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2.「ドラッグジャックの正体」
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鈴華は屋上の扉を前まで来ると、ドキドキとする胸に手を当てながら、緊張して汗をかいた手でドアノブを回し扉を開いた。
そこには誰もいなかった。
キョロキョロと首を左右に警戒して辺りを見渡しながら、何者かの気配がないか気をつけながら、搭屋を一周する。
やはり、誰の姿もない。それを確認すると、ホッとしたような落胆したような気分になった。
(……あんなの、やっぱりただのウワサ)
そう思って、屋上を立ち去ろうとした時、
「あんたか?」
頭上から声が降りかかった。
鈴華はビクッと肩を跳ねらせて、首を上げる。搭屋の上、そこに──少年とも少女とも言えない、一人の人物が座っていた。
相手はゆっくり立ち上がると、足元に手をついたかと思えば、そのまま宙返りして飛び降りた。「あっ」と鈴華が声を出した時には、もう綺麗に地面へと着地していた。
搭屋は人の身長以上にもある。そこから難なくと飛び降りた。その神経と慣れた身のこなしに、鈴華は茫然と立ち尽くす。そして見つめた。
黒のパーカーにカーキ色のカーゴパンツ姿。背は高くない、男性にしては。だが髪は短く、でも女性のように美しく整った顔立ちと華奢な身体をしている。まさに〝美少年〟といった言葉が似合う。
本当のところはどっちなのだろうと、鈴華が色々と想像して考えていると、
「──女だ」
まるで心を読んだように答えた。その声は面倒臭そうで、少し不機嫌にも聞こえる。誰だって性別を疑われては、そうなるだろう。だが、
「その方が、安心するだろ?」
と。確かに女性と言われた方が、こんな怪しい場面では安心する。だからといって、本当は男性なのに女性ですと騙されるのは怖い。
しかし、そんな物騒な雰囲気は一切ない。
てっきり怪しい強面の男が現れるものだと覚悟をしていた鈴華は、呑気に背伸びをしている相手の様子に拍子抜けさえした。なので、つい気軽にため口で聞いてしまった。
「あなたがドラッグジャック? 一体、誰なの? 名前は?」
「は? あんた、馬鹿か? 今から自分が何しようとしているのか分かって言っているのか? 自ら名乗る奴がどこにいる。それに、オレもあんたも名前は知らない方がいい。それは互いに自分の身を守るために。いざというときに、な」
鈴華は自分の間抜けさを晒した恥ずかしくなる。同時、目の前の相手が〝本物〟なのだという確信を持った。
ただ、一人称が〝オレ〟なのに対し、やはり男なのかと疑う。
「……まぁ、呼び名はあった方が会話しやすいか。ユキ。それがオレのコードネームみたいなもんだ。そう呼んでくれ」
――ユキ
名前は女に聞こえるが、クラスに〝ユキちゃん〟と呼ばれている男子がいるので、中性的なイメージを鈴華は抱いた。
「あ、わたしは、鈴華!」
言うと、
「……それが、あんたのコードネームってことにしとくよ」
つい今しがた、注意されたばかりだというのに、鈴華はまたもやしでかした失態に顔を赤くして黙ってうつ向く。
「――で?」
もたついて一向に話の進まない話に本題へとユキが入る。単刀直入に、
「何が欲しい?」
と、不敵な笑みで。
「何でも手に入れてやるよ」
自信に満ちた顔だ。
ゴクリと、鈴華は唾を飲む――本当に薬が手に入る。
「あ、えと、これ……」
慌ててもたつきながら、制服のポケットからメモを取り出して、薬剤名を読み上げようとした。
それをユキが鈴華の手からヒョイと奪う。
メモ書きにサッと目を通して「ふぅん」とつぶやくと、すぐに鈴華に突きつけて返した。
「抗うつ剤が欲しいワケだな」
「あ、合ってるかな? それ……憂うつに効くんでしょ?」
