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第五章 フュンフ大陸
5.3. 竜の『力』と『呪い』
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人間達の集落”トゥマツ”を堕とし、ドラグナムを仲間に迎えたスラリン達4人は、いよいよこのフュンフ大陸の要である、フュンフ城へとやってきた。その城下町の入り口に近づいたところでテツゾーがこれまでとは違う雰囲気に気付き、足を止めた。
テツゾー
「ん?」
ドラグナム
「どうした?」
ドラグナムもテツゾーの様子に気付き、声をかける。
ユキネ
「あの人間達の格好は……これまでの城とはちょっと違いますね?」
これまで、アインツ~フィアまでの城の入り口は、どれも手馴れた軽装兵士がほとんどだったが、今回のフュンフ城入り口の警備はトゥマツに居たドラゴンスレイヤーのような、色は違えど全身鱗の重装兵が2人立ち並んでいた。
テツゾー
「まぁ俺達もここへ来るまでにいくつか城を堕としているからな。装備や警備が強化されても不思議ではないけどな」
ドラグナム
「今やワシも居るのだ、何も問題なかろう?」
テツゾー
「そうだな。よし、行くぞ」
スラリン達はさらに入り口へと踏み込むと、人間の重戦士達もスラリン達に気付き、戦闘が始まった。
ドラゴンバスター×2
vs
スラリン
テツゾー
ユキネ
ドラグナム
戦闘開始から30分後、スラリン達はようやくドラゴンバスター達を跪せるところまできた。しかし、次の瞬間ドラゴンバスター達はなにやら呪文を唱えたかと思うと、一瞬にして傷が全回復した。
テツゾー
「なに……!?」
ここからはまた30分ほどかけて、再びドラゴンバスター達を跪かせることに成功したが、またしてもドラゴンバスター達は一瞬で傷を全快させ、スラリン達に襲いかかってきた。
テツゾー
「な、なんだと……!?」
[ドゴンッ!!]
ユキネ
「ギャッ……!!」
テツゾーがドラゴンバスターの超回復に目を奪われたその時、鈍い音と共にユキネが後方に吹き飛ばされた。
テツゾー
「ユキネ!!」
テツゾーはドラゴンバスターの攻撃により後方に吹き飛ばされたユキネの名を叫び彼女を見たが、うつ伏せに倒れたままのユキネはピクリとも動かなかった。
[ドゴォォン!!]
ドラグナム
「グゥオオオォォォ……!!!」
ドラゴンバスター2人に正面からXの字に攻撃を食らったドラグナムは、装備していた鋼の鎧を粉々に砕かれ、その場でうつ伏せに崩れ落ちた。
テツゾー
「おっさん!!」
スラリンも自身の体をピンボールのように弾ませ、ヒット&アウェイで善戦していたが、ドラゴンバスターの1人が装備していた巨大な両手棍の芯に当てられ、城壁に思い切り叩きつけられそのまま気を失った。
テツゾー
「スラリン!! くっ……!!」
テツゾーは仲間が次々とやられる中、自分に向けられた攻撃に耐えるべく、最大の防御姿勢をとるも、ドラグナムが食らった技と同じX攻撃の前に成す術もなく爆音と共に後方に吹き飛ばされた。
テツゾー
「ぐっは……!! な……なんだこの強さ……! ここまでか……ち……っくしょー……」
テツゾーはそのままスラリンが打ちつけられた城壁に叩きつけられ、そのまま意識を失った……。
–– スラリン まだ来ちゃダメだよ ––
どこか懐かしい声が聞こえたと思い、スラリンが目を覚ますとそこはスインツ・コロニーの宿屋だった。横には包帯などでグルグル巻きにされたテツゾー、ユキネ、ドラグナムがそれぞれ別のベッドで横たわっていた。
住人
「よかった! 目が覚めたよ!!」
スラリンが目を覚ました事に気付いた住人が、長老や他にも治療の世話をしていた仲間達に喜びの声で英雄の覚醒を知らせた。するとスラリンに続き、テツゾー達も徐々に目を覚ました。
テツゾー
「……うー……ん……? ここは……?」
ユキネ
「うぅ……頭が痛い……」
ドラグナム
「むぅ……ここは、スインツか……?」
4人全員が無事に目覚めたところに、長老も安堵した様子で声をかけた。
長老
「よかった、お目覚めになられましたか」
テツゾー
「お、俺達は殺されたんじゃないのか……?」
テツゾーは長老に自分達がどうしてここに居るのか尋ねると、長老も心配そうに話し始めた。
長老
「危ないところでした。たまたま付近をこの村の者が通りかかりまして、あなた方が人間にやられてすぐ機転を利かせて注意を引きつけに動いたのです。その隙に別の者があなた方をここまで運んだというわけです。トドメを刺される前だったので、かなり危険でしたが助けることができました」
ユキネ
「そ……そうだったのですね……」
長老の話を聞き、ユキネは自分の手に視線を移すと、まだかすかに震えが残る掌を悔しそうに握った。
テツゾー
「命の恩人だな」
ドラグナム
「礼を言う。お前達が居なかったらこの者達の旅もそこで終わるところだった」
スラリン達から助けられた礼を告げられると、長老や救助に携わった住人達も嬉しそうに目を細めた。
長老
「ほっほ、我々も命を救っていただいた身。もしよろしければ存分に休んでいってくだされ」
ドラグナム
「うむ、そうさせてもらおう」
長老達は4人に軽く挨拶をすると静かに部屋を出ていった。それとほぼ同時にテツゾーがあの戦闘を振り返った。
