スラリンと7人の王

プルマ

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第三章 ドライ大陸

3.2. 無信仰モノ

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 スラリン達3人はハイダウ・コロニーからさほど離れていない所にある人間達の集落”ピューマナ”へとやってきた。
 ここの特徴としては、これまでの集落と大して変わった部分はないが、集落の中央に周りの建物と比べて明らかに一回り大きな”教会”が建っていた。


テツゾー
「ここが、ハイダウ村の若者達が向かったまま帰ってこないという人間達の集落か……」


 スラリン達が息を呑むとゾビヌ大佐は感慨深げにボソッと呟く。


ゾビヌ大佐
「うむ。しかし……不思議なものだな。ここへ来たらなぜか懐かしさと、わずかな憎しみを感じるな」


テツゾー
「お? それって、生前の記憶が少し戻ってきたってことじゃない?」


 テツゾーの言葉にゾビヌ大佐は腑に落ちないと言った感じで首をかしげた。


ゾビヌ大佐
「うーむ……ワシもそうは思ったんだがまだ何もわからん。ただ人間達が居るってだけでそう感じただけかもしれん」


テツゾー
「そっかー。ま、ここで人間達と戦ってれば何か思い出せるんじゃない?」


 テツゾーは6本あるうちの前脚2本を頭の後ろで組み、ぼんやりとピューマナの入り口を眺めながら呟いた。


ゾビヌ大佐
「ふむ。仮にそれで記憶が戻るとしても、それが自分にとっていい事か悪い事か、想像もつかんな」


 スラリン達がさらに入り口に向かって踏み込むとピューマナの警備兵達も3人に気づいた。


警備兵A
「おい、また新たなアンデッドがやってきたぞ!」


警備兵B
「まったくしつこいな! と、言っても、自分達は何もわかってないんだろうな」


警備兵A
「しかしこう何度も死者どもの相手をしてるといい加減こっちも参ってしまうな」


警備兵B
「まぁ、さっさとこいつら片付けて村長のシスターさんに癒してもらおうぜ」


警備兵A
「へへ。ここの村長シスターはほんと美人で良かったな。あとでたっぷり甘えてやるぜ!」


 スラリン達3人と警備兵達は互いに走り出し一気に距離を詰める。

–––––

 ものの10分ほどで勝負はついた。


テツゾー
「よし、じゃあこのまま一気に攻め切るぞ!!」


ゾビヌ大佐
「うむ! 後ろは任せろ! ワシが居る限り全滅は有り得ん!」


 スラリン達は勢いそのままにピューマナの内部に入ろうと駆け込もうとしたが、まだ内部に一歩も踏み込めないまま集落全体が光の壁に包まれて行く手を遮られてしまった。


テツゾー
「な、なんだこの光の壁は!?」


ゾビヌ大佐
「ぬ……! これは、ワシら魔族を近づけぬための物か!!」


 スラリンはよく目を凝らして壁の奥を覗くと、ここに住んでる住人と思われる人間達と、そのリーダーであろう修道女の姿が確認できた。その修道女が一歩前に出る。


村長
「ほほほほ……! この薄汚い魔物共めが。わたしがこのまちを治めている限り、町は聖なる加護により護られているのです! お前達が魔物である以上、この町へは一歩も入れないことでしょう」


 人間の修道女というのは、このピューマナ村長に限らず”対人”に際してはもの凄く物腰が柔らかいが、”対魔物”となると自分が信仰する”神”の敵対物であるために接する態度も著しく豹変する。スラリン達を睨みつけるピューマナ村長の表情も人前では絶対に見せないものだった。


