8 / 37
準備完了?
しおりを挟む
鍛冶場に行くと見慣れた形の機械が、見慣れぬ素材で造られていた。自洗機にバキューム、高圧洗浄機。そしてホウキ4種。
「…残りは材料が確保出来たら作る」
「この短時間で…凄いですね!」
ガンバスは表情は変えなかったが、鼻の穴を膨らませるのが見えた。もしかしたら彼なりに喜んでいるのかもしれない。
「…試してみろ」
僕は自動床洗浄機(自洗機)の後ろに立つ。元いた世界の自洗機はバッテリーを充電して使う。前方に円形のブラシが付いており水を出しながらブラシを回して洗浄する。後方にゴム製のV字の受けがついたバキュームがある。これを押して歩くだけで洗いと汚水処理を同時に行うことが出来る。
しかしこの世界のものだ。バッテリーというものは存在してない。それにスイッチも無い。果たしてどうやって動かすのか。自洗機の前で困惑しているとガンバスが溜息をつきながら自洗機の持ち手を握った。
「…ここを持って魔力を流すと動き出す。魔力を止めれば止まる。水は入れてある。やってみろ」
(そうでした~、ここは異世界でした~。魔力で動かすのか、そうかそうか)
「すみません。こちらの世界には魔力という概念がないので、どうすればいいのか分かりません」
ガンバスは目を見開いて驚いた。初めて表情が変わったのを見た。後ろで見ていたデッドアイが手をポンと叩いて言う。
「そうよね、人間って普通魔力使えないのよね。襲ってくる人間は異能者っていうのを忘れてたわ」
そう、魔力の使える異能の人間は冒険者となり魔物を倒すというのが、この世界の基本である。よって魔王の命により防衛のみ許されている現状では魔物サイドは異能の人間にしか出会うことはない。
「なぁ、魔力が使えないならよぉ。ブランの持ってる腕輪でなんとかなるんじゃねぇか?」
オーリリーが提案すると、サスタスが「おぉ」と驚いた声をあげた。
「確かにブラン王子の腕輪なら魔力を溜め込めますし、付けてる間は作動しそうですね。止める時は手を離せばいいですし。まさか脳筋王女から的確な提案が出るとは…」
嘲笑を浮かべながら言うサスタスを、オーリリーは「うるせぇ」と言いながら小突いた。この提案に光明を見出して、僕は安堵と同時にブランが王子である事実に少し驚いた。
(そりゃリリーが王女なら、ブランは王子だわな。王子…なんだよなぁ。信じられないけど)
デッドアイの使い魔がブランを呼びに行った。残りのバキュームと高圧洗浄機も魔力を使うので一旦置いておく。ホウキの方はかなり出来がいい。柄の部分は見たことない素材だが、軽くて丈夫そうだ。現世でも普通に使えそうである。試しに掃いてみると細かい砂までしっかり掃ける。試しのつもりが夢中になってしまい砂や石、ゴミなどがこんもり小さな山になっていた。
「しまった、ちりとりが無いや」
「ちりとりって?」
デッドアイが聞く。
「こうして固めたゴミをちりとりに入れてゴミ箱に捨てるんです。」
「ゴミ箱?ゴミを貯める箱ってこと?」
「そうです。え?ゴミ箱無かったらアイ王女は普段どうしてるんですか?」
「え、そりゃもちろん…」
そう言うとデッドアイは廊下に出ていった。創士は首を傾げながら後ろ姿を見送った。しばらくするとデッドアイがスライムを掴んで戻ってきた。するとそのスライムをゴミの山に押し付けた。スライムの中にゴミが吸収される。デッドアイはそのゴミが混ざったスライムを再び掴んで、廊下の窓に投げつけた。パリンとガラスが割れてスライムは外に放り出された。
「こうよ!」
ドヤ顔で振り向くデッドアイ。僕は何が起きたのか一瞬分からなくなり、ハッと我に返った。
「いやいや!めちゃくちゃしますね!スライム可哀想じゃないですか!」
「大丈夫よ!加減して投げたし。それに消化できないものは這いずりながら出してくるの!アイツらは!」
「ガラスも割っちゃってるし!」
「これはガラスじゃないの、シーベットフィッシュの鱗だから、魔力を流せば治るのよ。」
魔力って便利だなぁ、と感心してしまう創士。
「え、皆さんこんな感じ?」
オーリリーは「ブランがやってくれるから知らね」と答え、サスタスは「あまりやりませんが、やった事はあります」と答えた。ガンバスはというと「…炉で燃やす」だそうだ。
(『ゴミを』ですよね?ガンバスさん?)