テツゾー
「しっかし、あの人間達の異様なまでの強さには驚いたな……」
ユキネ
「これまでも、あそこまで極端に強い人間は居ませんでしたからね……」
ドラグナムを除く3人はドラゴンバスターの強さに身震いをした。
テツゾー
「そんな人間達が、なぜあの城に留まっているんだ……? もっと外に出れば楽に周辺国も征服できるだろうに」
スラリン達の会話を神妙な面持ちで静かに聞いていたドラグナムが、ボソリと呟いた。
ドラグナム
「あの強さには、カラクリがある」
テツゾー
「ん、おっさん、何か心当たりがあるのか?」
テツゾーは何か理由を知っていそうなドラグナムに尋ねた。
ドラグナム
「うむ。あの戦の時、一瞬だったが我ら竜族と同じ魔力を感じたのだ。だが本来人間が竜族の力を得ることなど不可能だ。それを可能にするには……」
ドラグナムは続きを話すのを少し躊躇ったように見えた。
ユキネ
「可能にするには……?」
ユキネの興味がドラグナムに続きを促す。スラリンとテツゾーも固唾を飲んでドラグナムの言葉を待った。
ドラグナム
「体内の骨のどこか1ヶ所を、竜族の骨に置き換えることだ……」
ユキネ
「そ……それは……」
テツゾー
「げぇ~! まじか……」
ドラグナムの言葉に一同絶句した。
ドラグナム
「うむ。察しの通り、外科的な手術だ……正直ワシも迂闊だった。これまで角や骨が持ち去られていたのは知ってたが、まさかこんな事に使われてたとは……!」
ドラグナムが悔しそうに握る手からはギリギリと音が鳴った。
テツゾー
「そ、それを解除する方法はあるのか?」
ドラグナム
「殺す以外には方法が無い……だが、戦って倒せる相手ではない事はわかっただろう……」
ドラグナムは横目でスラリン達にドラゴンバスターの強さを再認識させた。これにはテツゾーも悔しそうに拳をベッドに叩きつける。
テツゾー
「うぐ……なら一体どうすればいいんだ……!」
ドラグナム
「こうなったら……」
ユキネ
「な、何か他にまだ策があるのですか!?」
ドラグナムの意味深な言葉にユキネも強い興味を示す。そんな彼女をドラグナムが横目で眺めながら呟いた。
ドラグナム
「これはワシとしてもあまりやりたくはない方法なのだが……」
テツゾー
「な、なんだよ、もったいぶらないで教えてくれよ」
躊躇うドラグナムにテツゾーも続きを促した。
ドラグナム
「うむ。こうなったら、直接人間共を弱体化させるしかない」
テツゾー
「じゃ、『弱体化』ぁ!?」
ユキネ
「そんなことが、出来るのですか!?」
ドラグナムの究極とも言える策に、スラリンとテツゾーは開いた口が塞がらなくなり、ユキネは目を輝かせた。
ドラグナム
「うむ。これは我ら竜族に伝わる儀式の一つなのだがな。我ら竜族のみが扱える”オーブ”という宝玉を使って、人間の能力を一つ封じ込めるのだ」
ユキネ
「……オーブ……!」
ユキネの目が一際輝く。
テツゾー
「それで、そのオーブってのに人間の能力を一つ封じ込めると、全ての人間のその能力が弱体化するというわけか……!?」
ドラグナム
「これまでもあまり使われたことは無いが、全てという訳にはいかんだろうな。せいぜいこの大陸内のみということになるだろう」
テツゾー
「ま、まぁそれでも十分そうだな。よし、それじゃあさっそくその封じ込め作業に入るとしようじゃないか!」
スラリン達はドラグナムの人間弱体化の話を聞き、すぐにでも動き出そうと準備を始めた。
ユキネ
「そうですね。それで、その封じ込める作業というのは一体どうやればいいのです?」
ドラグナム
「うむ。このスインツ村には奥に”儀式の間”という特別な部屋があってだな、そこにあの竜人間を一人捕まえては儀式用の台に縛り付ける。そしてその体にオーブをかざし、能力を一つ抜き出すというわけだ」
テツゾー
「ふむふむ……ふむ?」
ユキネ
「ん? それって……」
ドラグナムから儀式の内容を途中まで聞いたスラリン達3人は一瞬動きが止まる。
ドラグナム
「その台までは竜人間を1人捕まえて連れてくる必要があるな」
ドラグナムもどういうことかはわかってて説明している。
テツゾー
「だからぁ! 戦って勝てる相手じゃないってのは今さっきわかったばかりだろう!?」
ユキネ
「ま、まぁ落ち着いてください、テツゾー殿」
現状ではあのドラゴンバスターには勝てないという話に戻り、テツゾーも苛立ちを露わにし、ユキネが彼をなだめた。そんなテツゾーを眺めながら、ドラグナムも怯むことなく話を続けた。
ドラグナム
「だがなんとなく、1人を我々4人で囲めば倒せそうではなかったか?」
テツゾー
「ま、まぁ、確かにあともう一息という感じはしてたな……」
ドラグナムの話を聞き、テツゾーも落ち着きを取り戻す。
ユキネ
「ですが、後半のあの超回復があっては全く勝てる気がしません……」
ドラグナム
「あの竜人間、我ら竜族の骨により確かに魔法面にも強くはなったが、それ以外に何もされていないのであれば、全く魔法が効かないというわけでもないだろう」
ユキネ
「ふむ? あの超回復にも何か対策があると……?」
ドラグナムの含みがある話に、ユキネも首を傾げる。
ドラグナム
「うむ。まぁ確証はないが、即死魔法以外は効くこともあるだろう。竜族の骨とはそういう物だ」
ユキネ
「となると、沈黙の魔法は効くかもしれないと……後半は沈黙魔法で超回復の呪文を阻止し、その間に全力で叩けば……」
