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2章

ここでやらなきゃ女が廃る ③

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 そのまましばらく歩いていたが、どうもおかしい。
 妙に人が避けて歩いたり、雑談していたのを止めてこちらを見たり、視線が合うと慌てて顔を逸らすかどこかへ逃げる。服装に似合わないアタッシュケースを持っているからというわけでもなさそうだ。
「……なんか、私悪いことしました?」
 居心地が悪くなり、我慢できなくなった天駕がアレスタに尋ねる。
「先ほどの騒動のせい……だとは思うのですが、別にケンカから代勇戦の申し込みという流れ自体はよくあるものですし。特に悪目立ちするような理由はないと思うのですが」
 アレスタも不思議らしく、顎に指を当てて考えこむ。
 キュゥ?
 飼い主の機微を察してか、腰に下げた袋から顔を出したコケウサギが声を上げる。
「大丈夫だよ、コウちゃん。心配してくれてありがとうね」
 その頭に手を伸ばし、ぽんぽんと軽く叩く。コケとウサギの頭文字を取ってコウちゃんと名づけられたコケウサギは、嬉しそうにその身を震わせる。
「うーん……まぁ、別に害があるわけじゃないですし、深く考えないようにしましょう! デビュー前に有名になったと思えば、いくらかマシになりますよ」
「アレスタさんがそう言うのなら……」
「そうですよ! では次の武器屋ですが、これはどうしましょうか――」
 アレスタが喋りながら進んでいくが、天駕の耳にはほとんど入っていなかった。
 気にしないと口では簡単に言えるが、それを実行できるかどうかはまた別で。一度意識してしまうと、弥が上にも気になってしまう。やめろと言われれば尚更。
 ふと、髪のことで苛められていた頃を思い出した。
 周りからひそひそと陰口を言われ、根も葉もない噂で傷つけられる。何度も学校に行きたくないと思ったが、それでも仲良くしてくれた家族のために我慢して通い続けた。しばらくするとそんな話も自然消滅したが、今でもこうして時折思い出してしまう。
 そんな苦い思い出が心に重くのしかかり、天駕はぼんやりとアレスタの背中を追った。
 追ったつもり、だったのだが。
「……ここは?」
 気が付くと辺りは静まり返り、誰一人いない物寂しい場所に天駕はポツンと立っていた。後ろを振り返るが、そこには何本にも分かれた路地があるだけで、どこから来たのか見当もつかない。
 改めて前を見ると、そこには一軒の家が建っていた。軒先にはランプが吊り下げられており、『リアムズの店』と書かれたボロボロの看板をほのかに照らしている。人の住んでいる気配はまったくないが、灯りが点いているということはそういうことなのだろう。
 他に頼れそうなところも見当たらず、天駕は意を決してドアを開けた。
「すみませーん」
 ちりん、と小さくドアベルの音が響いて来訪者の存在を伝えるが、何も動く気配がない。中は埃っぽいわけでもなく、かといってきれいなわけでもない。顔だけ中に入れれば、古臭い木が放つ独特な匂いの中でオイルの匂いが微かに鼻につく。
「誰かいませんかー? ちょっと道に迷っちゃいましてー」
 歩くたびに床板がぎしりと軋むが、音に反して踏み心地はしっかりしている。そのまま中を見回すと、様々な道具が壁一面にびっしりと並んでいた。刃物、銃器、鈍器、棒状の物から革で出来た物まで多種多様に。武器ばかりにも見えるが、鍬や鋤などといった農具もあり、いったいここがどういった店なのかさっぱり分からない。
 棚には手入れ用品らしい物品が陳列されており、天駕はそのうち一つを手に取った。