テツゾー
「ど、どうする!? 何か策はねぇか? スラリン! ゾビヌのおっさん!」


ゾビヌ大佐
「ぐぬぬ……今のワシには壁に触れただけでこの体は消えてしまうじゃろう。なんとも口惜しや……!」


 なんとか3人で打開策を打ち出したいテツゾーたったが、聖なる力の前にはどうしようもないゾビヌ大佐もただ歯ぎしりをするくらいしかできなかった。


村長
「……ですが、入り口の警備兵を突破したのは褒めてやりましょう。あの者達もたった3匹にやられるとは情けない……あの2人は今日でクビにしましょう」


 光の壁を前にして動けないスラリン達を前に、村長は話を続ける。


村長
「その目の前の光の壁がある限り、汚らわしいお前達は手も足も出ないでしょう。逆に、私達も手も足も出せないとは思っていませんか?」


 ゾビヌ大佐は黙ったままピューマナ村長を睨みつける。


村長
「とんでもない。この光の壁は信心深い私の行いなら通過できるのです。見せて差し上げましょう……そうですねぇ……」


 村長は得意げにスラリン達3人をじっくりと”品定め”し始めた。


村長「そこの3匹の中で一番強そうな”スケルトン”! お前にしましょう!」


ゾビヌ大佐
「!?」


 村長はそう叫ぶとゾビヌ大佐を指差した。元人間のゾビヌ大佐も彼女の言葉を理解でき、これから自分に何が起こるのか即座に察し、身構えた。


テツゾー
「な、何をする気だ!?」


 村長の指先が微かに黄色く輝いたかと思うと、次の瞬間ゾビヌ大佐に向けて光の矢が放たれる。この瞬間彼の視界には修道女ではなく、人間だった頃に戦った”人間の男”が彼女と全く同じタイミングで光の矢を自分に向けて放つ瞬間が”走馬灯”のように流れた。


ズバン!


 光の矢が村長の指先から放たれてゾビヌ大佐の胸に到達するまでわずか1秒ほどであったが、彼にはスローモーションのようにはっきりと見てとれた。ゾビヌ大佐はそのまま光の矢に引っ張られるように後方へ吹き飛ばされる。


ゾビヌ大佐
「ぐおおあああ……!!」


テツゾー
「ゾ、ゾビヌのおっさん!!!」


 スラリン達が慌ててゾビヌ大佐の所へ駆け寄る。


村長
「ほーっほっほっほっほっほ!! 骨は骨らしくさっさと土に還りなさい!!!」


ゾビヌ大佐
「……ぅぅ……」


 彼の脳裏には生前の最期、吹き飛ばされた自分の周りを仲間の兵士達が駆け寄ってくる場面が見えた。


テツゾー
「ま、まずいぞスラリン! どうせ中に入ることが出来ねぇんだ、ここは一旦ゾビヌのおっさんを連れてハイダウに戻ろう!!」


 テツゾーはそう言うとスラリンと共に負傷したゾビヌ大佐を引きずって逃げ出した。その背後で修道女のピューマナ村長が得意げに高笑いをあげていた。

–––––

ゾビヌ大佐
「……う……!」


 あまりの激痛にゾビヌ大佐は目を覚ますと、スラリンをはじめ、周囲にはハイダウ・コロニーの長老や若者達など、何人もの住人達が心配そうに自分を覗き込んでいた。


テツゾー
「き、気が付いたかおっさん!」


ゾビヌ大佐
「……ここは……?」


 ゾビヌ大佐はゆっくりとあたりを見渡す。


長老
「お前さんの寝床じゃ。事情はスラリン殿達から聞いた。死なんでよかったわい……」


 ゾビヌ大佐は何かを思い出したように空を見て呟いた。


ゾビヌ大佐
「……そうか……ワシはあの人間の一撃で……」


テツゾー
「あ、あぁ、体半分持ってかれた時はもうダメかと思ったが、ここの人達が必死に代わりのパーツをかき集めてくれたんだよ」


ゾビヌ大佐
「そうだったか……皆の者、礼を言うぞ……」


 ゾビヌ大佐が自分の身に起きた事を把握し、また傷ついた体をハイダウ・コロニーの住人達に治してもらったことを知らされると、彼は周りに集まった住人達に感謝の意を伝えた。するとその中の1人の若者がゾビヌ大佐に声をかけた。