ドラグナム
「うむ」
ユキネの考察にドラグナムも頷く。
テツゾー
「なるほど、勝機が無いというわけでもないか……」
ドラグナム
「そういう事だ」
自分の説明で3人が納得してくれたと、ドラグナムも満足そうに頷いた。
テツゾー
「よーし、そうと決まればたった1人だ、少々不安もあるが全力でかかればなんとかなるだろ!」
ドラグナム
「ん、待て待て。たった1人だけではまだ弱体化しきれないぞ?」
ドラグナムはテツゾーが何か勘違いをしてると思い、声をかけた。
テツゾー
「え? だって今、1人を台に縛りつけて能力を抜き出すって話だったろ?」
ドラグナム
「うむ。それは『一つの能力を抜き出す方法』だな」
テツゾーとドラグナムの会話にユキネが不安になる。
ユキネ
「あ、あの、つまりはどういうことです……?」
ドラグナム
「あの竜人間共を完全に弱体化させるには『筋力』、『守備力』、『知力』、『器用さ』、『敏捷性』の5つを封じねばならんだろうな」
ドラグナムは自分の指で数えながら、スラリン達3人に封じるべき竜人間の能力を説明すると、スラリン達はサーっと血の気が引いた。
テツゾー
「ということは……」
ドラグナム
「竜人間を一人一人、その台に5回連れて来なければならんという事だ」
テツゾー
「げえぇ~~~!!」
ユキネ
「な、なんか急にめまいが……」
ドラグナムの言葉にテツゾーは大声で嫌気を表し、ユキネはふらつきながらベッドに突っ伏し、スラリンはカニのように口から泡を吹いた。
ドラグナム
「まぁ危険なのは承知の上だろう? こうでもしなければあの城は堕とせん」
テツゾー
「ま、まぁなぁ……」
ユキネ
「だ、大丈夫でしょうか……」
スラリン達はいつになく弱気になっていた。そこをドラグナムが他人事のように励ます。
ドラグナム
「なに、大丈夫だろう。これまでにも数々の集落や城を堕としてきたお前達だ、今回もきっとうまくやれるだろうさ」
テツゾー
「ったく、簡単に言ってくれるぜ……」
テツゾーは視線を横に逸らしながら愚痴を言った。
ドラグナム
「正直気が進まないのはわかる。だがこれしか方法が無いのだ。無茶をしろとは言わん。1人のところを我ら全員で襲う。1人ずつ確実にやろう」
ドラグナムは愚痴るスラリン達を説得した。するとテツゾーも同調したように小さく頷いた。
テツゾー
「そうだな。2人以上と遭遇したら逃げる。いいな? 無理に戦おうとするな。ユキネ、沈黙の魔法はどうだ?」
ユキネ
「大丈夫です」
ユキネはテツゾーに沈黙魔法を尋ねられると、右手に魔力を集中して準備万端な様子を答えた。
テツゾー
「よし、じゃあ行くか……」
ドラグナム
「まずはあの城の入り口を観察するところからだな。何か隙があるかもしれん」
–––––
スラリン達は戦闘の準備を整えると、再びフュンフ城下町の入り口にやってきた。門前にはあの時戦ったドラゴンバスター達が警備をしていた。スラリン達は物陰に身を隠し、様子を伺う。
テツゾー
「入り口に竜人間が2人いるな」
ドラグナム
「うむ。真っ向から戦うのは避けるべきだろう」
ユキネ
「他にもこの近辺を歩いてそうですね」
遠くに目をやると、門の前だけでなく、広範囲にわたってドラゴンバスター達がまばらに徘徊していた。
テツゾー
「だな。あいつらが1人の時なら戦うが、もし他の奴も加わって2人以上となったら絶対に逃げるぞ。いいな?」
ドラグナム
「そうだな。それが賢明だろう」
こうしてスラリン達4人は城門の外を歩いているドラゴンバスターが1人になっているところを強襲し、沈黙魔法を使いながらなんとか1人を倒す事に成功した。
テツゾー
「うぐ……やっぱ1人でもつえーな……」
ドラグナム
「うむ……よし、早く儀式の間へ連れて行こう」
ドラグナムとテツゾーは気を失った竜人間を担ぎ、スインツ・コロニーへと戻ってきた。この村の一番奥には高さ5メートルほどの巨大な扉で閉ざされた岩壁があり、この扉を開けてもらうためにスラリン達4人は長老を尋ねた。
長老
「おや、どうしましたかな? 私に何か御用ですか?」
テツゾー
「あぁ、ちょっと奥の部屋を借りたいんだけどさ……」
ドラグナム
「うむ、あの鉄扉を開けてはくれぬか?」
スラリン達は儀式の間を貸してもらえるように長老に協力を仰いだ。
長老
「奥の部屋って……”儀式の間”ですか? む、それにその人間は……なるほど、そういうことですか。どうぞ、これが鍵です」
長老はテツゾー達が担いでる竜人間に気付くと、慣れた様子でやや大きめの鍵をユキネに手渡した。
ユキネ
「あ、ありがとうございます」
スラリン達は儀式の間の鍵を受け取り、奥の巨大な扉に向かい歩き始めた。
ユキネ
「あの長老様、動じた様子はありませんでしたね」
ドラグナム
「うむ。もうこの町に住んで長い者となると、あの部屋で何をやるのかは大体わかっているからな」
ユキネ
「なるほど……」
スラリン達は扉を開け、儀式の間へと入ると、中央にある竜の装飾が施されたやや大きめのテーブルの周りに集まった。
ドラグナム
「よし、ここに竜人間を縛りつけろ」
テツゾー
「よ、よし……」
テツゾーはドラグナムと一緒に担いできた竜人間をテーブルの上に寝かせ、手足と首が動かせないように鉄の鎖で拘束した。
ユキネ
「なんだかドキドキしますね……」
ドラグナム