「3ゴールド」
「うわぁっ!?」
 突然聞こえてきた声に驚き、天駕はあやうく手に持った商品を落としそうになる。わたわたと商品をお手玉し、どうにかキャッチすることに成功して一息つく。
 どこから声がしたのかと辺りを見回すが、人影は見当たらない。
 天駕が目を白黒させていると、片隅にうず高く積もっていた新聞がごそりと動いた。
「ルミナス鉱石で出来たハンマー用のブツだ。それを塗りゃあ瞬く間に元の力を取り戻す」
 そこから現れたのは筋骨隆々の髭を蓄えた老人だった。前掛けには色々な汚れがついており、首にはゴーグルが下がっている。ぼりぼりと頭を掻き、おまけに大きな欠伸を一つ。
「ふぁ~あっと……そんで、お前さんはいったいこのリアムズの店に何をお求めで?」
「あの、どうやったら元の道に……じゃなくて、人通りの多いところに行けますか?」
 そう言うと、リアムズは露骨にがっかりとした表情を浮かべた。
「なんじゃい、ただの迷子か。それならここを出てすぐ左、そのまま右から二番目の道を真っ直ぐ進んでいけば出られる」
「ありが」
「礼はいらんからさっさと出ていけ。客じゃないんなら用はない」
 しっしっと手を振り、天駕の方を見もせずに新聞を広げるリアムズ。
 その態度に天駕はムッとするが、彼が言うことにも一理ある。行き場のない怒りをため息にして吐き出し、ドアへと歩いていく。
「待て」
 が、ドアノブを掴んだところでリアムズが声を上げた。
「……お前さん、勇者じゃな?」
「そうですけど、お客じゃないなら用はないんじゃなかったんですか」
「いいや、たった今お前さんは客になった。拒否権はないぞ」
 ニカっと笑い、リアムズはこっちへ来いと手招きする。
 出て行けと言ったり来いと言ったり、人使いの荒い老人である。
 自分は面倒くさい人に絡まれる呪いにでもかかっているのだろうかと嘆息しつつ、天駕は言うとおりリアムズの元へと向かう。
「ほっほっ、意外に聞き分けの良い娘っ子じゃな」
「娘っ子って……私には天駕って名前があるんだからそれで呼んでよね、おじいちゃん」
「それでいて度胸もあるときたか。久々に活きのイイ勇者に出会えたわ!」
 先ほどとは打って変わり、嬉しそうに話すリアムズ。
「さて天駕よ、お前さん、武器を探しにここへ来たんじゃろ?」
「え? いや、武器を探してたのは確かだけど、ここには偶然来ただけで……」
「偶然なんぞありゃせん。お前さんは来るべくしてここに来た。ここはそういう店じゃ」
 ちょっと待っとれ、と言い置いてリアムズは店の奥へと消えていく。
 数分後、両手で壺を抱えて出てくると、それを天駕の前にそっと置いた。中には透明でありながら金属の輝きを放つ液体が並々と注がれていた。
「これって何? 液体金属?」
「妖精の呼び水、ワシはホイホイと呼んどるがな。武器精と契約するときに使う道具での、あっちの世界とこっちの世界を繋ぐ特殊な水じゃ。フゥージーマウンテンでしか採取できんシロモノでな、これを手に入れるのに若かったワシがどれだけ苦労したか……」
「おじいちゃんの武勇伝はどうでもいいよ」
「おぉ、そうじゃな。今はお前さんの武器作りの方が大事じゃ」
「いや、だから私は……」
「拒否権はないと言ったろう? それよりほれ、その中にあるブツを出せ。さっさと契約を済ませるぞ」
 言うが早いか、リアムズは天駕の手からアタッシュケースをもぎ取り、マジックォーツを確認すると壺の中に放り込んだ。なぜ天駕がマジックォーツを持っているのか分かったことよりも、勝手に使ったことに対する怒りがこみ上げる。
「ちょ、それ高いモノなんだけど!?」
「ほほぅ、上物のマジックォーツか。どこの輩から仕入れたか知らんが、大したコネを持っとるようじゃな。いい輝きをしとるわい」