住人
「…………な、なぁ、アンタ……」


ゾビヌ大佐
「……なんだ?」


 住人の呼びかけにゾビヌ大佐もゆっくりと応える。


住人
「……長老様から聞いたよ……アンタ、本気でピューマナを俺達の町にしてくれるのか……?」


ゾビヌ大佐
「あぁ……と、言っても今はこのザマだが……近いうちに必ず堕として見せるさ……心配するな」


住人
「……き、期待していいんだな……!?」


ゾビヌ大佐
「あぁ……待っておれ……」


 ゾビヌ大佐の約束に住人達の間にもゆっくりだが歓喜の声が沸き起こる。


住人
「わ……わかった……楽しみにしてるぞ……」


 住人達の話が終わったところでテツゾーが口を開いた。


テツゾー
「しかし……あの光の壁、どうにかならんかなぁ……あれがある限り、俺達にはどうしようもないんじゃないか……?」


 その場で考え込み始めたスラリンとテツゾーに、ゾビヌ大佐が思い出したように話しかけた。


ゾビヌ大佐
「……あそこで攻撃された瞬間、一つ思い出した事がある……」


テツゾー
「ん? 何か思い出したって?」


ゾビヌ大佐
「ワシはこの姿で蘇る前……つまりは生前だ。生前、あの集落へ行った事があるようだ……」


 するとそれを聞いた長老も思い出したように呟いた。


長老
「ふむ……ピューマナは昔ドライ城と大規模な戦争をした事があるからの。不思議ではないかもしれん」


ゾビヌ大佐
「そこで、ワシはピューマナの領主と戦い、同じような手で殺されたようなのだ……」


 ゾビヌ大佐の話を聞いてたスラリン達だが、いまいち何を言いたいのかわからなかった。


テツゾー
「うーん。それが、何の解決になるんだ……?」


 怪訝な表情を浮かべるスラリン達にゾビヌ大佐は話を続ける。


ゾビヌ大佐
「その時の相手……名前は思い出せんのだが、大陸一の”無信仰者”だったというのを思い出してな……」


テツゾー
「無信仰者……?」


 スラリンとテツゾーの2人は互いに顔を見合わせる。


ゾビヌ大佐
「……うむ。全ての宗教だったか……全ての神だったかはわからんが、とにかくそういったものに無関心で全く信じないってカタブツだったな……」


長老
「ふむ……無信仰であれば、聖なる光の壁を無効化できるかもしれんというのか……?」


 長老が半信半疑に首を捻る。


ゾビヌ大佐
「わからん……だが、そいつはプリーストの聖なる回復魔法が一切効かなかったというのも思い出した」


 ゾビヌ大佐の話に長老も驚きの声をあげる。


長老
「なんと……! ならば、その者が身に着けていたものを何か手に入れられれば、道は開けるかもしれん!」


テツゾー
「でもよー、そんな昔の相手なんて、今どこにいるかわからねぇじゃねぇかよ……」


 テツゾーがお手上げといった感じで腕を頭の後ろで組む。


長老
「いや、昔のピューマナに住んでたというならば、この村のどこかに埋められてるかもしれん。ここは墓場じゃからの」


 長老の言葉にテツゾーも気づいたように声をあげる。


テツゾー
「そ、そうか! ……あ、でもさ、名前もわかんないじゃんかよ。どうすんのさ、全部掘り起こすの?」


 皆がゾビヌ大佐の仇の墓をどうやって探すか模索してるが、スラリンはどうも話についていけず飽きてしまった。気分転換に辺りを散歩でもしようかとウロウロしだした時、ゾビヌ大佐の墓石の裏に何か文字が刻まれているのを発見した。
 それは人間の言葉で書かれており、以前アインツ大陸で貰った翻訳辞典を使い文字の解読を試みた。その結果–––––


[ドライ城の兵士、ピューマナのリーダー”ゲリック=ウォルデン”の光矢にて死亡しここに眠る]