ほぼ素人並みの知識で自信がなかったが、昔からよく飲まれているポピュラーな薬だと聞いた。
「うつ状態があるのか? そうは見えないけどな」
「……」
そこで、鈴華が何かを堪えるようグッと両手を握り締める。
「……みんな、そう言う」
ポツリと、小さくこぼした。
「誰も分かってくれない。聞いてくれない。『大丈夫』『考え過ぎ』『マイペースにいこう』って。それができないから……こんなことしてるのに」
心配して励ましてはくれるけど、それだけじゃ気持ちは治まらなかった。何か違う、もっと根本的に理解されたかった。専門家にちゃんと話を聞いて具体的なアドバイスがほしい。けれど、そんなことを言えば大げさだと、大したことないと言われそうだった。
もし大人だったなら、自分で病院へ行けるのに……と。未成年が一人でも対応してくれる病院はあるので行こうと思えば行けるが、保険証を使うと親にばれてしまう。こんな時、まだ子供である無力のなさを思い知らされるのだった。
「……見た目じゃ分かんないって、何かのネット上に書いてあったけど、ホントそう。毎晩、布団の中で眠れずに泣いてるなんて、みんな知らない……辛くて辛くて、じっとしてられないくらい。そんなの、友達には言えないし。親は、わたしは自分で何でもできる子だから、心配なんかしてないの。ねぇ、どうしたらいいの? カウンセリング? この薬じゃ治らない?」
「さぁな、オレは薬を売るだけだからな。きちんと治したいなら病院行ったらどうだ? こんな危ない真似せずにな」
それができるものなら、こんな事はしない。鈴華は溜め込んでいた感情を一気に吐き出してしまう。
「うつなのかな? よく分かんない、漠然とした感じ。何かあったワケじゃないの。むしろ、何もないの。みんな、進路とか決めて目標持ってて、毎日忙しそうに悩んでいるみたいだけど、でも楽しそうに生き生きとしてるとこもあって。それ見て、どっか客観的に冷めてる自分がいて……そんな自分に嫌悪感。わたしには何の得意分野も才能もないから、フツーの毎日過ごしながら、フツーに生きてくんだって、そう思ったら無気力と虚無感で、夢とか持てない。というか、ない。何のために生きていくんだろって……これが、うつってやつ?」
必死に言葉を並び立ててみたものの、どれも安っぽくありふれたものばかりに聞こえた。
「それとも、みんな抱えてる事で、あたしが弱くて甘えてるだけ?」
「あのなぁ……」
ユキはいつの間にか口にポッキーを一本くわえていた。
「オレ、あんたのカウンセラーじゃないんだけどな。愚痴聞かされてもなぁ」
悩みを〝愚痴〟と言い換えられて、鈴華はいささかショックを受ける。
「まぁな、こんな小さな小屋で同じ格好して同じ面してりゃ、そんな視野の狭い考え方しか浮かばないよな」
他人事のようにつぶやいたのち、
「話を元に戻す」
ユキは斜め掛けの黒いボディバッグの中から薬を取り出して、鈴華に差し出した。銀色のシートに入った白い錠剤。
「……バルプロ酸ナトリウム?」
そう、シートに表示されている。
「聞いたことないけど……抗うつ剤?」
「違う。気分安定剤とでも言っておくか」
「抗うつ剤じゃないの? どうして?」
「あんた、よくしゃべって動けてるし、その体型からして飯も食えてるようだし、憂うつって言うよりも、感情の起伏が激しいみたいだからな、気分のコントロールした方が効果的だと思っただけだ。抗うつ剤がいいなら、そっちにするけど?」
鈴華がよく理解できずに困惑していると、
「嫌なら別にやめてもいい。薬だから副作用もあるしな。まぁ、この手の薬は依存すると断薬も難しい。そこは自己判断で頼む。オレは売るのみで、責任は一切負わないからな。さぁ、どうする? 買うか? やめるか?」
無責任な口ぶりをしてみせているが、強制的に売りつけることもなく、鈴華の決断を待ってくれている。
「……わかった、買う!」
ここまで来ておいて、引く気もなかった。とりあえず、何の薬でもいい。楽にしてくれるならと、すがる思いの方が強かった。
「んじゃ、交渉成立って事で。けど、今ちょうど切らしてて〝取引先〟から仕入れるのに時間かかるけど、待てるか? それまでの頓服薬として、アルプラゾラムとかならあるけどな、抗不安薬だ」
「じゃあ……それで」
薬についてはユキに全て任せることにした。
「……あなた、ユキって、医者か何かなの?」
「んなワケないだろ。誰に向かって聞いてる? 仮にそうだとして、とんだヤブ医者だな」
そうであるのに、この親切な薬の処方は何なのか。
「何シート買う? それは0.4ミリグラムを一日三回までだ。薬価は5.7円ってとこ。釣の小銭ないから、100円あるか?」
「へっ? そんなに安いの?」
鈴華はビックリして声が裏返る。てっきり、1シートで数千円単位は取られると思っていたからだ。
その大金の用意は、安易にできた。鈴華の家は裕福な方で、小遣いに困ることはなかった。小説の単行本を二、三冊欲しいと言えば、何も怪しまれる事もなく、案の定、喜んで財布から万札を出してきた――これが、人生最初の嘘だった。
「中にはぼったくりの欲まみれな転売屋もいるけどな、オレにはオレのやり方があってだな。まぁ、利益なら出てるから問題ない」
ユキが何の目的で何のために、どうしてこんな商売をやっているのか、鈴華には知る由もない。けれど、自分と年齢がそう離れていそうにないユキの存在に、どこか親近感を持った。
お金を払い渡すと白い紙袋に入った薬を受け取る。
「あとの薬は、来週中に用意する。本当に欲しいなら、またここに来い。以上」
鈴華は頷く。そして、じっとユキを見つめる。
「何だ? まだ、何かあるか?」
「ううん、……ありがとう」
正体の知らない悪とも呼べる人物だというのに、お礼をする。何故かそんな気持ちになっていたからだ。
「分かったから、早く行け」
うっとうしい顔をするユキに言われるがまま、鈴華は鞄の奥に薬を隠し入れると、夕焼けに染まった屋上を後にした。
そこには誰もいなかった。
キョロキョロと首を左右に警戒して辺りを見渡しながら、何者かの気配がないか気をつけながら、搭屋を一周する。
やはり、誰の姿もない。それを確認すると、ホッとしたような落胆したような気分になった。
(……あんなの、やっぱりただのウワサ)
そう思って、屋上を立ち去ろうとした時、
「あんたか?」
頭上から声が降りかかった。
鈴華はビクッと肩を跳ねらせて、首を上げる。搭屋の上、そこに──少年とも少女とも言えない、一人の人物が座っていた。
相手はゆっくり立ち上がると、足元に手をついたかと思えば、そのまま宙返りして飛び降りた。「あっ」と鈴華が声を出した時には、もう綺麗に地面へと着地していた。
搭屋は人の身長以上にもある。そこから難なくと飛び降りた。その神経と慣れた身のこなしに、鈴華は茫然と立ち尽くす。そして見つめた。
黒のパーカーにカーキ色のカーゴパンツ姿。背は高くない、男性にしては。だが髪は短く、でも女性のように美しく整った顔立ちと華奢な身体をしている。まさに〝美少年〟といった言葉が似合う。
本当のところはどっちなのだろうと、鈴華が色々と想像して考えていると、
「──女だ」
まるで心を読んだように答えた。その声は面倒臭そうで、少し不機嫌にも聞こえる。誰だって性別を疑われては、そうなるだろう。だが、
「その方が、安心するだろ?」
と。確かに女性と言われた方が、こんな怪しい場面では安心する。だからといって、本当は男性なのに女性ですと騙されるのは怖い。
しかし、そんな物騒な雰囲気は一切ない。
てっきり怪しい強面の男が現れるものだと覚悟をしていた鈴華は、呑気に背伸びをしている相手の様子に拍子抜けさえした。なので、つい気軽にため口で聞いてしまった。