 怒鳴る天駕を無視し、壺の中を凝視するリアムズ。その目は鋭く、まるで獲物を捉えた猛禽類のような印象を抱かせる。
「ちょっと、おじいちゃん聞いてる!?」
「あぁ聞いとる。よし、そのままそのまま、こっちゃ来い……ほら来たぞっ!」
 リアムズが叫ぶと同時に、壺の中から光の奔流が溢れ出す。そのまま真っ白な光が部屋中に満ちたかと思うと、フッと一瞬にして壺の中へと戻っていった。
 リアムズが長手袋を装着した手で静かに取りだすと、透明だったはずの水晶は虹色の霧を内包しているかのように自ら煌めいている。
 その出来を確認したリアムズは一言。
「いかん、失敗じゃ」
「えぇ!?」
《ちょい待てやっ!》
 天駕が驚くのと、謎の声が響いたのはほぼ同時だった。
《だぁれが失敗やねん、このモーロクジジイ! 目ん玉腐っとるんとちゃうか!?》
 聞けば、声の出どころは水晶から。
 甲高い男の声で関西弁を話すそれを見て、リアムズはため息を漏らす。
「あー、やかましい。だからお前は嫌いなんだよツヴァイツェン。毎度毎度、他のやつと直前ですり替わりよってからに。どうしてこうも大人しく出来んものかの」
《今回は大人しゅうしとったわ! ようやっと久々にそのまま呼び出されたかと思うたら失敗やとぉ!? お前の腕が落ちとるんとちゃうかヒゲジジイ!》
「ワシの腕が落ちとるわけなかろう。そうか、ついに自分が出張ってることすら分からんほどに落ちぶれたか。可哀想に……」
《しばくぞジジイ! 素直に自分の非を認めたらどうや!》
「あ、あのー……」
 放っておくといつまでも続きそうだったので、天駕は勇気を出して会話に割り込む。
《なんじゃい! ……って、なんやお嬢ちゃん。男のケンカに口出したらアカンで》
「阿呆。その子が今回の勇者じゃ」
《勇者! はー、これはこれはどうも。ワイ……やのうて、私の名はツヴァイツェンと申します。貴女と巡り合う日をどれほど待ち望んでいたことか……》
「は、はぁ……」
 勇者と分かった途端、急にイケボへと変わるツヴァイツェン。
 曖昧な返事をしつつ、なんとなくぺこりとお辞儀。
「今更取り繕っても遅いぞ、馬鹿」
《バカとはなんや、バカとは! アホは百歩譲ってええとしても、バカはお前許さんぞ》
「うるさいぞ、阿保」
《誰がアホじゃい!》
 ギャーギャー喚きたてるツヴァイツェン。リアムズが面倒くさそうにもう片方の手で球体を包み込むと、いくらかツヴァイツェンの声が小さくなった。
 そのままリアムズは天駕に話しかける。
「天駕、こいつはな、喋ることしか能のないハズレ中のハズレ、可哀想な奴じゃ。今まで何人もの勇者がこいつとの契約を拒否してきた。今ならもう一回憑け直すことも出来るぞ」
「えっ? でも、それはもう出来ないはずじゃ……」
「そこら辺の輩とワシを比べるな。キャリアも歳も全然違うわい。今大事なのは、憑け直すのか、せんのか。このブツなら、もっと強くてマトモな能力を持ったのと契約出来るぞ」
 リアムズは天駕の瞳をジッと見つめる。
 それがまるで値踏みされているかのようで、思わず天駕は目をそむける。 
 そうして逸らした先には、リアムズの両手に挟まれた水晶――ツヴァイツェンがいた。こちらの会話が聞こえていないのか、まだ元気そうに騒いでいる。
 自分が望んでいた武器精――相棒は、物静かで、頼りになって、時折小粋な冗談を飛ばし、すごい力で自分を助けてくれる。そんな頼りになる存在だった。
 騒々しくて、どこか抜けてそうで、頼りになるかどうか分からない、能力を持たない目の前の存在とはまったく違う。理想とはかけ離れた真逆の存在。
「私は」
 憑け直したい。
 その一言がなぜか出てこない。
 喉に蓋がされているかのように、あと少しというところでつっかえてしまう。
