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第一章 旅立ち

Aランク冒険者への道

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「ほぉ、ロックリザードか。こいつの体皮は防具にいいぞ」
「じゃ、倒したら防具が新しくなるね!」

 Aランク冒険者にランクアップするついでに、防具も強力になる。三人にやる気が漲る。

「ランクアップ試験の条件は要らないか?」
「いや、聞いとくよ」

 三人以下のパーティであること。
 全員がBランク以下であること。
 試験の達成は、勿論ロックリザードの討伐だ。

「Bランクの試験の時も疑問だったんですが、高ランク冒険者に手伝ってもらったり、四人以上で倒したり、体皮を買ったりしても分からないんじゃないですか?」

 トーマスが、髭面に前々からの疑問を投げかけた。
 
「いいや、不正は出来ないようになっている。冒険者カードには各個人の魔力が登録されているからな。今から受付でお前らのカードを同期するんだが、お前ら以外の魔力の干渉があれば分かるようになっている。だから三人で依頼をこなす他にないな。まぁ、他にも細かい条件はあるが、三人で行くなら関係ない話だよ」

 他にもどんな魔物と交戦したかなど、魔力の干渉をカードが記録する仕組みになっている為、不正を働く事が出来ない様だ。
 
 不正で高ランクを取得したような者がパーティにいれば確実に壊滅する。上手く出来ているものだと三人は関心し、納得した。

「ただ、Aランク以上の依頼品はかなり高額なんだが、商人なんかが高ランクの依頼品を金で買うことはあるな。商人が依頼を受けるようなことは無い、死にたくは無いからな。城郭都市に入る際に関所に並ぶのを避けるためだ、それは黙認しているのが現状だな」

 冒険者カードは身分証明になる。中でもAランク以上のカードは身分証明の最たるもので、関所での検問を免除される他、様々な恩恵を受けられるようだ。
 魔力は一人として同じものはない。指名手配でもされようものなら、登録された魔力を元に追われ、逃げ果せる事はない。
 
「そういうこともあるのか……じゃあ、この内容でランクアップ試験の受付頼むよ」
「あぁ、分かった。冒険者カードを預かる」

 剣士
 ユーゴ・グランディール
 
 盾士
 トーマス・アンダーソン
 
 回復術師
 エミリー・スペンサー

 
「受け付けたよ。頑張ってこい」
 
 相手は決まった。
 あとは倒すだけだ。


 ◇◇◇


 次の日の朝。
 ユーゴの家は町外れだ。余裕を持って準備を終え、冒険者ギルドへ歩を進める。
 ユーゴが入口付近のテーブルに着いてすぐ、二人も到着した。トーマスはもちろん、エミリーも普段は真面目な冒険者だ。時間にルーズなどという事はない。主要レースには早朝から並ぶほど朝には強い。
 三人揃って鍛冶屋街へ。
 
「ダンさん、おはようございます」
「おはよう、待ってたよ」
 
 綺麗に整備された防具は、既にカウンターに並べて準備されていた。とはいえ数年身に付けている防具だ、傷や破れは隠せない。
 鞘から抜いた刀は、見違える程に美しく輝いている。

「では行ってきます」
「あぁ、気をつけてね」

 お代を支払って店を後にした。
 エミリーは無一文だ。杖の整備は必要ないが、革防具の代金は立て替えた。
 報酬から差し引けば問題ない。
 
 依頼のロックリザードは、採掘中の坑道に住み着いたらしい。
 ロックリザードはAランクの魔物だ。魔物のランクは、同ランクの攻撃役アタッカー盾役タンク回復役ヒーラーの基本の三人パーティーで一体倒せる事を想定して付けられる。Aランクの魔物が複数体いる場合は、Sランクの依頼になる。
 Sランクを超える冒険者は、Aランクの魔物を一人で瞬殺するほどの猛者だ。シュエンはそのランクにいる。

 リザードの名から四足歩行のトカゲを想像するが、実際は二足歩行の小さいドラゴンのような風貌だ。しかも、体皮が岩のような鱗に覆われて相当硬いらしい。

「一回見かけたやつだよね」
「あぁ、あの時は必死に逃げたな」
「どれくらいの大きさだった? 遠かったからそんなに大きくは見えなかったけど、所詮はトカゲでしょ?」

 分からない事を議論するほど愚かな事はない。ひたすらに徒歩で岩山を上り、依頼場所の坑道を目指す。

「ここだな、流石に灯りは着いてないか」
「暗かったらマジックトーチ着けるよ」

 マジックトーチは魔力で点火する松明だ。
 小型で軽量なうえに、少ない魔力で明るく照らせる魔法具だ。

「よし、準備はいいかい? 入るよ」

 そう言ってトーマスは左手に盾を構えた。後ろに二人が続いて、坑道の中に向けて歩みを進める。
 十数歩入っただろうか。光が全く入らない坑道内は、右も左も分からない闇の中だった。

「やっぱり暗いな」

 トーチに点火する。
 と、数歩先にいきなりドラゴンが現れた。

「「「ギィャァァァ――!!」」」

 突然の遭遇に、三人は坑道から一目散に逃げ出た。

「おい! 何だよ今の!」
「あぁビックリした……心臓止まるかと思った……」

 まだドキドキしている。息を整えていると、坑道からゆっくりと何かが出てきた。
 ロックリザードだ。

「そ……外におびき出す事には成功したな……」
「たまたまだけどね……」
「思った以上に大っきいんだね……」

 小さなドラゴンとはよく言ったもので、二足歩行の大トカゲが、岩のような鱗を全身に纏い三人を睨みつけている。

「Aランクの魔物だ! 気を抜いたら死ぬぞ!」
「守りは任せてくれ!」

 こいつを倒せばAランク冒険者だ。
 三人の顔が引き締まった。
 
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