–––––と刻まれている事が判明した。この事を早速長老に話してみた。


長老
「……ん? どうしたスラリン殿。なに? ゾビヌさんを殺した相手がわかったじゃと!?」


 その場がどよめく。


テツゾー
「ええ!? お前、いつの間に!?」


ゾビヌ大佐
「ゲリック……ウォルデン……そうか……そんな名前だったか……よく考えたら、お互い名前も知らぬまま争っておったな……」


 そう言うとゾビヌ大佐は感慨深げに再び空を見上げた。


テツゾー
「じゃ、じゃあさ、ここを探してゲリック……なんとかって名前の墓を掘り起こしたら何か見つかるかもしれないんだな!?」


 テツゾーが興奮気味に話す。


ゾビヌ大佐
「見つかるかもわからんし……見つからんかもしれん……」


長老
「なにせ、かなり昔の話じゃからの……」


テツゾー
「ま、まずはやってみようぜ! あ、でも、掘る物が無いのか……」


 テツゾーが一喜一憂してると住人達がツルハシやスコップを少量持ってきた。


住人
「……つるはし……スコップ……ここにある物を使ってくれ……俺らがここに”来た”時、大量に捨てられていった……」


 住人にそう言われてから、改めて辺りを見渡すと、確かにそれぞれの墓石付近に結構な数のツルハシやスコップがあちらこちらに捨てられていた。


テツゾー
「お、助かる~……んだが、俺やスラリンは人間の物は掴めねぇや。ゾビヌのおっさんもこんな調子だし……」


 スラリン達が人間製の道具に困惑していると、長老が話しかけてきた。


長老
「ふむ、どれ……貸してご覧なさい。ツルハシは使えそうじゃな……」


 長老はそう言うとツルハシを一本手に取り、なにやら呪文を唱え始めた。


長老
「コレヲコウシテココニコウ……ほれ、出来たワイ!」


 長老はそう言うと先ほど借りたツルハシをテツゾーへポイと投げ返した。


テツゾー
「うおっと、こ、これは!?」


長老
「ん、何って、見ての通り『ツルハシ小僧』じゃよ」


テツゾー
「ツ、ツルハシ小僧!?」


 テツゾーが一瞬ギョッとする。


長老
「うむ。よく見てみぃ。ツルハシに手足が生えて動いとるじゃろ」


 テツゾーは長老にそう言われて改めて手にしたツルハシを見ると、たしかに小さな人間ののようなものが不自然に生えてプラプラとぶら下がっていた。


テツゾー
「……あ、ほんとだ」


長老
「ツルハシに我らと似たような命を一時的に吹き込み、魔物化させたんじゃよ。戦闘には全く使えんがの。だがお前さん達の代わりに掘ってくれるじゃろう」


テツゾー
「おー、それはありがたい」


長老
「スラリン殿達、この村でなんとかゲリックの墓を見つけだし、そのツルハシ小僧を使って掘り起こしてくれんかのぅ。ワシらはゾビヌさんの世話をしておるので……」


 長老は申し訳なさそうにスラリン達に掘削作業を託した。


テツゾー
「わ、わかった。やってみるよ」


 こうしてスラリンとテツゾーの2人は100基以上もある墓をに探して歩いた。そして1時間を過ぎた頃……


[ピューマナの元リーダー、ゲリック=ウォルデン、老衰により98歳でその生涯を閉じる]