「私、は……」
 声を絞り出すが、それでも出ない。
 なぜだろう。リアムズが言った通り、彼を可哀想だと思っているからだろうか。能力がなく、ただ騒がしいだけのお荷物。そんなツヴァイツェンを憐れみ、救ってやりたいと思っているのだろうか。

『可哀想な子』

 いつか誰かに言われたその言葉が、天駕の胸に突き刺さる。
 髪が赤くて気味が悪いと、幼い頃に両親に捨てられた。
 父方の祖父母に引き取られ、天駕は大した病気も怪我もなく大切に育てられた。
 誰かが来て自分を見るたび驚き、そして尋ねる。『あの子はどうしたの』と。
 そうして毎回説明すると、誰もが決まってこう言うのだ。『可哀想な子』と。
 捨てられたことに対してか、赤い髪のことに対してなのか、天駕には分からない。
 そうやって毎回迷惑を掛けるのは嫌だからと何度も髪の毛を染めようとしたが、その度止められた。祖父は格好いいから、と。祖母は綺麗だからと言って。
 何度もその言葉に救われたが、しばらくするとまた染めようとして止められる。
 結局、迷惑を掛けるからと言うのは建前で、本当は自分がこの赤い髪を嫌いなだけだ。生まれ持った呪い。特別なわけでもなく、ただ赤いだけで人を遠ざける忌々しい髪。
 そんな自分と、彼を重ねているのではないか。
 生まれ持った境遇で全てを決められ、可哀想だと憐れまれる。本当の自分を何も知らないくせに、人伝いに話を聞いただけで疎まれる。そんな存在。
 そう気づいた途端、つっかえが取れたのが分かった。
「私は、ツヴァイツェンと一緒に行く」
「ほう……?」
「私ってバカだからさ、何か特別な能力があったら頭がごちゃごちゃしちゃいそうで。だったら最初から何もない方がすっきりしてるじゃない? それに加護はあるわけでしょ」
「そりゃそうだが……本当にいいのか?」
「袖振り合うも多生の縁、って私がいた世界では言ってね。誰かと出会うのは単なる偶然じゃなくて何か縁があったから、って意味なの」
 そう言って天駕はリアムズの手から水晶を取る。
「リアムズさんが言ったみたいに、来るべくして来たんだよ。ツヴァイツェンは私の所に」
 憐れんだわけじゃない。救いたいわけでもない。
 ただ、信じてみたいと思った。彼を、何より自分を。
 自分を信じて育ててくれたジイちゃんとバアちゃんの様に。
 もしここで彼を捨てれば、きっと今度こそ大切な二人を裏切ってしまうような気がするから。そんな思いが強かった。
「それにどうやら、私って変な人に絡まれやすい体質みたいだしね」
 ニカッと笑う天駕。
 目を丸くして聞いていたリアムズは、それを聞いて豪快に笑い声を上げる。
「ぬぁっはっはぁ! そうかい、なら仕方ないわなぁ。もうワシからは何も言わんわい」
《なっ、なんや? オレがおらん間に何があったんや?》
 不安そうな声を上げるツヴァイツェン。
「もうお前さんの耳障りな声を聞かなくていいってことだよ」
《は? それってどうい……えっ、ちょ、まっ。はぁっ?》
 分かりやすく戸惑っているツヴァイツェン。まるで彼の心情を表しているかのように、水晶の中で霧が点滅する。
 そんな彼に顔を近づけ、天駕が口を開く。
「これからよろしくね、ツヴァイツェン」
《おっ……おぉう! よ、よろしくやで! えーっと、マスター? ご主人? 相棒?》
「普通に天駕でいいよ。なんかむず痒いし」
《ほんじゃあ天駕、改めてよろしゅうな!》
 ツヴァイツェンがそう言うと、天駕は自身の身体が心なしか軽くなったような気がした。手に持った水晶も先ほどよりもだいぶ軽く感じるし、これが話に合った加護だろうか。これで契約完了ということなのだろうが、こんな簡単なものでいいのか少し不安になる。
 キュッ!