こんな事をしているうちにブランがやってきた。サスタスがここまでの経緯を説明する。
「この腕輪があれば、沖田さんでも魔力が使えるようになるんですね」
そう言うと腕に付けていたリングを外して、僕の腕にはめた。自動的に装着者の腕の大きさに合う優れモノだ。自洗機の持ち手を握ってみる。すると見事に動き出した。持ち手を放してみる。停止する。握る、動く。放す、止まる。
(すごい…魔力が使えてる。)
廊下に出て少し洗ってみた。磨けてるし、汚水も吸えてる。
「凄いですよガンバスさん!元の世界のものと遜色ない!」
「…少し改良を加えた。水の魔石が入れてあるから給水の必要はない」
(ええ!?便利!)
「…それに汚水の溜まる場所に水を吸収する石を付けているから、汚水を捨てなくていい。ただゴミは溜まるから、ここを外して時折捨ててくれ」
(ほぇえ!?超絶便利!)
残りのバキュームと高圧洗浄機も同じような機構が付いているらしい。
「これ、元の世界のやつを超えましたよ…」
そう言うとガンバスは腕を組んで勝ち誇った顔をした。
「じゃあ創士、さっそくやりましょ!」
これでキレイになってくれるといいのだけど、そんなフラグ立てのような事を思いながら掃除へ向かう。
「…残りは材料が確保出来たら作る」
「この短時間で…凄いですね!」
ガンバスは表情は変えなかったが、鼻の穴を膨らませるのが見えた。もしかしたら彼なりに喜んでいるのかもしれない。
「…試してみろ」
僕は自動床洗浄機(自洗機)の後ろに立つ。元いた世界の自洗機はバッテリーを充電して使う。前方に円形のブラシが付いており水を出しながらブラシを回して洗浄する。後方にゴム製のV字の受けがついたバキュームがある。これを押して歩くだけで洗いと汚水処理を同時に行うことが出来る。
しかしこの世界のものだ。バッテリーというものは存在してない。それにスイッチも無い。果たしてどうやって動かすのか。自洗機の前で困惑しているとガンバスが溜息をつきながら自洗機の持ち手を握った。
「…ここを持って魔力を流すと動き出す。魔力を止めれば止まる。水は入れてある。やってみろ」
(そうでした~、ここは異世界でした~。魔力で動かすのか、そうかそうか)
「すみません。こちらの世界には魔力という概念がないので、どうすればいいのか分かりません」
ガンバスは目を見開いて驚いた。初めて表情が変わったのを見た。後ろで見ていたデッドアイが手をポンと叩いて言う。
「そうよね、人間って普通魔力使えないのよね。襲ってくる人間は異能者っていうのを忘れてたわ」
そう、魔力の使える異能の人間は冒険者となり魔物を倒すというのが、この世界の基本である。よって魔王の命により防衛のみ許されている現状では魔物サイドは異能の人間にしか出会うことはない。
「なぁ、魔力が使えないならよぉ。ブランの持ってる腕輪でなんとかなるんじゃねぇか?」
オーリリーが提案すると、サスタスが「おぉ」と驚いた声をあげた。
「確かにブラン王子の腕輪なら魔力を溜め込めますし、付けてる間は作動しそうですね。止める時は手を離せばいいですし。まさか脳筋王女から的確な提案が出るとは…」
嘲笑を浮かべながら言うサスタスを、オーリリーは「うるせぇ」と言いながら小突いた。この提案に光明を見出して、僕は安堵と同時にブランが王子である事実に少し驚いた。
(そりゃリリーが王女なら、ブランは王子だわな。王子…なんだよなぁ。信じられないけど)
デッドアイの使い魔がブランを呼びに行った。残りのバキュームと高圧洗浄機も魔力を使うので一旦置いておく。ホウキの方はかなり出来がいい。柄の部分は見たことない素材だが、軽くて丈夫そうだ。現世でも普通に使えそうである。試しに掃いてみると細かい砂までしっかり掃ける。試しのつもりが夢中になってしまい砂や石、ゴミなどがこんもり小さな山になっていた。
「しまった、ちりとりが無いや」
「ちりとりって?」
デッドアイが聞く。
「こうして固めたゴミをちりとりに入れてゴミ箱に捨てるんです。」
「ゴミ箱?ゴミを貯める箱ってこと?」
「そうです。え?ゴミ箱無かったらアイ王女は普段どうしてるんですか?」
「え、そりゃもちろん…」
