【完結】ミックス・ブラッド ~とある混血児の英雄譚~

久悟

文字の大きさ
上 下
11 / 253
第一章 旅立ち

港町ルナポート

しおりを挟む

 港町ルナポート。
 
 シュエンの故郷だというリーベン島への船が出ている。魚介類の漁が盛んで、漁港にはかなりの船が停泊している。

「うおぉ! これが海かー!」
「僕も初めて見るよ。これが潮の香りって言うのかな」
「とりあえず、船がいつ出るのか確認しようよ!」

 漁船の上で作業をしている色黒の男に聞いてみると、一日一往復だけらしく少し前に出てしまっていた。次は明日の昼前に出るようだ。今日はここで一泊する他ない。
  
「オレ、海の魚が食べてみたいんだ。川魚との違いはどうかな?」

 遠くからでも目立つ派手な看板の、一際大きいレストランに入った。船乗りが多いのだろう、色黒の男達が昼間から酒を酌み交わしている。
 家族連れも賑やかだ。女性も子供もよく陽に焼けている。
 
 念願の魚料理が運ばれてきた。
 白身魚のマリネ、魚のカルパッチョ、魚介のパエリア、見たことも聞いたこともない料理が、テーブルいっぱいに並んでいる。

「これは酒が進むぞ……夜は飲もう」
「んじゃ、いただきまーす!」

 三人の顔に笑顔が浮かぶ。
 生でも食べられるのは鮮度がいい証拠だ。魚は傷みやすく、街道での輸送はできない。だからここでしか食べられない。

「おいしー! 私このパエリアっての好き!」
「オレは断然カルパッチョだな。ワインがすすみそうだ」
「今まで味わったことない味だね。世界を旅するって本当に楽しいよ」

 酒を我慢しつつ、全ての料理を平らげた。
 食事を終えてもまだ昼過ぎだ。

「海水浴でもするか?」
「ユーゴ、私の水着姿見たいんでしょ? スケベだから!」
「残念だったな、オレはグラマーな女が好きなんだよ」
「チッ、スケベ野郎」
「だいたい、エミリーはサウナの時に散々見てるだろ」
「あ、そっか」

 ジリジリと照りつける陽の光が背中を刺す。波打ち際で足に当たる海水はまだ冷たい。
 意を決して飛び込むと、意外にも冷たさは感じなかった。海水浴には適した気温らしい。

 川遊びと同様に手足をバタつかせるが、波が押し寄せてうまく泳げない。

「本当にしょっぱいんだね!」
「ん? ホントだ!」
「海で漂流したら飲水無いね。大変だ」
「何言ってんの? 水魔法で作ったらいいじゃん。トーマスらしからぬこと言うね」
「あ、そうか……」

 他愛もない会話をしながら海水浴を楽しんだ。

「そういえば、オレら以外一人も泳いでないんだな。シーズンじゃないのか? 」

 すると、浜辺の方から声が聞こえた。
 
「おーい! 君ら危ないぞ! こんな時期に泳ぐもんじゃないぞー! 早く上がりなさい!」

「危ないって言ってるな」
「あのでっかい魚の魔物とかの事かな?」
「仕留めたら売れるかもね」

 好戦的なエミリーが、標的に向けて魔力を込めた手のひらを向けた。

『風魔法 強風砲ウインドキャノン!』

 小さな手から放たれた風魔法は、海を割って一直線に魔物に飛んでいった。
 風穴が空いてプッカリ浮かんできた大きな魚を、三人で浜に向け押して泳ぐ。

「君ら凄いな。冒険者かい?」
「はい、明日リーベン島に向かいます」
「あぁ、その黒髪、フドウの人か」

 中年の男性は、ユーゴの髪色を見て合点している。
 
「フドウ? リーベンじゃないの?」
「え? フドウの人じゃないのか? リーベン島には『フドウの里』っていう町があるんだ」

 ――フドウの里か、そこが父さんの故郷……。

 目と鼻の先に目的地がある。
 明日には到着する父の故郷の名を、頭の中で反芻する。
 
「なるほど、そういう事か。ところで、この魚って売れますか?」
「このサメかい? 肉は臭くて食べられないけど、歯が割と良い値で売れるよ」

 この魔物のランクは知らないが、素材が良い値で売れるならCランク程度か。夕飯が少し豪華になりそうだ。

「おじさん、ありがとー!」
「リーベン島行き気をつけてな! 魔物に襲われたりするから」
「そうなんだ……」

 もう少しすると海水浴のシーズンに入るらしく、サメなどが入れないようにバリケードを設置してから海開きをするらしい。なんとか海水浴を楽しめはしたが、ユーゴのもう一つの目的は、水着のお姉さん達を拝む事だったが仕方ない。

