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再開と衝撃

通話越しの再会

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 リビングに降りると焼きそばのいい香りがしてきた。母が作る焼きそばは一般的な作り方ではあるが、なぜか他の焼きそばと比べておいしく感じる。これが母親の味かと久しぶりの手料理を平らげお腹が膨れる。有馬からの誘いまでまだ少し時間があるが、久しぶりに帰ってきた地元だ。たまには散歩でもしながら向かうかと、腹ごなしもかねて早めに出ることに決めた。動きやすいように高校の体操着の短パンと部活で使っていたシャツに着替え、グローブをもって家を出る。

 高校時代はサッカー部であったが、中学時代は部活が少なくサッカー部がなかった。そこで有馬の誘いもあり野球部に入ったのだが、そこでは延々としごかれたのを思い出す。今となってはいい思い出だが当時は本当につらかった。しかし、そのおかげで人間力は確実についたと実感した。そこは非常に良い点だと思っている。

 家を出てまず一番初めに目に入ってくる木々に懐かしさを感じる。こんな風に家を出たらすぐ目の前に雑木林がある家もそう多くはないだろう。特に都会では考えられない。ただこの林にも小学生の頃は遊び場として随分とお世話になった。どろどろになって帰り母親に起こられたのはいい思い出だ。そんな懐かしい道を通り過ぎ、いろいろなことを振り返っているうちに目的地であるグラウンドへついた。
 
 「懐かしいな。ここもなんも変わってないか」

 小学校のグラウンドには少年野球チームが元気よく声を出しながら練習をしていた。ベンチに腰を掛け変わらぬ風景に黄昏れる。まだ昼間なので暑さはあるが時折吹く風が涼しさを醸し出し、夏という季節を感じさせる。ベンチに寝そべり空を見上げると所々雲は見えるが青空が広がっている。そっと目を閉じるとセミの声が鳴り響く音がよく聞こえる。そのまま眠りに入ろうかという時に額に突然の冷気を感じる。

 「よっ、昨日ぶりだな」

 目を開けると同時に有馬の姿が目に入り、手には近くの自動販売機で買ったと思われるジュースが握られていた。

 「どっちがいい?」

 両手に持つミカンの味とレモンの味のどちらかを選ぶように差し出してくる。俺は迷わずレモンをとるとやっぱりといった表情で笑い、自身はミカンの味のジュースを開ける。

 「しかし、今日も暑いな。まあ八月だから当然っていえば当然なんだけど」
 「まあな」

 そんなたわいのない会話をして互いに開けたジュースを飲む。思っていたよりも体は水分を欲していたようでごくごくと一気に飲み干していった。体の中が冷えていく感覚が気持ちいい。この感覚は部活以来か。そんなことを考えながら、空になった空き缶をゴミ箱に投げ入れる。

 「さて、それじゃあやるか」
 「おう」

 そんな有馬の呼びかけを節目にキャッチボールを開始する。久しぶりのキャッチボールに初めは肩が重かったが次第に慣れていく。徐々に距離を離し塁間くらいの距離になったら止まりそのまましばらく続ける。そんな中学校時代のキャッチボールのルールを自然と再現しながら二人で汗を流す。

 「そういや、飯食いに行くって言ったけどどこで食うとか決めてあんの?」

 不意に思いつた疑問を有馬に投げかける。

 「いや、決めてないよ」
 「そうなん、てっきり決まっているもんかと思ってたんだけど」
 「……それなんだけどさ」

 不意に自分の手のもとに有馬はボールを握ったまま頭を掻き始める。そして、

 「青葉と二人で決めてくんねーか」

 投げ返すと同時にそんなことを口走ってきた。それまで100回近くミスなくやってきたキャッチボールに初めてミスが生まれた瞬間だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~


 夜10時携帯を前に俺は一人また固まっていた。

「うーんどうしたもんんか」

 昼間のキャッチボールでのその後を要約すると自分はこれまでご飯を外で食べる機会が少なかったから店を知らない。だから二人で決めてくれということだった。そして現在に至るわけだが、

 「どうやって切り出したものか」

 単純にごはんどこに行く?と聞けばよいのだが有馬からはちんたらLINEなんかしてたら決まらないんだから電話をしろというのだ。こちとらメッセージのやり取りはしたことがあっても電話はしたことがない。正確にいえばこちらからしたことはないのだが。

 「ひとまずメッセージ送ってみるか」

 「今時間ある、話すことがあるんだけど」という文面を個人のメッセージに送り返信を待つ。この待つ時間ももどかしい、いっそのこといきなり電話をしてしまえばよいのだろうが、そんな勇気は俺にはない。

 待つこと15分「大丈夫だよーー」というメッセージが返ってきたことでついに通話ボタンに手をかける。プルプルとつながりを待つ音が鳴り響き、それと同時に心臓の音もバクバクとなっていた。
 
 ガチャ

 通話がつながる音がして心臓が飛び跳ねる。

 「もしもしー、久しぶりー」

 元気よくこちらの心情など考えてもいないような飛び切り明るい声で電話の相手 吉岡青葉との久しぶりの再会を果たした。

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