そう言うとデッドアイは廊下に出ていった。創士は首を傾げながら後ろ姿を見送った。しばらくするとデッドアイがスライムを掴んで戻ってきた。するとそのスライムをゴミの山に押し付けた。スライムの中にゴミが吸収される。デッドアイはそのゴミが混ざったスライムを再び掴んで、廊下の窓に投げつけた。パリンとガラスが割れてスライムは外に放り出された。
「こうよ!」
ドヤ顔で振り向くデッドアイ。僕は何が起きたのか一瞬分からなくなり、ハッと我に返った。
「いやいや!めちゃくちゃしますね!スライム可哀想じゃないですか!」
「大丈夫よ!加減して投げたし。それに消化できないものは這いずりながら出してくるの!アイツらは!」
「ガラスも割っちゃってるし!」
「これはガラスじゃないの、シーベットフィッシュの鱗だから、魔力を流せば治るのよ。」
魔力って便利だなぁ、と感心してしまう創士。
「え、皆さんこんな感じ?」
オーリリーは「ブランがやってくれるから知らね」と答え、サスタスは「あまりやりませんが、やった事はあります」と答えた。ガンバスはというと「…炉で燃やす」だそうだ。
(『ゴミを』ですよね?ガンバスさん?)
こんな事をしているうちにブランがやってきた。サスタスがここまでの経緯を説明する。
「この腕輪があれば、沖田さんでも魔力が使えるようになるんですね」
そう言うと腕に付けていたリングを外して、僕の腕にはめた。自動的に装着者の腕の大きさに合う優れモノだ。自洗機の持ち手を握ってみる。すると見事に動き出した。持ち手を放してみる。停止する。握る、動く。放す、止まる。
(すごい…魔力が使えてる。)
廊下に出て少し洗ってみた。磨けてるし、汚水も吸えてる。
「凄いですよガンバスさん!元の世界のものと遜色ない!」
「…少し改良を加えた。水の魔石が入れてあるから給水の必要はない」
(ええ!?便利!)
「…それに汚水の溜まる場所に水を吸収する石を付けているから、汚水を捨てなくていい。ただゴミは溜まるから、ここを外して時折捨ててくれ」
(ほぇえ!?超絶便利!)
残りのバキュームと高圧洗浄機も同じような機構が付いているらしい。
「これ、元の世界のやつを超えましたよ…」
そう言うとガンバスは腕を組んで勝ち誇った顔をした。
「じゃあ創士、さっそくやりましょ!」
これでキレイになってくれるといいのだけど、そんなフラグ立てのような事を思いながら掃除へ向かう。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約者を奪われて冤罪で追放されたので薬屋を開いたところ、隣国の殿下が常連になりました
今川幸乃
ファンタジー
病気がちな母を持つセシリアは将来母の病気を治せる薬を調合出来るようにと薬の勉強をしていた。
しかし婚約者のクロードは幼馴染のエリエと浮気しており、セシリアが毒を盛ったという冤罪を着せて追放させてしまう。
追放されたセシリアは薬の勉強を続けるために新しい街でセシルと名前を変えて薬屋を開き、そこでこれまでの知識を使って様々な薬を作り、人々に親しまれていく。
さらにたまたまこの国に訪れた隣国の王子エドモンドと出会い、その腕を認められた。
一方、クロードは相思相愛であったエリエと結ばれるが、持病に効く薬を作れるのはセシリアだけだったことに気づき、慌てて彼女を探し始めるのだった。
※医学・薬学関係の記述はすべて妄想です
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
公爵令嬢は父の遺言により誕生日前日に廃嫡されました。
夢見 歩
ファンタジー
日が暮れ月が昇り始める頃、
自分の姿をガラスに写しながら静かに
父の帰りを待つひとりの令嬢がいた。
リリアーヌ・プルメリア。
雪のように白くきめ細かい肌に
紺色で癖のない綺麗な髪を持ち、
ペリドットのような美しい瞳を持つ
公爵家の長女である。
この物語は
望まぬ再婚を強制された公爵家の当主と
長女による生死をかけた大逆転劇である。
━━━━━━━━━━━━━━━
⚠︎ 義母と義妹はクズな性格ですが、上には上がいるものです。
⚠︎ 国をも巻き込んだ超どんでん返しストーリーを作者は狙っています。(初投稿のくせに)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる