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準備完了?
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鍛冶場に行くと見慣れた形の機械が、見慣れぬ素材で造られていた。自洗機にバキューム、高圧洗浄機。そしてホウキ4種。
「…残りは材料が確保出来たら作る」
「この短時間で…凄いですね!」
ガンバスは表情は変えなかったが、鼻の穴を膨らませるのが見えた。もしかしたら彼なりに喜んでいるのかもしれない。
「…試してみろ」
僕は自動床洗浄機(自洗機)の後ろに立つ。元いた世界の自洗機はバッテリーを充電して使う。前方に円形のブラシが付いており水を出しながらブラシを回して洗浄する。後方にゴム製のV字の受けがついたバキュームがある。これを押して歩くだけで洗いと汚水処理を同時に行うことが出来る。
しかしこの世界のものだ。バッテリーというものは存在してない。それにスイッチも無い。果たしてどうやって動かすのか。自洗機の前で困惑しているとガンバスが溜息をつきながら自洗機の持ち手を握った。
「…ここを持って魔力を流すと動き出す。魔力を止めれば止まる。水は入れてある。やってみろ」
(そうでした~、ここは異世界でした~。魔力で動かすのか、そうかそうか)
「すみません。こちらの世界には魔力という概念がないので、どうすればいいのか分かりません」
ガンバスは目を見開いて驚いた。初めて表情が変わったのを見た。後ろで見ていたデッドアイが手をポンと叩いて言う。
「そうよね、人間って普通魔力使えないのよね。襲ってくる人間は異能者っていうのを忘れてたわ」
そう、魔力の使える異能の人間は冒険者となり魔物を倒すというのが、この世界の基本である。よって魔王の命により防衛のみ許されている現状では魔物サイドは異能の人間にしか出会うことはない。
「なぁ、魔力が使えないならよぉ。ブランの持ってる腕輪でなんとかなるんじゃねぇか?」
オーリリーが提案すると、サスタスが「おぉ」と驚いた声をあげた。
「確かにブラン王子の腕輪なら魔力を溜め込めますし、付けてる間は作動しそうですね。止める時は手を離せばいいですし。まさか脳筋王女から的確な提案が出るとは…」
嘲笑を浮かべながら言うサスタスを、オーリリーは「うるせぇ」と言いながら小突いた。この提案に光明を見出して、僕は安堵と同時にブランが王子である事実に少し驚いた。
(そりゃリリーが王女なら、ブランは王子だわな。王子…なんだよなぁ。信じられないけど)
デッドアイの使い魔がブランを呼びに行った。残りのバキュームと高圧洗浄機も魔力を使うので一旦置いておく。ホウキの方はかなり出来がいい。柄の部分は見たことない素材だが、軽くて丈夫そうだ。現世でも普通に使えそうである。試しに掃いてみると細かい砂までしっかり掃ける。試しのつもりが夢中になってしまい砂や石、ゴミなどがこんもり小さな山になっていた。
「しまった、ちりとりが無いや」
「ちりとりって?」
デッドアイが聞く。
「こうして固めたゴミをちりとりに入れてゴミ箱に捨てるんです。」
「ゴミ箱?ゴミを貯める箱ってこと?」
「そうです。え?ゴミ箱無かったらアイ王女は普段どうしてるんですか?」
「え、そりゃもちろん…」
そう言うとデッドアイは廊下に出ていった。創士は首を傾げながら後ろ姿を見送った。しばらくするとデッドアイがスライムを掴んで戻ってきた。するとそのスライムをゴミの山に押し付けた。スライムの中にゴミが吸収される。デッドアイはそのゴミが混ざったスライムを再び掴んで、廊下の窓に投げつけた。パリンとガラスが割れてスライムは外に放り出された。
「こうよ!」
ドヤ顔で振り向くデッドアイ。僕は何が起きたのか一瞬分からなくなり、ハッと我に返った。
「いやいや!めちゃくちゃしますね!スライム可哀想じゃないですか!」
「大丈夫よ!加減して投げたし。それに消化できないものは這いずりながら出してくるの!アイツらは!」
「ガラスも割っちゃってるし!」
「これはガラスじゃないの、シーベットフィッシュの鱗だから、魔力を流せば治るのよ。」
魔力って便利だなぁ、と感心してしまう創士。
「え、皆さんこんな感じ?」
オーリリーは「ブランがやってくれるから知らね」と答え、サスタスは「あまりやりませんが、やった事はあります」と答えた。ガンバスはというと「…炉で燃やす」だそうだ。
(『ゴミを』ですよね?ガンバスさん?)
こんな事をしているうちにブランがやってきた。サスタスがここまでの経緯を説明する。
「この腕輪があれば、沖田さんでも魔力が使えるようになるんですね」
そう言うと腕に付けていたリングを外して、僕の腕にはめた。自動的に装着者の腕の大きさに合う優れモノだ。自洗機の持ち手を握ってみる。すると見事に動き出した。持ち手を放してみる。停止する。握る、動く。放す、止まる。
(すごい…魔力が使えてる。)
廊下に出て少し洗ってみた。磨けてるし、汚水も吸えてる。
「凄いですよガンバスさん!元の世界のものと遜色ない!」
「…少し改良を加えた。水の魔石が入れてあるから給水の必要はない」
(ええ!?便利!)
「…それに汚水の溜まる場所に水を吸収する石を付けているから、汚水を捨てなくていい。ただゴミは溜まるから、ここを外して時折捨ててくれ」
(ほぇえ!?超絶便利!)