「気を付けろよ。暴れることもあるかもしれん」
ドラグナムにそう言われ、ユキネは竜人間の額のあたりに手をかざして意識を集中させた。
ユキネ
「大丈夫そうです。まだ気を失ってます」
ドラグナム
「よし……」
ドラグナムは竜人間がまだ目覚めないことを確認すると、部屋の奥から手のひらサイズの真珠のような球を持ち寄り、竜人間の体の上にかざした。しばらくすると、竜人間の体がわずかに赤く光り、その光が真珠に吸い取られたかと思うと、ドラグナムの手の中で球は真っ赤に変色した。
ドラグナム
「うむ、うまくいったぞ」
テツゾー
「これで、この竜人間共はとりあえず攻撃力は弱くなったのか?」
赤く染まったオーブを眺めるドラグナムにテツゾーが尋ねる。
ドラグナム
「いや、これはまだオーブに能力をコピーしただけに過ぎん。効果として反映させるには他の封印オーブと共にそこの台に置く必要がある」
ドラグナムは淡々とテツゾーの問いに答えると、部屋の奥に横並びに設置されてる台座を指差した。
ユキネ
「一つずつ反映させるわけにはいかないのですか?」
ドラグナム
「それがこの”儀式”の難しいところだな。1個ずつだとオーブの力が弱いのだ。やはり確実に弱体化させるには5個揃えねばならん」
テツゾー
「結局、最低でもあと4回はこの強さを相手に戦わなければならないんだな。はぁ……」
テツゾーは台の上に拘束されている竜人間の鎧に触れると、ガックリと肩を落とした。
ドラグナム
「まぁそう落胆するな。とりあえずこれで1人は成功できたではないか」
ユキネ
「そうですね。あと4人、頑張って捕まえてきましょう!」
ユキネはそういうとスラリン達3人を励まそうと、両手で小さくガッツポーズをして見せた。
––– しばらくして、竜人間5人目 –––
テーブルの上には5人目となる竜人間が拘束されていた。
テツゾー
「ふぅ、いよいよこれで最後だな」
ドラグナム
「うむ。これでオーブも5個全て揃うな」
ユキネ
「ようやくですね……」
スラリン達3人が見守る中、ドラグナムは空のオーブを竜人間の体にかざすと、竜人間の体からは紫色の光が吸い取られ、紫色の”敏捷性のオーブ”が出来上がった。
ドラグナム
「よし、これで竜人間から全ての能力を抜き出す儀式が終わったな。あとはこの5個のオーブをそこの台座に設置する」
ドラグナムはスラリン達に手分けしてオーブ用の台座にオーブを置かせた。ドラグナムはそのオーブ用の小さな台座の前にある一回り大きな石造りの皿の前に立ち、自らの左腕を差し出した。
ドラグナム
「よし、あとはこの中央の皿にワシの血を注いで呪いをかければあの竜人間共をはじめとする、この大陸上の全ての人間共は弱体化される」
テツゾー
「血って、なんだか禍々しい儀式だな……」
ドラグナムの説明を聞き、テツゾーも固唾を飲む。
ドラグナム
「そうだな。人間の間では”ブラッドマジック”などとも呼ばれてるようだがな」
ユキネ
「人間界で言うブラッドマジックなんて、ほとんどが禁呪ですけどね……」
テツゾーとユキネがブラッドマジックについてヒソヒソと会話してる間に、ドラグナムは小さなナイフで自分の左腕を切り、滴り落ちる血を目の前の皿に注いだ。皿が己の血で満たされると今度は、目を閉じて静かに深呼吸を1回すると、なにやら唸り声にも似た声を発し始めた。
ドラグナム
「⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……」
テツゾー
「な、なぁ、アレなんて言ってるんだ……?」
ユキネ
「シッ、あれは竜語ですよ。さまざまな言葉を同時に発しているので我々の耳で聴き分けるのはまず不可能です」
ドラグナムが儀式を開始すると、テツゾーがヒソヒソとユキネに竜語について尋ねたが、儀式の重要さがわかっている彼女に静かにするよう注意されてしまった。
ドラグナム
「⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!」
ドラグナムが一際大きな叫び声をあげたかと思うと、台座に乗ったオーブが眩い光を放ち、竜人間を拘束しているテーブルを包みこむように太い光の柱が降り注いだ。
テツゾー
「う……うおお……! こ、これは……!?」
ユキネ
「も、物凄い広範囲に及ぶ魔力を感じます! 私が使う広範囲魔法の何倍もの……!」
スラリン達3人は強い光から目を庇うように構えると、その中央に立つドラグナムに目をやった。
ドラグナム
「人間よ!! これが我ら竜族の呪いだ!!!」
ドラグナムは右手の拳を天に突き上げながら叫ぶと、5個のオーブもその咆哮に応えるかのように浮かび上がり、固形である球ではなくなんらかのエネルギー体に変化すると、さまざまな方角に高速で飛んでいってしまった。
ユキネ
「あ! オーブが!!」
ドラグナム
「気にするな、あれでいい。あのオーブはこの後ただの石に変わり、簡単には封じた能力を取り戻せないようになる」
しばらくすると、眩い光は収まり、儀式の間も元の状態に戻った。スラリン達がこれまで連れてきた竜人間達はいつの間にか消えてしまっていたようだった。
テツゾー
「これで……終わったのか?」
ドラグナム
「うむ。少々手間ではあったが、これであの竜人間共はおろか、この大陸に足を踏み入れている全ての人間共が弱体化された。あの城もより堕とし易くなっただろう」
