雪に舞う桜吹雪

白凪雪緒

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2話 仕事

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「あ゛ぁ゛…疲れた」
 今日は百件程の依頼をこなした。
 案外楽な案件の物や、依頼場所が転々と近かったためだろう。
 お国のお偉い様達が依頼なんてしてきた日は、その指名手配書と睨めっこしながら日本中を行き来する事になるのだ。疲れたには疲れたが、少なくとも今は楽な方だと思える。
 それでもきついものはきついが。
 元来俺は運動が得意な方でも、努力するのが得意な方でもないんだ。こんな仕事放っておいてゲームでもしていたいと願わなかった日は…ないわけではないが、かと言って毎日思ってる訳でも無い。
 そりゃあ奉仕活動のような事をしているんだ。感謝をされないわけが無い。だからこの仕事はしんどくても憎めないのだ。人に感謝されるのは何にも変え難い幸福があるから。
 俺は仕事終わりのコンビニで買ったインスタント食を電子レンジに放り込む。
 ろくに家事をせずに怠けてしまうのは俺の悪い癖だ。
 毎日コンビニ食だとカロリーと食費が馬鹿にならないのはわかっているが、強制的に街を走り回って多めに依頼料を貰っているので、残念な事にこれを辞める口実が生まれない。もう少し俺がしっかり者だったらこんな事は起こらないんだろうけど。
 因みに自分で言うのもなんだが俺は割と料理は出来る方だ。まぁ出来ると言ってもレシピ見れば普通に作れる程度なので、特筆して得意料理も苦手な料理も無い。強いて言えば辛い料理は作るのも食うのも嫌いだ。あんなものを好んで食う奴はイカれてるとまで思っている。
 なんてことを考えているうちに電子レンジが長年聞いた電子音で調理を終了する。職業柄腕を酷使する俺は、空腹と疲労と筋肉痛にサンドウィッチされながら、もそもそとカロリーモンスターの弁当を食う。
 ふと食べる手を止め、無意識に付けていたテレビから「彼」の話題が出てきた。
 『えー、今や侍会のトップとなった焔宗太郎さん、依頼件数は毎日数百から数千と言われていますが、そんな突拍子もない数字を一日でこなしてしまう秘訣をぜひお聞かせ願います![#「!」は縦中横]』
 テレビの奥で興奮冷めやらぬ様子で司会者が焔と呼ばれた男に質問を繰り出す。
 派手な赤色の髪をして、いい加減に侍協会の羽織を着ている男が笑顔で受け答えする。
 『えー、そうですね。まず、なんといってもじt----』
 ブツッ。
 俺は反射に近い動きでテレビを切った。
 焔宗太郎。
 侍協会のトップに君臨する絶対者で、類稀な剣術の才能を持つ男だ。
 なにせS級なんだから。
 
 S級とは、侍協会に登録している侍が付けられるランクで、そのランクによって受けていい依頼が異なってくる。
 階級はC B A Sの4種存在し、A以上は殺生を許される。たったそれだけだ。
 因みに階級がSに近ければ近いほど依頼料は高くなり、Cに近ければ近いほどなめて掛かられる。実に合理的な格差社会だ。
 ちなみに俺の階級はA。はっきり言って強い方でもない。そんなやつだ。
 テレビの電源を切ったことで部屋が無音空間と化す。
 今度はスマホから適当なAMラジオを、逃げるように再生し始める。
 スマホはたちまち町でよく聞くお涙頂戴な失恋ソングを流し始めた。電波に乗った最近有名な歌手が、失恋したから病んだというワンフレーズで済むようなどうだっていい事を述べ始める。…何がいいんだ。こんなもの。
 これ以上チャンネルを変える気も起こらず、俺はただカロリーモンスターを貪ってその曲が終わることを祈った。
 
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