【完結】ミックス・ブラッド ~とある混血児の英雄譚~

久悟

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第一章 旅立ち

港町ルナポート

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 港町ルナポート。
 
 シュエンの故郷だというリーベン島への船が出ている。魚介類の漁が盛んで、漁港にはかなりの船が停泊している。

「うおぉ! これが海かー!」
「僕も初めて見るよ。これが潮の香りって言うのかな」
「とりあえず、船がいつ出るのか確認しようよ!」

 漁船の上で作業をしている色黒の男に聞いてみると、一日一往復だけらしく少し前に出てしまっていた。次は明日の昼前に出るようだ。今日はここで一泊する他ない。
  
「オレ、海の魚が食べてみたいんだ。川魚との違いはどうかな?」

 遠くからでも目立つ派手な看板の、一際大きいレストランに入った。船乗りが多いのだろう、色黒の男達が昼間から酒を酌み交わしている。
 家族連れも賑やかだ。女性も子供もよく陽に焼けている。
 
 念願の魚料理が運ばれてきた。
 白身魚のマリネ、魚のカルパッチョ、魚介のパエリア、見たことも聞いたこともない料理が、テーブルいっぱいに並んでいる。

「これは酒が進むぞ……夜は飲もう」
「んじゃ、いただきまーす!」

 三人の顔に笑顔が浮かぶ。
 生でも食べられるのは鮮度がいい証拠だ。魚は傷みやすく、街道での輸送はできない。だからここでしか食べられない。

「おいしー! 私このパエリアっての好き!」
「オレは断然カルパッチョだな。ワインがすすみそうだ」
「今まで味わったことない味だね。世界を旅するって本当に楽しいよ」

 酒を我慢しつつ、全ての料理を平らげた。
 食事を終えてもまだ昼過ぎだ。

「海水浴でもするか?」
「ユーゴ、私の水着姿見たいんでしょ? スケベだから!」
「残念だったな、オレはグラマーな女が好きなんだよ」
「チッ、スケベ野郎」
「だいたい、エミリーはサウナの時に散々見てるだろ」
「あ、そっか」

 ジリジリと照りつける陽の光が背中を刺す。波打ち際で足に当たる海水はまだ冷たい。
 意を決して飛び込むと、意外にも冷たさは感じなかった。海水浴には適した気温らしい。

 川遊びと同様に手足をバタつかせるが、波が押し寄せてうまく泳げない。

「本当にしょっぱいんだね!」
「ん? ホントだ!」
「海で漂流したら飲水無いね。大変だ」
「何言ってんの? 水魔法で作ったらいいじゃん。トーマスらしからぬこと言うね」
「あ、そうか……」

 他愛もない会話をしながら海水浴を楽しんだ。

「そういえば、オレら以外一人も泳いでないんだな。シーズンじゃないのか? 」

 すると、浜辺の方から声が聞こえた。
 
「おーい! 君ら危ないぞ! こんな時期に泳ぐもんじゃないぞー! 早く上がりなさい!」

「危ないって言ってるな」
「あのでっかい魚の魔物とかの事かな?」
「仕留めたら売れるかもね」

 好戦的なエミリーが、標的に向けて魔力を込めた手のひらを向けた。

『風魔法 強風砲ウインドキャノン!』

 小さな手から放たれた風魔法は、海を割って一直線に魔物に飛んでいった。
 風穴が空いてプッカリ浮かんできた大きな魚を、三人で浜に向け押して泳ぐ。

「君ら凄いな。冒険者かい?」
「はい、明日リーベン島に向かいます」
「あぁ、その黒髪、フドウの人か」

 中年の男性は、ユーゴの髪色を見て合点している。
 
「フドウ? リーベンじゃないの?」
「え? フドウの人じゃないのか? リーベン島には『フドウの里』っていう町があるんだ」

 ――フドウの里か、そこが父さんの故郷……。

 目と鼻の先に目的地がある。
 明日には到着する父の故郷の名を、頭の中で反芻する。
 
「なるほど、そういう事か。ところで、この魚って売れますか?」
「このサメかい? 肉は臭くて食べられないけど、歯が割と良い値で売れるよ」

 この魔物のランクは知らないが、素材が良い値で売れるならCランク程度か。夕飯が少し豪華になりそうだ。

「おじさん、ありがとー!」
「リーベン島行き気をつけてな! 魔物に襲われたりするから」
「そうなんだ……」

 もう少しすると海水浴のシーズンに入るらしく、サメなどが入れないようにバリケードを設置してから海開きをするらしい。なんとか海水浴を楽しめはしたが、ユーゴのもう一つの目的は、水着のお姉さん達を拝む事だったが仕方ない。

