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一話

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「百果の父だが、急で悪いが今から伝える病院に来てくれないか。百果が危険な状態なんだ」

 十二時頃、三年振りに聞いた百果のお父さんの声は動揺しながらも辛うじて冷静さを保っているように感じられた。

 その後、百果が入院している病院と病室を知らされた俺は急ぐように家を出た。

 一時半頃に病室にたどり着くとベッドで横になっていた百果は息を引き取っていた。高校一年生になった百果の顔は少し成長していたが三年前とあまり変わりなかった。

 百果もかのご両親はベッドの側で何度も大声で泣き、雫がベッドに染み付いていた。

 百果が入院していることすら知らなかった俺は事実を受け入れられず涙を流すことができなかった。

 十七時になると俺は病院を後にした。百果のご両親からは明日の通夜の場所を後で連絡するから家族で来てほしいと頼まれた。

 親にこの件を伝えたらきっと驚き泣いてしまうのは容易に想像できた。俺と百果は一個下で幼稚園のときからの関係だ。その分親も百果のことを可愛がっていた。

 あまり来たことのない街の道は冬ということもあり明るさが乏しくなっていた。無数の雲が空を覆い尽くし、本来であれば空を昇っているであろう月を視界に捉えることができない。

 一人で道を歩くたびに冷気に触れる。そうすることで少しずつ百果が亡くなってきた現実に理解し始めた。目頭にも薄っすらと熱いものを感じだした。

 俺は肩にかけてあるショルダーバックからスマホを取り出した。

 スマホを起動すると通話履歴を確認する。二週間前の通話履歴には「文谷百果ふみたにもか」と表示されていた。

 このときの電話が百果と最後に話したときだった。そして百果に三年振りに会おうと誘われていた。その予定日が今日のはずだった。

 三年前に地元を離れた百果と久々に会えることに俺は浮かれてここ数日は当日の服装を入念に考えていた。けれどその服装を百果に見せることはなかった。

 今思えば百果の声はやけにか細い気がした。電話をかけてきたときから体調はかなり不安定だったのかもしれない。

 それにしても百果が引っ越した理由が大きな病院に入院するためだとは全く知らなかった。

 三年前の百果はまだ活発でいつも笑顔を振りまいてくれていた。

 百果が地元から離れる最後の日も見送った。そのとき百果は笑顔を振り撒いて言った言葉今でも覚えている。

『しばらく会えないけど、次会うなら二人で遊園地に行こう』

 結局二人で遊園地に行けなかった。それどころか今日の予定も地元を一時間ほど見て回るだけだった。百果の命はそれほど長くはなかったのだろう。百果は自らの寿命を悟って俺を遊びに誘ってくれたのかもしれない。

 唐突に頬を辺りに小さな冷たい感触がした。一瞬雨かと思って空を見上げたが雪だった。小雪と称される程度の量の白い粒たちが地上へと降り立つ。

 この辺りで雪は珍しくないが、今日見る雪は何故か幻想的に見えてしまう。

 雪と外気で体は冷えているのに熱くなっていた目頭は急激に沸騰し一粒の涙が目から流れた。

 人差し指で涙を拭うがほんのりと温かい。

 このまま時間が経てばきっと百果の両親のように大泣きしてしまうだろう。

 けれどもう日が暮れる時刻だ。俺は家に帰ってから泣こうと決意し涙を抑えながら歩く。だけど涙が止まらず、涙の筋がいくつもついていく。

「百果と観覧車乗って、そして告白したかったな」

 俺は告げられなかった想いが詰まった胸に片手を当てると雪を降らす空を見つめた。
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