ユキネ
「また一つ貴重な体験をさせていただきました……!」
スラリン達4人は人間弱体化の儀式を全て終わらせた達成感にしばらく浸ると、再びフュンフ城へ向けて出発した。
つづく
テツゾー
「ん?」
ドラグナム
「どうした?」
ドラグナムもテツゾーの様子に気付き、声をかける。
ユキネ
「あの人間達の格好は……これまでの城とはちょっと違いますね?」
これまで、アインツ~フィアまでの城の入り口は、どれも手馴れた軽装兵士がほとんどだったが、今回のフュンフ城入り口の警備はトゥマツに居たドラゴンスレイヤーのような、色は違えど全身鱗の重装兵が2人立ち並んでいた。
テツゾー
「まぁ俺達もここへ来るまでにいくつか城を堕としているからな。装備や警備が強化されても不思議ではないけどな」
ドラグナム
「今やワシも居るのだ、何も問題なかろう?」
テツゾー
「そうだな。よし、行くぞ」
スラリン達はさらに入り口へと踏み込むと、人間の重戦士達もスラリン達に気付き、戦闘が始まった。
ドラゴンバスター×2
vs
スラリン
テツゾー
ユキネ
ドラグナム
戦闘開始から30分後、スラリン達はようやくドラゴンバスター達を跪せるところまできた。しかし、次の瞬間ドラゴンバスター達はなにやら呪文を唱えたかと思うと、一瞬にして傷が全回復した。
テツゾー
「なに……!?」
ここからはまた30分ほどかけて、再びドラゴンバスター達を跪かせることに成功したが、またしてもドラゴンバスター達は一瞬で傷を全快させ、スラリン達に襲いかかってきた。
テツゾー
「な、なんだと……!?」
[ドゴンッ!!]
ユキネ
「ギャッ……!!」
テツゾーがドラゴンバスターの超回復に目を奪われたその時、鈍い音と共にユキネが後方に吹き飛ばされた。
テツゾー
「ユキネ!!」
テツゾーはドラゴンバスターの攻撃により後方に吹き飛ばされたユキネの名を叫び彼女を見たが、うつ伏せに倒れたままのユキネはピクリとも動かなかった。
[ドゴォォン!!]
ドラグナム
「グゥオオオォォォ……!!!」
ドラゴンバスター2人に正面からXの字に攻撃を食らったドラグナムは、装備していた鋼の鎧を粉々に砕かれ、その場でうつ伏せに崩れ落ちた。
テツゾー
「おっさん!!」
スラリンも自身の体をピンボールのように弾ませ、ヒット&アウェイで善戦していたが、ドラゴンバスターの1人が装備していた巨大な両手棍の芯に当てられ、城壁に思い切り叩きつけられそのまま気を失った。
テツゾー
「スラリン!! くっ……!!」
テツゾーは仲間が次々とやられる中、自分に向けられた攻撃に耐えるべく、最大の防御姿勢をとるも、ドラグナムが食らった技と同じX攻撃の前に成す術もなく爆音と共に後方に吹き飛ばされた。
テツゾー
「ぐっは……!! な……なんだこの強さ……! ここまでか……ち……っくしょー……」
テツゾーはそのままスラリンが打ちつけられた城壁に叩きつけられ、そのまま意識を失った……。
–– スラリン まだ来ちゃダメだよ ––
どこか懐かしい声が聞こえたと思い、スラリンが目を覚ますとそこはスインツ・コロニーの宿屋だった。横には包帯などでグルグル巻きにされたテツゾー、ユキネ、ドラグナムがそれぞれ別のベッドで横たわっていた。
住人
「よかった! 目が覚めたよ!!」
スラリンが目を覚ました事に気付いた住人が、長老や他にも治療の世話をしていた仲間達に喜びの声で英雄の覚醒を知らせた。するとスラリンに続き、テツゾー達も徐々に目を覚ました。
テツゾー
「……うー……ん……? ここは……?」
ユキネ
「うぅ……頭が痛い……」
ドラグナム
「むぅ……ここは、スインツか……?」
4人全員が無事に目覚めたところに、長老も安堵した様子で声をかけた。
長老
「よかった、お目覚めになられましたか」
テツゾー
「お、俺達は殺されたんじゃないのか……?」
テツゾーは長老に自分達がどうしてここに居るのか尋ねると、長老も心配そうに話し始めた。
長老
「危ないところでした。たまたま付近をこの村の者が通りかかりまして、あなた方が人間にやられてすぐ機転を利かせて注意を引きつけに動いたのです。その隙に別の者があなた方をここまで運んだというわけです。トドメを刺される前だったので、かなり危険でしたが助けることができました」
ユキネ
「そ……そうだったのですね……」
長老の話を聞き、ユキネは自分の手に視線を移すと、まだかすかに震えが残る掌を悔しそうに握った。
テツゾー
「命の恩人だな」
ドラグナム
「礼を言う。お前達が居なかったらこの者達の旅もそこで終わるところだった」
スラリン達から助けられた礼を告げられると、長老や救助に携わった住人達も嬉しそうに目を細めた。
長老
「ほっほ、我々も命を救っていただいた身。もしよろしければ存分に休んでいってくだされ」
ドラグナム
「うむ、そうさせてもらおう」
長老達は4人に軽く挨拶をすると静かに部屋を出ていった。それとほぼ同時にテツゾーがあの戦闘を振り返った。
テツゾー
「しっかし、あの人間達の異様なまでの強さには驚いたな……」
ユキネ
「これまでも、あそこまで極端に強い人間は居ませんでしたからね……」
ドラグナムを除く3人はドラゴンバスターの強さに身震いをした。
テツゾー
「そんな人間達が、なぜあの城に留まっているんだ……? もっと外に出れば楽に周辺国も征服できるだろうに」