「あなたがドラッグジャック? 一体、誰なの? 名前は?」
「は? あんた、馬鹿か? 今から自分が何しようとしているのか分かって言っているのか? 自ら名乗る奴がどこにいる。それに、オレもあんたも名前は知らない方がいい。それは互いに自分の身を守るために。いざというときに、な」
鈴華は自分の間抜けさを晒した恥ずかしくなる。同時、目の前の相手が〝本物〟なのだという確信を持った。
ただ、一人称が〝オレ〟なのに対し、やはり男なのかと疑う。
「……まぁ、呼び名はあった方が会話しやすいか。ユキ。それがオレのコードネームみたいなもんだ。そう呼んでくれ」
――ユキ
名前は女に聞こえるが、クラスに〝ユキちゃん〟と呼ばれている男子がいるので、中性的なイメージを鈴華は抱いた。
「あ、わたしは、鈴華!」
言うと、
「……それが、あんたのコードネームってことにしとくよ」
つい今しがた、注意されたばかりだというのに、鈴華はまたもやしでかした失態に顔を赤くして黙ってうつ向く。
「――で?」
もたついて一向に話の進まない話に本題へとユキが入る。単刀直入に、
「何が欲しい?」
と、不敵な笑みで。
「何でも手に入れてやるよ」
自信に満ちた顔だ。
ゴクリと、鈴華は唾を飲む――本当に薬が手に入る。
「あ、えと、これ……」
慌ててもたつきながら、制服のポケットからメモを取り出して、薬剤名を読み上げようとした。
それをユキが鈴華の手からヒョイと奪う。
メモ書きにサッと目を通して「ふぅん」とつぶやくと、すぐに鈴華に突きつけて返した。
「抗うつ剤が欲しいワケだな」
「あ、合ってるかな? それ……憂うつに効くんでしょ?」
ほぼ素人並みの知識で自信がなかったが、昔からよく飲まれているポピュラーな薬だと聞いた。
「うつ状態があるのか? そうは見えないけどな」
「……」
そこで、鈴華が何かを堪えるようグッと両手を握り締める。
「……みんな、そう言う」
ポツリと、小さくこぼした。
「誰も分かってくれない。聞いてくれない。『大丈夫』『考え過ぎ』『マイペースにいこう』って。それができないから……こんなことしてるのに」
心配して励ましてはくれるけど、それだけじゃ気持ちは治まらなかった。何か違う、もっと根本的に理解されたかった。専門家にちゃんと話を聞いて具体的なアドバイスがほしい。けれど、そんなことを言えば大げさだと、大したことないと言われそうだった。
もし大人だったなら、自分で病院へ行けるのに……と。未成年が一人でも対応してくれる病院はあるので行こうと思えば行けるが、保険証を使うと親にばれてしまう。こんな時、まだ子供である無力のなさを思い知らされるのだった。
「……見た目じゃ分かんないって、何かのネット上に書いてあったけど、ホントそう。毎晩、布団の中で眠れずに泣いてるなんて、みんな知らない……辛くて辛くて、じっとしてられないくらい。そんなの、友達には言えないし。親は、わたしは自分で何でもできる子だから、心配なんかしてないの。ねぇ、どうしたらいいの? カウンセリング? この薬じゃ治らない?」
「さぁな、オレは薬を売るだけだからな。きちんと治したいなら病院行ったらどうだ? こんな危ない真似せずにな」
それができるものなら、こんな事はしない。鈴華は溜め込んでいた感情を一気に吐き出してしまう。
「うつなのかな? よく分かんない、漠然とした感じ。何かあったワケじゃないの。むしろ、何もないの。みんな、進路とか決めて目標持ってて、毎日忙しそうに悩んでいるみたいだけど、でも楽しそうに生き生きとしてるとこもあって。それ見て、どっか客観的に冷めてる自分がいて……そんな自分に嫌悪感。わたしには何の得意分野も才能もないから、フツーの毎日過ごしながら、フツーに生きてくんだって、そう思ったら無気力と虚無感で、夢とか持てない。というか、ない。何のために生きていくんだろって……これが、うつってやつ?」
