当たり前だった日常生活の異世界化

結城楓

文字の大きさ
上 下
3 / 3

第三話『二つ目の学校』

しおりを挟む


だぁれだよぉ、お前! とか言いたくなった。

そんなセリフ、俺が言ったのか。

顔から火が出そうだ、朝っぱらから。

「学校行きたくねぇ」

まさかの理由で登校拒否したくなると思わなかった。

学校に行きたくないのは、あいつとした会話のこともそうだけど。

「…………はあぁぁーーーーー」

俺がやった行動が、俺的に大問題。

でも作家的にはナイスだったらしい。

しかも、あやうく車の中で18禁に突入するきっかけを起こされかかってたっていう……。

恋してんだろうなと神田に囁いた時、そのまま耳の後ろにわざとリップ音をたてながらキスをしてた俺。

「うあああああああ」

恥ずかしい!

そんなこと、絶対しない! お・れ・な・ら!

夢を見るように、自分がしたことを、作家曰く脳内再生でエンドリピってやつで知らされた。

その内容の中で、作家が俺がやめてくれ! って思うような展開を途中まで書いたりもして、何度か車内で時間の巻き戻しみたいな感覚があった。

自分が女を口説くところを、後々自分で鑑賞するハメになるって、どういう事態だよ。

俺の行動と発言のどこからどこまで、俺は干渉できるのか…いまだつかめていない。

どうにかして、最悪の事態は免れたい。

「この場合の最悪って、どこまでのことだろうな」

最近ため息ばっかりだ。

昨日のやり直しめいたことがなきゃ、彼女の耳裏にキスをした後、そのまま助手席を倒して。

「最後までとはいかずとも、服の上からあいつの……」

自分が意識していないところで触れて、書き直して、違う展開にして。

ってやったはずなのに、この手のひらに残っている気がして朝から頭の中がふしだらだ。

胸だけだったとはいえ、あいつの体に触れた。

展開が変わったはずなのに、あいつの口からもれた…女のアノ声。

どこか照れが混じった、決して普段聞くことがないはずの声。声っていうか、吐息?

それが耳について、離れない。

「……………………デカかったな」

手のひらに収まらなかった。

手のひらにも、その感触が残ってる。

「あぁ、もう」

もてあます歯がゆさに、頭を抱える。

たとえきっかけがどこぞの作者がよこした恋なんだとしても、俺があいつに対して好意を持っていることを消したいと思えない。

俺自身、もう…。

「好きになってんだろ」

最近増えたため息の理由わけは、あいつ一択。

それを不快に感じていない。

学校で自分がやらなきゃいけないことを順番に片していったとしても、サブリミナルみたいにあいつの顔や声や言葉が俺の中に必ず存在しつつある。

忘れないでと言われているような、自分に気づいてほしがっているような。

ノイズっぽい感覚もある。

今自分が置かれている状態が小説の中ってわかっていなきゃ、自分の中で何が起きているのかわからなくて、混乱してどう動いていいのかわからなくなっていただろう。

誰かに相談したかもしれない。

同期の保険医に聞いたかもしれないな。

俺の体がなんか変とか口走った可能性がある。

それをきっと笑われて終わっていたかも。

「そういや」

俺以外にも、この世界が二次小説って言われている場所だって知ってるのかな。

知ってて、自分が望む方にどうにかしようとするんだろうか。

とはいえ、異常なことではあるから、聞きまわるわけにもいかない。

「……それは、さておき」

やっぱり学校に行きたくない。

「会ったら、どんな顔してりゃいいんだ」

なんてボヤきつつ、タバコに手を伸ばした時だ。

「う…あっ」

目の前の景色が歪んだ。

見覚えのある景色。

(またかよ)

抗えなかった、今回も。

「先生ぇー、おはよ」

俺は学校の門のそばに立っていて。

「センセ、寝不足? 俺らより歳なんだから、無理すんなよ?」

「それな!」

「あっはははは」

見慣れたバスケ部のやつらに、からかわれていた。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...