 スラリンがゲリック=ウォルデンの墓を発見した。


テツゾー
「……あった! やったなスラリン!! ここだな? じゃあツルハシ小僧、掘り起こし頼んだぜ~」


 テツゾーはそう言ってツルハシ小僧を足元に放り込むと、は器用に自分の頭部でゲリックの墓を掘り始めた。


ザクッ……ザクッ……


 10分ほどこの場で作業をしてみたが、何も珍しい物は出てこなかった。


テツゾー
「おっかしいなぁ……やっぱ何も出てこないんかな~……」


 しばらくすると、このハイダウ・コロニーで道具屋を営んでる”ゾンビ”の店主が近づいてきた。


道具屋
「……そこ……」


テツゾー
「ん?」


道具屋
「そこ……俺の寝床……」


 道具屋の店主が今テツゾー達が掘っている穴を指差して迷惑そうに訴えてきた。


テツゾー
「ん? あ、あーあー、ゴメン、ちょっと探し物をしてたんで……って、んん!?」


 スラリン達は地面の穴と道具屋の店主を何度も見返す。


道具屋
「……俺の……寝床……」


 道具屋の店主はじっと足元の穴を指さしたままだ。


テツゾー
「も、もしかして! アンタがゲリック=ウォルデンなのか!!?」


道具屋
「……?? 言ってること……よくわからない……そこ、俺の寝床……」


テツゾー
「ちょ、ちょっと! チョーロー! 長老様ー! ちょっと来てー!!」

–––––

 スラリン達は道具屋の店主を連れてゾビヌ大佐の寝床に戻ってきた。先ほどまでいた住人達はそれぞれの家に帰り、残っているのはゾビヌ大佐と長老の2人となっていた。


長老
「うーむ。まさか、道具屋の主人が生前ゾビヌさんを殺したゲリック=ウォルデンじゃったとは……」


ゾビヌ大佐
「にわかには信じがたいな……道具屋と言えばワシも色々売ってもらったり、実に親しげに話をしてたが……」


 長老もゾビヌ大佐も、道具屋とは古くからの付き合いで店主とも仲が良かっただけに未だに信じられないでいた。


テツゾー
「おっさん、本当に何もわかんないか?」


 テツゾーはゾビヌ大佐に何か記憶が戻ったか尋ねる。しかし彼の返答は期待したものではなかった。


ゾビヌ大佐
「ううむ、何度顔を見ても実にフレンドリーな主人にしか見えんが……」


道具屋
「……俺……戻らないと……客が待ってる……」


 用事がないなら帰りたいといった感じで道具屋が訴えてくるのを長老が必死に止める。


長老
「も、もうちょっと待っとくれ。スラリン殿達、この主人の寝床からは本当に何も出なかったんじゃな?」


テツゾー
「うん、結構深く掘ったんだけどなぁ……」


 長老の問いにテツゾーも残念そうに呟いた。


長老
「やはり、古過ぎてもう何も残ってなかったか……」


 長老も一歩遅かったかと悔しがる。するとゾビヌ大佐が何か閃いたように道具屋に話しかける。


ゾビヌ大佐
「……道具屋の主人」


道具屋
「……何……?」


ゾビヌ大佐
「お主は、これまでに人間から聖なる魔法などをかけられたことはなかったか……?」


 ゾビヌ大佐に尋ねられ、道具屋の店主はしばらく考えて呟き始めた。


道具屋
「わからない……でも、嫌がらせのように……何回も同じ魔法……を……かけられたことはあった……」


ゾビヌ大佐
「やはりそうか……」


テツゾー
「ん? ん? どういうこと??」


 道具屋の返答にゾビヌ大佐が頷く。スラリンとテツゾーは何が一体どうなってるのかさっぱりわからなかった。


ゾビヌ大佐
「この者は、体を成すその骨が聖なる魔法を無効化するようだ」


テツゾー
「え、ええ!? 骨が無信仰属性なの!?」


 ゾビヌ大佐の憶測にスラリン達も驚いた。


ゾビヌ大佐
「まぁ、そういう事になるな……」


テツゾー
「で、でも、そしたらそれこそどうすればいいんだよ」


 テツゾーの心配をよそに、ゾビヌ大佐は道具屋の店主と話を続ける。


ゾビヌ大佐
「なに、なんの心配もいらん。道具屋の主人」


道具屋
「……何……?」


ゾビヌ大佐
「お主の骨、どれか一つでもいいんだが、ワシの骨と交換してくれぬか?」


道具屋
「……いいよ……どれがいい……?」


 道具屋の店主はゾビヌ大佐の交渉にあっさりと応えた。スラリン達は今何をやりとりされてるのかいまいち理解できなかった。


ゾビヌ大佐
「そうだな……では、その右足のスネなどどうだろうか」


道具屋
「……いいよ……はい……」


 道具屋はなんの躊躇も無しに自分の右足から脛の骨をポコッと取り外し、ゾビヌ大佐の同部位の骨と交換した。スラリン達は目を丸くする。


テツゾー
「そ、そんな簡単に交換できるもんなの!?」


ゾビヌ大佐
「……うむ、うむ、サイズもちょうどワシと同じで実にしっくりくる。足止めしてすまなかったな主人。また何か買わせてもらうぞ」


