# 魔女集会で会いましょう ~拾い物は、慎重に~

東川カンナ

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25.使い道

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 鏡だったはずのその向こうへ足を踏み入れレイナルドの繋げた道へ降り立てば、向こう側へ行くのはそう難しいことではなかった。
 薄暗く足場の歪んだ空間を数歩進めば、次に瞬きした時には見慣れぬ大層立派な景色が映っていた。


 聳え立つ石造りの幾本もの柱。白亜の建物。やたらに高い天井に、装飾の凝らされた内装。
 足を踏み入れたのは初めてだったが、いかにも“神殿”といった光景だった。


「――――やけに静かだな」
 神殿がどういう場所で、どれくらいの人間がいるものかは知らない。
 警備の人間はいるのか、規模はどれくらいなのか、妙な術式が施されていないか。何も分からない。
 取り敢えず、降り立った場所に人気はなかった。そこそこの広さのある空間は何か儀式にでも使いそうな感じはするが、今はただ静まり返っている。
 建物自体があまり広すぎなければいいが、とリリアンヌは出入り口を振り返りながらそう思う。
「いや、でも見つけるのは簡単か」
 神経を研ぎ澄ませて気配を探れば、妙な力が働いている場所は目星を付けられる。
 魔女の力、サフィールの加護の気配。神殿全体が“清浄”と言うべきなのか一定の濃さの空気が流れているせいで少し探りづらいが、リリアンヌは知った気配を辿って足を進め始めた。
 カツン、カツンとヒールが大理石の床を叩く。人の気配を避けながら、あるいは時に出くわした相手を問答無用で昏倒させながら、リリアンヌは迷いなく神殿の中を進む。
 拳を振るわずとも相手を昏倒させることは簡単だ。こちらの存在に驚いている隙に懐に入り込んで、その身に触れ気脈を乱してやれば勝手に気を失う。
「サフィール、無事でいろよ……」
 この先に立ちはだかるであろう相手を思う。
 問題は神官ではない。魔女の方だ。


 ローゼリカ。


 この魔女は、リリアンヌと元々折り合いが悪い。でも、今や問題はそれだけではない。


 ローゼリカは、サフィールを欲しがっている。
 自分のコレクションに加えたいと思っている。


 数年前、リリアンヌが所有していても仕方がないのだから、自分に寄越せと大層ふざけたことをのたまってきたのは、この女だ。










 作っておいた家までの道に変化を感じて、リリアンヌはふと掻き混ぜていた鍋から顔を上げた。
「サフィール」
 隣で野菜の皮を剥いていた拾い子に声をかける。
「なに?」
「野菜はもういい。ちょっと部屋に引っ込んでおいで」
「お客さん?」
「ならいいが」
 どうにも面倒そうな気配がする、と彼女は思った。
「分かった」
「いいと言うまで出て来ては駄目」
 言えば、サフィールはこれでもかと言うほど素直に頷いた。
「うん。じっとしとく」
 三年前、気まぐれに拾った死にかけの子ども。生き延びるかどうかも怪しかった子ども。
 けれど子どもは彼女の血に見事に適応してみせ、こうして何とか生き延びた。
 拾った時はボロボロな上にガリガリに痩せていたが、この三年まともな食事を与えてみたら、まだ細身ではあるものの随分普通の人間らしくなった。


 すぐに飽きるか嫌気が差すかするかと思ったが、意外にもこの小さな同居人はそれほどリリアンヌの生活を乱しはしなかった。
 いや、この子どもが新たに加わったことで変わったことは沢山ある。最低限存在を気にかけなければならないし、何をするにも二人分の用意が必要だし、他者がいるということは会話が発生するということである。おまけに寝台も半分ずつだし、どれだけ引き剥がそうとしても寝ている間にしがみつかれてしまうという、困ったオプション付きだ。


