12 / 34
12.計画を立てる
しおりを挟む
診察のあった日の夜。
夕飯の後、お風呂から出た鉄男は、首にタオルを引っ掛けたまま自室に戻ると、スマホを耳に当てた。
『もしもし。てっちゃん?』
守が電話に出た。
「守、今ちょっといいか?」
『いいよ、何?』
「うん……」
自ら電話をしておいて、鉄男はためらい、会話に間が空くと、
『……仕事はどう? 新しいとこ、慣れそう?』
守の方から無難な話題を振ってきた。
「あぁ、何とか。それでなんだ、俺見つけたんだ」
『見つけたって?』
「あの夢に出てきた島の洋館と全く同じ間取りの設計図だ。会社の人に聞いたら、野崎院長の別荘だって」
『別荘って、院長にもなれば、持ってるんじゃないの? あのてっちゃんが見たっていう夢と同じなのは、ただの偶然じゃない?』
「俺には、あれが夢かどうか区別つかないんだ……」
『てっちゃん……』
鉄男が嘘をつくような人間ではないと、守はよく知っているからこそ、夢の話を無視できないでいた。
「だから、その別荘へ行ってみたいんだ。何かヒントが見つかるかもしれないって」
『分かったよ。オレも一緒に行くよ。てっちゃん一人だと、何やらかすか分かんないからね』
ギクッとした、あの夢の中の島では、勝手口のガラスをバールで割って侵入していたからだ。今回はさすがにそんな真似はしないと誓う。
『でも、めぐみも行くって言い出したらどうする? いや、今まさにこっち見て聞き耳立ててんだけど』
「あぁ、そうだな。一緒でも構わない」
別荘を視察するだけなので、何も危険はないはずだ。それに、あの島の時のように三人が揃っていた方がイメージが湧きやすいと鉄男は考えた。
『じゃあ、いつ? どこ?』
「今週末の土曜日、空いてるか? 荘内半島なんだ」
『荘内半島? 島じゃないんだ?』
「あぁ、俺の記憶では島だったんだけどな。余計気になるんだ」
『そっかぁ、なるほどね。じゃあ、オレ、車出そうか?』
「いや、サンマリーナまで俺の車で行って、そこから荘内半島までは船で行く」
『OK、了解!』
そうして話は決まり、鉄男は電話を切った。
真相が知りたい。この記憶は何なのか。夢なのか。または、現実なのか。
別荘へ行っても何も手掛かりはないかもしれないが、あの夢の島の別荘と本当に同じ建物であれば、鉄男の記憶は夢であると言える。あの別荘は陸地ではなく島にあったのだから。
ふわりと窓から春風が吹く。窓辺には、入院時に病室に置いてあったニゲラの花が飾られていた。
「洋子さん、あの人は夢の中の人だったのかな」
呟きながら、風が入る窓のカーテンを閉めた。
◇
鉄男が窓際に立つと、佐山と本郷は車内で姿勢を低くして身を隠した。
だが、よく考えれば誰も乗っていない車が夜の住宅街に停まっている方が怪しかったが、さすがの佐山でも瞬時にそこまでは頭が回らなかった。が、後から気づくくらいはできた。己の失態を「チッ」と小さく舌打ちした佐山。本郷に至っては、「あぶねー」と、何も考えていない。
そんな二人はイヤホンで盗聴をしているところだった。
「今週末の土曜と言ってたな。明後日か」
今宵も本郷はポケットウィスキーをちびちび飲んでいる。そのため、運転席に座るのはいつも佐山だ。酒気帯び運転は許されない。
「あぁ、三咲鉄男の船は仁尾のサンマリーナに預けられているはずだ。船なら荘内半島の先端まで行くのは、すぐだ。こりゃあ、俺らはだいぶ早く出発しなきゃいけないな、やれやれ」
「おい、俺らの船はねぇのか?」
「あるか、バカ」
「先生の船は?」
「バカか。船を船で追いかけたら目立つだろーが」
本郷は言い返す言葉もなく、そっぽを向く。そして、
「……あいつ、洋子さんが夢が何とかって言ってたな。好きなのかな?」ぼそり。「知るか」と佐山は耳からイヤホンを抜き取り、車のキーを回してエンジンを掛ける。
月光の中、黒塗りの乗用車が静まる住宅街を走り抜けた。