必死に言葉を並び立ててみたものの、どれも安っぽくありふれたものばかりに聞こえた。
「それとも、みんな抱えてる事で、あたしが弱くて甘えてるだけ?」
「あのなぁ……」
ユキはいつの間にか口にポッキーを一本くわえていた。
「オレ、あんたのカウンセラーじゃないんだけどな。愚痴聞かされてもなぁ」
悩みを〝愚痴〟と言い換えられて、鈴華はいささかショックを受ける。
「まぁな、こんな小さな小屋で同じ格好して同じ面してりゃ、そんな視野の狭い考え方しか浮かばないよな」
他人事のようにつぶやいたのち、
「話を元に戻す」
ユキは斜め掛けの黒いボディバッグの中から薬を取り出して、鈴華に差し出した。銀色のシートに入った白い錠剤。
「……バルプロ酸ナトリウム?」
そう、シートに表示されている。
「聞いたことないけど……抗うつ剤?」
「違う。気分安定剤とでも言っておくか」
「抗うつ剤じゃないの? どうして?」
「あんた、よくしゃべって動けてるし、その体型からして飯も食えてるようだし、憂うつって言うよりも、感情の起伏が激しいみたいだからな、気分のコントロールした方が効果的だと思っただけだ。抗うつ剤がいいなら、そっちにするけど?」
鈴華がよく理解できずに困惑していると、
「嫌なら別にやめてもいい。薬だから副作用もあるしな。まぁ、この手の薬は依存すると断薬も難しい。そこは自己判断で頼む。オレは売るのみで、責任は一切負わないからな。さぁ、どうする? 買うか? やめるか?」
無責任な口ぶりをしてみせているが、強制的に売りつけることもなく、鈴華の決断を待ってくれている。
「……わかった、買う!」
ここまで来ておいて、引く気もなかった。とりあえず、何の薬でもいい。楽にしてくれるならと、すがる思いの方が強かった。
「んじゃ、交渉成立って事で。けど、今ちょうど切らしてて〝取引先〟から仕入れるのに時間かかるけど、待てるか? それまでの頓服薬として、アルプラゾラムとかならあるけどな、抗不安薬だ」
「じゃあ……それで」
薬についてはユキに全て任せることにした。
「……あなた、ユキって、医者か何かなの?」
「んなワケないだろ。誰に向かって聞いてる? 仮にそうだとして、とんだヤブ医者だな」
そうであるのに、この親切な薬の処方は何なのか。
「何シート買う? それは0.4ミリグラムを一日三回までだ。薬価は5.7円ってとこ。釣の小銭ないから、100円あるか?」
「へっ? そんなに安いの?」
鈴華はビックリして声が裏返る。てっきり、1シートで数千円単位は取られると思っていたからだ。
その大金の用意は、安易にできた。鈴華の家は裕福な方で、小遣いに困ることはなかった。小説の単行本を二、三冊欲しいと言えば、何も怪しまれる事もなく、案の定、喜んで財布から万札を出してきた――これが、人生最初の嘘だった。
「中にはぼったくりの欲まみれな転売屋もいるけどな、オレにはオレのやり方があってだな。まぁ、利益なら出てるから問題ない」
ユキが何の目的で何のために、どうしてこんな商売をやっているのか、鈴華には知る由もない。けれど、自分と年齢がそう離れていそうにないユキの存在に、どこか親近感を持った。
お金を払い渡すと白い紙袋に入った薬を受け取る。
「あとの薬は、来週中に用意する。本当に欲しいなら、またここに来い。以上」
鈴華は頷く。そして、じっとユキを見つめる。
「何だ? まだ、何かあるか?」
「ううん、……ありがとう」
正体の知らない悪とも呼べる人物だというのに、お礼をする。何故かそんな気持ちになっていたからだ。
「分かったから、早く行け」
うっとうしい顔をするユキに言われるがまま、鈴華は鞄の奥に薬を隠し入れると、夕焼けに染まった屋上を後にした。
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