 
 夜はサメの歯を売ったお金で、昼間より豪華に宴会をした。お気に入りのカルパッチョを白ワインで流し込む。

「リーベン島はどんな料理が食べられるのかな」
「そもそもどんな町なんだろうね。島って独特な文化を築いてそうだ」
「島でちょっとゆっくりしたら次の旅のプランも立てないとね! 最近強い魔物と戦ってないから、腕なまっちゃうよ!」
「確かに、Aランクの目標クリアして、お金もあるから欲が無くなってたかもな。リーベン島で強い魔物に会いに行くのも良いかもな」
 
 美味い魚を堪能しながら、ほろ酔いでワインを飲み進める。
 
 明日にはリーベン島。

 ――オレのルーツがその島に……。

 父親は始祖四種族かもしれない。
 置き手紙の内容が、頭の中を回る。

「ユーゴ、どうかした?」

 俯き加減にワイングラスを回しているユーゴに、トーマスが声を掛けた。

「あぁ、いや、なんでもない。話は変わるんだけど、二人は始祖四種族を見た事ある?」
「僕はノースラインで魔族は見かけたよ。真っ赤な髪の毛が凄く目立ってたね」
「私も魔族と……仙族には会ったことあるかな。鬼族きぞくと龍族は見たことないね」

 ゴルドホークで他種族を見かける事は無かった。他の町で生まれた二人は、さも当たり前のように答えた。
 
「そうか、オレはつい最近まで御伽話だと思ってたよ」
「私も小さい頃はそう思ってたな」

 気付けば三人でワインを三本空けていた。

「明日はゆっくりだけど、もう出るか」

 明日は昼前に出る船に間に合えばいい。良い感じに酔いも回り、店を後にした。
  
 ホテルを選ぶのも面倒だ。
 レストランを出て一番近い寝床にチェックインし、ゆっくりと旅の疲れを癒した。
 

 ◇◇◇
 

 冒険者の朝は早い。
 遅くまで寝過ぎると体が動かない。早起きが体に染み付いている。二日酔いの日以外の話だが。

 魚をふんだんに使った朝食を腹いっぱい平らげて、紅茶をゆっくりと楽しむ。
 船出までは少し時間があるが、早めに船着場まで移動した。
 
「すみません、フドウの里は大陸の通貨で問題ないんですか?」
「あぁ、フドウもブールに統一されたのは大昔の話だ、問題ないよ」

「あー!!!!」
「どうしたエミリー!?」

 突然エミリーが素っ頓狂な叫び声をあげた。

「ボートレース忘れてたー! ブールで思い出したー!!」

 そう言えば、ルナポートといえばボートレースだと楽しみにしていた。

「美味しい魚と楽しい海水浴で忘れてた……ギャンブルを忘れるなんて……エミリー一生の不覚……」
「リーベン島から帰るときは絶対ここに寄らないといけないんだから。次は少し滞在しようよ」
「うん……そうしてくれると嬉しい……」

 エミリーの落胆ぶりは相当なものだった。
 リーベン島にもギャンブルはあるさ、と二人が慰める。 

 無事に船に乗ることが出来た。
 大型ではないが、割と立派な船だ。数人だが黒髪の人もいた。父親以外で初めて見る。

 昼過ぎには着くようだ。
 ホテルで軽食を買ってきている。それを食べようと思った矢先の事だった。
 突然、船が大きく揺れた。

「なんだ?」

 船のすぐ近くに、大きなシードラゴンの首が現れた。

「魔物だ! 行くぞ!」
「下がってろ」

 後ろからの声で振り返る。
 声の主は黒髪の青年だ。

『風遁 嵐塵らんじん

 途轍もない風切り音と共に、無数の風の刃が放たれ、シードラゴンが一瞬で斬り刻まれた。
 それを確認することなく、青年は何事も無かったように操縦室へと戻っていった。

「すっご……なに今の魔法……」
「ふうとん、て言ってたな」
「おそらくリーベン島の戦闘方法なんだろうね……習得したいもんだ」

 その後は何事もなく船着場に着き、島に上陸した。

「ユーゴやシュエンさんみたいに、みんな髪が黒いね」
「本当に父さんの故郷なんだな。この光景を見たら間違いないなって思うよ」
「ここはどんなギャンブルがあるかな」

 当面の目的地、リーベン島に到着した。

 
【第一章 旅立ち 完】
 
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