41 / 52
【二章】ゴールド・ノジャーの祝福編
039
しおりを挟む「……でのう? そういう訳で、いま学院ではマルクス坊が絶賛ピンチなんじゃよもう」
「なるほど。お話はよく分かりましたノジャー先生。では、こういうのはどうでしょう……」
侯爵家次男エレン・オーラの知恵を借りるため、かくかくしかじかと。
オーラ侯爵領に舞い戻った俺とツーピー、ついでにペットの羽スライムは、もはや勝手知ったる我が家のように屋敷へ上がり込み密告を行っていた。
もうエレン君にまかせっきりで、どうするどうする、みたいな感じで。
アカシックレコードによる裏情報はいくらでもあるが、正面衝突するわけでもないこういう政争においては、俺自身のセンスが足りずにうまく策略を練れないから仕方ない。
バルザックの時は武力による正面衝突だったからこそ、いろいろと強引な手段は取れたけのだけどもね。
政争は情報を握っているだけじゃ勝てなくて、隙を見せない努力や、むしろ相手を味方に引き入れる努力も必要だ。
なにせただ直接的に相手をねじ伏せても、最終的に周囲に舐められるほどの損失、もっといえばつけ入る隙がでたらそれは長い目で見て敗北なのだから。
ようするに政治感覚、バランスってやつだね。
俺にはそういうのが決定的に足らなかった。
だがそんな心配もなんのその。
エレン君にちょっと情報を与えてやると、水を得た魚のように出るわ出るわ、政敵を蹴落とす案の数々が……。
なんかもう政敵の情報さえ持っていればこちらのものだと言わんばかりに、二大公爵家への脅迫案、疑心暗鬼案、信頼失墜案、取り巻き寝返り案などなど。
考えている内容がえげつなさすぎて、相談したこちらが息をのんだくらいである。
特に極悪非道だったのが愛する者の裏切り作戦。
ターゲットはフォース公爵家嫡男であるゼクスのメイドで、現在未婚の十八歳。
長年ゼクスの面倒を見ているお姉さんポジションのメイドのことは、風の噂としてエレン君も知っていたらしい。
まあ、彼とて大貴族の次男だからね。
貴族的な交流っていうものがあったのだろう。
ここまではいい、ここまでは。
だがこの次が問題だった。
「ノジャー先生。では例のメイドを魔法で洗脳しましょう」
……ん?
「こちら側に寝返らせてからゼクスを精神破壊させるのが、現状でもっとも攻撃力が高いです」
……んんん!?
「本当はもう少し相手の事情を汲むのがバランスとしては良いのですが、先生がいるとなれば話は別です。ちょうどいいので奴を消しましょうか。このような男に手間をかけるだけ時間の無駄です」
……えええええっ!!
なにそれ怖っ!
エレン君は本当に人の心を持っているのだろうかって感じの腹黒さである。
なんでもエレン君曰く、洗脳したことが公になれば逆に窮地に追い込まれる諸刃の剣とのことだが、そもそもノジャー先生がそんな失敗をするはずがないので成功は確実とのこと。
いや、ちょっとまって欲しい。
なんでエレン君は俺の魔法にそこまでの信頼を寄せているのかとか、手段を選ばないその姿勢がいままでのエレン君の猫かぶりを如実に表しているとか、いろいろと言いたいことが多すぎて頭の整理が追いつかない。
あれ、エレン君って政争の天才なだけではなくて、まさかサイコパスだったのだろうか……。
いやいや、きっと違う。
きっと兄のマルクス君が心配すぎて……。
うん、無理があるね。
たぶんエレン君は良くも悪くも貴族として色々割り切っているということだろう。
不老の魔女ことゴールド・ノジャー、改めてそう感じました。
「ひ、ひぇえええ……。わ、わたち、こいつの思考回路が恐ろしいのよ……」
うん、分かる。
すっごく分かる。
あの天真爛漫で元気いっぱいなツーピーが内股になるほど、いまのエレン君は恐ろしいほどに無表情だからね。
こんな顔で敵を精神破壊させましょうなんていわれたら、そりゃあ怖がるよ。
だってツーピーの精神は賢さにくらべて幼いんだもの。
そりゃあ怖いよね、この考え方は。
だが慌てることなかれ。
いくら傍若無人な悪ガキこと公爵家ゼクスを追い詰めるためとはいえ、罪のないメイドを貶めるのはさすがにダメである。
ゼクス本人の権威や立場が失墜するのはしょうがないとは思うのだけどね。
それに何より、マルクス君本人をサポートするのならともかく、エレン君が直接決着をつけてしまっては弟子たちのためにもならないだろう。
そういったことを細かく、それはもう丁寧に伝えるとエレン君も納得したのか、ふむふむと頷いて理解を示してくれた。
「……なるほど。ずいぶん優しい、いえ甘い方針だとは思いますが、言わんとしていることは理解できます。ではその方向性で案を練り直しましょう」
その言葉にほっとしたツーピーが、ヒェ~とかいいながら安心感で膝から崩れ落ちる。
どうどう、落ち着けツーピー。
極悪非道な闇エレン君の悪夢は去ったのだから。
まあ、もっとも本人の内心としては。
これは兄自身の戦いである為、自分が決着をつけてしまえば兄の栄光に陰りが差すことになるので方針を変えた、っていう程度なのだろう。
その証拠にさきほどまでの作戦を顧みている気配はないし、必要なことだからしょうがないよねといった雰囲気がにじみ出ている。
エレン君も根はマルクス君大好きな善人なのだろうけど、政争というのは善悪の一面だけでは測れないからね。
権謀術数、政略、謀略の天才であるが故の個性というものなのだろう。
また、そんな感じでひと悶着、ふた悶着ありながら相談を続けていき、しばらく案を煮詰めたころ。
ようやくまとまった「相手がその気なら、もう直接戦わせちゃえば早かろう作戦」が最終的に結論づけられるのであった。
よく考えてみればそりゃそうだなという、目から鱗が落ちる気分だ。
なんだかんだ、ゼクスは己の力に自信があり、プライドがあるからこそ暴走しているんだよ。
そのプライドをマルクス君の本気でへし折ってしまえば、とりあず問題は落ち着くだろうという話。
ある意味、マルクス君が争いを避けているから問題が解決しないのだ。
オーラ侯爵家は仮にも大貴族なので、フォース公爵家を模擬戦で打ち負かしたくらいで問題になることもないのも、またこの作戦を決定させる大きな要素であった。
当初予定していた政争とはなんぞやという話ではあるが、まあ、しょせん男なんてものは拳で語れば納得するものだ。
これが女性だとそうはいかないのかもしれないが、いまのところアンネローゼ・クライベルの方は大きな動きを見せていないので、こちらはしばらく放置である。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる