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第一章 アインツ大陸
1.2. 幼なじみの救出
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「あーー!! スライムだ! つつけつつけ!」
「ワンワン! ワンワンワン!!!」
「シッ、シッ! ばっちいから触っちゃいけません!!」
スラリンとイモッチがマシュー・コロニーを出てから、近所の人間の子供達や人間の飼い犬などと熾烈な闘いがあったものの、なんとかキベットの入り口まで辿り着いた。
イモッチ
「どどど、どうしようスラリン……ほほ、ほんとにキベットに来ちゃったよ……?」
二人はすでに泣きそうだった。震える相棒を互いに励まし合い、人間達が大勢住んでいるであろう”巣窟”に足を踏み入れた。
キベットの内部(厳密には屋外だが)は、恐ろしい程に道や地面が整備され、スラリンやイモッチくらいの大きさならすっぽりと入ってしまいそうな樽や壺が何個も並び、そしていくつもの花や果物が鋭利な刃物で茎から切断されていた。
ただ逆にわかりやすかったのは、人間達の寝床はそれ専用の建物の中にあるらしく、そこさえ避けて歩けば無駄に襲われるという心配は無かった。
イモッチ
「フワニー、一体どこにいるんだろうね……」
二人は樽や壺の物陰に隠れながらコソコソとフワニーが捕まっている場所を探す。もちろん、途中で人間に見つかって戦闘になったりもするが、そこは自分達にできる事を最大限に活用して戦闘経験を積んでいった。
ある程度人間との戦闘にも慣れ、何軒か家のドアを開けてみようとしたが、殆どが施錠されてて開けられなかった。どうやら戦えない人間達はそれぞれ自分達の寝床に隠れ、入り口に鍵をかけているようだった。
そんな中、地面の下へ吸い込まれるように降りる階段がある建物を見つけた。そしてほのかに人間と魔物、フワニーの匂いも奥から漂ってくるような気がした。
イモッチ
「ねぇスラリン! この下からフワニーの匂いがするよ! きっとこの奥だよ!」
二人は急いで階段を駆け降りると、二重の鉄格子の扉の奥にぐったりとしたフワニーと、いかにもパワーがありそうな屈強な人間が見えた。人間も即座にスラリン達に気づいた。
拷問人
「なんだぁ? なんでこんな所に魔物が入り込んでるんだぁ? まったく、警備の連中は一体何をやってるんだ。ま、どうせここへは鍵がなきゃ入れないから関係ないけどな。へへっ、どれ、村長が来るまでたんまり毛を毟り取ってやるぜ」
男は下品な笑みを浮かべながらピクリとも動かないフワニーを片手で軽々と掴み上げる。
拷問人
「こいつはなかなか上等だ。まだガキだから量こそ少ないが、それでも売ればいい金になるだろう」
イモッチ
「かわいそうなフワニー……待っててね! もうすぐ助けるから!」
イモッチが鉄格子扉の施錠を確認する。
イモッチ
「スラリン、この扉の鍵はこの集落の『長』が持ってるんじゃない? そいつを倒せばこの先に入れるかもしれないよ!」
スラリン達はフワニーの容体を心配しつつも、鉄格子扉の鍵を手に入れるべく持ち主の捜索に戻った。
ーーーーー
スラリン達が捜索を続けていると、集落の一番奥にやたらと大きな建物が建っていた。
イモッチ
「うわぁ……おっきな建物だね……スラリン、きっとここがこの集落の長が住んでる建物だよ。この中に、フワニーを助けるための鍵があるんだね……」
幸いにも、この家を護っている人間などは居ないようだった。二人は勇気を振り絞って建物の中に侵入した。
外に人間がいなかった分、内部で待ち伏せされていたが、スラリン達もこれまでの戦いの成果を存分に発揮しながら、なんとか一番奥の部屋に辿り着いた。そして遂に、このキベット村の”村長”を発見する。
村長
「な、何事だ!? 町の外が騒がしいから何かと思えば、スライムと芋幼虫が町に入り込んでるではないか!」
村長も突然自分の部屋に魔物が飛び込んできたので軽くパニックになったが、相手がスライムと芋幼虫の二匹だけとわかるとすぐさま冷静さを取り戻した。
村長
「一体、この町の兵士達は何をやってるのだ! ええい! こんな雑魚など、ワシ一人で退治してくれる!!」
スラリン、イモッチ対キベット村長の激しい戦いが始まったがここでは割愛する。そして……
チャリーーーン……!
村長
「ひ、ひいぃ! な、なんなんだこいつらは! なぜこんなに強い!? こ、こうなったら逃げるしかない! 町の皆さーーん! 今この町には凶暴なモンスターが入り込んでいます! ただちに逃げてくださーーーい!!」
村長がそう叫びながら家の外へ逃げ出すと、他に隠れていた人間達も悲鳴をあげながら一斉に集落の外へ飛び出していった。
イモッチ
「はぁ……はぁ……はは……な、なんとか勝てたね……僕達でもなんとか勝てたんだ!!」
村長との激闘に勝利したイモッチが興奮して叫ぶ横で、スラリンは村長が逃げる時に落としていった鍵を手に入れた。
イモッチ
「スラリン、その鍵って……は、はやく! 早くフワニーを助けに行こうよ! 扉はその鍵で開くはずだよ!!」
スラリン達は急いでフワニーが捕まっている地下室へ向かった。
ーーーーー
再び地下室へ戻ると、拷問人の男も地上でスラリン達と町の人間達が戦っていたことに気づいたらしく、ひどく動揺していた。
拷問人
「お、おいおいおい! やけに上が騒がしいと思ったら、魔物の群れが押し寄せてきたってのか!?」
男の想像では地上では悪魔やドラゴンなど凄い魔物達が押し寄せてきて、たまたまこの地下には目の前のスライムと芋幼虫が紛れ込んできたと思ったようだ。
ガチャリ
スラリンは村長から手に入れた鍵で二重牢の一枚目の扉を開けた。
拷問人
「ひ、ひぃ! その鍵を持ってるってことは、町の人達は皆やられちまったってことなのか!? く、来るな! 来るなーー!!」
この鍵は村長が持っているはず。それがここにあるということは、村長の死を意味する。男はそう察してすっかり震え上がってしまった。
ガチャリ
スラリンが二枚目の扉を開けた。
拷問人
「ひいぃ~~! 来るなああぁぁ~~! うおおおお! どけどけどけえぇぇぇぇぇいぃ!!」
スラリンが二枚目の扉を開けた瞬間、男は声をあげて突進してきた。二人はひらりとかわすと、男はそのまま地上へと逃げていった。
イモッチ
「フワニー! 助けに来たよ!! 大丈夫!?」
イモッチが急いでフワニーに駆け寄る。
フワニー
「わぁ……その声はイモッチ……? どうしてこんな所にいるの………?」
フワニーはイモッチがこの人間だらけの場所に居ること自体に力無く驚いた。
イモッチ
「フワニーが人間に捕まったって聞いて、スラリンと一緒に助けに来たんだよ!!」
フワニー
「スラリンも一緒なの……? スラリン……体……治ったんだ……よかった~……」
フワニーはスラリンの体から毒が消えた事を素直に喜び微笑んだ。しかしその目は虚ろだった。
フワニー
「ゴメンね……私、スラリンの傷を治してあげたくて……畑に来たんだけど……捕まっちゃって……」
イモッチ
「フワニー! スラリン、早く村に連れて帰ろうよ! 今ならまだ治してもらえるよきっと!」
イモッチは涙ながらにスラリンに訴える。スラリンも瀕死となったフワニーを見て頭の中が真っ白になってしまっていた。
フワニー
「ううん……いいんだ……私……もう……ダメみたい………なんとなくわかるんだ………」
フワニーの息づかいが小さくなってくる。
イモッチ
「そんなことないよ!! さぁ、早く一緒に帰ろう!」
フワニー
「スラリン達こそ……こんな所にいたら……人間達に捕まっちゃうよ……?」
イモッチ
「人間達はもう居ないよ! 僕達で戦って追い出したんだ!!」
イモッチの言葉にフワニーは信じられないといった感じで驚いた。
フワニー
「え……そうなの……? すごぉい……スラリン達って……とっても強いんだね……ゴホッ……ゴメンね……もう……目も見えなくて……ねぇ、イモッチ……」
イモッチ
「ううっ、ここに居るよ。なに……?」
フワニー
「スラリンは……居る……?」
イモッチ
「居るよ! ここに居るよ! ずっと一緒だよ!!」
フワニーの手が何かを探すように震えながらのびると、スラリンは自ら頬を寄せ彼女に応えた。
フワニー
「わぁ……本当だ……ふふ……スラリンったら、せっかく体が治ったのに……またボロボロじゃない……」
フワニーは手探りでスラリンの体を撫で回す。
フワニー
「でも……スラリンは……スラリンだぁ……私……スラリンのプニプニ感……だぁい好き……」
フワニーの声がさらに小さくなる。
フワニー
「ねぇ、スラリン……イモッチ………」
イモッチ
「な、なに?」
フワニー
「私のお願い……一つ聞いてくれる……?」
イモッチ
「う、うん! 何でもするよ! だから諦めないで!」
フワニー
「うん……あのね……」
フワニーは一度目を閉じ一呼吸つくと、声を振り絞って語り始めた。
フワニー
「私の願いは……もう……これ以上私みたいに……悲し………思………を………」
イモッチ
「フワニー!!」
フワニー
「……居な………世界…………を…………」
フワニーの手が力無く床に落ちた。
フワニー
「……………」
イモッチ
「うわあーーーーー!! フワニー! フワニーーーーーー!!!」
フワニーは静かに息絶えた。イモッチの号泣する声だけがキベット村に響き渡った。
ーーーーー
マシュー・コロニーに戻った二人は、住人達と一緒に花が咲き乱れる広場の一角にフワニーの墓を立て、亡骸を弔った。
イモッチ
「ううぅ……バイバイ……フワニー……うっ……うう……」
住人A
「可哀想に……いい子だったのになぁ……」
集落の誰もがフワニーの死を悼んだ。
フワニーの祖母
「うぅ……私のかわいいかわいいフワニー……どうしてこんなことに……う……ぅ……」
住人B
「ちくしょう……人間め……ちくしょう……!」
長老
「フワニー……お前は、友を救いたい一心だったのじゃな……それがこんな事になったのは残念じゃが……その心と勇気は、立派じゃったぞ……!」
長老の目にも涙があふれていた。
皆がフワニーの死を悼んでいる間に、スラリンは集落の外へ出ようとしていた。しかしイモッチに気付かれ、すぐさま声をかけられる。
イモッチ
「スラリン……どこ行くの……?」
スラリンはキベットでフワニーと交わした約束で思った事を話した。
イモッチ
「……え? フワニーの願いを叶えに行く……って……?」
イモッチはいまいちスラリンの言ってる事がよくわからないといった様子だった。スラリンはこのコロニーを出る決意を彼に話した。
イモッチ
「ぇえ!? この世界を魔物だけの平和な世の中にするって!? それ、本気で言ってるの!? この世界には一体どれだけの人間がいるかわからないんだよ!? それなのに……!」
イモッチは信じられないといった様子でスラリンに思い直すように説得したが、スラリンの決意は固かった。
イモッチ
「……そっか……そうだよね……フワニーは、本当にその世界を夢見たから、僕らに託して逝っちゃったんだよね……」
イモッチもフワニーのことを思い出しながらしみじみと話した。
イモッチ
「キベットも僕らの力だけで勝てたんだし、絶対不可能ってわけでもないんだよね……! よ、よーし! それじゃあまた僕も一緒についてくよ! あの時フワニーに『なんでもする』って言ったんだ、嘘になんてしたくないよ!」
イモッチもスラリンの目標に乗る事になった。いつの間にか彼の目はたくましい者になっていた。
イモッチ
「行こう、スラリン! それで、次はどこ行くの? キベットから見えた遠くの建物……? って、城ォ!?」
イモッチが二度見した。
つづく
「ワンワン! ワンワンワン!!!」
「シッ、シッ! ばっちいから触っちゃいけません!!」
スラリンとイモッチがマシュー・コロニーを出てから、近所の人間の子供達や人間の飼い犬などと熾烈な闘いがあったものの、なんとかキベットの入り口まで辿り着いた。
イモッチ
「どどど、どうしようスラリン……ほほ、ほんとにキベットに来ちゃったよ……?」
二人はすでに泣きそうだった。震える相棒を互いに励まし合い、人間達が大勢住んでいるであろう”巣窟”に足を踏み入れた。
キベットの内部(厳密には屋外だが)は、恐ろしい程に道や地面が整備され、スラリンやイモッチくらいの大きさならすっぽりと入ってしまいそうな樽や壺が何個も並び、そしていくつもの花や果物が鋭利な刃物で茎から切断されていた。
ただ逆にわかりやすかったのは、人間達の寝床はそれ専用の建物の中にあるらしく、そこさえ避けて歩けば無駄に襲われるという心配は無かった。
イモッチ
「フワニー、一体どこにいるんだろうね……」
二人は樽や壺の物陰に隠れながらコソコソとフワニーが捕まっている場所を探す。もちろん、途中で人間に見つかって戦闘になったりもするが、そこは自分達にできる事を最大限に活用して戦闘経験を積んでいった。
ある程度人間との戦闘にも慣れ、何軒か家のドアを開けてみようとしたが、殆どが施錠されてて開けられなかった。どうやら戦えない人間達はそれぞれ自分達の寝床に隠れ、入り口に鍵をかけているようだった。
そんな中、地面の下へ吸い込まれるように降りる階段がある建物を見つけた。そしてほのかに人間と魔物、フワニーの匂いも奥から漂ってくるような気がした。
イモッチ
「ねぇスラリン! この下からフワニーの匂いがするよ! きっとこの奥だよ!」
二人は急いで階段を駆け降りると、二重の鉄格子の扉の奥にぐったりとしたフワニーと、いかにもパワーがありそうな屈強な人間が見えた。人間も即座にスラリン達に気づいた。
拷問人
「なんだぁ? なんでこんな所に魔物が入り込んでるんだぁ? まったく、警備の連中は一体何をやってるんだ。ま、どうせここへは鍵がなきゃ入れないから関係ないけどな。へへっ、どれ、村長が来るまでたんまり毛を毟り取ってやるぜ」
男は下品な笑みを浮かべながらピクリとも動かないフワニーを片手で軽々と掴み上げる。
拷問人
「こいつはなかなか上等だ。まだガキだから量こそ少ないが、それでも売ればいい金になるだろう」
イモッチ
「かわいそうなフワニー……待っててね! もうすぐ助けるから!」
イモッチが鉄格子扉の施錠を確認する。
イモッチ
「スラリン、この扉の鍵はこの集落の『長』が持ってるんじゃない? そいつを倒せばこの先に入れるかもしれないよ!」
スラリン達はフワニーの容体を心配しつつも、鉄格子扉の鍵を手に入れるべく持ち主の捜索に戻った。
ーーーーー
スラリン達が捜索を続けていると、集落の一番奥にやたらと大きな建物が建っていた。
イモッチ
「うわぁ……おっきな建物だね……スラリン、きっとここがこの集落の長が住んでる建物だよ。この中に、フワニーを助けるための鍵があるんだね……」
幸いにも、この家を護っている人間などは居ないようだった。二人は勇気を振り絞って建物の中に侵入した。
外に人間がいなかった分、内部で待ち伏せされていたが、スラリン達もこれまでの戦いの成果を存分に発揮しながら、なんとか一番奥の部屋に辿り着いた。そして遂に、このキベット村の”村長”を発見する。
村長
「な、何事だ!? 町の外が騒がしいから何かと思えば、スライムと芋幼虫が町に入り込んでるではないか!」
村長も突然自分の部屋に魔物が飛び込んできたので軽くパニックになったが、相手がスライムと芋幼虫の二匹だけとわかるとすぐさま冷静さを取り戻した。
村長
「一体、この町の兵士達は何をやってるのだ! ええい! こんな雑魚など、ワシ一人で退治してくれる!!」
スラリン、イモッチ対キベット村長の激しい戦いが始まったがここでは割愛する。そして……
チャリーーーン……!
村長
「ひ、ひいぃ! な、なんなんだこいつらは! なぜこんなに強い!? こ、こうなったら逃げるしかない! 町の皆さーーん! 今この町には凶暴なモンスターが入り込んでいます! ただちに逃げてくださーーーい!!」
村長がそう叫びながら家の外へ逃げ出すと、他に隠れていた人間達も悲鳴をあげながら一斉に集落の外へ飛び出していった。
イモッチ
「はぁ……はぁ……はは……な、なんとか勝てたね……僕達でもなんとか勝てたんだ!!」
村長との激闘に勝利したイモッチが興奮して叫ぶ横で、スラリンは村長が逃げる時に落としていった鍵を手に入れた。
イモッチ
「スラリン、その鍵って……は、はやく! 早くフワニーを助けに行こうよ! 扉はその鍵で開くはずだよ!!」
スラリン達は急いでフワニーが捕まっている地下室へ向かった。
ーーーーー
再び地下室へ戻ると、拷問人の男も地上でスラリン達と町の人間達が戦っていたことに気づいたらしく、ひどく動揺していた。
拷問人
「お、おいおいおい! やけに上が騒がしいと思ったら、魔物の群れが押し寄せてきたってのか!?」
男の想像では地上では悪魔やドラゴンなど凄い魔物達が押し寄せてきて、たまたまこの地下には目の前のスライムと芋幼虫が紛れ込んできたと思ったようだ。
ガチャリ
スラリンは村長から手に入れた鍵で二重牢の一枚目の扉を開けた。
拷問人
「ひ、ひぃ! その鍵を持ってるってことは、町の人達は皆やられちまったってことなのか!? く、来るな! 来るなーー!!」
この鍵は村長が持っているはず。それがここにあるということは、村長の死を意味する。男はそう察してすっかり震え上がってしまった。
ガチャリ
スラリンが二枚目の扉を開けた。
拷問人
「ひいぃ~~! 来るなああぁぁ~~! うおおおお! どけどけどけえぇぇぇぇぇいぃ!!」
スラリンが二枚目の扉を開けた瞬間、男は声をあげて突進してきた。二人はひらりとかわすと、男はそのまま地上へと逃げていった。
イモッチ
「フワニー! 助けに来たよ!! 大丈夫!?」
イモッチが急いでフワニーに駆け寄る。
フワニー
「わぁ……その声はイモッチ……? どうしてこんな所にいるの………?」
フワニーはイモッチがこの人間だらけの場所に居ること自体に力無く驚いた。
イモッチ
「フワニーが人間に捕まったって聞いて、スラリンと一緒に助けに来たんだよ!!」
フワニー
「スラリンも一緒なの……? スラリン……体……治ったんだ……よかった~……」
フワニーはスラリンの体から毒が消えた事を素直に喜び微笑んだ。しかしその目は虚ろだった。
フワニー
「ゴメンね……私、スラリンの傷を治してあげたくて……畑に来たんだけど……捕まっちゃって……」
イモッチ
「フワニー! スラリン、早く村に連れて帰ろうよ! 今ならまだ治してもらえるよきっと!」
イモッチは涙ながらにスラリンに訴える。スラリンも瀕死となったフワニーを見て頭の中が真っ白になってしまっていた。
フワニー
「ううん……いいんだ……私……もう……ダメみたい………なんとなくわかるんだ………」
フワニーの息づかいが小さくなってくる。
イモッチ
「そんなことないよ!! さぁ、早く一緒に帰ろう!」
フワニー
「スラリン達こそ……こんな所にいたら……人間達に捕まっちゃうよ……?」
イモッチ
「人間達はもう居ないよ! 僕達で戦って追い出したんだ!!」
イモッチの言葉にフワニーは信じられないといった感じで驚いた。
フワニー
「え……そうなの……? すごぉい……スラリン達って……とっても強いんだね……ゴホッ……ゴメンね……もう……目も見えなくて……ねぇ、イモッチ……」
イモッチ
「ううっ、ここに居るよ。なに……?」
フワニー
「スラリンは……居る……?」