夕飯の後、お風呂から出た鉄男は、首にタオルを引っ掛けたまま自室に戻ると、スマホを耳に当てた。
『もしもし。てっちゃん?』
守が電話に出た。
「守、今ちょっといいか?」
『いいよ、何?』
「うん……」
自ら電話をしておいて、鉄男はためらい、会話に間が空くと、
『……仕事はどう? 新しいとこ、慣れそう?』
守の方から無難な話題を振ってきた。
「あぁ、何とか。それでなんだ、俺見つけたんだ」
『見つけたって?』
「あの夢に出てきた島の洋館と全く同じ間取りの設計図だ。会社の人に聞いたら、野崎院長の別荘だって」
『別荘って、院長にもなれば、持ってるんじゃないの? あのてっちゃんが見たっていう夢と同じなのは、ただの偶然じゃない?』
「俺には、あれが夢かどうか区別つかないんだ……」
『てっちゃん……』
鉄男が嘘をつくような人間ではないと、守はよく知っているからこそ、夢の話を無視できないでいた。
「だから、その別荘へ行ってみたいんだ。何かヒントが見つかるかもしれないって」
『分かったよ。オレも一緒に行くよ。てっちゃん一人だと、何やらかすか分かんないからね』
ギクッとした、あの夢の中の島では、勝手口のガラスをバールで割って侵入していたからだ。今回はさすがにそんな真似はしないと誓う。
『でも、めぐみも行くって言い出したらどうする? いや、今まさにこっち見て聞き耳立ててんだけど』
「あぁ、そうだな。一緒でも構わない」
別荘を視察するだけなので、何も危険はないはずだ。それに、あの島の時のように三人が揃っていた方がイメージが湧きやすいと鉄男は考えた。
『じゃあ、いつ? どこ?』
「今週末の土曜日、空いてるか? 荘内半島なんだ」
『荘内半島? 島じゃないんだ?』
「あぁ、俺の記憶では島だったんだけどな。余計気になるんだ」
『そっかぁ、なるほどね。じゃあ、オレ、車出そうか?』
「いや、サンマリーナまで俺の車で行って、そこから荘内半島までは船で行く」
『OK、了解!』
そうして話は決まり、鉄男は電話を切った。
真相が知りたい。この記憶は何なのか。夢なのか。または、現実なのか。
別荘へ行っても何も手掛かりはないかもしれないが、あの夢の島の別荘と本当に同じ建物であれば、鉄男の記憶は夢であると言える。あの別荘は陸地ではなく島にあったのだから。
ふわりと窓から春風が吹く。窓辺には、入院時に病室に置いてあったニゲラの花が飾られていた。
「洋子さん、あの人は夢の中の人だったのかな」
呟きながら、風が入る窓のカーテンを閉めた。
◇
鉄男が窓際に立つと、佐山と本郷は車内で姿勢を低くして身を隠した。
だが、よく考えれば誰も乗っていない車が夜の住宅街に停まっている方が怪しかったが、さすがの佐山でも瞬時にそこまでは頭が回らなかった。が、後から気づくくらいはできた。己の失態を「チッ」と小さく舌打ちした佐山。本郷に至っては、「あぶねー」と、何も考えていない。
そんな二人はイヤホンで盗聴をしているところだった。
「今週末の土曜と言ってたな。明後日か」
今宵も本郷はポケットウィスキーをちびちび飲んでいる。そのため、運転席に座るのはいつも佐山だ。酒気帯び運転は許されない。
「あぁ、三咲鉄男の船は仁尾のサンマリーナに預けられているはずだ。船なら荘内半島の先端まで行くのは、すぐだ。こりゃあ、俺らはだいぶ早く出発しなきゃいけないな、やれやれ」
「おい、俺らの船はねぇのか?」
「あるか、バカ」
「先生の船は?」
「バカか。船を船で追いかけたら目立つだろーが」
本郷は言い返す言葉もなく、そっぽを向く。そして、
「……あいつ、洋子さんが夢が何とかって言ってたな。好きなのかな?」ぼそり。「知るか」と佐山は耳からイヤホンを抜き取り、車のキーを回してエンジンを掛ける。
月光の中、黒塗りの乗用車が静まる住宅街を走り抜けた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる