミモロ山にゃ蛇の魔物が多い。山を越えた先に結構な魔物がいましたよね、里長」
「そうだな、害がない故に放っておったが、退治に行くなら止めはせん」

 間違いなくSランク超えの魔物だろう。ユーゴの拳に力が入る。

「強えぇ魔物は良い皮が取れる。それを防具にして装備すりゃいい。お前ぇらの今の防具もそうだろ? 岩蜥蜴ロックリザードだろうありゃ」
「はい、オレが初めてこの刀で斬った魔物です。その後、Aランクでも最上位の魔物だと知ってびっくりしましたけど……」

 それを聞いて里長が怪訝な表情を見せた。
 
「……待て、岩蜥蜴をだと? 練気術を習得する前にか?」
「はい、今思えば不細工な気力ですが……」
「今なら難無く斬れるであろうが、あれは容易く斬れる様な魔物では無いはずだ。どう斬った?」
 
 確かに硬かった。だが、ユーゴが斬り伏せた事は間違いない事実だ。

「はい、ロックリザードの首の下に、服を着ている様な隙間が見えたんです。そこに飛び込んで斬ったんです」
「いや、ちょっと待って。首の下に隙間だって? 僕は最前線で見てたんだ。そんな物は無かった。もし僕に見えていたとしたら、真っ先にユーゴに知らせる」

 すぐにトーマスが話を遮った。至近距離で対峙していた彼には、そのような隙間は無かったという。

「何だと? 弱点がえた、という事か?」

 里長の言葉に、トーマスが思い出したように言葉を続けた。
 
「視えたといえば……ユーゴ、レトルコメルスに向かう街道沿いで、盗賊に襲われた時の事を覚えてる?」
「え? なにそれ!」

 エミリーが寝ていた時の話だ、知るはずもない。

「うん、覚えてる。エミリーはぐっすり寝てたから起こさなかった」
「その時、何で『盗賊』だと分かったの? 僕も起きた後に気配は感じた。魔物か何かだと思ったんだ。でもユーゴはハッキリとって言ったんだ」
「覚えてないけど言ったかな……見えたんじゃないか?」
「いや、相手は焚火で僕達の場所は分かるだろうけど、あの日は曇ってたから分厚い雲で月も星も見えなかったんだ。弓兵なんて見えるわけ無いんだよ。だから、良く倒せたなと思ってたんだ」

 ――え、どういう事……?

 ユーゴにその自覚は無かった。目に見える物を説明するのは簡単だ。何故見えたと言われれば、そう答える他ない。

「でも、オレ達がロックリザードの坑道に入るとき、マジックトーチを着けるまであれの存在に気づけなかったんだぞ?」
「その時と、弱点が見えたり弓兵が見えたりした時と、何か違うことは無かった?」

 ――違うこと……なんかあったか。

 思い当たる節は無い。
 言えるとすれば……。

「観察……かな? 坑道に入るときは、なんとなくトーマスに付いて行った。トーマスの後ろから、ロックリザードを観察したときに隙間が見えて、それから斬りかかった。盗賊の時も、気配を感じたから集中して状況を見ようとした。それくらいだと思うけど……」

 それを聞いて、里長とメイファが目を見合わせた。

「里長……それってまさか」
「うむ、まさかとは思うが……『龍眼りゅうがん』の可能性があるの」
 
「……龍眼?」
「お主の様に敵の弱点が見えたり、闇ではっきりと周りが見えたり。後ろを見ずとも様子が見えたり、更に鍛えれば、相手の行動の一歩先が見える様になる」
「オレにそんな能力があるかも……ってことですか?」

 里長は静かに頷き、提案する。
 
「試してみるか? では、そうだな……今からお主の後ろで刀を構える。どのような構えか当ててみよ」
「分かりました、やってみます」

 ユーゴが目を閉じて少し俯く。その後ろで里長が刀を構えた。
 集中すると、ユーゴの脳裏に薄っすらと背後の様子が浮かび上がった。

「下段の構えですね」
「正解だ。では次」
「八相の構え」
「そうだ、次」
「また下段ですね」

 皆が、静まり返っている。

「信じられん……見えておるのか?」
「はい、集中すれば薄っすらとですが、視えます……」
「そうか……剣術には先の先せんのせん後の先ごのせんという言葉があるように、相手の動きを見ることは最も大切な事だ。もし、相手の動きが先に見えるとなれば、剣士としてはこの上なく相性の良い能力だ」

 ユーゴはこの能力に全く気が付いていなかった。普通に見えているものと思っていたらしい。

「そしてその龍眼は、儂の長男『フドウ・フェイロック』の能力だ」

「……この里の名前ですね」
「左様、この里の二つの区、リンドウとメイリンもまた儂の子だ。この三人を筆頭に、命をかけて戦った全ての龍族のお陰で儂等はこの島で平和に暮らすことが出来ておる。故に三人の英雄の名をこの里に付けたのだ。他の戦死者も儂の屋敷の慰霊碑に眠っておる」
 
「治療術師として私が目指すのはメイリン姉さん。凄い術師だった。リンドウ兄さんは里長の刀をはじめ、皆の刀を打った天才鍛冶師だった。私の刀もリンドウ兄さんが打った刀だ」
 
「リンドウさんの技術は伝説だ。生涯で打った刀の中で特級品は七振、あとは殆ど一級品だ。とんでもねぇ刀鍛冶だよ。その時、俺ぁまだ生まれてねぇ。でも俺の目標だ」

 この二人が目標にする程の人物。話を聞くだけで、相当な戦士であった事が容易に想像出来る。

「そして、長兄フドウ。あやつは儂など及ばぬ程の天才剣士だった。剣術だけではない、練気術を生み出し更に昇華させて今に伝えたのもフドウだ。この三人の物語を聞くか?」
「はい。オレが持っているかもしれない龍眼の持ち主ですよね。聞きたい」
「奥様が尊敬する人の話、凄く興味がある」
「リンドウさんは盾士ですよね。是非聞きたい」

 里長は後ろを振り返り、メイファに目配せした。

「良し、メイファが三人の近くにいつもおったの。話してやるが良い」
「分かりました。人族が生み出される前のこの世界の状況、龍族がどんな状況に置かれていたのか。里の英雄がどんな人物だったか。全て話してやろう」

 皆それぞれ腰を下ろし、メイファの話に耳を傾けた。
 
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