 
 夜はサメの歯を売ったお金で、昼間より豪華に宴会をした。お気に入りのカルパッチョを白ワインで流し込む。

「リーベン島はどんな料理が食べられるのかな」
「そもそもどんな町なんだろうね。島って独特な文化を築いてそうだ」
「島でちょっとゆっくりしたら次の旅のプランも立てないとね! 最近強い魔物と戦ってないから、腕なまっちゃうよ!」
「確かに、Aランクの目標クリアして、お金もあるから欲が無くなってたかもな。リーベン島で強い魔物に会いに行くのも良いかもな」
 
 美味い魚を堪能しながら、ほろ酔いでワインを飲み進める。
 
 明日にはリーベン島。

 ――オレのルーツがその島に……。

 父親は始祖四種族かもしれない。
 置き手紙の内容が、頭の中を回る。

「ユーゴ、どうかした?」

 俯き加減にワイングラスを回しているユーゴに、トーマスが声を掛けた。

「あぁ、いや、なんでもない。話は変わるんだけど、二人は始祖四種族を見た事ある?」
「僕はノースラインで魔族は見かけたよ。真っ赤な髪の毛が凄く目立ってたね」
「私も魔族と……仙族には会ったことあるかな。鬼族きぞくと龍族は見たことないね」

 ゴルドホークで他種族を見かける事は無かった。他の町で生まれた二人は、さも当たり前のように答えた。
 
「そうか、オレはつい最近まで御伽話だと思ってたよ」
「私も小さい頃はそう思ってたな」

 気付けば三人でワインを三本空けていた。

「明日はゆっくりだけど、もう出るか」

 明日は昼前に出る船に間に合えばいい。良い感じに酔いも回り、店を後にした。
  
 ホテルを選ぶのも面倒だ。
 レストランを出て一番近い寝床にチェックインし、ゆっくりと旅の疲れを癒した。
 

 ◇◇◇
 

 冒険者の朝は早い。
 遅くまで寝過ぎると体が動かない。早起きが体に染み付いている。二日酔いの日以外の話だが。

 魚をふんだんに使った朝食を腹いっぱい平らげて、紅茶をゆっくりと楽しむ。
 船出までは少し時間があるが、早めに船着場まで移動した。
 
「すみません、フドウの里は大陸の通貨で問題ないんですか?」
「あぁ、フドウもブールに統一されたのは大昔の話だ、問題ないよ」

「あー!!!!」
「どうしたエミリー!?」

 突然エミリーが素っ頓狂な叫び声をあげた。

「ボートレース忘れてたー! ブールで思い出したー!!」

 そう言えば、ルナポートといえばボートレースだと楽しみにしていた。

「美味しい魚と楽しい海水浴で忘れてた……ギャンブルを忘れるなんて……エミリー一生の不覚……」
「リーベン島から帰るときは絶対ここに寄らないといけないんだから。次は少し滞在しようよ」
「うん……そうしてくれると嬉しい……」

 エミリーの落胆ぶりは相当なものだった。
 リーベン島にもギャンブルはあるさ、と二人が慰める。 

 無事に船に乗ることが出来た。
 大型ではないが、割と立派な船だ。数人だが黒髪の人もいた。父親以外で初めて見る。

 昼過ぎには着くようだ。
 ホテルで軽食を買ってきている。それを食べようと思った矢先の事だった。
 突然、船が大きく揺れた。

「なんだ?」

 船のすぐ近くに、大きなシードラゴンの首が現れた。

「魔物だ! 行くぞ!」
「下がってろ」

 後ろからの声で振り返る。
 声の主は黒髪の青年だ。

『風遁 嵐塵らんじん

 途轍もない風切り音と共に、無数の風の刃が放たれ、シードラゴンが一瞬で斬り刻まれた。
 それを確認することなく、青年は何事も無かったように操縦室へと戻っていった。

「すっご……なに今の魔法……」
「ふうとん、て言ってたな」
「おそらくリーベン島の戦闘方法なんだろうね……習得したいもんだ」

 その後は何事もなく船着場に着き、島に上陸した。

「ユーゴやシュエンさんみたいに、みんな髪が黒いね」
「本当に父さんの故郷なんだな。この光景を見たら間違いないなって思うよ」
「ここはどんなギャンブルがあるかな」

 当面の目的地、リーベン島に到着した。

 
【第一章 旅立ち 完】
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...