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「2019年 榊健一郎」act-3 <ルージュの残像>
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「私、誕生日に欲しいものがあるの」
雨音が蘇った。視線を向けると、部屋の片隅にある鏡台で瑠璃子が化粧を直している。「何だ?」という健一郎の問いかけに、瑠璃子は手にしたルージュで鏡に何か描き出した。
「おいおい、何を‥」
健一郎が言葉を失ったのは、彼女が描こうとしているものが分かったからだ。
「ダメ?」
甘えた声で振り返った彼女の背後に、真っ赤な猫の顔がある。
「最近、ひとりで部屋にいると寂しくて‥なんちゃって」
瞬きを忘れたかのように、鏡を見つめる健一郎に向かって「あっ、深い意味ないですよ」と少し慌てて瑠璃子は付け加えた。
「‥」
「どうしたの?」
「‥怒られるぞ。消せよ」
彼女は「はいはい」と返事をしながらテイッシュで鏡面を擦り始めるが、ルージュは意外に頑固でなかなか消えない。
「まっ、いいか」
諦めた瑠璃子は「でも、私のマンション、ペット禁止なんですよね」と言って笑った。
鏡の中で崩れた赤が、霞のようにぼやけて残されている。
「何だ、それ」
謙一郎は精一杯笑い返したつもりだったが、鏡に映った自分の顔は、泣きべそをかいた子供にしか見えなかった。
雨音が蘇った。視線を向けると、部屋の片隅にある鏡台で瑠璃子が化粧を直している。「何だ?」という健一郎の問いかけに、瑠璃子は手にしたルージュで鏡に何か描き出した。
「おいおい、何を‥」
健一郎が言葉を失ったのは、彼女が描こうとしているものが分かったからだ。
「ダメ?」
甘えた声で振り返った彼女の背後に、真っ赤な猫の顔がある。
「最近、ひとりで部屋にいると寂しくて‥なんちゃって」
瞬きを忘れたかのように、鏡を見つめる健一郎に向かって「あっ、深い意味ないですよ」と少し慌てて瑠璃子は付け加えた。
「‥」
「どうしたの?」
「‥怒られるぞ。消せよ」
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