スラリン達の会話を神妙な面持ちで静かに聞いていたドラグナムが、ボソリと呟いた。
ドラグナム
「あの強さには、カラクリがある」
テツゾー
「ん、おっさん、何か心当たりがあるのか?」
テツゾーは何か理由を知っていそうなドラグナムに尋ねた。
ドラグナム
「うむ。あの戦の時、一瞬だったが我ら竜族と同じ魔力を感じたのだ。だが本来人間が竜族の力を得ることなど不可能だ。それを可能にするには……」
ドラグナムは続きを話すのを少し躊躇ったように見えた。
ユキネ
「可能にするには……?」
ユキネの興味がドラグナムに続きを促す。スラリンとテツゾーも固唾を飲んでドラグナムの言葉を待った。
ドラグナム
「体内の骨のどこか1ヶ所を、竜族の骨に置き換えることだ……」
ユキネ
「そ……それは……」
テツゾー
「げぇ~! まじか……」
ドラグナムの言葉に一同絶句した。
ドラグナム
「うむ。察しの通り、外科的な手術だ……正直ワシも迂闊だった。これまで角や骨が持ち去られていたのは知ってたが、まさかこんな事に使われてたとは……!」
ドラグナムが悔しそうに握る手からはギリギリと音が鳴った。
テツゾー
「そ、それを解除する方法はあるのか?」
ドラグナム
「殺す以外には方法が無い……だが、戦って倒せる相手ではない事はわかっただろう……」
ドラグナムは横目でスラリン達にドラゴンバスターの強さを再認識させた。これにはテツゾーも悔しそうに拳をベッドに叩きつける。
テツゾー
「うぐ……なら一体どうすればいいんだ……!」
ドラグナム
「こうなったら……」
ユキネ
「な、何か他にまだ策があるのですか!?」
ドラグナムの意味深な言葉にユキネも強い興味を示す。そんな彼女をドラグナムが横目で眺めながら呟いた。
ドラグナム
「これはワシとしてもあまりやりたくはない方法なのだが……」
テツゾー
「な、なんだよ、もったいぶらないで教えてくれよ」
躊躇うドラグナムにテツゾーも続きを促した。
ドラグナム
「うむ。こうなったら、直接人間共を弱体化させるしかない」
テツゾー
「じゃ、『弱体化』ぁ!?」
ユキネ
「そんなことが、出来るのですか!?」
ドラグナムの究極とも言える策に、スラリンとテツゾーは開いた口が塞がらなくなり、ユキネは目を輝かせた。
ドラグナム
「うむ。これは我ら竜族に伝わる儀式の一つなのだがな。我ら竜族のみが扱える”オーブ”という宝玉を使って、人間の能力を一つ封じ込めるのだ」
ユキネ
「……オーブ……!」
ユキネの目が一際輝く。
テツゾー
「それで、そのオーブってのに人間の能力を一つ封じ込めると、全ての人間のその能力が弱体化するというわけか……!?」
ドラグナム
「これまでもあまり使われたことは無いが、全てという訳にはいかんだろうな。せいぜいこの大陸内のみということになるだろう」
テツゾー
「ま、まぁそれでも十分そうだな。よし、それじゃあさっそくその封じ込め作業に入るとしようじゃないか!」
スラリン達はドラグナムの人間弱体化の話を聞き、すぐにでも動き出そうと準備を始めた。
ユキネ
「そうですね。それで、その封じ込める作業というのは一体どうやればいいのです?」
ドラグナム
「うむ。このスインツ村には奥に”儀式の間”という特別な部屋があってだな、そこにあの竜人間を一人捕まえては儀式用の台に縛り付ける。そしてその体にオーブをかざし、能力を一つ抜き出すというわけだ」
テツゾー
「ふむふむ……ふむ?」
ユキネ
「ん? それって……」
ドラグナムから儀式の内容を途中まで聞いたスラリン達3人は一瞬動きが止まる。
ドラグナム
「その台までは竜人間を1人捕まえて連れてくる必要があるな」
ドラグナムもどういうことかはわかってて説明している。
テツゾー
「だからぁ! 戦って勝てる相手じゃないってのは今さっきわかったばかりだろう!?」
ユキネ
「ま、まぁ落ち着いてください、テツゾー殿」
現状ではあのドラゴンバスターには勝てないという話に戻り、テツゾーも苛立ちを露わにし、ユキネが彼をなだめた。そんなテツゾーを眺めながら、ドラグナムも怯むことなく話を続けた。
ドラグナム
「だがなんとなく、1人を我々4人で囲めば倒せそうではなかったか?」
テツゾー
「ま、まぁ、確かにあともう一息という感じはしてたな……」
ドラグナムの話を聞き、テツゾーも落ち着きを取り戻す。
ユキネ
「ですが、後半のあの超回復があっては全く勝てる気がしません……」
ドラグナム
「あの竜人間、我ら竜族の骨により確かに魔法面にも強くはなったが、それ以外に何もされていないのであれば、全く魔法が効かないというわけでもないだろう」
ユキネ
「ふむ? あの超回復にも何か対策があると……?」
ドラグナムの含みがある話に、ユキネも首を傾げる。
ドラグナム
「うむ。まぁ確証はないが、即死魔法以外は効くこともあるだろう。竜族の骨とはそういう物だ」
ユキネ
「となると、沈黙の魔法は効くかもしれないと……後半は沈黙魔法で超回復の呪文を阻止し、その間に全力で叩けば……」
ドラグナム
「うむ」
ユキネの考察にドラグナムも頷く。
テツゾー
「なるほど、勝機が無いというわけでもないか……」
ドラグナム
「そういう事だ」
自分の説明で3人が納得してくれたと、ドラグナムも満足そうに頷いた。
テツゾー
「よーし、そうと決まればたった1人だ、少々不安もあるが全力でかかればなんとかなるだろ!」