 ゾビヌ大佐は”取り替えた”足を2、3回屈伸させると、納得した様子で道具屋の店主に礼を言った。


道具屋
「……ええ……毎度……ご贔屓に……」


 道具屋の店主も一通りの取引が終わったところで自分の店へゆっくりと帰っていった。


テツゾー
「……へぇ~……”死者族”ってなんだかすごく便利なんだねぇ……」


 テツゾーがしみじみと感心する。 


長老
「このが昔から人間達の間でよく言われる『何度も甦る理由』なのですじゃ」


テツゾー
「ハハ……互換性、ねぇ……」


 足を無信仰属性の物に交換し終わったゾビヌ大佐がゆっくりと立ち上がった。


ゾビヌ大佐
「さて、ワシの体もだいぶ動けるようになったし、あとはスラリン達だな。どうするつもりだ?」


 ゾビヌ大佐に急に尋ねられたスラリン達はキョトンとして彼の顔を見上げる。


テツゾー
「え、ど、どうするつもりって?」


ゾビヌ大佐
「だから、光の壁対策に決まっておろう。お主達だってこのままではあの壁から一歩も中には入れんのだぞ?」


テツゾー
「え、おっさんはその骨一本だけでいいの?」


 テツゾーが尋ねると、ゾビヌ大佐は腰に手を当てといったポーズをとった。


ゾビヌ大佐
「うむ。あの壁を通過するだけなら、この骨一本で体一つ分は無信仰のオーラに包まれるから大丈夫だ」


テツゾー
「え、ええ~。じゃ、じゃあ、どうするかなぁ……」


 残るは自分達だけだとわかったスラリン達は焦った感じでソワソワしだした。


ゾビヌ大佐
「お主達も、あの道具屋の主人に売ってもらうか?」


テツゾー
「う、売ってもらうって……骨を!?」


ゾビヌ大佐
「そうに決まっておろう。ここで薬草を売ってもらってどうする」


 ゾビヌ大佐が冷静にツッコむ。


テツゾー
「で、でも、あの人にとっても自分の体の大事な骨だろ? そう簡単に売ってもらえるかなぁ……」


ゾビヌ大佐
「まぁ、一筋縄ではいかぬかもしれんな」


テツゾー
「そ、そんなぁ……」


 ゾビヌ大佐のそっけない返答にテツゾーも涙ぐむ。


ゾビヌ大佐
「『2大陸を堕とした英雄』が何を情けない顔をしておる。やってみなければわからんだろう。モノは試しだ。相談してみたらどうだ」


テツゾー
「そ、そうだな。頼むだけ頼んでみるか……」


 スラリン達はゾビヌ大佐に勧められるがままに、先程の道具屋の店主が経営してるハイダウ・コロニーの道具屋へとやってきた。


テツゾー
「あ、あの……ご主人……?」


道具屋
「……はい……いらっしゃい……」


 テツゾーが恐る恐る店主に尋ねる。


テツゾー
「あの~、非常に頼みづらいんだけど……ご主人の骨……売ってもらえないかな……?」


ゾビヌ大佐
「ハハ、テツゾー。喋り方が主人と同じようになってるな」


 ゾビヌ大佐が笑いながらテツゾーをからかう。


テツゾー
「う、うるさいよ! 茶化さないでくれよ……」


道具屋
「……骨……2個……?」


テツゾー
「う、うん……」


道具屋
「……いいよ……」


 道具屋の店主はあっさり了承した。


テツゾー
「ほ、本当!?」


道具屋
「……でも……金貨ではダメ……」


テツゾー
「え、じゃ、じゃあ、何ならいいの……?」


 道具屋の店主の出す条件にテツゾーが恐る恐る尋ねた。


道具屋
「……青い……鉱石……」


テツゾー
「青い鉱石??」


 スラリンもテツゾーも初めて聞くものだった。


道具屋
「……そう……青い鉱石……鉱山の一番奥で掘れる……それ2個となら……いいよ……」


 スラリン達3人は色々相談すると意を決したようにテツゾーが応えた。


テツゾー
「よ、よし、鉱山の一番奥で掘れる青い鉱石を2個持ってくればいいんだね!?」


道具屋
「……そう……鉱山の一番奥……ツルハシが落ちてるあたりが……よく掘れる……」


テツゾー
「わ、わかった。じゃあそれ持ってくるから、そしたら骨売ってちょうだいね!?」


 道具屋の店主も頷く。


道具屋
「……わかった……装備できるように……キバとツノに……加工しておく……青い鉱石……よろしく……」


ゾビヌ大佐
「よかったな、売ってもらえて。やはりモノは試しで言ってみるものだな」


 ゾビヌ大佐がテツゾーの肩をポンポンと叩く。


テツゾー
「う、うるせー! おっさんも鉱石掘るの手伝ってくれよ!?」


ゾビヌ大佐
「まぁ、護衛なら引き受けよう。採掘などは大佐たるワシの仕事ではない」


テツゾー
「きったねー!」


 スラリン達3人がギャーギャーと騒ぎながら店を離れ、しばらくすると道具屋の店主は思い出したように呟いた。


道具屋
「……気をつけて……あそこのゴーレム……捕まったら終わり……」



つづく
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