イモッチ
「居るよ! ここに居るよ! ずっと一緒だよ!!」
フワニーの手が何かを探すように震えながらのびると、スラリンは自ら頬を寄せ彼女に応えた。
フワニー
「わぁ……本当だ……ふふ……スラリンったら、せっかく体が治ったのに……またボロボロじゃない……」
フワニーは手探りでスラリンの体を撫で回す。
フワニー
「でも……スラリンは……スラリンだぁ……私……スラリンのプニプニ感……だぁい好き……」
フワニーの声がさらに小さくなる。
フワニー
「ねぇ、スラリン……イモッチ………」
イモッチ
「な、なに?」
フワニー
「私のお願い……一つ聞いてくれる……?」
イモッチ
「う、うん! 何でもするよ! だから諦めないで!」
フワニー
「うん……あのね……」
フワニーは一度目を閉じ一呼吸つくと、声を振り絞って語り始めた。
フワニー
「私の願いは……もう……これ以上私みたいに……悲し………思………を………」
イモッチ
「フワニー!!」
フワニー
「……居な………世界…………を…………」
フワニーの手が力無く床に落ちた。
フワニー
「……………」
イモッチ
「うわあーーーーー!! フワニー! フワニーーーーーー!!!」
フワニーは静かに息絶えた。イモッチの号泣する声だけがキベット村に響き渡った。
ーーーーー
マシュー・コロニーに戻った二人は、住人達と一緒に花が咲き乱れる広場の一角にフワニーの墓を立て、亡骸を弔った。
イモッチ
「ううぅ……バイバイ……フワニー……うっ……うう……」
住人A
「可哀想に……いい子だったのになぁ……」
集落の誰もがフワニーの死を悼んだ。
フワニーの祖母
「うぅ……私のかわいいかわいいフワニー……どうしてこんなことに……う……ぅ……」
住人B
「ちくしょう……人間め……ちくしょう……!」
長老
「フワニー……お前は、友を救いたい一心だったのじゃな……それがこんな事になったのは残念じゃが……その心と勇気は、立派じゃったぞ……!」
長老の目にも涙があふれていた。
皆がフワニーの死を悼んでいる間に、スラリンは集落の外へ出ようとしていた。しかしイモッチに気付かれ、すぐさま声をかけられる。
イモッチ
「スラリン……どこ行くの……?」
スラリンはキベットでフワニーと交わした約束で思った事を話した。
イモッチ
「……え? フワニーの願いを叶えに行く……って……?」
イモッチはいまいちスラリンの言ってる事がよくわからないといった様子だった。スラリンはこのコロニーを出る決意を彼に話した。
イモッチ
「ぇえ!? この世界を魔物だけの平和な世の中にするって!? それ、本気で言ってるの!? この世界には一体どれだけの人間がいるかわからないんだよ!? それなのに……!」
イモッチは信じられないといった様子でスラリンに思い直すように説得したが、スラリンの決意は固かった。
イモッチ
「……そっか……そうだよね……フワニーは、本当にその世界を夢見たから、僕らに託して逝っちゃったんだよね……」
イモッチもフワニーのことを思い出しながらしみじみと話した。
イモッチ
「キベットも僕らの力だけで勝てたんだし、絶対不可能ってわけでもないんだよね……! よ、よーし! それじゃあまた僕も一緒についてくよ! あの時フワニーに『なんでもする』って言ったんだ、嘘になんてしたくないよ!」
イモッチもスラリンの目標に乗る事になった。いつの間にか彼の目はたくましい者になっていた。
イモッチ
「行こう、スラリン! それで、次はどこ行くの? キベットから見えた遠くの建物……? って、城ォ!?」
イモッチが二度見した。
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