残りのバキュームと高圧洗浄機も同じような機構が付いているらしい。
「これ、元の世界のやつを超えましたよ…」
そう言うとガンバスは腕を組んで勝ち誇った顔をした。
「じゃあ創士、さっそくやりましょ!」
これでキレイになってくれるといいのだけど、そんなフラグ立てのような事を思いながら掃除へ向かう。
「…残りは材料が確保出来たら作る」
「この短時間で…凄いですね!」
ガンバスは表情は変えなかったが、鼻の穴を膨らませるのが見えた。もしかしたら彼なりに喜んでいるのかもしれない。
「…試してみろ」
僕は自動床洗浄機(自洗機)の後ろに立つ。元いた世界の自洗機はバッテリーを充電して使う。前方に円形のブラシが付いており水を出しながらブラシを回して洗浄する。後方にゴム製のV字の受けがついたバキュームがある。これを押して歩くだけで洗いと汚水処理を同時に行うことが出来る。
しかしこの世界のものだ。バッテリーというものは存在してない。それにスイッチも無い。果たしてどうやって動かすのか。自洗機の前で困惑しているとガンバスが溜息をつきながら自洗機の持ち手を握った。
「…ここを持って魔力を流すと動き出す。魔力を止めれば止まる。水は入れてある。やってみろ」
(そうでした~、ここは異世界でした~。魔力で動かすのか、そうかそうか)
「すみません。こちらの世界には魔力という概念がないので、どうすればいいのか分かりません」
ガンバスは目を見開いて驚いた。初めて表情が変わったのを見た。後ろで見ていたデッドアイが手をポンと叩いて言う。
「そうよね、人間って普通魔力使えないのよね。襲ってくる人間は異能者っていうのを忘れてたわ」
そう、魔力の使える異能の人間は冒険者となり魔物を倒すというのが、この世界の基本である。よって魔王の命により防衛のみ許されている現状では魔物サイドは異能の人間にしか出会うことはない。
「なぁ、魔力が使えないならよぉ。ブランの持ってる腕輪でなんとかなるんじゃねぇか?」
オーリリーが提案すると、サスタスが「おぉ」と驚いた声をあげた。
「確かにブラン王子の腕輪なら魔力を溜め込めますし、付けてる間は作動しそうですね。止める時は手を離せばいいですし。まさか脳筋王女から的確な提案が出るとは…」
嘲笑を浮かべながら言うサスタスを、オーリリーは「うるせぇ」と言いながら小突いた。この提案に光明を見出して、僕は安堵と同時にブランが王子である事実に少し驚いた。
(そりゃリリーが王女なら、ブランは王子だわな。王子…なんだよなぁ。信じられないけど)
デッドアイの使い魔がブランを呼びに行った。残りのバキュームと高圧洗浄機も魔力を使うので一旦置いておく。ホウキの方はかなり出来がいい。柄の部分は見たことない素材だが、軽くて丈夫そうだ。現世でも普通に使えそうである。試しに掃いてみると細かい砂までしっかり掃ける。試しのつもりが夢中になってしまい砂や石、ゴミなどがこんもり小さな山になっていた。
「しまった、ちりとりが無いや」
「ちりとりって?」
デッドアイが聞く。
「こうして固めたゴミをちりとりに入れてゴミ箱に捨てるんです。」
「ゴミ箱?ゴミを貯める箱ってこと?」
「そうです。え?ゴミ箱無かったらアイ王女は普段どうしてるんですか?」
「え、そりゃもちろん…」
そう言うとデッドアイは廊下に出ていった。創士は首を傾げながら後ろ姿を見送った。しばらくするとデッドアイがスライムを掴んで戻ってきた。するとそのスライムをゴミの山に押し付けた。スライムの中にゴミが吸収される。デッドアイはそのゴミが混ざったスライムを再び掴んで、廊下の窓に投げつけた。パリンとガラスが割れてスライムは外に放り出された。
「こうよ!」
ドヤ顔で振り向くデッドアイ。僕は何が起きたのか一瞬分からなくなり、ハッと我に返った。
「いやいや!めちゃくちゃしますね!スライム可哀想じゃないですか!」
「大丈夫よ!加減して投げたし。それに消化できないものは這いずりながら出してくるの!アイツらは!」
「ガラスも割っちゃってるし!」
「これはガラスじゃないの、シーベットフィッシュの鱗だから、魔力を流せば治るのよ。」
魔力って便利だなぁ、と感心してしまう創士。
「え、皆さんこんな感じ?」
オーリリーは「ブランがやってくれるから知らね」と答え、サスタスは「あまりやりませんが、やった事はあります」と答えた。ガンバスはというと「…炉で燃やす」だそうだ。
(『ゴミを』ですよね?ガンバスさん?)
こんな事をしているうちにブランがやってきた。サスタスがここまでの経緯を説明する。
「この腕輪があれば、沖田さんでも魔力が使えるようになるんですね」
そう言うと腕に付けていたリングを外して、僕の腕にはめた。自動的に装着者の腕の大きさに合う優れモノだ。自洗機の持ち手を握ってみる。すると見事に動き出した。持ち手を放してみる。停止する。握る、動く。放す、止まる。
(すごい…魔力が使えてる。)
廊下に出て少し洗ってみた。磨けてるし、汚水も吸えてる。
「凄いですよガンバスさん!元の世界のものと遜色ない!」
「…少し改良を加えた。水の魔石が入れてあるから給水の必要はない」
(ええ!?便利!)
「…それに汚水の溜まる場所に水を吸収する石を付けているから、汚水を捨てなくていい。ただゴミは溜まるから、ここを外して時折捨ててくれ」
(ほぇえ!?超絶便利!)
残りのバキュームと高圧洗浄機も同じような機構が付いているらしい。
「これ、元の世界のやつを超えましたよ…」
そう言うとガンバスは腕を組んで勝ち誇った顔をした。
「じゃあ創士、さっそくやりましょ!」
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