 自分もいるぞとばかりに、コウちゃんが天駕の肩によじ登る。
《この草餅みたいなんは?》
「草餅じゃなくてコケウサギ。名前はコウちゃんだよ」
《……安直やなぁ、自分》
「うっさいなぁ。仕方ないじゃん、名前をつけるのなんて初めてなんだから」
 天駕が口を尖らせると、ツヴァイツェンは嬉しそうに点滅した。
 そうしていると、いつの間にかリアムズが一振りの剣を取り出し、丁寧に手入れを行っていることに気が付く。柄には装飾が施されており、その中心には丸い穴が開いている。
「ほれ、相棒の身体だ」
 手慣れたように刀身を鞘に納め、ずいっと天駕の方に差し出す。おずおずと受け取ると、やはり加護があるとはいえズシリと重たかった。
「そのおしゃべり野郎をそこにはめ込めばだいぶ楽に持てるようになるはずだ。だがな、今お前さんが感じた重さを忘れるな。どれだけ軽く感じようがそれは所詮鉄の塊にすぎん。振るう相手を間違えんようにな」
 まっ、お前さんなら大丈夫じゃろうが、とリアムズは髭を撫でる。
 その言葉に頷く天駕。言われた通りツヴァイツェンを穴に入れると、ピッタリと柄にはまった。それと同時に重さもなくなり、剣自体も先ほどより輝きを増したような気がする。
《遂にワイにも立派な身体が……くぅ~っ! いったいどれだけこの瞬間を待ち望んでいたことか! うおっしゃぁ! 槍でも爆弾でもドンとこいやぁ!!》
「それを対処することになるのは私なんだけど?」
《あ、そやった。まぁ大丈夫やろ! このツヴァイさんにド~ンと任しときんしゃい!》
「なんの能力もないくせに……」
 うっひゃっひゃ~!と下品な笑い声を上げるツヴァイツェンに苦笑いを見せるが、その根拠のない自信がどこか頼もしくもある。
「あっ、そういやお金!」
 すっかり忘れていた料金のことを思い出し、リアムズを見る。
「あぁ、それなら締めて二〇〇ゴールドだ」
「高ぁ!?」
 慌てて革袋の中を確認するが、金貨は数十枚程。とても足りそうにない。
 天駕は引きつった笑みでリアムズを見る。
「あ、あの~、ローン払いとかでも大丈夫でしょうか……?」
「ダメだ……と言いたいところだが、その厄介者を引き取ってくれた礼もある。九割引きの二十ゴールドで手を打ってやろう」
「マジっすか!」
《よっ、太っ腹ぁ! ……って誰が厄介者やねん!》
 すかさずノリツッコミをするツヴァイツェンに、リアムズは呆れたように言う。
「お前以外におるわけないだろうが」
《じゃかしいわ! だいたい二〇〇ゴールドってぼったくりとちゃうんか!》
「寝ぼけたことを言うな。純フォルティス剛金で叩き上げた刀身に加え、鞘には修復機能を備えとる。さらにハンティングナイフにペティナイフ、特製シャープナーも付けて……」
《余計なモンつけとるんとちゃうわ! 絶対それのせいで値段上がっとるやろ!?》
「冗談じゃ、冗談」
 ほっほっ、と髭を撫でつけながら笑うリアムズ。
 ちょっと欲しいかもと思うあたり、自分は通販番組の見すぎなのかもしれない。
「あの、本当に二十ゴールドでいいんですか?」
「ワシに二言はない。それに、持ってない者から巻き上げなきゃならんほど飢えとるわけでもない。ワシの気が変わらんうちに支払っておいた方がいいぞ?」
《今やったら色々オマケしてくれるらしいしな》
「あれ、余計な物じゃなかったの?」
《タダで貰えるんやったら必要なモンや》
「がめつい奴じゃなぁ……」
 リアムズが困ったように笑った。
 そうやっていつまでも談笑しているわけにもいかず、代金も支払い、オマケの品も貰った天駕たちは、いよいよ店を出ることとなった。
 最後までツヴァイツェンを腰に下げるか背負うかで悩んだが、結局カッコ良さ重視で背負うことにした。前が見えるのか尋ねると、どうやら人間の視界とは違うらしく、背中からでも大丈夫らしい。
 ドアノブに手をかけ、最後にリアムズを見る。
「最初はびっくりしたけど、色々してくれてありがとうございました!」
「うむ。困ったときはまた来い」
《元気でなジジイ! オレと天駕が立派になるまで生きとけよ!》
「言われんでもまだまだ長生きするつもりじゃ。お前さんこそ、愛想を尽かされて捨てられんように気をつけろよ!」
 リアムズに見送られ、天駕たちは外へと足を踏み出す。その後ろ姿を見るリアムズの目は、どこか寂しげに見えた。
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