ドラグナム
「ん、待て待て。たった1人だけではまだ弱体化しきれないぞ?」
ドラグナムはテツゾーが何か勘違いをしてると思い、声をかけた。
テツゾー
「え? だって今、1人を台に縛りつけて能力を抜き出すって話だったろ?」
ドラグナム
「うむ。それは『一つの能力を抜き出す方法』だな」
テツゾーとドラグナムの会話にユキネが不安になる。
ユキネ
「あ、あの、つまりはどういうことです……?」
ドラグナム
「あの竜人間共を完全に弱体化させるには『筋力』、『守備力』、『知力』、『器用さ』、『敏捷性』の5つを封じねばならんだろうな」
ドラグナムは自分の指で数えながら、スラリン達3人に封じるべき竜人間の能力を説明すると、スラリン達はサーっと血の気が引いた。
テツゾー
「ということは……」
ドラグナム
「竜人間を一人一人、その台に5回連れて来なければならんという事だ」
テツゾー
「げえぇ~~~!!」
ユキネ
「な、なんか急にめまいが……」
ドラグナムの言葉にテツゾーは大声で嫌気を表し、ユキネはふらつきながらベッドに突っ伏し、スラリンはカニのように口から泡を吹いた。
ドラグナム
「まぁ危険なのは承知の上だろう? こうでもしなければあの城は堕とせん」
テツゾー
「ま、まぁなぁ……」
ユキネ
「だ、大丈夫でしょうか……」
スラリン達はいつになく弱気になっていた。そこをドラグナムが他人事のように励ます。
ドラグナム
「なに、大丈夫だろう。これまでにも数々の集落や城を堕としてきたお前達だ、今回もきっとうまくやれるだろうさ」
テツゾー
「ったく、簡単に言ってくれるぜ……」
テツゾーは視線を横に逸らしながら愚痴を言った。
ドラグナム
「正直気が進まないのはわかる。だがこれしか方法が無いのだ。無茶をしろとは言わん。1人のところを我ら全員で襲う。1人ずつ確実にやろう」
ドラグナムは愚痴るスラリン達を説得した。するとテツゾーも同調したように小さく頷いた。
テツゾー
「そうだな。2人以上と遭遇したら逃げる。いいな? 無理に戦おうとするな。ユキネ、沈黙の魔法はどうだ?」
ユキネ
「大丈夫です」
ユキネはテツゾーに沈黙魔法を尋ねられると、右手に魔力を集中して準備万端な様子を答えた。
テツゾー
「よし、じゃあ行くか……」
ドラグナム
「まずはあの城の入り口を観察するところからだな。何か隙があるかもしれん」
–––––
スラリン達は戦闘の準備を整えると、再びフュンフ城下町の入り口にやってきた。門前にはあの時戦ったドラゴンバスター達が警備をしていた。スラリン達は物陰に身を隠し、様子を伺う。
テツゾー
「入り口に竜人間が2人いるな」
ドラグナム
「うむ。真っ向から戦うのは避けるべきだろう」
ユキネ
「他にもこの近辺を歩いてそうですね」
遠くに目をやると、門の前だけでなく、広範囲にわたってドラゴンバスター達がまばらに徘徊していた。
テツゾー
「だな。あいつらが1人の時なら戦うが、もし他の奴も加わって2人以上となったら絶対に逃げるぞ。いいな?」
ドラグナム
「そうだな。それが賢明だろう」
こうしてスラリン達4人は城門の外を歩いているドラゴンバスターが1人になっているところを強襲し、沈黙魔法を使いながらなんとか1人を倒す事に成功した。
テツゾー
「うぐ……やっぱ1人でもつえーな……」
ドラグナム
「うむ……よし、早く儀式の間へ連れて行こう」
ドラグナムとテツゾーは気を失った竜人間を担ぎ、スインツ・コロニーへと戻ってきた。この村の一番奥には高さ5メートルほどの巨大な扉で閉ざされた岩壁があり、この扉を開けてもらうためにスラリン達4人は長老を尋ねた。
長老
「おや、どうしましたかな? 私に何か御用ですか?」
テツゾー
「あぁ、ちょっと奥の部屋を借りたいんだけどさ……」
ドラグナム
「うむ、あの鉄扉を開けてはくれぬか?」
スラリン達は儀式の間を貸してもらえるように長老に協力を仰いだ。
長老
「奥の部屋って……”儀式の間”ですか? む、それにその人間は……なるほど、そういうことですか。どうぞ、これが鍵です」
長老はテツゾー達が担いでる竜人間に気付くと、慣れた様子でやや大きめの鍵をユキネに手渡した。
ユキネ
「あ、ありがとうございます」
スラリン達は儀式の間の鍵を受け取り、奥の巨大な扉に向かい歩き始めた。
ユキネ
「あの長老様、動じた様子はありませんでしたね」
ドラグナム
「うむ。もうこの町に住んで長い者となると、あの部屋で何をやるのかは大体わかっているからな」
ユキネ
「なるほど……」
スラリン達は扉を開け、儀式の間へと入ると、中央にある竜の装飾が施されたやや大きめのテーブルの周りに集まった。
ドラグナム
「よし、ここに竜人間を縛りつけろ」
テツゾー
「よ、よし……」
テツゾーはドラグナムと一緒に担いできた竜人間をテーブルの上に寝かせ、手足と首が動かせないように鉄の鎖で拘束した。
ユキネ
「なんだかドキドキしますね……」
ドラグナム
「気を付けろよ。暴れることもあるかもしれん」
ドラグナムにそう言われ、ユキネは竜人間の額のあたりに手をかざして意識を集中させた。
ユキネ
「大丈夫そうです。まだ気を失ってます」
ドラグナム
「よし……」