 そう、沢山のことが変わった。
 煩わしいことが一つもないかと問われれば、正直“ある”と答えるだろう。けれど、乱されているというのとは少し違う感覚だった。


「不思議なものだけど……」
 拾い子はなかなかに健気で、割に器用で、そして覚えも悪くなかった。教えて数度実践に付き添えば、ある程度のことはできるようになる。ただただ面倒事だけが増えるのかと思っていたら、案外に細々としたことを任せられたりするので役にも立つ。
 リリアンヌと拾い子の生活は、彼女の想定よりずっと上手く行っていた。贄に出すのも一つだけれど、もう少し手元に残しておくのも選択肢としてはありかもしれないと、そう思うほどに。


 彼女は何も持ち合わせていなかった拾い子に、気まぐれに名前さえやったのだ。


 サフィール。


 彼女の興を引いた、その青く美しい瞳から名付けた。


「さて、どんな面倒がやって来たのやら」
 拾い子が完全に部屋に引っ込んだのを確認してから彼女もまた鍋から離れ、近くのカゴや箱からいくつか触媒になる鉱石を取り出しながら玄関扉に近付く。
 リイイィィィンと、共鳴でもしているかのような鈴の音が響く。
 この時点で確実に言えるのは、来訪者が彼女と同じ魔女であること、そして彼女が張っておいた結界の一つを壊したことだった。
 頭の中でいくつかの顔が浮かぶ。交流のある魔女はいくらかいるが、彼女らがこんな強引な方法を取る可能性は極めて低い。ということは必然、巡りの魔女・リリアンヌと折り合いの悪い部類の魔女となる。
「とは言っても、顔を見るまでどこのどいつかは分からないのだけれど」
 扉を壊されては面倒なので、ノックの音と同時にリリアンヌはノブに手を掛けた。もちろん、無防備に開けた訳ではないけれど。


「お久しぶりね、巡りの魔女」


 扉を開いた瞬間、案の定リリアンヌが身に纏っていた結界の一つが崩された。
 すかさず崩された術式を別の形に組み直し投げ返すが、相手もこちらと同様に予見している。傷を付けるには至らない。


「――――ローゼリカ。何の用だ」
 姿を見せたのは、とびきりリリアンヌと折り合いの悪い魔女だった。


 ピンクブラウンの長く豊かに揺れる髪、魔女の赤い瞳、それと同じ色を引いた口許。
 黒のレースのドレスはぴっちりと身を包み、大胆に空いた胸元が白い肌をむっちりと晒す。
 常に弧を描いたような印象を与える瞳が不愉快だと思った。相手を弄ぶことばかり考えている気配がして、初見から悪印象だった。ずっと変わらない。


 ローゼリカ。くびきの魔女。


 気安く家を訪ねて来るような間柄ではない。十中八九どころか十中十、ロクでもない案件であることは確実だった。


「やだ、冷たいもの言いねぇ。そんな様子で仕事は成り立ってるわけ? 私達、一応客商売をしている訳じゃない?」
「お前が客なら、もう少し対応の仕方もあったかもしれないが」
 どう考えてもローゼリカは客ではない。
「あらぁ、私だってお客になり得るわ」
「どの口がそんなことを。魔女は客を選ぶ。お前だってよく知っているはず」
 あくまで客のつもりらしいその魔女に、リリアンヌは失笑を飛ばした。
「出会い頭に術を飛ばして来るようなヤツが、言うことじゃないな」
「いやぁねぇ、挨拶代りじゃないの」
「………………」
 一単語発される度に苛立ちが募り、何か言葉を返す度に徒労感が増す。
 会話に無駄が多過ぎると思った。これと関わるのは、あまりに人生の無駄遣いが過ぎる。
「ローゼリカ」
 なけなしの気力を総動員して、リリアンヌは再度口を開いた。そして、きっぱりと告げる。
「“客”のつもりか何だか知らないが、残念ながら私はお前を相手に商売をするつもりはない。お引き取り願おうか」
 けれどこれではいそうですかと簡単に引き下がるようなら、苦労はしない。女だって、相当の労力を払ってリリアンヌのこの自宅までの道を繋いだのだろうから。


 案の定、ローゼリカは妙に甘ったるい声をまた発した。
「用件も聞かずに酷くなあい? 私、欲しいものがあるのよ」
「よそを当たれ」
「駄目よぉ、だってそれは巡りの魔女しか持っていないんだもの」
 冷たくあしらっても、まるで効きやしない。
 ふふんとたっぷり口許に笑みを浮かべながら、女は言った。


「面白いものを飼っているみたいじゃない」


 ぴくん、とリリアンヌの片眉が上がる。


 面白いもの――――


 ここで楽観的に構えられるほど、リリアンヌは平和ボケはしていない。物事には常に最悪の事態を想定して、構えておくべきなのだから。
 何のことを言われているのか、察しはつく。
「ねぇ、それ、私に譲ってちょうだいよ」
 一体、どこで抜かったのか。どこの誰にも漏れないように、この森から出したことさえないと言うのに。
「何のことを言っている?」
 それでも一応、とぼけておいた。もちろん、そんなものに意味はなかったけれど。



「青い瞳の人間の子ども」



 女は、はっきりと言った。
 それは完全に彼女が拾った子どものことだった。


「誤魔化さなくていいのよ? もう知っているの。ね、すごく綺麗な見目ね。瞳の色が特に印象的。あれはきっといい具合に育つわ」
 女が自分と同じように、あの子どもの瞳の色を気に入っているのが不愉快だった。
「――――どこで」
 唸るように問えば、軽い笑い声が上がる。
「最近引きこもりに拍車が掛かっているようだったから、少し気になっていたの」
 性悪で執念深いこの魔女のことだ。昔のいざこざを未だ引き摺って、リリアンヌの粗を暇があれば探しているのだろう。
「さすがは巡りの魔女ね。素直にその腕を認めるわ。小さな使い魔一匹潜り込ませるのに、どれだけの時間と労力が必要だったか。なかなかに骨が折れたもの」
 くだらないことによくも労力を割いてくれた。リリアンヌはうんざりと吐き捨てる。
「綺麗な見目の子どもが欲しけりゃ、よその魔女の唾の付いてない子どもを探して来ればいいものを」
 拾うのでも拐かすのも好きにすればいい。そんなことをリリアンヌは一々咎めたりしない。他人のすることなのだから、自分には関係ないのだし。
「でも気に入ってしまったのよ。同じように心動かされる生き物が、そう簡単に見つかるとは思えないわ。あの子どもがほしいの」
 多分、それは本当なのだ。
 本当にこの女はサフィールを直感的に気に入ったのだろう。だから欲しがっている。何に使うつもりかは、知らないけれど。
 そして、サフィールがリリアンヌのものだという事実も、またこの女の欲に火をつけているのだろう。
 人のものを掠め取る優越感というものが、この世には確かに存在している。
 それから、気に食わないヤツの不幸というのは、一層美味いものなのだ。
「もちろんタダで寄越せなんて言わないわ。私もそれほど非常識ではないもの」
 ローゼリカは両の手を皿にしてもまだ余るほどの大きな革袋を取り出し、縛っていた口を開いてみせた。
「ね、これくらいあればおつりが来ると思わない?」
 そこにはぎっしりと鉱物が詰まっていた。少なくとも目に見えている部分だけで判じれば、そこそこの価値があるものばかりだ。もちろん、手の込んだ偽物という可能性も、なくはないが。


 けれど、リリアンヌの答えは決まっている。


「断る」


 きっぱり告げれば、女の顔は歪んだ。そこには、私がここまでしているのに、という空気が確かにあった。


 自分達は下手に出るのが死ぬほど苦手な生き物だ。
 下手に出られなければ、当然諍いが増える。そして、その諍いに勝ったものだけが生き残れるのだ。生き残れるということは実力を示しているのと同義だから、大きな態度が容認されていく。
 魔女社会とは、なかなかに歪んでいる。自分を含め性格が捩じくれた者ばかりなのも、こういったどうしようもない構造が出来上がっているからだ。


 ローゼリカは高い高い矜持を持つ魔女。頭を垂れることなど知らない。
 思い通りにならないことは大嫌いなはず。我儘だと言えばそれまでだが、そこに実力がくっついてきてしまっているから、この上なく面倒である。


「私はあれを誰に譲る気もない。何と引き換えにされてもね。そういう気分には、ならない」
 リリアンヌは、そこそこ労力をかけてサフィールを今の状態にまで回復させた。自分の行為を慈善とは思っていないので、サフィールを生かしたことが何か形になればいいと思っている。
 けれど、それはこうも簡単にものと引き換えにするものではないと思った。少なくとも、自分の気に入らない相手の言い値でぽんと手放すような、そういうものではない。
 それから最近ようやく慣れてきた、この生活のサイクルが崩れるのも嫌だ。面倒だ。


「理解に苦しむわね。そう悪い条件でもないと思うのに」
 けれどローゼリカは不機嫌そうに続ける。
「だって貴女が持っていたって無駄じゃない。育ててどうしようと言うの? 処女を守る魔女に男はいらない。若い精気なんて何にも使えないでしょうに。維持管理に、時間とお金と労力がかかるだけでしょ」


 なるほど、育てた暁にはそういう使い方をするつもりか。


 リリアンヌは思いっきり眉を顰める。
 この会話でも、そもそも見目でもよく分かることだが、リリアンヌとローゼリカは全く異なるタイプの魔女だ。
 つまり、処女であることを力の源にするか、男と積極的に交わることで力を得るかの違い。魔女としての根本的な違い。
 ローゼリカは、後者だ。男とのまぐあいで力を得るタイプの魔女。


 確かに、そういう意味ではリリアンヌはサフィールを全く使えない。使う必要がない。そんなことは微塵も考えもしなかった。
 当たり前だ。だって彼女には必要のないことだから。それにそもそも、サフィールをそんな年齢まで手元に残しているかも分からないから。
 けれど、そう、なるほど、ローゼリカなら男の子どもを育てることに、そういう意味を見出すらしい。



 堪らなく不快だった。



 リリアンヌは、ローゼリカがどんな爛れた生活を送っているのかなんて知らない。どんな男とどれだけ関係があるのかなんて知らない。けれど、サフィールを売り渡せば、成長した暁には必ず食い物にされるだろう。幼い今の内からだって、倒錯的なあれこれをされてもおかしくはないと、簡単に想像できる。
 幼子にあれこれするほど濃厚な趣味は持っていないかもしれないが、信用はできないと思った。
 単に見目の麗しい子どもにあれこれ世話を焼かせたいだけ、という可能性もなくはないが、それはやはり下僕的な扱いだろう。


 いや、リリアンヌだってサフィールをこき使ってはいるけれど。
 でもやっぱり気に入らない。自分がするのと他人に好きにされるのは、違う。


「そういうことのために、手元に置いている訳じゃない」
「じゃあ何のためだと言うの?」
「それはこれから考える。尽崖つきがけの贄なり何なり、私にだって手元に置いておく意味はある」
 言ったら、女は盛大に顔を歪ませた。
「もったいなぁい!」
 大きな声を上げて、腕を一振り。リリアンヌの背後、とある扉に宵空の色に塗り込まれた長い爪が向けられる。
「!」
「こんなに綺麗な子どもを、単に怪物の贄にするなんて!」
 次の瞬間、閉ざされていた扉がバタン! と大きな音を立てて開いた。
 気になって、扉に張り付き様子を窺っていたのだろう。支えを失ったサフィールがよろりとこちら側へ傾く。
「サフィール、出てくるな!」
 けれど鋭くそう叫べば、拾い子はビクリと身を竦めながら何とか入口の枠に手を付き、身体を部屋の奥に引っ込めた。


「――――礼儀のなっていない。お前、いい加減にしろよ?」
 堪忍袋の緒が切れかかっていた。そもそも、リリアンヌは全く以って気が長くない。


「ねぇ、これでも私は手順を踏んでいるつもりよ?」
 なのに、この女と来たら。
「手順さえ踏めば、思い通りになると思っているところが愚かしい」


 ローゼリカは力の強い魔女だ。その実力で数多の者をなぎ倒し、思うように生きて来た。
 けれど。
 リリアンヌはその“数多”の中には含まれていない。ローゼリカを前に膝をついたことなど、一度もないのだ。
 自分がこの女相手に劣っているなど、微塵も思っていない。


「――――なるほどね」
 分からないのなら、分からせるまでだ。非礼には、実力行使で。
「一理あるわ」
 相手だって、本当は最初から大人しくしている気なんてない。
「手順を踏むことに意味がないのなら、それって全くの無駄よね」
 女がサフィールに目を付けてしまった時点で、穏便に済まないことはもう決まっていた。
「いいな、と思ったの。私、あの子どもがほしいのよ。自分のものにしたいの」


 ローゼリカが好き勝手なことをべらべらと口にする。
 あぁ、不愉快だ。


「うん、では強欲にいきましょう? 心の望むまま、力の走るまま、運を巡らせて、結果だけが全てだわ。そうよ――――」


 にたり、いやらしい笑みが瞳に飛び込んでくる。
 礼儀知らずなその女は、嫣然と笑み、宣言した。



「欲しいものは、力ずくで」



 そうして、呪い合いが始まったのだ。










 あの時のことは、今でもよく思い出せる。腹立たしいとしか言いようのない出来事だった。
 人のものに勝手に目をつけて、欲しがって。思い通りにいかなければ、不機嫌そのままに力を奮う。


 リリアンヌとローゼリカの攻防は、結局三年に亘った。
 結果は今もサフィールが彼女の手元にいることからも分かるように、リリアンヌに軍配が挙がったのだ。
 ただし拮抗する力は互いの命を奪うところまでいかず、リリアンヌもサフィールから手を引かせることには成功したが、それだけだった。
 ただ、かなりの痛手を負わせたし、こちらに噛み付くことがどれほど愚かしいことかは教えたつもりだった。


「まぁでも、収まりがつくはずがないか」
 折られた矜持。二人の呪い合いはいつの間にか有名になっていたから、その勝敗の行方は広く知られることになった。矜持は折られただけでなく、不名誉な事実が広がることで粉々にされたことだろう。
 益々リリアンヌを恨みに思ったに違いないし、機会があれば汚名を雪ぎたいと、それこそこちらを呪い殺す勢いで考えていたに違いない。


「やはりあの時、きっちりと決着をつけておくべきだった」
 今回どこで聞きつけたのか知らないが、神殿の探し物を知った時、ローゼリカはピンと来たのだ。リリアンヌの手元にいた子どもを、思い出したのだ。これは絶好の復讐の機会だと思ったに違いない。
「くだらないことをしてくれる」
 けれど、今こうなってしまっているのも、あの時自分がローゼリカを始末しなかった、その手抜かりが原因だと言えなくもない。結局は自分の手落ちだ。
「憂いは全て、払って然るべき」
 そう、自分の手でできる全てをしておくべきだった。



“欲しいものは、力ずくで”



 いいだろう、それが魔女の真理なら、リリアンヌとてそうするまで。
 力で決着がつくなら簡単でいい。分かりやすい。分からせてやればいいのだ。



「ここか……」
 やがてリリアンヌは廊下の先に、一際大きく口を開けている入口を見つけた。
 よく知る気配がそこにはある。彼女の拾い子が、そこにはいる。
「すぐに家に帰してやる」
 こんなところには、一秒だっている必要はない。
 煌々と光が漏れ出すその空間に、彼女は躊躇わずに足を踏み入れた。




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