ドラグナムは竜人間がまだ目覚めないことを確認すると、部屋の奥から手のひらサイズの真珠のような球を持ち寄り、竜人間の体の上にかざした。しばらくすると、竜人間の体がわずかに赤く光り、その光が真珠に吸い取られたかと思うと、ドラグナムの手の中で球は真っ赤に変色した。
ドラグナム
「うむ、うまくいったぞ」
テツゾー
「これで、この竜人間共はとりあえず攻撃力は弱くなったのか?」
赤く染まったオーブを眺めるドラグナムにテツゾーが尋ねる。
ドラグナム
「いや、これはまだオーブに能力をコピーしただけに過ぎん。効果として反映させるには他の封印オーブと共にそこの台に置く必要がある」
ドラグナムは淡々とテツゾーの問いに答えると、部屋の奥に横並びに設置されてる台座を指差した。
ユキネ
「一つずつ反映させるわけにはいかないのですか?」
ドラグナム
「それがこの”儀式”の難しいところだな。1個ずつだとオーブの力が弱いのだ。やはり確実に弱体化させるには5個揃えねばならん」
テツゾー
「結局、最低でもあと4回はこの強さを相手に戦わなければならないんだな。はぁ……」
テツゾーは台の上に拘束されている竜人間の鎧に触れると、ガックリと肩を落とした。
ドラグナム
「まぁそう落胆するな。とりあえずこれで1人は成功できたではないか」
ユキネ
「そうですね。あと4人、頑張って捕まえてきましょう!」
ユキネはそういうとスラリン達3人を励まそうと、両手で小さくガッツポーズをして見せた。
––– しばらくして、竜人間5人目 –––
テーブルの上には5人目となる竜人間が拘束されていた。
テツゾー
「ふぅ、いよいよこれで最後だな」
ドラグナム
「うむ。これでオーブも5個全て揃うな」
ユキネ
「ようやくですね……」
スラリン達3人が見守る中、ドラグナムは空のオーブを竜人間の体にかざすと、竜人間の体からは紫色の光が吸い取られ、紫色の”敏捷性のオーブ”が出来上がった。
ドラグナム
「よし、これで竜人間から全ての能力を抜き出す儀式が終わったな。あとはこの5個のオーブをそこの台座に設置する」
ドラグナムはスラリン達に手分けしてオーブ用の台座にオーブを置かせた。ドラグナムはそのオーブ用の小さな台座の前にある一回り大きな石造りの皿の前に立ち、自らの左腕を差し出した。
ドラグナム
「よし、あとはこの中央の皿にワシの血を注いで呪いをかければあの竜人間共をはじめとする、この大陸上の全ての人間共は弱体化される」
テツゾー
「血って、なんだか禍々しい儀式だな……」
ドラグナムの説明を聞き、テツゾーも固唾を飲む。
ドラグナム
「そうだな。人間の間では”ブラッドマジック”などとも呼ばれてるようだがな」
ユキネ
「人間界で言うブラッドマジックなんて、ほとんどが禁呪ですけどね……」
テツゾーとユキネがブラッドマジックについてヒソヒソと会話してる間に、ドラグナムは小さなナイフで自分の左腕を切り、滴り落ちる血を目の前の皿に注いだ。皿が己の血で満たされると今度は、目を閉じて静かに深呼吸を1回すると、なにやら唸り声にも似た声を発し始めた。
ドラグナム
「⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……」
テツゾー
「な、なぁ、アレなんて言ってるんだ……?」
ユキネ
「シッ、あれは竜語ですよ。さまざまな言葉を同時に発しているので我々の耳で聴き分けるのはまず不可能です」
ドラグナムが儀式を開始すると、テツゾーがヒソヒソとユキネに竜語について尋ねたが、儀式の重要さがわかっている彼女に静かにするよう注意されてしまった。
ドラグナム
「⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!」
ドラグナムが一際大きな叫び声をあげたかと思うと、台座に乗ったオーブが眩い光を放ち、竜人間を拘束しているテーブルを包みこむように太い光の柱が降り注いだ。
テツゾー
「う……うおお……! こ、これは……!?」
ユキネ
「も、物凄い広範囲に及ぶ魔力を感じます! 私が使う広範囲魔法の何倍もの……!」
スラリン達3人は強い光から目を庇うように構えると、その中央に立つドラグナムに目をやった。
ドラグナム
「人間よ!! これが我ら竜族の呪いだ!!!」
ドラグナムは右手の拳を天に突き上げながら叫ぶと、5個のオーブもその咆哮に応えるかのように浮かび上がり、固形である球ではなくなんらかのエネルギー体に変化すると、さまざまな方角に高速で飛んでいってしまった。
ユキネ
「あ! オーブが!!」
ドラグナム
「気にするな、あれでいい。あのオーブはこの後ただの石に変わり、簡単には封じた能力を取り戻せないようになる」
しばらくすると、眩い光は収まり、儀式の間も元の状態に戻った。スラリン達がこれまで連れてきた竜人間達はいつの間にか消えてしまっていたようだった。
テツゾー
「これで……終わったのか?」
ドラグナム
「うむ。少々手間ではあったが、これであの竜人間共はおろか、この大陸に足を踏み入れている全ての人間共が弱体化された。あの城もより堕とし易くなっただろう」
ユキネ
「また一つ貴重な体験をさせていただきました……!」
スラリン達4人は人間弱体化の儀式を全て終わらせた達成感にしばらく浸ると、再びフュンフ城へ向けて出発した。
つづく
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